表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

呪いをくらう


とある国の王子とその婚約者である聖女を筆頭とした若き勇者たちが、世界に混沌と闇をもたらす魔王と戦い、決して少なくは無い犠牲を出しながらも世界に光を取り戻した。




…だが…




「っ…エリザベスっ!!」


自分の腕の中で気を失った聖女に王子は叫ぶ。


魔王を倒したその瞬間、最期の呪いが聖女――エリザベスに向けられ、そして呪いが彼女を包んだ。


即死魔法か、伝染はしないのかと周囲は騒然となったが…


「…………ん……」


長い睫毛を震わせ、神秘的な金の瞳を開いたエリザベスに王子はホッと息を吐いた。


「…大丈夫か?」


王子の声にエリザベスはふわりと笑って頷くと、


「――…今のところは」


と告げ、王子の手を借りながら立ち上がり、


「さぁ、カイル殿下…皆様に魔王に勝利したとお伝えし、安心させてあげて下さい」


と腰まである長い金の髪を空から降り注いできた陽の光に輝かせながらそう告げた。


「あ、あぁ…!そうだな」


カイルは頷くと、討伐隊の方を振り向き高らかに勝利を宣言した。


咆哮の様な歓喜の声の中、エリザベスは静かに微笑み…震える指先を一人、握りしめた…









*** *** ***






「おかえりなさいませ聖女様!」

「道をお開けしろ、急いでおる!」

「早く祈りの間へ!」






勝利から数日後、王都にある神殿に辿り着き、エリザベスは白い聖女のドレスを翻しながら、急いで祈りの間へと向かう。


神官が礼をしながら祈りの間の扉を開き、エリザベスはそこに身を滑らせるように入る。


するとエリザベスの身体が光に包まれ、祈りの間から姿を消した。







『魔王討伐成功、おめでと~う!』







いぇ~い!と豊かに波うつ金色の髪に優しげな風貌の美女と、黒髪に青い瞳、銀の鎧を纏った見事な体躯の男、そして空色の髪を持つ細身の美青年がエリザベスに色とりどりの紙吹雪を振りかけた。


「………」


しかし当のエリザベスは先程までの聖女らしい優しげな微笑みを捨て、ジト目で三人を見つめ、


「…何が『おめでとう』よ?()()たのなら解るでしょ?今、私は祝われる気にならないって事!」


と声を荒げる。


だが三人は、


「見てた見てた!いや~、あの王子に天界由来の秘剣探させといて良かったな?正直リズの加護が無ければそれでも勝てるか微妙だったが」


「ホントだよね~。ま、ボクたちのリズだけでも勝てたかもよ?…誰かさんがリズを『聖女』なんて神官にいわなけりゃあさぁ?リズはここで剣の才能だって発揮したし、頭だって悪くない。寧ろ軍師とかやらせても良い位なのにさ」


「…誰のことかしら?リズの才能を活かしきれないなんて」


「「お前だ、お前!」」


「え~?だぁって聖女の服とか絶対リズに似合うと思って~」


と酒を片手にいつの間にか現れたテーブルに、豪勢なパーティー料理広げて勝手に盛り上がり始める。


リズ、と彼らに愛称で呼ばれたエリザベスは大股でテーブルに近づくと、


「…私には魔王からかけられた呪いが今でもかかってる!でも何の呪いかわからないし、かけた本人の魔王は消滅したのに呪いが解けない!…あなたたちなら…()のあなた方ならこれが何なのか判るのではないですか!?」


そう一気に叫ぶと肩で息をする。


彼女の剣幕に三人の()は静かに杯をあおると、


「…その呪いは魔王が自らの命をかけて発動させたものだから魔王が消滅しても持続する」


「それほど強力だし、ボクたちの力を使って解くにしても…色々と制約があって完全には解けない」


「別に今すぐ死ぬ訳じゃないから大丈夫よ~。ただゆ~っくり死ぬ、というか段々と若返って赤ん坊になって、()()になるだけだから」


「「いや、だからそれがマズいんだろ」」


この世界で信仰されている女神はフォークにローストビーフ突き刺しながら事も無げにそう言うと、両脇に座る軍神と、ごく最近神に上げられた若き神にツッこまれる。


「結局終わりなんじゃない!嘘でしょ…」


エリザベスはその場にしゃがみ込むと、頭を抱え、はぁぁぁぁぁ…と深い溜め息を吐いた。


「…せっかくこれから楽しい平和の時代を謳歌しようと思ってたのに…!」


聖女の務めから解放されても王子の婚約者という面倒くさ…――大変な責務を背負うが、まぁ、今でも婚約者の座を狙う令嬢たちは多いし、王子にも魔王を倒すための仲間、くらいの感情しかない。

王族側も聖女の肩書きのある女と結婚すれば王族に反する者たちを減らせるから結婚させとけ、位にしか考えて無いと思うし、お断りさせていただいても問題はないと思う。


それよりも各地方の神殿をまわったり、様々な祭事の細やかな作法、聖女のイメージを守る為の行動を心掛ける等、以外と聖女という役職は本気でキツかった。――幼い頃に孤児院から神殿に預けられ、祈りの間にてこの金髪女神に聖女と認められたエリザベスは、毎日毎日神官たちから聖女としての身の振る舞い方や教養、力の鍛練と、とんでもないプレッシャーと仕事をこなし、まさに血の滲む様な努力で勝ち取った世界平和…


(それでも頑張れたのは、魔王を倒し聖女が必要無くなったときの自由を夢見ていたから…)


しかしそれも魔王の捨て身の呪いのせいで、あっという間にパア。


「………」


無言のまま下を向いて固まっているエリザベスに、三神は肉やら酒やらお菓子やらを持ち寄り、必死に彼女の機嫌を取ろうとしている。


だがそんな彼らを無視して、エリザベスは空いていた椅子の方へと歩き出し、すとん、と椅子に腰掛け、


「…で?()()()()()に現れるの?」


と尋ねた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