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地下アイドル探偵、真夏の夜の鎮魂歌  作者: さば缶
第7章: 「新たな一歩」
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第4節:「警察の無力、未来の決意」

握手会の会場は一夜明けても、静まり返ったままだ。

現場検証が続いているため、スタッフや関係者以外は立ち入り禁止。

私は朝から警察の事情聴取に呼ばれ、疲労感と悔しさを抱えながら帰ってきたところだ。


「私たちが犯行時刻にいたのは物販ブースだし、あの時間帯は握手会もやっていました。大勢のファンが目撃者になるはずです。」


 警察官は真剣な表情で頷きつつも、

「そうなんですけどね……逆に、みんなが“外”にいたから“控室”の動きは誰も見ていなかった。捜査が進まないんですよ」

 と、申し訳なさそうに言う。

握手会中、あの場所に誰が出入りしていたのか。

確たる証言が得られず、警察も手詰まりの様子だ。


 会議室で待機していると、事務所社長・沢村が苛立ちをあらわに声を荒らげた。


「早急に収束させろ。これ以上騒ぎが大きくなったら、こっちも持たない!」


 マネージャーの藤崎涼子は、それに対して涙声で言う。


「こんなこと、どうして……莉音が……どうして……」


 私も胸がぎゅっと締め付けられる。

彼女の泣き顔を見たら、自分も泣き出してしまいそうだった。


 警察官が淡々と続ける。


「ご協力ありがとうございます。桜井未来さん、他のメンバーの方にも引き続き詳しくお話を伺わせてください。 まだ事件当時の詳細な状況が掴めていないので……」


 私たちは素直に答えられることはすべて答えている。

なのに、捜査に大きな進展はないという。

控室が密室でもなければ、監視カメラもない。

物販スペースには防犯カメラがあっても、あのタイミングでは誰も控室周辺まで映っていなかった。


 警察が去った後、事務所の空気は重苦しさを増すばかりだ。

沢村社長は苛立ちを隠さず、手帳を机に叩きつけた。


「警察が当てにならないなら、早く収束させる方法を考えろ。マスコミも嗅ぎつけてる。下手したら解散だぞ」


 その言葉に、私は反射的に声を荒げてしまう。


「解散なんて……そんなの許さない! まだ何もわかってないのに!」


 絶句する社長を横目に、涼子さんがこちらを見て小さく首を振る。

悔しそうな表情だ。

彼女だって、こんな状況を望んでいたわけじゃない。

だけど、それをどう整理すればいいのかもわからないのだろう。


 気づけば、私は控室のほうを見つめていた。

(……そういえば、あの窓が少し開いていたっけ。どうしてあの時期に窓を開ける必要があったの?)

 無意識に思い返す。

警察が現場を調べているときも、あまりそこは注目されていなかったように見える。些細なことでも、真相につながるかもしれない。

胸の奥に小さな疑問が生まれた。


 同時に、莉音のスマホも気になって仕方ない。

事件直後、あれは確かに現場に落ちていたけれど、今は警察の手に渡っている。

でも、誰が最後に触ったかすらわからないのだ。


(もしかして、このスマホには犯人を示す何かが入っているんじゃ……?)


 捜査の進展がないまま、時間だけがどんどん過ぎていく。

それでも事件を解決しなければ、莉音の苦しみも、グループの未来も、すべて宙ぶらりんのままだ。私は唇を噛みしめた。


(どうして…莉音があんな目に遭わなきゃならなかったの?)


 ぎゅっと拳を握りしめる。

このまま黙っていたら、何もわからないまま終わってしまうかもしれない。

「警察が何もできないなら、私が自分で探す……」


 その決意が、心の奥からこみ上げてきた。

私たちが大好きなステージを守るためにも、莉音のためにも、真実を突き止める――そうしなければ、ラストフレーズは本当の意味で崩壊してしまう。


 社長とマネージャーの激しい言い争いを背に、私は深呼吸をして目を閉じる。

もう後戻りはできない。

例え周りが何と言おうと、私は絶対に犯人を突き止めてみせる――そう誓わずにいられなかった。

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