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14.魔法の源

「呵呵呵……! まさかこんな幕切れとは。あの娘、よもや純粋な人類ではなかったか」


 口惜しい。それを知っていればまだ上手く立ち回れたものを。老兵としてあらゆる知識を見て、聞き、実践してきた。その経験で刀を振るってきたゆえに、初見殺しがこれ以上なく牙を剝いた。


「……あぁ、何と未熟か。分かっておっただろうに。想定外で思考が固まる事など……分かっておっただろうに、のう」


 魔石の山に突っ込み、仰向けで転がる老いた破落戸(ローグ)はただ己の不明をぼやく。未知の激痛に刀の軌道がブレた事。斬殺丸がネエクを拒絶した事。

 分かっていた。分かっていたのだ。分かっていて、尚身体が動かなかった。長年の癖を矯正するには、破落戸(ローグ)は老いを重ね過ぎていた。


「おじーちゃん。そろそろいい?」

「……あぁ、そうだのう……」


 魔石を食べていた破落戸(ローグ)が、死にゆく爺に語り掛ける。悔いはあろう。しかし彼は負けたのだ。

 檀司郎の鉄槌が直撃し、尋常ならざる呪詛により身体が朽ち始めている。死ぬのだ。絶対に。避けられぬ。老いた破落戸(ローグ)は決断する。


「好きにせい。どうせこのまま死ぬのだ。ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「うん。りょーかい」


 魔石を食べる手を止めた破落戸(ローグ)は爺の身体に貫手を突き立てる。夥しい量の血がダンジョンの床を流れて赤く染めていく。

 その中で、破落戸(ローグ)は爺の心臓を持ち上げた。それは誰かへの信仰の如く。


「【其は蒐集されし究極の逸品──】」


 その呪文は、先程の刀を振るっていた老いた破落戸(ローグ)と同じものだ。明確に違うのは、何を捧げるか。

 破落戸(ローグ)が持ち上げた心臓には魔法式が刻まれている。生物の肉体を捧げて、いったい何をこの世界へ呼び寄せるのか。嫌な予感と共に檀司郎が魔法を阻止するべく走り出すが、もう遅い。


 ここに魔法は完成した。


「【魂魄蒐集・星剣陵墓(グリム・グリム)】」


 心臓、老いた破落戸(ローグ)の骸、そしてダンジョンに流れた血。この全てがこの世から消え失せる。その代価を以て、いったい何を異次元より呼び寄せるのか。


 その答えは、闇である。


「なっ!?」


 ダンジョンが暗転する。天井だった場所は数多の光が瞬く空と化し、幻想的な光景を作り出している。

 しかし一面暗闇にも関わらず檀司郎は自身やネエク、そして破落戸(ローグ)の姿を視認できている。完全な闇というわけではない。世界だけを黒く塗りつぶしたような、あまりにも不可解な現象。


 これがあの破落戸(ローグ)が呼び出した者の仕業だとするなら──それは果たして、本当に生物なのか。


「あれー? もう夜になっちゃったのー?」

「何をわけの分からない事を……!」


 この状況を作り出した元凶は吞気に言葉を垂れ流し、檀司郎は舌打ちしながらネエクを近くに抱き寄せて警戒する。


『■■■■■■』


 声が空から降ってくる。言語形態が違うのか、檀司郎の耳には意味のある言葉として聞こえてこない。しかし何を言っているにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事実に檀司郎は戦慄する。

 そしてそれはネエクも同じだったのだろう。檀次郎の鎧に手を添えて、カタカタと小さく震えている。


「うわ、なにあれすごー……ッ!?」


 そんな事実など知らぬとばかりに破落戸(ローグ)は言葉を続けようとして、途中で止まる。代わりに聞こえるのは苦悶の声と流血音。


「ご、……ぇへ……?」

()()()の規約違反だ。これ以上はさすがに見過ごせん】


 葉巻を吸い、数多の装飾で自身の身体を飾り付けた男が破落戸(ローグ)の身体へ斬殺丸を捻じ入れていた。

 空の異形に加えて、いつ間にか現れた存在に檀司郎の混乱は加速していく。


 これは何だ? いったい何が起こっているんだ? 言葉にならない疑問の数々。それに応えるかのように、破落戸(ローグ)の始末を終えた葉巻の男が檀司郎へ向き直る。


【そう警戒するな。俺はただ後始末に来ただけだ】


 そう言って先程の発声源を見上げる。同調するかのように檀司郎も空を見上げると、そこには妙な物体が浮かんでいた。

 剣が刺さった飛行機のような機体に、丸いヘルメットとずんぐりとした鎧のような装備を纏った人類が腰かけている。


 飛行機に類似した機体も、その上に鎮座する人類が身に纏う装備もみな一様に黒い。それもただの黒ではない。あらゆる光を呑み込むような、黒く染まり変わり果てたダンジョンにあっても輪郭が浮かび上がるほどの漆黒。


【しかしまぁ、あれの相手は俺一人では少し手に余る。少し手伝ってくれないか? 報酬は約束しよう】


 突然姿を現した男には一切の敵意が感じられない。ダンジョン内では何でも起こりうるが、さすがにこれは檀司郎の想定を遥かに超えた出来事だ。

 しかしこの状況においては、もはや信用だの信頼だのと言っていられない。異質な存在には異質な存在が必要だ。その上で、檀司郎は言葉を口にする。


「……先に名前を聞かせてくれ。俺は大和のダンジョン学園所属の雄々敷檀司郎だ」

【龍玉座の一柱、蒐集欲龍グリム・グリム。この世界の住人が使う魔法の力の源だと言えば分かり易いか?】


 葉巻の男──グリム・グリムの言葉に檀司郎は言葉が詰まる。


「何を、言っている……?」

【疑問が尽きないだろうが、まずはあれをどうにかする事が最優先だ。ちょいと付き合ってもらうぜ、檀司郎】

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