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44 黎明へ続く誓い

 夜の帳が降りても、蓮華城の灯りが消えることはなかった。職人たちの槌音が響き渡り、技術者たちは魔法障壁の最終調整に追われ、兵士たちは鋭い眼差しで城壁の向こうを見据えていた。この要塞都市には、不屈の力が脈々と息づいていた。誰もが故郷を守るため、決して歩みを止めることはなかった。

 街の静かな林の中、三人の姿が木陰に腰を下ろし、束の間の穏やかな時間を過ごしていた。木々の隙間からこぼれる陽光が地面にまだら模様を描き、草木の爽やかな香りがそよ風に乗って漂う。

「こんな平和な時間が訪れるなんて、思わなかったな……。」愛理はそっと微笑みながら、ふっと空を見上げた。その瞳には、まるで戦いの重圧が溶けるような、穏やかな光が宿っていた。

 真一は木の幹にもたれ、古びた本のページを何気なくめくっていた。一見すると休んでいるようだったが、その表情にはまだ厳粛な思索の色が残っている。戦いはひとまず終わったものの、彼の心が完全に解き放たれることはなかった。

「この平和も、そう長くは続かないだろう。」視線を本から逸らすことなく、真一は静かに呟いた。

「もう、少しは楽しんだらどう?」愛理は軽く彼の肩を叩き、くすっと微笑んだ。「そんなに心配ばかりしなくてもいいのに。」

 さほど離れていない場所で、リアは静かに微笑みながら立っていた。もはや囚われの身ではなく、療養の時間を経て、彼女の心も体も少しずつ回復していった。栗色の長い巻き髪がそよ風に揺れ、かつて瞳に宿っていた影は次第に薄れ、代わりに新しい人生への期待と好奇心が、そっと光を灯していた。

「あなたたちの生活って、いつもこんなに慌ただしいの?」リアは、わずかに興味を滲ませた声で問いかけた。

「まあ、そんなところね。」愛理は肩をすくめ、苦笑する。「魔王軍の脅威が始まってから、こんなふうにのんびりできる時間なんて滅多にないわ。」

 リアは静かに頷き、隣の二人を穏やかな眼差しで見つめた。初めて彼らと出会ったときのことが、ふと脳裏をよぎる。あの頃の苦しみや束縛の記憶は、まるで遠い昔の夢のようだった。

 ——今の私は、もう孤独で無力な捕虜なんかじゃない。彼女は、新しい人生と帰る場所を手に入れていた。

「……ありがとう。」リアは足を止め、感謝の想いを込めてそっと呟いた。伏せた瞳が微かに揺れる。細い指を絡ませながら、静かに続けた。「もし、あなたたちがいなかったら……私はきっと、とうの昔に自分を見失っていた。」

 真一は手に持っていた本を閉じ、優しく微笑んだ。「お礼を言う必要なんてないよ。これは僕たちがすべきことだったのだから。」そう言う彼の声には、一切の迷いがなかった。「それに、今は君だって僕たちを助けてくれているじゃないか。」

「そうよ、リア姉はもう立派な仲間なのだから。」愛理はにっこりと微笑み、リアの肩を軽く叩いた。「だから、遠慮なんてしないで。」

 リアの唇が、そっと微笑みの形を作る。静かに頷きながら、心の奥に広がる温かさを感じていた。

 ——私は、ちゃんと受け入れられている。少しずつ、過去の傷を乗り越えていく。少しずつ、新しい世界を。 そして、自分を大切に思ってくれる人たちの存在を——。

 共に過ごす時間を重ねるうちに、三人の絆は、確かに深まっていった。

 日中、彼らは蓮華城の再建に参加し、職人たちを手伝いながら資材を運び、城壁の修復に尽力した。夜になると、林の中で訓練をしたり、戦術を議論したりしながら、時にはこうして静かに語らうひとときを楽しんでいた。

