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宇宙大回転マッハシステム ―― 第2象限  作者: 二月三月


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18/21

行きつ戻りつ


「あのさぁ」


「ん?」


 この間、メロゴールドに工場長が胡散くさいと言われて、管理人さんは少し気になり出した。いちおう、わざわざ弁解までしてやって、工場長の面目を立ててやったのだが、一人になって、よく考えてみると、確かに工場長(こいつ)は胡散くさい。しだいに不安がつのった管理人さんは、めんどくさいので、直接、本人(工場長)に聞いてみることにした。


「工場長は、何で、月見台(ここ)に来たの?」


トナカイのそり(レインディアスレッド)だよ。亜空間(スュードスペース)走路は荷物運ぶのには向いてねぇ」


ーーそういう意味じゃ、ないよ


「そうじゃなくてさ、ここにくる前は何の仕事してたの? この間、酔っ払って、あたしの前職話したけど、工場長のこと聞いてない」


「ああ、そういうことか」工場長は顎ひげを撫でながら、少しばかり考えていた「タイムマシンの研究をしていてだな…」


「ああん?」


「だから、タイムマシンの研究してて…」


「詐欺か?」


「詐欺じゃねえよ」工場長は声を荒げた「旦那さんの超空間(ハイパースペース)転移と原理はほぼ同じだよ」


「じゃ、恐竜のいる時代に行ける?」


「行けないよ」


「やっぱり詐欺じゃないか」


「違うって言ってんだろうが」工場長は怒り心頭だ「ええい、どうやって説明するか…、うーん」


「その…、できれば説明は、超空間(ハイパースペース)とか、なし(ヽヽ)でお願い」


 わかった、わかった、と工場長。しばし、唸っていたが、何か思いついたらしい「地球ってのは、太陽の周りを回ってるんだが、知ってるか?」


「それぐらいは知ってる」


「じゃあ、3カ月前に、時間だけ戻したとしよう」


「3億年前とかじゃなく?」


「いきなり話を進めるな。ものには順序ってもんがあるんだ。3カ月前、ここから始める。いまから3ヶ月前だ。さあ、どうなる?」


「どうなる、っていま4月だよね。3カ月前ならまだ冬だから、寒くて、雪とか降ってるのかな」


「残念、3カ月前は宇宙空間、真空だ」


「え? え? 何で…」


「公転してるって言ったろ。3カ月前は2億キロメートル離れたところに地球がある。だから、時間だけ遡ったら、そこは何もない宇宙空間だ」


「あ…」


「時間旅行がめちゃくちゃ難しい理由、わかったか」


「一年単位でしか、時間旅行できない? 一年経ったら同じ場所に来る?」


「それも違う。実際には公転だけじゃなくて、太陽も銀河回転で動いてる。2億年で一回転だったかな。だから地球誕生からずっと、同じ場所を通ったということはないはずだ」


「え? でも超空間(ハイパースペース)も原理はほぼ同じ、ってさっき言ったよね」


「その話、しても良いのか?」


「…いらない」


 あきらかにしょげかえった管理人さんに、工場長はちょっと狼狽えた。調子に乗りすぎたか。別に相手を凹ますのが目的じゃないわけで。工場長は口調を柔らかくして付け足した。


「まあ、ちょこっとだけ言っとくとだな。時間だけじゃなく、時空間、それも超時空間ハイパースペースタイムすべてを把握して適切に調整しないと使えない、ってことだよ」


「そんなこと、できるの?」


「できるか、できないか、って言ったら、できる。坊ちゃんと旦那さんがやってる」


「工場長もできる?」


「広域じゃ無理だ。俺が研究してたのは局所時空揺らぎだよ」


「局所と広域で何が違うのさ」


「さっき3カ月だから、2億キロメートルずれる」って言ったろ」


「言った」


「じゃあ、1ナノ秒なら、どうなる?」


「え?」


「1ナノ秒だよ、十億分の一秒。さっきの話、寄与率から言ったら、地球の公転速度より太陽の銀河回転速度のほうが影響がでかい。秒速370キロメートルぐらいなんだが、1ナノ秒なら0・37ミリメートル程度だ。精密な位置測定と時間測定が必要だが、この程度の移動なら、耐爆容器内で実験が可能になる」


