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唐突に浮かんだタイトルをXで「さぁ、あらすじを考えてみよう」と丸投げしてみた結果、色んな方からあらすじをいただき、その中の一人である「みこと。さん」が素敵なお話を考えて短編に仕上げてくださったので、言い出しっぺである私が書かないわけにはいなかいだろうなーと書いてみたものになります。
長編ではなく、数話程度の中編を予定しています。
緩く、暖かい目で読んでいただければと思います。
「追い剥ぎ聖女だ!」
「ヤバい、見つかっちゃったわ!」
「何してるんですか、モア様!」
「とりあえず逃げるわよ!」
「はいっ!」
「追い剥ぎ聖女」の言葉に脱兎のごとく逃げ出した聖女モア・アンバーとその侍女ピナ・マローを、町の人々が温かくも優しい目で見ていることなど二人は知らない。
「追い剥ぎ聖女」などと不名誉なあだ名がついてしまったモアだが、人々は知っているのだ、モアが真の聖女であるという揺るぎない事実を。
彼女達は国から手配書が回されており、犯罪者としてお尋ね者となっている身。
懸賞金こそかけられてはいないが、捕まればそれ相応の処罰が待っている。
国に背くわけにもいかず、だからといって聖女を罰することもしたくない市民達は考えた、どうすれば彼女達が捕まらずに過ごせるのかを。
城の警備兵が近くにいる時だけ、町の人々は「追い剥ぎ聖女」という言葉を使う。
警備兵達もモアの恩恵を受けているため、その言葉を聞くとその足を止め、モア達が隠れ家に帰るのを待つ。
モアについた不名誉なあだ名こそが彼女達を守る盾になっていることなど、二人はなにも知らないし、皆それでいいと思っている。
◇◇◇
モアは二年前まではこの国『アローザ王国』で最も大きな神殿の最深部の小さく薄暗い部屋で、半ば監禁に近い状態で仕事をさせられていた聖女だった。
朝から晩まで様々な品を浄化させられ、毎日魔力切れ寸前まで働かされ、与えられるのはわずかな給金のみ。
他の聖女達は貴族出身で、大した力がなくとも微々たる『聖魔法』が使えさえすれば神殿内の豪華な部屋が与えられ、高待遇で神殿に迎え入れられるのだが、貧民街で生まれた平民のモアには、神殿の最深部にある窓もない地下室のジメジメとした一室が与えられ、他の聖女達の分まで働かされていた。
この世界にはわずかに魔法が存在していて、その代表と言えるものが「聖魔法」である。
太古の昔には全人類が当然のように使えたとされる魔法だが、今では大変貴重であり、魔法を発現できたものはその後の人生すら変わるとも言われている。
その中でも聖魔法は特別で、太古の昔に作られ、巡り巡って人間の悪意に染まり「呪物」となってしまった呪いの品々を浄化できる唯一の魔法である。
呪物はその名の通り呪われた物であり、その呪いは様々だ。
しかし一見するとそうとは分からず、その上多種多様に多数あるため、知らないうちに呪物を身につけ呪われてしまう者が大勢いる。
性格を大きく変えるもの、容姿や声が変わるもの、運気を変えるもの、その作用は様々だが、身につけていると最終的には生命力まで吸い取り始めてしまうため、気づけなかった者の末路は哀れなものだった。
しかし今では月に一度、神殿により呪物鑑定が無料で行われており、その際に呪物が見つかった場合は有償で浄化を行っている。
だがそれも二年前から浄化は上手く行われることはなくなり、呪物は神殿に山のように貯まるばかりだ。
神殿としてはモアをなんとしても連れ戻したいところだが、国から追われる身となっているモアを秘密裏に連れ戻したところで、浄化が正常に行われるようになればバレてしまうため、今や頭痛の種となっている。
ではなぜモアが国に追われる身になったのか?
まずはその話からする必要があるだろう。
モアは平民ではあったが聖魔法の使い手としては歴代一とも言われるほど力の強い聖女だったため、神殿に引き取られると同時に第一王子の婚約者となった。
国から逃げないようにするためと、王家でもその力を利用するためだったのだが、そのことに不満だった第一王子『レヴレス・アローザ』はモアのことを心底嫌っていた。
その上で自分が気に入った公爵令嬢で、モアと同じく聖女である『ファルサ・ガナベル』と結託し、モアに浄化の仕事を全て押し付け、モアを神殿に縛り付けた。
ファルサはレヴレスの婚約者であるということと平民であるということでモアを嫌っており、神殿内では徹底的に虐めていた。
部屋も本来用意されていたごく普通の部屋から地下の倉庫へと追いやったし、与えられるはずの手当も神官長と二人でほとんどを使い込み、わずかなお金だけを「給金」と称して与えるだけだった。
食事も日に二度、死なない程度の粗末な物だけを与えるように仕向けていた。
そんなことを知らないモアは、その生活を苦には感じておらず、むしろ貧民街での悲惨な生活に比べれば天国であるとすら思いながら生きていた。
ただ、魔力切れ寸前まで働くと異様に空腹に襲われるため、もう少しだけ食事の量が増えてくれたら嬉しいくらいにしか感じていなかった。
「モア様はもっと尊ばれるべきお方ですのに」
モア付きの侍女となったピナは、モアの扱いに対して常に不満を口にしていたが、ピナもまたモアと同じ貧民街出身だったため、食事内容や給金の少なさには気づいておらず、ただモアにばかり浄化の仕事が割り振られている現状を嘆いているばかりだった。
そんな時、隣国の王太子が外交のためにやってきて、是非モアに会いたいと言ってきた。
そのためモアは王宮に呼ばれ、隣国の王太子『コーネル・リロイネス』と食事をすることとなった。
婚約者であるレヴレスはエスコートもせず、普段の粗末な真っ白いローブ姿で現れたモアは、豪華で煌びやかな食事会の席でみっともないほど浮いていた。
国王やレヴレス、国の重鎮達は皆一様にモアを蔑んだ目で見ていたが、コーネルだけはモアに好意的で、食事が終わったら二人だけで話がしたいとまで頼んできたのだが、それに待ったをかけた人物がいた。
国王の寵妃であり、レヴレスの母でもある『チャベル・アローザ』その人だった。
モアはチャベルを見た瞬間から、彼女から漂う禍々しい気配を感じとっていた。
チャベルの胸元を飾るダイヤのあしらわれたネックレスに呪物の気配を感じ取っていたのだ。
「王妃様、大変素敵なネックレスをされていますね。少し見せてはいただけませんか?」
気づいた瞬間モアはそう口にしてみたのだが、呪物はその力が強力になるほどその品を手放したくなくなるという、魅了に近い作用が働くため、チャベルはモアを鬼の形相で睨み「お前などに触れさせたくもない!」と一蹴した。