 夕陽の柔らかな金色の光が、世界を包み込むように降り注いでいる。森のそばに腰を下ろした三人の横顔を、その光が優しく照らしていた。

 リアはそっと首を傾げ、真一を見つめる。一瞬、ためらいがちに唇を噛み——やがて、意を決して尋ねた。

「真一、なぜそこまで魔王軍との戦いにこだわるのですか?」リアは静かに問いかけた。「あなたが強い意志を持っていることは分かっています。でも、それだけではないのでしょう?」

 真一はしばらく黙り込んだ。夜の帳がゆっくりと降り始める空を見上げ、静かに息を吐く。「君の言う通りだ。」彼は決意と覚悟を滲ませながら、低く静かな声で続けた。「僕には、もっと大きな目的がある。」

 リアは息をのむ。

「異世界からの神と魔王軍が、この世界に現れた本当の目的を知りたい。」真一の瞳に、揺るぎない意志が宿る。「彼らの侵略が、ただの暴虐で終わるとは思えない。その背後には、もっと大きな何かがあるはずだ。それこそが、侵略の真の理由なのかもしれない。」

 リアは思わず目を見開いた。真一の目標が、これほど壮大で深遠なものだとは思ってもみなかった。

「……その秘密こそが、平和を取り戻す鍵だと思いますか?」彼女は戸惑いと、わずかな敬意を滲ませた声で問いかける。

「そうだ。」真一は静かに頷く。その瞳には、さらに強い決意が灯っていた。「もしこの秘密を解き明かすことができれば、この終わりのない戦いを終わらせる方法が見つかるかもしれない。僕は、異世界からの神と魔王軍の真意を知りたいのだ。」

 愛理は黙って耳を傾けていた。彼女の瞳には、深い理解と揺るぎない信頼が映る。彼女は、誰よりも真一の信念を理解していた。

「真は、ただ勝利のために戦う人じゃない。」愛理は優しく微笑みながら言った。「彼は常に先を見据え、より深く物事を考えている。」

 リアはそばに立ちながら、静かに息を整えた。真一の決意とその高い志に、感心せずにはいられない。そして、それと同時に——未来への期待が、胸の内で少しずつ膨らんでいくのを感じていた。

 しかし。

 ふと、彼女の思考は妹のことへと戻る。この世界に来て以来、一度も連絡が取れず、無事かどうかも分からない。その不安は、彼女の心を刺し続ける鋭い棘のようだった。

 それでも——。

 リアは今は仲間たちに頼るしかないと、理解していた。心の奥で、真一と愛理ならばこの侵略の背後にある秘密を解き明かし、二つの世界に平和をもたらしてくれる——そう信じ始めていた。真一の揺るぎない意志と、愛理の優しさが、リアに今まで感じたことのない温もりと希望を与えていた。

 妹のことを深く案じていた。それでも——。

 リアの心には、少しずつ、確かに希望が芽生えていった。

 ——私は、もう一人じゃない。この二人がそばにいれば、自分の未来は、もう闇と苦しみに覆われることはない。これからの道のりが、どれほど困難に満ちていようとも——。

 最後には、必ず平和の夜明けが訪れる。そう、信じていた。

 夕陽がゆっくりと地平線へ沈み、夜の帳が静かに降りていく。三人は寄り添いながら、この穏やかで温かなひとときを静かに味わった。未来には、未知と試練が待ち受けている。

 それでも——。

 三人は共にいる限り、最後には、必ず光が差す。そう信じていた。

今日はまた第20章を書き上げた!

思ったより文字数は少なかったけど、無理に増やそうとせずに、そのままにした。読み返してみたら、ストーリーのテンポがちょうど良かったからね。

第20章では、大物との対面シーンがあるんだけど、時事ネタに敏感な読者なら、モデルが誰なのかすぐに分かるかも(笑)。

実はその人物、個人的に結構好きだから、書いててめっちゃ楽しかった!

どうぞお楽しみに!

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