「何で耐爆なの?」


「移動って言っても、距離短いからな。失敗することもあって、基本、真空中で実験するんだが、時間移動前の物体と移動後の物体に重なりがでるとまずいんだ。パウリの排他律を満たすために、同一状態を同種の素粒子が占めようとすると両方ともエネルギーになって霧散する」


「どういうこと?」


「空間を物質が移動するなら、元にあるものと新しく来たものの、ポテンシャルエナジーとカイネティックエナジーのバランスをとりながら、相互排除するだけなんで、問題は起きない。ボウリングボールがぶつかって別方向に飛んでくとか、物理量が保存されてれば問題ないんだ。ただ、時間移動だとそういったものが保存されない。いきなり出てきて、そこに何かあったら、その質量分をエネルギー(エナジー)に変えて四散する。そうやっってバランスをとるってわけ」


「???」


「時間移動の時間調整が短すぎると、自分自身がまだそこにあるから、2つがぶつかる。けっきょく、どこにも行けないんで、爆発して光エネルギーになるってこと」


「それ、ものすごく物騒じゃないか」


「そうだよ、だけど、上手く使えば便利だから、核爆弾の起爆とか、原子炉の臨界達成(ブレークイーブン)に使ってる」


「ああ、それで、電気いくら使っても怒られないんだ」


「…まあな」


「出るとこが真空なら大丈夫なの?」


「…ああ」


「じゃあ、最初の話。3カ月前に時間戻したとして、宇宙服着てたら大丈夫なんだ」


「まあ、時間だけ動かすってのはかなり難しいから、どこ(ヽヽ)に出るかわかんないけどな」


「それができるのが旦那さんとユータちゃんだってこと?」


「いや、まあ、それぐらいなら俺も少しはできる。真空、っていうか宇宙空間なら…」


「すごいじゃん、見直した」


「俺のこと、なんだと思ってたんだよ」


「いやあ、メロちゃんがさ」ここで管理人さんはこの間の話を持ち出した「工場長(あんた)うさんくさい(ヽヽヽヽヽヽ)って言うから、そう言えば確かにそうかなぁ…、と」


「メロちゃん?」工場長の瞳の奥が光ったような気がした「ああ、あのゴリラの()か」


「いちおう、メロちゃんには、工場長良い人だよ、って言っておいたから」


「いや、その件だと、メロゴールド(ゴリラのこ)が正しいな」


「え?」


「他にも何か言ってなかったか?」


「何って、何?」


「メロゴールドが、他に何か言ってなかったか? てこと」


「トッペンが贔屓されてるとかどうとか…。あ、これはコイントスか。メロちゃんは、トッペンの頭が良すぎる、って言ってたな」


「ふーん、そうか…。守護者(ガーディアン)の中でも意見の違いがあるのか…」


守護者(ガーディアン)? 相棒(バディ)じゃないの?」


「いまんところは保育者(ベビーシッター)が近いけどな。いずれにせよ、オールインワンは思ってたより手強そうだし…」


 工場長は、ああだこうだ、ひとり言を言いはじめた。不気味だ。メロゴールドはやはり正しいかもしれない。


「…まあ、旦那さんが、何で工場長をスカウトしたかはわかったよ」


 雰囲気を変えようと、管理人さんはわざと明るく言ってみたが、工場長は、怪訝な顔で返事した。


「俺をスカウトしたのは、旦那さんじゃなくて、坊ちゃんだぞ」


「え?」


「坊ちゃんから手紙をもらったんだ。俺がいままで読んだことがない、情感のこもった真摯な手紙だった。俺の研究業績もきちんと理解していて、正直言って、生まれてこのかた、あれほど正確な評価を受けたことはなかったよ」


「で?」


「日本に来た」


「日本に?」


「アメリカにいたんだよ。ニューヨーク州立大で研究してたからな」


「メール一通で来たの?」


「手紙だってば、もらったのは」


「日本語の?」


「ちゃんとした英語だよ。そもそも俺は、最近でこそ日本語話せるようになったけど、いまだに読み書きは苦手だ」


「設計図とか、英語で書いてたのは、カッコつけてるんじゃ、なかったのか」


「どういう発想だ、それは?」


「いや、カルテを独語とか英語とかで書くのと似たようなもんなのかと…」


 工場長は野生動物みたいな雄叫びをあげた。管理人さんは一瞬、怯んだが、まあ、しょうがないかとあきらめた。これについては、どう考えても管理人さんが悪い。



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