32 ヴェルサニアの敗北
「リア、しっかりして!君の力はそんなものじゃない!」
真一は鋭い刃で襲い来る蔓を次々と切り裂きながら叫んだ。その声には焦りと願いが込められており、彼女を守りたいという強い思いが滲み出ていた。
ヴェルサニアはそれを見て不快そうに眉をひそめた。
「そんな言葉で彼女を救えるとでも思っているの?」
彼女は冷笑し、冷酷な声で命じた。
「リア、私の意志に従いなさい。」
その言葉に縛られるように、リアの体は反抗の余地を失い、震えは止まるどころか、ますます激しさを増していった。
リアの呼吸は依然として荒かった。体の痛みと魂の圧迫感がまだ彼女を縛っていたが、愛理の声はまるで朝の鐘のように彼女の耳に響き続ける。その声に支えられ、リアは心の中の恐怖を必死に押しとどめた。彼女は手に持った魔法の長杖をわずかに振り上げる。それは、彼女の意志がすべてを支配しようとしているかのようで、周囲に広がる植物の魔法が一瞬静止した。
真一はこの微妙な変化に敏感に気づき、心の中に希望の火花が灯るのを感じた。彼は愛理に向かって急いで囁く。
「愛理、今がチャンスだ!このチャンスを逃すな!」
愛理は真一の言葉の意図を即座に理解し、すぐに戦術を修正した。リアに「精神感応」で作戦を伝える一方、進撃を続ける真一を援護するために他の魔獣にも注意を向ける。彼女の銀色の銃は立て続けに発砲され、周囲の脅威を正確に撃退していった。
この緊迫した瞬間、リアはついに決意を固めた。彼女の腕は激しく震え、痛みが彼女の意志を押し潰そうとしたが、それでも彼女は長い杖を振り上げ、すべての力をそこに集中させた。蔓は彼女の意志そのもののように瞬時に方向を変え、魔獣たちを次々と包み込み、部屋のほとんどを一瞬で拘束した。たとえパンサー型の魔獣であっても、彼女の支配下にある蔓に絡みつかれ、その鋭い爪でさえ脱出の術を見いだせなかった。
パンサー型の魔獣は怒りに満ちた深い咆哮を上げ、蔓を引き裂こうともがいたが、その瞬間のリアはまるで決して折れない不屈の意志そのものであった。蔓はさらに強固になり、パンサー型の魔獣を完全に固定した。
そんな状況を目にしたヴェルサニアは、不穏な変化を感じ取り、その顔は冷たい怒りで曇った。彼女はリアを冷酷な目で見据え、脅迫的な声で言い放つ。
「よくも命令に背くとはね!」
彼女の声は氷のように冷たく、あたかもリアを裏切り者と断じているかのようだった。
リアの顔は青ざめ、額には冷や汗が流れ、体は激しい格闘で震えていた。しかし、彼女は歯を食いしばり、かつてないほどの決意をその瞳に宿していた。か細い声でありながら、その言葉は強い意志を秘めていた。
「私は……もう命令には従わない……!」
この瞬間、真一は素早く動き、ヴェルサニアとの距離を詰めた。ヴェルサニアの目に初めて動揺の色が浮かび上がり、逃げようとしたが、魔獣たちは完全に拘束され、彼女を守る術を失っていた。真一は短剣を鋭利な刃に変え、冷静に彼女の防御の隙を突いた。
「これは……不可能……!」
ヴェルサニアは胸を押さえ、指から血が滴り落ちる中で、冷たい顔に初めて信じられないという表情を浮かべた。
ヴェルサニアが倒れると、すべての魔獣は即座にコントロールを失い、混乱しながら四方八方に逃げ散った。パンサー型の魔獣も戦闘意識を失い、低い鳴き声を上げると、忠実にヴェルサニアの隣に静かに横たわった。
地面に倒れたヴェルサニアの真っ赤な唇は色を失い、その目には怒りと無念さが宿っていた。彼女は苦労して体を起こし、かすれた冷たい声で、真一と愛理を睨みつけながら言った。
「あんたたちには……勝てません……でも私の親愛なるボスが……必ずあんたたちに代償を払わせる……」
真一は彼女を冷然と見下ろし、一言も発しなかった。愛理は銀の銃をしっかりと掲げ、一歩前に出ると力強い声で言い放つ。
「どんなに強い力があっても、私たちはそれを止める。」
ヴェルサニアはパンサー型の魔獣に目をやり、口元にわずかに苦い笑みを浮かべた。その笑みには、自らの運命を悟った諦めの色が滲んでいた。そして彼女は静かに目を閉じ、深い疲労感を纏った姿勢で沈黙した。
その瞬間、部屋全体が静寂に包まれた。血と煙の匂いが薄れ、唯一残ったのは優しく吹き抜けるそよ風の音だった。パンサー型の魔獣は主人への忠誠を示すかのように、動くことなくヴェルサニアのそばに寄り添っていた。
真一は慎重にヴェルサニアに近づき、その状態を確認すると抵抗の意思がないことを確信した。愛理は静かに拳銃をしまい、リアに視線を向ける。
リアはついに拘束から解放され、魔法の長杖が手から滑り落ちて地面に転がった。彼女の目には涙が浮かび、顔には複雑な感情が溢れていた。その表情には安堵、苦悩、そして長い戦いの果ての疲労が交錯していた。
愛理は静かにリアの元へ歩み寄り、そっと彼女を抱き締めながら優しく囁いた。
「もう終わりだよ。もう彼らのために戦う必要なんてないのだ。」




