5話 Artificial Intelligence
森を歩いていると、上から煩い羽の音が聞こえてくる。
この音はまさしく蜂が発する羽音。
段々と此方に近づいて来る羽音に、あくまでも気づいた素振りを見せずに 歩き続ける。
その羽音がこれでもかと言うほど近づいたところで、素早くその場から飛び退くと 、お尻から針を光らせた体長50センチはあろう蜂が通りすぎて行った。
「いきなりか」
手荒い歓迎にも笑みを浮かべて剣を構える。
再び針を光らせながら一直線に突撃してきた蜂に、右斜め上から下へロングソードを振り下ろした。
零から見て左に、体の半分を斬られた蜂が緑色の血を流して地面と激突する。
「弱いな」
拍子抜けして一瞬気を抜いてしまったが、上空からまた羽音が聞こえて構え直した。
「もう1匹いたか」
何時でも迎撃できる体勢になっている零とは裏腹に、蜂は攻撃して来ようとしない。
「何だ?」
代わりに羽の音を大きくしたかと思うと、その蜂の後ろから10匹以上の蜂たちが突如現れた。
「仲間を呼んでいたのか……」
苦笑いをしながら木の陰に隠れる。
(一斉に来られると、流石にこの身体のスペックじゃあ不味いな。上手く障害物を利用しないと……)
思考している零を逃がさないと言わんばかりに、一斉に蜂が襲い掛かってくる。
木の両サイドから半分ずつに分かれて挟み込み、挟撃しようとして来る蜂を見て、すぐさま隣の木に移動する。
何度かそれを繰り返し、蜂が一列になった瞬間木の陰から飛び出して、1匹斬り落としてはまた違う木に隠れる。
残り5匹になったところで勝てないと悟ったのか、自身とは反対方向へと飛んで行った。
最初は油断させて奇襲するつもりかもしれないと警戒していたが、本当に逃げて行ったようだ。
(自分たちが不利だと感じて逃げるなんて……。頭の良いAIだな)
Artificial Intelligence――略して“AI”。
AIとは人工知能のことだ。
人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、或いはそのための一連の基礎技術を指す。
仲間を呼んだり、逃げて行ったり、奇襲を仕掛けて来たり、挟撃してきたり、1匹1匹は弱かったが序盤と考えれば、このゲームの難易度の高さを物語っているようだった。
頭を切り替えて、倒した蜂から剥ぎ取りが可能か試してみることにする。
剣で針の部分が取れるように斬り落とし手に 掴むと、
『ニードル・ホーネットの針』
という名称と共に消えてしまった。
頭にメニューと思い浮かべて、目の前に現れたメニュー画面からアイテムを押す。
確かに『ニードル・ホーネットの針』が入っていた。
(こういうのは説明文も出るんじゃないのか?)
『ニードル・ホーネットの針』をタッチしても、捨てるか具現化するかどうかのメッセージしか出てこない。
(何かスキルが無いと説明文はでないのか?)
説明書にも書いてなかったので、分からないことだらけだ。
とにかく戦いたくて、戦闘チュートリアルだけですぐにフィールドに出たのは不味かったなと、自身の行動を反省しつつ、残りの『ニードル・ホーネットの針』を剥ぎ取った。
そしてよりこのゲームを楽しむために 、チュートリアルを受けに町へと戻ることにした。





