EP 7
深夜のコンビニと、ジャージ姿の創造神
『ポロロロロン♪』
明るい電子音と共に、自動ドアが開く。
白々と眩しい蛍光灯に照らされた店内には、色とりどりの商品がズラリと並べられていた。
「わぁ……! これが『コンビニ』ですか! 私、初めて入りました!」
ポポロ国の王女リアナは、目をキラキラと輝かせながら陳列棚へ駆け寄った。
見たこともないお菓子のパッケージや、綺麗に並べられたお弁当の数々に、料理好きの血が騒いでいるらしい。
一方、最凶のインテリヤクザたる邪神デュアダロスは、店内を見回しながら鼻をヒクつかせた。
「フン……妙なシマだが、悪くねえヤニの匂いがするな」
デュアダロスは迷うことなく、レジカウンターへと真っ直ぐに向かった。
カウンターの奥では、若い人間の青年の店員がビクビクしながら立っている。
「おい貴様。俺に葉巻を出せ」
高級スーツ越しにも伝わる、凄まじい極道の威圧感。
店員は顔を青ざめさせながら、震える声で接客マニュアルを絞り出した。
「い、いらっしゃいませぇ……! あ、あの、タバコは『何番』でしょうか?」
「あン? 何番だと?」
デュアダロスは眉間にシワを寄せた。
神の時代にも任侠映画の中にも、番号でタバコを買うシステムなど存在しない。
「えっと……その、僕の後ろの棚にある品の番号で言っていただかないと……えっと……」
インテリヤクザのガン飛ばしに耐えきれず、アルバイト店員がパニックになりかけたその時である。
「おらぁ! 客を待たせんじゃないよ! さっさとレジ打ちいや!!」
店内に、ドスの効いたおばさんの怒声が響き渡った。
ビクッとして振り返るデュアダロス。
そこに立っていたのは、ピンク色のヨレヨレなジャージを着て、足元は便所サンダルという、絵に描いたような深夜の限界オバサンだった。
片手にはストロング系の缶チューハイと、スルメの袋が握られている。
「ひぃっ!? す、すんません!!」
前後からの凄まじいプレッシャーに、店員は涙目になった。
デュアダロスは、舌打ちしながらそのジャージの女を睨みつける。
「チッ、スジの通らねえババアだな。順番を待――」
言いかけて、邪神の言葉がピタリと止まった。
寝癖のついた頭。しかし、その奥にある顔立ちは、彼が世界で最もよく知る憎き相手のものだった。
「あ? 貴様……どこかで……」
デュアダロスは目を丸くした。
「おい、まさか……ルチアナか?」
ジャージ姿の女――この世界を創り、人間と獣人と魔族を争わせている絶対的な創造の女神ルチアナは、だるそうに顔を上げた。
「あー? 誰だよアンタ。アタシは今、ソシャゲのガチャで爆死してイライラして……」
ルチアナの視線が、デュアダロスと交差する。
数秒の沈黙。
「…………げぇぇぇっ!? デュアダロスじゃん!!」
コンビニの中心で、女神が素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「なんで!? アンタ最終ダンジョンで封印されてたはずでしょ!? なんで太郎国のタローソンで葉巻買おうとしてんのよ!?」
かつて世界を二分して戦った『光と闇の頂点』が、よりにもよって深夜のコンビニエンスストアのレジ前で、数百年ぶりの再会を果たしたのである。
一触即発。
神と邪神の神気が激突し、太郎国はおろか大陸全土が吹き飛ぶかと思われた、まさにその瞬間。
「すみませぇーん、店員さーん!」
お菓子コーナーから、リアナが満面の笑みでひょっこりと顔を出した。
手には、買い物カゴいっぱいに詰め込まれたデザートの山。
「このお店の『オススメのスイーツ』ってどれですか? やっぱりこの『タロウ・プレミアムロールケーキ』ですか? あと、この『プリン』って美味しいですか!?」
殺気立つヤクザ邪神と、ジャージ姿の創造神。
そして、空気を1ミリも読まずにスイーツの相談を持ちかける無慈悲な料理姫。
完全にキャパシティを超えたレジ裏の青年は、両手で頭を抱え、絶叫した。
「ぼ、僕、今日入ったばかりのアルバイトおおおおおおおおっ!!」
店員はレジを放り出し、バックヤードの奥深くへと涙を流しながら逃亡していったのだった。




