神の使い
翌朝、両軍は対峙する。少数にも関わらず突撃の構えを見せる武田軍を前に多勢の長野軍としてはあまりのさっさと片付け、農作業に戻りたかった。
すると、空からカラス大軍が長野軍の上で糞を落とし始める。
「げっ、なんでだよ。ついてないなぁ・・・」
糞があたった者はどうしても集中がかける、その為、軍に乱れとなり対峙する武田軍からすると陣が揺れているように見えた。
「マサムネ殿、好機にござる!敵に乱れが!」
重信は陣が乱れているのに突撃を始めないマサムネに進言しにきていた。
「重信、まだだ、あの程度で突っ込むと死ぬぞ、それにヒロユキの事だ、もっと凄い手が・・・来たな、重信早く軍に戻れ、突撃のタイミングが来る!」
マサムネの言葉に重信は急ぎ陣に戻って行く。
長野軍の側面の山から土煙が上がっていた・・・
鳥の糞に気を取られていた長野軍は側面の土煙に気付くのが遅れた。
「なんだ?」
目の前に現れたのは猪の大軍であった。
「なんだ!なんで猪が!!」
突っ込んでくる猪に人が吹き飛ばされ、戦どころではなかった。
「見よ!これこそ我等が将ヒロユキが神に愛されている力だ!
皆我に続け!神の名の元、我等が武勇、天まで届けようぞ!」
マサムネはノリノリで兵を煽り突撃していく。
「「おおー!!」」
多くの兵が普通あり得ない動物の援軍に驚愕し、マサムネのヒロユキが神に愛されているという言葉を信じてしまう。
「神は我等の味方だ!行くぞ!」
公重はこの奇跡に感動し、マサムネに続き突撃する。
「おお・・・我等は神の軍なのか・・・」
信仰心の篤い重信は涙する。
自身を導いて剣の技を施してくれたのはこの日の為か!
「行くぞ!我が命あるかぎり、ヒロユキ様の剣となろうぞ!」
重信の軍も突撃を始めた。
マサムネの声は本陣にいたヒロユキにも聞こえていた。
「あの野郎、人をなんだと思ってやがる!」
勝手に神の使徒扱いされて怒っていると・・・
景久が目をキラキラさせてこっちを見ている。
「あ、あの~景久くん、マサムネがいうことを信じないでよ。」
「いえ!動物があんなに言うことを聞くなんて!これは神がついているとしか思えません!」
「いやいや、俺は普通の人だから、斬られたら血も出るし、死んじゃうんだよ。」
「わかりました。ヒロユキ様を御守りするのが僕の使命なんですね!」
「守ってもらえるのはありがたいけど、神の使いじゃないからね!」
しかし、興奮している景久は聞く耳をもたず、警護に集中するのであった。
その頃、長野軍では動揺が走る、猪に突撃されたのもさることながら、
マサムネの言葉の神に愛されている者が相手ということに少なからず怯えていた。
こんな事が人間に出来る筈がない!
となると相手は神の使いなのか?
それに刃を向けるのは・・・
信仰心の篤い者が多いこの時代、目の前で起きた奇跡の光景に兵士が逃げ始めた。
「な、何が起こっている・・・」
業正は自分の経験にない事が起きている事に動揺していた。
しかし、何とかせねば・・・
何とか・・・
「全軍、防戦致せ、神の使いなど、戯れ言にまどわされ・・・ぐっ!」
業正はあまりの心労に倒れる。
既に高齢で無理を押しての出陣であった。
しかし、この光景を見た兵は更に逃走しだす。
「て、天罰だ、神の御使い様を疑ったりするからだ・・・」
一人の兵が漏らした言葉が全軍に伝わる。
「ヒイィィィ!お助けを!おいらは御使い様に逆らう気はねえだ!」
兵士はすぐに逃げだし、戦にならない。
指揮官が命じるまでもなく、敗走を開始する。
そんな中・・・
「踏みとどまらんか!」
上泉信綱は逃げる兵を斬り周囲を威圧する、
「武田に神がつく筈が無かろう!皆よく見よ、ただ獣が走って来ただけではないか!」
信綱は猪を一匹を斬り、神がいないことを示す。
信綱の武勇が届く範囲で、軍勢がマトマリ始めていた。




