5.
俺の他にも盗賊に捕まっている奴がいるみたいだ。しかも、どうやら単なる奴隷でもないようだ。前世を思い出す前に耳に入った盗賊どもの話が本当なら、そいつはどこかの家の貴族の娘だそうだ。それに魔力量が極めて多い。
……いや、それ以上に匂うんだよな。魔王だった頃の俺を滅ぼした勇者と同じ匂いが薄っすら……。これは、捨て置けねえよな。新たな人生の始まりの記念だし、声を掛けてみることにしたわけだ。
「おい。お前、大丈夫か?」
「ひいいいいいっ!」
女の子か。それにしても悲鳴を上げる様子だと随分怖い思いをしてたんだな。っていうか、俺を見て怖がらないでほしいな。助けてくれると思ってもいいんじゃ……あ、よく見りゃ俺血まみれだよ。それくらいで怖がられてんのかな?
「怖がってるとこ悪いが、盗賊どもはもう倒したから……」
「た、助けて!」
「ああ、助けに来たんだ。だから怖がることはもうないから安心してくれ」
「……え?」
これだけ言ってもまだ震えるほどの恐怖が消えないのか。まあ、見た目は普通の人間の女の子だしな。それにしても随分と奇麗な娘じゃねえか。白色の長髪に透き通るような緑眼、そして人形のように整った顔を併せ持つ類まれな美少女。流石は貴族の娘というだけのことはある。
しかし、その素顔を見て分かったこともある。こいつ多分『聖女』の子孫だな。七人の勇者の中で聖女の役割を担い、仲間を回復したり、支援魔法でサポートしたり、高度な結界を張ったりと面倒な奴だったあの女の……。
いや、今は過去のことはいいんだ。これからこの娘をどうするかってことだよな。まずは、まともに話し合えるようにしなきゃだな。まずはこの籠から出してやるか。
「俺はお前の味方だ。み・か・た、安心してほしい」
「み、味方……」
この娘を閉じ込める籠を素手で壊して解放してやる。そうすればまともに会話でき……あれ? 俺の方見て怖がってない? あ、よく考えれば人間の子供が素手で鉄の籠なんざ壊せるなんて尋常じゃねえ。しまったな。まあ、逃げないだけマシ……ん? こいつ、まさか?
「もしかして、足が動かせないのか?」
「…………!」
俺の一言で悔しさを思い出したようだ。こいつの足、何だか変だしな。よくもまあ、ここまで歩けないようにされたもんだと思う。これを治してやれば、俺を信頼してくれるかもな。
「なあ、お前の足って俺が治してもいいか?」
「……え? な、何言ってるの!?」
「俺なら治せると思えるんだが、歩けるようになりたいとは思わないかな?」
「そ、そんなの……歩けるようになりたい……でも……ずっと、ダメで……」
「ダメってことは無いんじゃないか? もっといろんな方法を試せば――」
「た、試してみた……! 魔法も、薬も、修行だってしたけど……全部だめで、両親にも見放されて……うっ、うううう……」
やはりな。足の話になると悔しさと悲しみが思い出されて恐怖が紛れていく。ククク、治してやれば俺の都合のいいように話がまとまりそうだな。
「なら、俺に治せるかどうかだけでも試させてもらえないか? 治ったら、しばらく俺と共に行動してほしいんだけど……」
「どうせ……行く当てもないし……それでいい……」
ちっ、この娘、本気で俺が治せないと思ってやがる。今に見ていろよ。この俺は前世の頃からあらゆる魔法を習得してきたんだ。無論、この程度の足の障害すらも今ここで完治できなくともある程度は歩けるようにできるんだからな。その後は、こいつのリハビリ次第だ。
「時間回帰魔法タイムリターン!」
「ひえっ!?」
俺の魔力がオレンジ色のオーラへと変化する。そのオーラがこの娘の足を包み変化をもたらすのだ。
「な、何!? うっ、つつ……痛い……!」
「まあ、そうだろうな。お前の足を動かなくなる前の状態まで『時間を巻き戻す』のだから、その過程で痛みを伴うのは当然だ」
「っえ!? 巻き戻すって!? あっ!?」
普段はこんなおせっかいはしないが、この娘の才能は俺がここまでするに値するのは確かだ。それが直接触れてみて分かったことだ。
「ああ! ほ、本当に治る何て思わなかった!」
とりあえず、治療が終わった後に足が動くかどうか確認させた。終わったぞと言っても疑いの目を向け続ける娘だったが、足が楽になったようなきもしていたため恐る恐るといった調子で試して理解してくれた。
「もうなんとお礼を言ったらいいか分からない………この恩は私の生涯をかけて返すわ!」
「っ! そうか」
よし、言質は取ったぞ。それも生涯をかけて、か。それはいい、好都合だ。
「そうか、だったら俺のところについて来てくれる?」
「ええ、助けてくれたのだから喜んで従うわ。家でも使用人のように働いてきたから、望むのなら奴隷にもなるわ……夜の奉仕はできるなら覚悟をさせてもらえると――」
え? マジで? そこまで言っちゃう? 遠慮しなくていいの?
