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「で? モアをここに連れてきたってことは、こいつを匿うってことでいいのか?」
「多分そろそろ騒ぎになるだろうし、そうしてもらえたら助かるよ」
「いつまで?」
トッティーがコーネルにそう尋ねると、コーネルはモアを見て「僕の国にくる?」と尋ねた。
「僕の国でなら、君は正当な立場を確立できるし、国全体で君を守ってあげる事ができる。この国にいるよりずっといい生活ができると思うよ?」
コーネルの問いかけに、モアはトッティーの顔を見た。
「いい暮らしができるんなら行く選択しかねぇだろ。さっさと行っちまえ」
モアと目が合ったトッティーはそう言いながら、犬猫を追い払うような手つきをした。
「また私を追い出すの?」
モアがそう言うと、トッティーは一瞬眉間に皺を寄せた。
「あぁ、そうだよ。お前みたいな役立ずのタダ飯食らいなんて匿ったところで、俺には一銭の得にもなんねぇしな」
「ふーん……」
トッティーの言葉を聞いてモアは少し考える素振りを見せた。
「うん、行かない。私、この国にいる」
「はぁ?! お前、人の話聞いてたか?!」
「うん、しっかり聞いてた。だから行かない」
「なんでだよ、バカなのかお前?」
「うん、そうかもね」
モアはこの上ないほど明るい笑顔を見せた。
「やっぱり来てくれないか。まぁ、そうだろうとは思ってたけどね」
コーネルはそう言うとモアと同じように明るい笑顔を浮かべた。
そういうわけでモア達はトッティーに匿ってもらうこととなり、コーネルは城へと戻っていった。
城に戻ると案の定城内は大騒ぎになっていたが、それはコーネルが予想していた騒ぎとはまた違っていた。
「殿下、お帰りになりましたか」
身代わりを頼んでいた家臣にどういう状況なのか報告を受けたコーネルは、「癒しの力か……惜しいし、やっぱり欲しいな」と呟いた。
ネックレスがないと騒いだ直後、胸を押さえて倒れたチャベルはそのまま目覚めず、チャベルを寵愛している国王は何人もの医者を呼び、診察させているという。
そして、チャベルが倒れる前にモアのことを話していたため、モアを探しているとのことだった。
「直に僕のところにも来るね」
コーネルの言葉通り、夜になって突然部屋に押し入ってきた兵士達に連れられ、コーネルは国王の前へとやってきた。
「突然の呼びたて、申し訳ない」
「これが呼びたて? この国では来賓の者を呼びたてる際に連行のような真似をする、という認識で構いませんか?」
コーネルの言葉に国王は悔しさと気まずさを混ぜ合わせたような表情を浮かべた。
「それはこちらの落ち度、大変申し訳ない」
小さく頭を下げた国王だったが、その言葉は軽く、誠意などこもっていないことは一目瞭然だった。
「それで、私を呼びたてた理由をお伺いしても?」
「聖女モアのことでございます」
国王の傍にいた宰相が口を開いた。
「聖女モア? この国でも聖女の位置付けはそんなに低いものでしたか?」
コーネルが知る限り、この国での聖女の位置付けはかなり高く、歴代一と呼ばれるモアならばその地位は王族に匹敵するものとなるはずである。
それを宰相とはいえたかが伯爵の地位の者が呼び捨てにするなど以ての外。
「し、失礼を。モア様のことでございます」
慌てて訂正した宰相だったが、その顔には不満の色が濃く滲んでいた。
「で、そのモア殿がどうかされましたか? 少しでも話をしたいというこちらの申し出を、王妃様の茶会という、王妃様以外口も開けない状況で叶えてくださったのですから、それ相応の態度で協力いたしましょう」
コーネルがそう言うと、国王と宰相の顔色が一気に悪くなった。
国の大きさでいえばこの国の方が大きいものの、国力と周辺諸国との連携といったことではコーネルの国には勝てなくなっている現状がある。
怒らせてはいけない人物、それがコーネルだったのだが、どういうわけかそのことをすっかり忘れていた国王達。
コーネルにはそれもまたあのネックレスの影響だったのだろうとわかっているのだが、それを伝えてやるほど人がよくはできていないため、そのことには触れずにいた。
「モア様の行方がわからなくなってしまったのです。コーネル殿下になにかお心当たりがあれば教えていただきたく……」
モアの行方が掴めていないことにコーネルは内心ホッとしたものの、そんなことはお首にも出さず、逆に驚いた表情を浮かべた。
「歴代一と謳われている聖女が逃げ出したということですか……まぁ、逃げ出したくもなるでしょうがね、あのような環境で、あのような過酷な労働を課せられていれば」
「あのような環境?」
わからないといった表情を浮かべる国王達にモアの現状を伝えると、また顔色が悪くなっていった国王を始めとする重鎮達。
その中にはモアの婚約者であるレヴレスも含まれていた。
「ど、どういうことだ?」
国王はレヴレスを見たが、レヴレスは俯いて拳を固く握ったまま口を開こうとはしなかった。
「こちらが知っていることはそれだけです。それ以外のことはなにも知りません。なにか情報を得るために、私を拷問にでもかけますか?」
「い、いえ、そのようなことは決して」
「不快にさせたのならば申し訳ない」
それ以上のことは聞かれることなく部屋へと戻されたコーネルだったが、翌朝にはモアは王妃暗殺の嫌疑がかけられ、大々的にお尋ね者として発表されていた。
「この国の連中は本当に愚かだね……城さえなければとっくに攻め落としてるんだけどな」
この国の城は元々巨大な防御壁を展開するために造られたものだった。
厄介なことに呪物となり果てた今でもその防御壁は機能しており、どんな攻撃も跳ね返してしまう。
更に厄介なのは魔法攻撃をかけると、それは跳ね返ることなく吸収され、城に膨大なエネルギーを蓄えさせることとなる点だった。
「さすがに城を浄化なんてこと、あの子にだって無理だろうし」
現状ではなにも打つ手がないとはこのことだった。




