赴任
俺は信繁の領地、飯田に向かっている。
「いきなり城主代理とは出世だな。」
マサムネはからかってくるが・・・
「責任が重いよ。しかも飯田なんて重要拠点じゃないか。」
「そうなのか?」
「飯田は美濃にも、三河、遠江にも出れるからね、今は敵はいないけど、打って出るなら重要だよ。」
「そうか、なら早めに開発しないとな。」
「うっ!胃が痛くなってきた・・・」
俺は先が思いやられていた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
俺の馬の前に座らせていたユメが聞いてくる。
それを羨ましそうに籠の中からミユキが見ていた。
「ユメちゃん、大丈夫だから。それより、馬に長時間乗ってるけど疲れてない?」
「うん、大丈夫。おにいちゃん、と一緒だし、楽しいよ。」
「そうかい。ならいいんだけど。」
「ユメちゃん、お姉ちゃんと一緒に籠に乗りましょ?」
「ううん、馬がいいよ。おにいちゃんと一緒だし。」
ミユキとユメは笑顔でお互いを牽制していた。
「二人とも、もう到着だよ。」
目的地である飯田城が見えてきていた。
「あなたが信繁さまの家臣、ヒロユキ殿であるか?」
「はい、私がヒロユキですが、あなたは?」
「失礼、私は秋山虎繁、今日までこの飯田を管理していた者です。」
俺は歴史に名を残している秋山虎繁に会えて少し興奮していた。
「あなたが!御高名聞き及んでおります。今まで御苦労様にございます。」
秋山は少し照れながら、
「高名などとは・・・私は若輩の身、まだまだにございます。」
「謙遜をなされますな、あなたさまの活躍が武田家の飛躍に繋がるのです。
今後も宜しくお頼み申す。」
「もちろん粉骨砕身努力する所存であります。ヒロユキ殿、話はそれぐらいにして中へ、道中大変でしたでしょう。ささやかながら酒宴の準備をしております。
どうぞ中へ。」
「これは忝ない、旅の疲れを癒さしてもらいます。」
俺達は案内され城の中に入る。
酒宴の場にて、
「ヒロユキ殿、飲んでますかな?」
「虎繁殿、飲んでますよ、おっと、虎繁殿、まずは一献。」
俺は秋山に酒をつぐ。
「おっと、忝ない。して、ヒロユキ殿は今後如何に飯田を治めるのですかな?
おっと、返杯を。」
秋山に酒をそそがれながら、俺は話をする。
「そうですね、町をみてからというのもありますが・・・基本的には町を豊かにして兵を鍛えるといった所ですね。」
「ほう、口にするのは容易いですが、何かお考えが?」
「ええ、思い付く物も幾つかございます。それをやってみようと。」
「それは如何に?」
「そうですね・・・まずは酒を旨くしましょうか。他にない旨い酒は高く売れるでしょう。」
「何?酒を旨くですと?」
「ええ、楽しみにしててください。完成したら送りますよ。」
「ほう、それは楽しみだ。ワシはこの後、高遠に所属することになっておるので、出来たら送ってくれんか?」
「わかりました。待っててください。」
俺は秋山に軽く約束した。
酒宴の翌日、秋山は高遠に向かって行った。
そして、俺は・・・
「気持ち悪い・・・」
初めての酒に負けていた。