「い、いやぁ、そこまで自分で言わなくても……従ってくれるならいいさ。それじゃあ、これからはよろしく」
「はい!」
いかんいかん、よからぬ顔をしてはいかん! これからの信頼関係に問題が生じるのはまだマズい。……それにしても、顔を赤らめているとはいえ年頃の娘からそんな言葉が出るなんてな。何だか複雑だが都合がいいから良しとするか。
こうして、俺は聖女の子孫を手に入れることができた。後は家に帰るだけ。
「!」
家で思い出した。アイツラがいるんだっけ。……そうだったな。家に帰ったら下克上といこうじゃないか。あのくそったれな家族にどっちが上か思い知らせてやらないとな。
◇
その後、俺は早速家に帰り、父親と義母と義姉の三人に対して下剋上とばかりに戦いを挑むことになった。その結果、俺は無傷で敵の三人はボロボロのヘロヘロにしてやった。
「お、お前………いつの間にそれほどの強さを………!」
「こ、こんな………助けて………」
「………………」
おーおー、驚いてるし怖がってんなー。まあ、当然か。少し前は俺って雑魚だったしな。今は違うけど。
「さーて、とどめといこうかな?」
「ま、待ってくれ! 私達はお前の家族だぞ! 肉親を手にかけるというのか!? やめてくれ! 何でもするから!」
こうして、おれは一応家族だっていう家のいるカスどもへの下剋上は成功した。その後日、学園にいるクズどもへ復讐を果たす。ゴッグ・ロウチと取り巻きのイゴル・マーガンとセキーラ・フィロワムの三人だ。
「ぐああああああ……な、なんで……このクズが、こんな……」
「や、やめてくれ……今までのことは全部あやまるから……」
「ゆ、ゆるしで……ぎゃ!」
俺を蔑む生徒は多い。その中で積極的に手を出す苛めグループの中心であるのはこの三人。そいつらを教室で多くの生徒に目立つ形で俺は復讐してやった。……まさか、漏らすとはな。正直、ドン引きだ。笑えるけど。
ついでに、後始末は俺がやられると思って馬鹿みたいに笑ってた馬鹿にやってもらった。恐怖と悔しさが混ざった顔がこれまた面白い!
そして更に、俺を浅はかな友情で鍛えてくれた二人も見返してやった。
「な、なんでお前が……こんなに!?」
「嘘、嘘よ! なんであんたがこんなに強くなってるのよ!?」
ふん。信じられないって顔で地に倒れる親友達……で、いいのかな? 俺があんなに痛がっても容赦しなかったから俺も容赦しないでやったんだけど、現実が受け入れられそうにないみたいだ。まあ、当然だわな。いきなり強くなりましただなんて信じられねえだろうし。
これで俺の周りに俺を下に見るやつはもういなくなった。あの幼馴染二人はこのままでは済まないって顔してたけどどうでもいい。
ただ、俺はこの程度では満足できない。元魔王としてはさらなる強さがほしいと思わずにはいられない。幸い、魔王だった頃の知識と技術は頭にあるんだ。あの頃の俺が使っていた強力な魔法も鍛えていけば可能なはずだ。今からでもこの人間の身体で鍛えて強者と戦っていけば、俺の思い描く成り上がりができるに違いない!
これから、俺の人間としての新たな戦いが始まるんだ!
終わり




