恩賞
甲斐に着いた俺は信玄と面会していた。
「面をあげよ。これが約束していた恩賞である。」
拳ぐらいの大きさの袋に入った砂金を渡される。
「ありがたき幸せ。」
俺は深々頭を下げる。
そして、面会は終わった。
思ったより呆気ないもので仕官の話も無かった。
「ヒロユキ殿!」
俺が城を出ようとすると信繁がやって来た。
「これは信繁さま。」
俺は頭を下げる。
「いや、下げなくていいよ。それより、顔も合わせずに出ていくのは寂しいじゃないか。」
信繁とは甲斐に来る道中、いろいろ話す機会がありかなり打ち解けていた。
「いえ、恩賞も頂きましたので、これでお別れなのかと。」
「それは兄上がくれた恩賞だけだからね、私からも礼があるんだよ。ちょっと来てくれるかな?」
「はい、わかりました。」
俺は信繁に連れられ再度城の中に、
「ヒロユキ殿、今回私を助けてくれたお礼に私の重臣にならないかい?」
信繁から突拍子のない提案をされる。
「重臣?」
「うん、今回の戦で私の重臣はいなくなったし、君には筆頭家老を任してもいいと思っているんだ。」
「いや、筆頭家老って、身分が高すぎませんか?」
「いや、陪臣になるしね、肩書きは立派だけど、それだけだよ。
それに私は今まで領地を持たなかったからね、着いてきてくれる人はあまりいなかったんだ。」
「しかし、余所者の素性もわからない者を重臣に据えて宜しいのですか?」
「命の恩人の素性がわからなくても関係ないよ、信じれる事に変わりはないからね。」
「・・・わかりました、お引き受けします。」
「ありがとう!
領地の事は全部任せるからよろしく頼むよ。」
信繁の言葉に耳を疑う。
「うん?領地?」
「そうだよ、今回の事を兄上が重くとらえてね、自前の家臣と兵を持てとの事でね。領地を与えられたんだ、それならと兄上に許可を貰って、ヒロユキを召し抱える事にしたんだ。」
「えっ、じゃあ、俺がやることは?」
「領地の運営をお願いするね。」
「えーーー!!」
俺は驚きを隠せなかった。
「信繁殿、それは些か厳しいかと、私は領地の経営などしたこと有りませんが。」
「ヒロユキ殿は色々な知識を持っているようだからね、それを領地にいかして欲しい。
責任は私がとるから君の好きなようにしてくれ。」
「宜しいのですか?成功するとは限りませんよ。」
「構わない、少しでも武田が豊かになる道が有るなら試してみたいんだ。」
「わかりました、微力ながら尽くさせてもらいます。これよりは殿と呼ばさせてもらいます。」
俺は改めて頭を下げ、信繁の家臣となることになった。