12.刀と大砲
魔石とは最も価値の高いダンジョン資源である。
武器、防具、鉱石、金銀財宝。ダンジョンから定期的に産出される資源は多岐に渡るが、その中でも文明の発展に関わるのが魔石なのだ。
魔石はモンスターの核であり、倒すと必ず落とす。慣れればモンスター毎に魔石の位置を把握して、生きたまま抜き取る事も可能だ。魔石を抜かれたモンスターは自壊する為、非常に効率が良い。まさに一撃必殺の職人芸と言えよう。
では、そんな魔石をいったいどのように使うのか。答えは魔石に含まれる魔力を抽出し、あらゆるエネルギーへと変換するのだ。この抽出・変換技術は国の秘匿技術となっている。
魔石の魔力は数多のエネルギーへと変じるが、その中でも特に熱への変換効率がずば抜けて高い。直接電気エネルギーへ変換するよりも、熱エネルギーでタービンを回す方が発電量が断然多いのだ。現代のインフラの大半を支える魔力発電は魔石なくして維持できない。
「う~ん! おいしい!!」
「「……」」
魔石は魔力を内包し、文明を発展させる重要資源だ。しかしそんな万能な魔石でも向かない活用法というのは存在する。
たとえば今、檀司郎とネエクの目の前で破落戸が実践している方法がそれだ。
魔石は食べる事が出来ない。食べても人間には消化できない。その上、内包する魔力が体内で溢れ出せば中毒症状を引き起こし、最悪の場合は死に至る。
ここはダンジョン第二百九十八層。檀司郎はダンジョン学園の一年生にして、もう学園卒業資格に手が届くところまできているのだ。
そんな檀司郎は、この階層の安全地帯で山のような魔石をモリモリ食べる破落戸に困惑しているところであった。
「……お兄さん、あれおいしいのかな?」
「知らん。見るな。あれはダメなやつだ」
一緒にいるネエクが妙な好奇心を持つ前に、さっさと殴殺すべきかと檀司郎は鉄槌を握り直した。
「おぬしら、何をしておる」
瞬間、檀司郎はネエクの首根っこを掴んで咄嗟にその場から跳び退く。その後から深い斬撃が刻まれた。
「呵呵呵。なるほど、随分と勘が良い」
檀司郎は新たに現れた破落戸を見据える。時代外れの着流しを着た老人の姿。しかしその目は猛禽のように鋭い。
そして、その手に持つのは使い込まれた刀。先程の攻撃からして典型的なハンターである。
「あの娘は魔石を食べているだけで、誰も殺しておらん。おぬしらはそんな娘にも手にかけようと言うのか? 何と見下げた外道共か」
「破落戸は破落戸だ。ダンジョンに汚染された元人類を野放しにできない」
「そうか。ならば殺すしかあるまい」
風切り音と共に斬撃が二人へ着弾する。刀身が伸びたわけではない。ただ刀を振るうだけで距離など関係なく敵を斬り伏せる事ができるだけだ。
ハンター特有の並外れた戦闘技術。ダンジョンの中でしか生きられず、モンスターを狩り続けたゆえの末路こそが一番の脅威であった。
「くそッ!」
ネエクを庇いながら鉄槌でひたすら飛来する斬撃を弾き続ける。刀と鉄槌の重量差など考えるまでもないが、檀司郎は自身の膂力のみでその差を縮めている。
破落戸の刀を振るう速度と、檀司郎が二本の鉄槌を振るう速度。そこに大きな違いはなく、状況を膠着へ無理矢理移行させる。
斬撃が乱れ飛ぶこの戦場で、檀司郎とネエクは一度も被弾していない。その中で、檀司郎はいかにしてネエクを逃がすかを考えて──いるわけでは断じてない。
「【其は己が誇りを顕示する無双の凶弾──】」
ヴァルトがネエクへ与えた、魔法式が刻まれた装具。首にかけられたネックレスを握りしめ、ネエクは自身の魔法を発動させる。
「【超顕示破砕大砲オルディナフ・マキシマ】!!」
容赦のかけらもない、最大出力による魔力砲撃。轟音と衝撃が刀を振るう破落戸へ伸びて炸裂する。
威力の相殺などできはしない。防護破りの特性も相まって、当たれば確実に戦闘不能へもっていける。当たれば。
「後生大事に足手まといを守っとるかと思えば……このような奥の手があったか」
「……そこは生物として死んでおけよ」
「呵呵呵。なめるなよ小童。この程度の豆鉄砲で死ねば恥となろうがよ」
しかし破落戸に傷はない。砲撃を避けたわけではない。ただ斬ったのだ。
魔力の砲撃を断ち斬り、破落戸へ到達する前に消滅しただけに過ぎない。
「斬る。ワシにはそれしか能がない。魔法も多少は嗜むが、結局は斬れば良いのよ」
ネエクは超顕示破砕大砲オルディナフ・マキシマの出力を調整し、連射型へ切り替える。一発の威力を落として手数を優先。
およそ秒間二千発もの魔力弾が雨霰と降り注ぐが、当の破落戸は涼しい顔で焦りすらしない。
「斬れば良い。斬れば良い。人も、弾も、距離さえも。全て。総て。斬って結び、断ち斬るのみよ。それこそがワシの生き様。生きる道。生きる理由。その果てに、冥府へ持って行く罪業よ」
斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬。斬。
斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。
もはや刀が意思をもって害ある全てを断ち斬るがごとく。無数の魔力弾が斬撃の嵐を前に消えていく。
己が生き様と称するだけあり、刀を振るう動作にすら斬れ味を感じる。所作と殺気が混ざり合い、破落戸自身こそが一振りの名刀であるかのよう。
「じゃが、これではつまらぬ。ワシは斬るしか能がないが、刀のごとく在れるわけではない。ならば血が滾る戦場を求めるのは至極当然というものであろう? なぁ、おぬしら。ちと付き合え。存分に死合おうぞ」
ネエクの魔力弾を全て斬り飛ばし、己の刀の刀身を指でなぞりながら魔法の呪文を口にする。
「【其は蒐集されし究極の逸品──】」
破落戸の刀がひび割れながら砕けていく。しかしただ壊れていくわけではない。その命を託すように新たな刀が破落戸の手の中で創造される。
「【真正蒐集・零閃摂華】」
その刀は冷気を帯びたかのような冷たさであった。凍えるような殺意が檀司郎の手足を強制的に止めたのだ。
あれはまずい。人間を殺すという性質に特化し過ぎている。一目見て、檀司郎は新たに現れた刀の特性に気が付いた。
そしてそれは破落戸も同じ。新しく手に入れた刀を優しく撫でて、愛おしくその名を呼んだ。
真正蒐集・零閃摂華で取り寄せられた逸品は、破落戸の欲をこの上なく叶えるものゆえに。
「【我装顕現──斬殺丸】」




