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付与術喰らいの付与術師―絶望の先、至高の収穫(ハーベスト)―  作者: かおもじ


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選択の行方

 翌日、朝を越え昼に差し掛からん時間帯に、カインは冒険者ギルドの前にやって来ていた。


「俺が言い出したとは言え、昨日は皆遠慮なく高い物ばかり注文してくれたもんだ……おかげで早速職探しだな」


 そう悪態を口にしてはいるが、パーティー時代の蓄えはそれなりにあり、すぐに働かなくてはいけないということはない。

 長く連れ添った仲間との別れにはやはり思う所があり、仕事をしている方が余計なことを考えなくて済むというのが本音だった。


「まぁ、パーティーを抜けた報告はどうせしなくちゃいけなかったしな」


 冒険者がパーティーで行動する際はパーティー登録を行う必要があり、抜けた際にも報告の義務がある。

 どちらにせよ一度は顔を出さなければならなかったのだから、早い方が良いだろう。


 ギルド扉を開け中に入ると、正面のカウンターに並ぶ人の列が真っ先に目に入る。

 そこには結構な人数が並んでおり、ある意味いつも通りとも言える光景だった。


「冒険者ギルドが盛況って事は、治世が行き届いてないって証拠でもあるからな……素直に喜べない部分ではあるか」


 魔物が跋扈し、街の外が危険であればあるほど、冒険者の需要は高まりギルドは潤う。

 世の中が平和になれば自分たちの食い扶持がなくなるというのは、なんとも皮肉な話だ。

 だが、その不安定な情勢のおかげで、こうして自分のようなはぐれ者が食うに困らないのだから、世も末だと言わざるを得ない。


 ともあれ、嘆いていても何が始まる訳でもない。

 改めて列に視線を向ける。


「このぶんだと、並んでも暫く待たされるだろうな。となれば――」


 そう言いながら、ギルドカウンターではなく依頼ボードの方に足を運ぶ。

 どうせ依頼を受けるなら、その時にパーティー離脱についても報告すれば良いだろう。

 一度で用件を済ませるに越したことはない。


「良いのがあれば良いんだが……」


 かなり大きめのボードには沢山の紙が貼られており、その一枚一枚に依頼の内容が記されている。


「……薬草採取、か。手堅いが、今の俺がやるには効率が悪すぎるな」


 ボードの端に貼られた、新米向けの依頼を視線で流す。

 今の自分なら、わざわざ腰を屈めて草を毟るよりも、相応の魔物を狩る方が手っ取り早く稼げる。

 ふと、ボードの中央付近に視線を移すと、討伐依頼に混じって数枚の『捜索願い』が目に入った。


「行方不明者の捜索……。それも、一人や二人じゃないな」


 貼られているのは、ここ最近で姿を消した冒険者たちの人相書きだ。

 冒険者が所属していたらしいギルドはバラバラで各々が最後に目撃された場所もかなり分布が広い。加えて今のところ発生しているのはここから離れた遠くの街ばかりで、依頼の候補には入らないだろう。


「まぁ、そもそもソロで受けるような依頼じゃないな。行方不明者の捜索なんて人手が無いと無理だろう。それにもし彼らが消えた理由が『はぐれ』だったら、最悪ミイラ取りがミイラになるのは目に見えてるしな」


 消息を絶った理由は不明だが、もし『はぐれ』に遭遇したのであれば最悪だ。

 基本的にモンスターは一定の生息域から出てこないが、長く生き延びて知恵をつけた個体や、生まれつき強力な力を持つ個体の中に、本来の縄張りから『はぐれ』て行動する奴がいる。


 それらは『はぐれ』と呼ばれ、冒険者からは恐れられているのだ。

 それも比較的小柄な種族が『はぐれ』になった場合、最悪と言えるだろう。

 小柄であればそもそも発見され難く、強力な個体である為ソロで出会えばほぼ確実に殺される。しかも奴らの多くは獰猛で、骨も残さず喰らい尽くす。


 結果、誰にも見つけられない行方不明者の出来上がりだ。


 一応『はぐれ』への警戒は必要だろうが、かといってかなり離れた街の出来事だ。現状はそこまで過敏に反応する必要も無いだろう。


 そう判断し、隣の依頼書に視線を移す。そこには難易度の高い大型魔物の討伐依頼も並んでいるが、これも今は除外だ。

 一人で立ち回る以上、不確定要素の強い案件に手を出すのは自殺行為に等しい。


 そうして一つ一つをじっくり吟味し、カインは自らが達成できそうな依頼をしっかりと選定していく。

 自然と依頼を選ぶ眼差しも真剣になり……ボードに貼り付けられた依頼書を食い入るように睨みつける、目つきの悪い男の出来上がりだ。


狂草熊マッド・グラス・ベアの討伐と素材の採取……これが良さそうだ」


 時間にすれば数分のことではあるのだが、真剣に吟味していたせいか、かなり長い時間選んでいたようにも感じられた。

 ついに一つの依頼書を選び取り、手元に引き寄せる。


 狂草熊は森の奥に潜む魔物であり、全身を植物の蔦が覆っている気味の悪い熊だ。

 一説には皮下に植物型の魔物が寄生しており、そのせいで全身が蔦によって覆われているらしいが……俺は学者ではないので詳しいことまではあずかり知らない。

 重要なのは、熊の首元には植物の花が咲いており、その花が高値で売買されているということ。

 そして高値で取引されるため、報奨金もそれなりの金額だということだ。


「依頼を受けずにギルドで買い取って貰った方が実入りは多いんだろうが、ギルドに貢献する意味合いは大きいしな。仕事を受けずに資格剥奪なんて笑い話にもならん」


 冒険者として登録を行うことは誰でも出来るが、一定期間依頼をこなしていないと資格の剥奪をされてしまう。冒険者資格が無いと素材の買取などもして貰えないため、依頼を定期的にこなす必要があるのだ。


