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38 逆転の兆し

 一歩下がり、真一は大きく深呼吸をした。その間も彼の頭の中では深沢の能力の仕組みについて推測が繰り返されていた。物質を変化させる能力を持つ真一であっても、深沢の特殊な力がその能力を完全に封じ込めているのは明白だった。深沢がその能力を発動し続けている限り、真一は見えない力でがんじがらめにされ、物質変化の範囲が著しく制限されていた。

 その時、真一の心に響いたのは、「精神感応」を通じて送られてきた愛理の冷静で毅然とした声だった。

「真、落ち着け。深沢の能力は強力よ。でも、完璧じゃない。おそらく彼の能力は一定範囲内の物体にしか作用しない。全てを制御することはできないように感じるわ。」

 その言葉に、真一は小さくうなずいた。そして、愛理の言葉に呼応するように、徐々に心が落ち着いていくのを感じた。

 この状況を打破するには、力任せの突進ではなく、冷静な思考と綿密な戦略が必要だ――その事実を彼は理解し始めていた。

「愛理、僕たちは別々に行動する必要がある。」

 真一は「精神感応」を通じて彼女に静かに伝えた。その声には、かすかに覚悟が滲んでいた。

「愛理は彼の意図を読み続け、僕は周囲の物質を変化させ、彼の能力の抜け穴を見つけようとします。弱点を発見すれば、行き詰まりを打破するチャンスが生まれます。」

 真一の言葉に、愛理は静かにうなずいた。余計な言葉を交わすことなく、深く息を吸い込み、心を落ち着けて集中力を高めた。彼女の「精神感応」は単なる感情の表層を読み取るものではない。それは相手の心の奥深くまで侵入し、意図や潜在的な行動を探る能力を持つ。

 愛理はそっと目を閉じ、深沢の冷たい心の中へ意識を向けた。その瞬間、深い闇が彼女を包み込んだ。そこに満ちていたのは、圧倒的な自信と軽蔑。あたかもこの場の全てが彼の完全な支配下にあるかのようだった。

「彼は真剣ではない。」

 愛理は冷静に、しかし確信を持って「精神感応」を通じて真一に伝えた。

「私たちを相手にする価値がないと彼は信じている。それが彼の油断を生んでいるの。」

 一方、戦場の反対側では、リアが見えない力に縛られていた。彼女の体はまるで絡みつく蔓に囚われたかのように身動きが取れず、顔には痛みと焦燥が滲んでいた。リアの自然魔法は強力だが、拘束具の抑制により、その力は封じ込められていた。

 愛理はリアの心の痛みを「精神感応」を通じて感じ取り、すぐに温かい声を届けた。

「リア、落ち着いて。私たちは一緒だよ。あなたは一人じゃない。心を信じて。自分を信じれば、必ず縛りを打ち破れるわ。」

 その言葉はリアの心に小さな波紋を広げ、わずかな震えを伴って希望を灯した。彼女は深呼吸をし、心を静めて周囲の自然の力に耳を傾け始めた。自然魔法は心の平安から生まれる力――それを思い出し、リアは次第に自分の内なる力を取り戻していった。

 空気の中で微かに揺れる振動が、新たな可能性の兆しを告げていた。それは、突破口が見え始めている証拠。リアはその微かな変化を感じ取りながら、さらに集中を深めた。

「もう少しだ……」

 そう信じて、彼女は囚われの壁を打ち破る準備を進めていった。

 一方、真一は深沢の能力を注意深く観察し、分析を続けていた。「精神感応」を通じて愛理と連携しながら、深沢の攻撃を牽制する一方で、周囲の物質を変化させて相手の能力の限界を探っていた。

 試行錯誤の末、真一は重要な事実を見つけた。それは、深沢が真一の変化の試みに気付いた瞬間、その変化が失敗すること。そして、深沢が特定の対象に能力を集中すると、周囲の空気障壁の強度が僅かに弱まることだった。

「彼は全ての物体に対して同時に力を発動することはできない。それに、物質への干渉は部分的なものだ。」

 真一は「精神感応」を通じて愛理に伝えた。

「さらに、特定の物体に集中することで、他の部分の防御が手薄になる。」

 この仮説を検証するため、真一は地面に手を置き、力を込めて石板を鋭い金属の槍に変えようと試みた。しかし、石板はまるで深沢の力によって硬化されているかのように固く、真一の力では簡単には変化させることができなかった。

「どうやら彼の集中力が物質の硬度に直接影響を及ぼしているようだ。」

 真一はそう結論づけ、愛理にその推測を共有した。

 その時、愛理の緊迫した声が「精神感応」を通じて響いた。

「真!彼が次の攻撃を仕掛けようとしているわ!急いで防御の準備をして!」

 警告を聞いた真一は即座に行動に移った。地面の石板を再び変化させ、厚い金属の壁を作り上げ、自分と愛理の前に立てた。壁が完成するや否や、深沢の攻撃が迫り来る。

 深沢の拳から放たれた目に見えない波動が、金属の壁を力強く叩きつけた。その衝撃で「ドーン――」と低い音が響き渡り、金属壁は激しく揺れる。しかし、真一が作り上げた壁は堅牢であり、深沢の一撃にも完全には崩れなかった。

 愛理は心の中で安堵の息をつきながらも、次なる展開への備えを急いだ。真一と愛理は小さな勝機を感じ取りつつ、その瞬間を逃すまいと全力で臨戦態勢を維持した。

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