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唐揚げにはレモンだろ

作者: 中原恵一

「唐揚げにはレモンだろ」

 男は嬉々とした様子で、断りもなく彼女の唐揚げにレモンを絞った。

 女はかなり迷惑そうな顔で、

「私、レモン嫌いなんだけど」

 すると男は冷えたビールを飲みながら、

「お前アレか、大人の味がわからねえお子様なんだな。唐揚げにはレモンかけることになってんだよ」

 そう豪語する男に女は呆れたように、

「いやいや、そんな決まりないでしょ。やめて、って」

 だが、男は聞く耳を持たなかった。

「そんな細かいこと気にせずに食えよ、俺のオゴリなんだし」

 しぶしぶ、女は酸っぱくなってしまった唐揚げを一口食べたが、

「……やっぱり、帰るわ」

 さっと荷物をまとめて席を立った女に、

「なんでだよ?」

 男が声をかけるも、女は何も言わずそのまま店を出ていってしまった。

 いかにも釈然としないという様子で、その場に一人取り残された男。


 しばらくして、彼女と別れた男は後輩と居酒屋で飲んでいた。

 男は氷の入ったビールジョッキを握りしめ、酔いつぶれながらもまた元彼女のことでグチっていた。

「——それでよ、アイツ、俺がおごってやったのに感謝もしないで一人で帰りやがって」

 後輩の男は枝豆の殻をいじりながらも始めは一応うんうん、と相槌を打っていたが、そこに山盛りの唐揚げの載った皿が届いた。

「先輩、また唐揚げっすか? もう食えないんですけど」

「うっせぇな、お前がもの欲しそうに唐揚げの写真見てたから注文してやったんだろうが」

 後輩は何かを言い返そうとしたが、ためらったのかそのまま黙ってしまった。

「……それじゃ、いただきます。って、あっ!」

 後輩がため息交じりに唐揚げに箸をつけようとしたその時、

「何するんですか?」

 後輩が防ごうとするも時すでに遅し。

 男はこれまた例のごとく、

「レモンかけろよ、レモン。ウマいぞ」

 また性懲りもなく勝手にレモンを絞る男に、後輩は珍しく正論をぶつけた。

「いや、だからそう感じるかどうかは人それぞれでしょ?」

 すると男はただ逆上して、

「はぁ? お前、俺をバカにしてんのか?」

「どうしてそうなるんですか?」

 後輩はなんとかして男を諭そうとした。 

「これがアレルギーとかだったらどうするんですか?」

「アレルギーじゃないんだから食えるだろ」

「そういうことじゃなくて……。なんで『レモンかけてもいい?』とか先に聞かないんですか?」

「もうかかってるんだから、諦めて食えよ」

「だから、私はレモンは嫌なんですよ」

「黙って食えって」

「嫌だって言ってるじゃないですか!!」

「食え」

 壊れたテープレコーダーのように同じセリフを繰り返し、一歩も引かない男。

 これにはとうとう気の長いはずの後輩の男も堪忍袋の緒が切れてしまったようで、

「……分かりました」

 後輩の男は感情を押し殺し、無言の抗議として唐揚げには手をつけずにその日は帰った。 


 しばらくして、後輩はなぜか男をパブに誘った。今度はもう一人共通の外国人の友人を連れて三人で、だったが。

 いい雰囲気の店内でも男は空気を読まずに、

「それじゃ、まずは生で」

 すると後輩の友達のイギリス人の男が、

「今日は私がおごるんで、せっかくだし英国風に行きましょう」

 そう言って、氷の入っていないビールを三つ注文した。

 これには後輩の男もニヤリとした。

「何言ってんだ、ここは日本だろ? ビールを常温で飲むバカがいるか」

 男がすかさず反論するも、

「氷が入ってない方がおいしいと思いますけどね」

 イギリス人の男は平然とぬるいビールを飲んでいる。

「すいません、氷くださ——」

 男は店員を呼んで氷を入れようとしたが、後輩がそれを阻止した。

「何すんだよ!」

 激昂する男に後輩は鬼気迫る表情で、

「氷なしで、飲みましょう。その方がおいしいんだし」

「いや、キンキンに冷えてないビールはマズいだろ」

「そんな細かいことグズグズ言わずに、飲んでくださいよ。今日は彼のおごりなんですから」

「だからって、なんでわざわざマズいもの飲まなきゃいけないんだよ?」

「だから、飲んでください」

 こういう押し問答を何度も繰り返したが、男は全く納得しなかった。

 それもそのはず。

「俺が何したって言うんだよ? こないだもせっかく唐揚げおごってやったのに、箸もつけずに帰りやがって!」

 よほど頭に血が上ったのか、男は後輩の顔を思い切り殴った。

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― 新着の感想 ―
こういう人、嫌ですね……(´・ω・`) 確かにレモンかけるのが好きな人は多いかも知れないですけど、一言聞くだけでいいでしょうに。 ラスト、自分に戻ってきただけとわからず後輩くんを殴っちゃうのもやばいで…
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