 加えて熊の強さはレベルで言えば30弱。レベル41である自分から見ればかなり格下なのも都合がいい。ソロでやる以上、確実に勝てる相手を選ぶべきだ。

 とはいえ格下だからと言って甘く見ていいわけではない。

 同じレベルの人間とモンスターがいた場合、多くの場合でモンスターの方が基礎的なステータスでは上回る。特に大型の魔獣は生物としての構造の違いか、尚更その傾向が大きくなる。

 ゆえに、同じレベルのモンスターでも常に格上の気持ちで戦うことが求められるのだ。


「……格下だからって油断は禁物だな、特に俺は付与術師だからな。とはいえ、狂草熊は報酬も悪くないし、強さも丁度いい。今の俺には適した依頼だろう」


 付与術師エンチャンターは直接戦闘に関する基礎ステータスが前衛職よりも低く、一般的に、付与術師がソロで活動するのは無謀だと言われている。

 付与術師の最大の強みは味方を強化。それも複数名に対して強化ができることだ。それ故真価を発揮するのはパーティー戦闘である。支援するべき相手がいないとなれば、その能力の半減どころではない。


 とはいえ、付与術師としての強みが無い訳ではない。

 筋力や魔力に対するエンチャント以外にも、視覚や聴覚といった五感を強化する術式もあり、これが索敵において絶大な威力を発揮する。

 草木が擦れる微かな音を拾い、茂みの奥に潜む魔物の気配を察知する。

 不意打ちを未然に防ぎ、常に先手を取れる利点は、命のやり取りにおいて何物にも代えがたい。


 そして何より、要は火力が足りていればいいのだ。

 補助を重ね、敵の急所を貫く一撃が通ればそれでいい。そして俺には、幸い中位冒険者としての地力がある。

 狂草熊の表皮を切り裂く程度なら、今の俺一人でも十分可能だった。


 油断をしなければ、負ける相手ではないだろう。

 これからは確実にこなせる依頼を吟味していくことが、長生きの秘訣になる。

 そんなことを考えながら依頼書を手に持ち受付に並んでいると、別のカウンターから声を掛けられる。


「カインさ~ん、こちらへどうぞ~。…あれ、カインさん、今日はお一人ですか?」


 声を掛けてきたのは、栗毛の長い髪が特徴的な、スレンダーな美人――俺が所属していた『月下の灯』を担当していたギルド職員のエレナだ。


「ああ、今日は一人……というか、今日からは一人だ」


「えっ……うそ、本気、ですか?」


 差し出された依頼書を受け取ろうとしたエレナの手が、ぴたりと止まる。

 彼女は驚きを隠せない様子で、大きな瞳をさらに見開いて俺の顔を覗き込んできた。


「嘘を言ってどうする。……ほら、早く手続きしてくれ。後ろがつかえてる」


「あ、すみません……でも、パーティーの人たちとは……特にライルさんとはすごく仲が良いと思っていたので、パーティーを抜けたというのはあまりに意外で」


 エレナは納得がいかないように小さく唇を噛み、手元の書類と俺の顔を何度も往復させる。

 細身の制服越しでも、彼女が困惑しているのが伝わってくる。


「……喧嘩、したんですか?」


「してない。……まぁ、方向性の違いってやつだ。気にするな」


「気にしますよ、担当なんですから! 勿論、カインさんの腕は信用していますけど……」


 エレナはそこまで言って、さらに声を潜めた。

 彼女は、カインがこれまでの依頼で一度も失敗せず、常に冷静な判断を下してきた実績を誰よりも知っている。

 だからこそ、その彼が「ソロ」という過酷な道を選んだことの危うさを案じているようだった。


「……付与術師のソロがどれほどのリスクを伴うか、カインさんが一番よくご存じですよね?」


「分かってる。だからこうして、身の丈に合った依頼を選んでるんだ。……それとも、ギルドは俺に仕事をさせないつもりか?」


「……そんなわけ、ないですけど」


 エレナはようやく、渋々と受理の印を書類に押した。

 だが、その視線には実力への不信ではなく、一人ですべての不測の事態に対処しなければならないことへの危惧が色濃く残っている。


「分かりました。……カインさんの慎重なやり方は信頼しています。でも、ソロなんですから、絶対に無茶はしないでください。また必ず無事な顔を見せてくださいね」


 命の保証のない冒険者という仕事に対して、必ずなどというものは無い。それでもその言葉を使ったのは、彼女なりに本気で心配してくれているのだろう。


 そんな彼女の言葉に感謝しつつ、だからこそ無事に依頼をこなして帰還する事が何よりの返礼になるだろうと改めて心に刻む。そして――


「ああ、肝に銘じておくよ。ありがとな、エレナ」


 そうハッキリと言葉を返しながら、カインはギルドを後にするのだった。




 カインはまだ知らなかった。この依頼が、今後の彼の運命を大きく変えるものになるという事を。

この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。

本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら


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