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地下アイドル探偵、真夏の夜の鎮魂歌  作者: さば缶
第7章: 「新たな一歩」
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第6節:「凍りつく悲報」

あの日から数日が過ぎたある朝、事務所に呼び出された私たちは、言葉を失った。

誰もが薄々「もしかしたら」と感じていた最悪の知らせ――水無瀬莉音が息を引き取ったという報せ。

全員がその場で動きを止め、しばらく静寂だけが続く。


 マネージャーの藤崎涼子が涙声で絞り出すように言う。

「病院から連絡があって……手を尽くしたけど、莉音は戻ってこなかったって……」


 天野雪菜は「嘘……嘘……」と小さく繰り返しながら、崩れ落ちた。

篠宮ひなたは声も出せず、ただ震えている。

橘かりんは奥歯を噛みしめ、必死に泣くのをこらえていた。

その姿を見ても、現実味がまるで湧かない。

私は頭が真っ白になり、声を出すことすらできない。


 ほどなくして事務所は公式声明を出すことを決め、私たちの意見を聞くこともなく、広報担当がSNSに投稿を行うことになった。

 そして数十分後、スマホの通知が鳴り響く。

震える手で画面を開くと、そこには冷たい文字列が並んでいた。


ラストフレーズ公式@LF_Official

【訃報】 弊社所属の「ラストフレーズ」水無瀬莉音 につきまして、 本日未明、治療の甲斐なく永眠いたしました。 生前のご厚誼に深く感謝するとともに、 ファンの皆さま、関係者の皆さまにご報告申し上げます。


 スクロールする指先が震え、涙で画面がにじんでいく。

言葉のどこにも温かみは感じられない。

「永眠」という文字だけが頭の中でぐるぐる回り、心臓を締め付ける。


 公式のXには、続々とファンからのリプライが投稿される。

「嘘だよね?」「まだ信じられない」「こんな終わり方って酷すぎる……」

悲しみ、怒り、困惑――あらゆる感情が入り乱れ、タイムラインは混沌としていく。まとめサイトやファンサイトにも、瞬く間に悲報が駆け巡った。


ファンサイト「ラストフレーズ応援板」より:


@rion_love

「莉音ちゃん……あなたの笑顔に何度も救われてきたのに……ああ、苦しい…」


@idol_fan_ex

「こんな残酷な結末、受け止めきれない。犯人は誰なの? どうして彼女が……」


@heartcry

「ラストフレーズ、もうどうなっちゃうの? 莉音無しでは活動続けられないよ……」


 誰もが絶望と悲しみに押し潰されそうになっている。

殺伐とした意見ばかりではなく、「莉音ちゃん、ありがとう…」「絶対に忘れない」といった感謝や祈りの言葉も続々と上がっていた。

だが、どんな言葉も彼女を救えないという事実が、ファンたちにさらなる喪失感を与えているようだった。


 事務所の一室に戻ると、深い沈黙が落ちる。

篠宮ひなたはもう立っていられず、椅子に倒れこむように座り込む。

天野雪菜は涙を拭うことさえ諦め、声を殺して震えている。

橘かりんは唇を噛み、俯いたまま動かない。

私も瞳が熱く滲んでいるのがわかるが、一度泣き出せば止まらなくなる気がして、必死でこらえていた。


「こんなの……ありえない……」


 小さく呟いても、誰も答えない。

誰が何を言っても、莉音はもう戻ってこない。

それが、救いようのない現実。


 そんな絶望の中、私桜井未来の胸には燃えさかる怒りがあった。

どうしてこんなことになったのか。

なぜ、大好きだったステージが一瞬にして絶望の色に染まってしまったのか。

犯人の存在はもちろん、この状況を「運が悪かった」で済ませようとする大人たちにも苛立ちを覚える。


(絶対に、許さない……)


 莉音の死が一つの事実となって、もう後戻りできない道へ足を踏み入れてしまった気がする。

だけど、このままでは終われない。

私が立ち止まれば、彼女がいた証すら曖昧になってしまうかもしれない――そんな焦燥感に駆られる。


 こうして水無瀬莉音は私たちの前から消えてしまった。

悲しみの底に沈むメンバー、嘆きと怒りの声を上げるファン。

もう後戻りはできない。

あの笑顔を奪った犯人が、どんな理由であれ、私はすべてを暴いてみせる。

そう強く心に誓いながら、私は涙をこぼさず天井を見上げた。

まるで、その先に莉音がいるかのように――。

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