始まりは別れと共に
不定期ですがぽつぽつ書いて行きます。
「ここでお別れだ」
夕食を済ませるために訪れた馴染みの食堂の一角で、テーブルを囲んだ仲間たちに向け、俺はただ一言そう告げた。
テーブルの上には、湯気を立てる具沢山のシチューや、こんがりと焼けた厚切りのパン、そして脂の乗った肉料理が並んでいる。
いつもなら真っ先に手を伸ばすはずの御馳走だが、今はその芳醇な匂いさえ、どこか遠い世界の出来事のように感じられた。
「お別れって……どういう意味だい、カイン?」
テーブルを挟んだ向こう正面に座る幼馴染の青年が、ひどく困惑した表情を浮かべながらそう言葉を発する。
「どういう意味も何もない、そのままの意味だ。俺とお前たちの冒険はここまで。俺はパーティーを抜けさせてもらう」
「どうして!?」
綺麗な青髪に目鼻立ちの通った端正な顔立ちをした青年……ライルが勢いよく椅子から立ち上がると、飛びかからんばかりの剣幕でそう尋ねてくる。
他の仲間たちも各々反応は違えど、俺の発言に少なからず動揺した表情を浮かべているが、俺とライルの会話の流れを見守っているのか、声を出すことなく押し黙っている。
「どうして、か……ライル、この前の冒険でレベルはいくつになった?」
険しい顔で俺の顔を覗き込んでいるライルに向けそう尋ねると、その言葉を迂遠に感じたのか、少し苛立った様子を見せつつも律儀に答える。
「43だけど、それがどうしたんだよ……」
その言葉に、俺は思わず目を瞑り下を向く。暫しの沈黙が流れるが、意を決して口を開いた。
「そうか……俺は41だ」
「41……? ――なぁ、それってまさか……」
常に一緒にパーティーを組んでいた俺とライルの間に生まれたレベルの差。
それがどういう意味なのか、ライルはすぐに気がついたようだ。
「ああ、アガリだ……俺はこれ以上強くなれない」
「嘘だろ……なんてことだ……」
そう漏らしたライルは沈痛な顔をし、そこから何も言えず下を向く。
この世界の生物は体内にマナという霊的粒子を内包しており、マナは自らを鍛えたり他者を討ち倒して自分の体内に取り込むことで成長させることができる。
そしてそのマナの成長を表す目安が、誰が言い始めたかレベルという表現だ。
レベルが上がることで身体能力は飛躍的に向上し、さらに特殊な能力も身につけることができる。
一見素晴らしいことばかりのように聞こえるが……もちろん万能なわけではない。
個人が内包できるマナの量にはそれぞれ上限があり、上限に達した人間はそれ以上レベルが上がらなくなる。
つまりそれ以上強くなれなくなるというわけだ。
もちろん体を鍛えて筋肉を付けるなり何なりすれば多少は強くなるが……レベルの上昇に比べればそれらは所詮微々たるものでしかなく、すぐに頭打ちになることに変わりはない。
そうして自身が限界にまで至った状態のことを、これまたどこの誰が言い始めたか、とある国の遊戯になぞらえてアガリと呼ばれるようになった。
――そして俺は先日アガリを迎えてしまった……というわけだ。
「お前たちはまだ強くなれる……が、俺はもう既に底が見えてしまった。今はまだいいかもしれないが……いずれ確実にお前たちの足手まといになる。それでパーティーを危機に晒すような真似は死んでもゴメンだ」
己の実力不足で自分が死ぬのならば、まだ運命として受け入れることもできる。
しかし、自分の力不足で仲間たちが死ぬなど到底許容できるものではない。
「そんな……でも……」
それでもと食い下がるライルだが、その先の言葉が出てこない。
――長い付き合いだ、多くは語らなくとも俺の気持ちが理解できているのだろう。
だからこそ先ほどから軽々な言葉が口を突くことはない。
「俺もお前と一緒に……いや、お前たちともっともっと先まで進んで行きたかった。――だが、それはもう叶わないんだ。だからこそ、ケジメを付けさせてほしい」
「……っ」
真剣な俺の表情とアガリを迎えたという事実の重みに、二の句を告げられずライルが再び下を向き黙り込む。
アガリを迎えた者はそれ以上レベルが上がらない。
過去これを覆した者は居らず、この世界においてそれは絶対の法則なのだ。
「でも、急にそんな……せめてもう少しだけでも……」
そんな言葉が俺の左隣から聞こえてきた。
言葉を発したのは長身と長い銀髪が特徴的な、法衣を纏った女性……プリーストのミリィだ。
「そうだよ、急にそんなこと言われても……こっちだってはいそうですか~、とはならないよ」
次いで自身の右側からミリィの発言に同調するような声が聞こえてくる。
視線を向けた先にいるのは、赤い髪を肩口で揃え、さらにその髪と合わさった真っ赤なドレスを着飾っているウィッチのララだ。
「パーティーメンバーが減れば冒険に支障が出るというのは俺にも分かる。だから付与術師協会には俺の代わりを紹介してもらっている。歳は俺たちよりも少し若いが、礼儀正しく付与術師としては優秀な青年だ。きっとお前たちとも上手くやれるはずだ」
俺のジョブは付与術師であり、付与術師協会とは若い付与術師の育成や仕事の斡旋等を行う所だ。
協会長とは顔見知りであり、事前に相談した際に将来有望な人材を紹介してもらえた。
「私が言いたいのはそういうことじゃなくて……! あ~、もういい、知らないんだから!!」
敢えてズレた返事をする俺に気がついてか、ララは顔をプイっと横に向け、腕組みしたまま口をへの字に曲げる。
その様子に苦笑しながら、俺は再び口を開く。
「なあに、パーティーを抜けたからと言って二度と会えないわけじゃない、冒険者を辞めるわけでもないしな」
そう告げると先ほどまで黙り込んでいたライルが顔を上げ「ソロでやっていくのかい?」と尋ねてくる。
「ああ、アガリを迎えたとはいえレベル41ってのは別に低い数字じゃない。ソロでもできそうな依頼を受けながらやっていくさ」
そう、レベル41という数字は十分中堅と言える数字だ。
食べて行くのに困るようなことはまずないレベルである。
「そうか……僕は……僕は本当はまだ君と一緒に冒険を続けたい。でも、本当に辛いのは君だよなカイン――分かった。君のパーティー離脱、リーダーとして僕が確かに承った」
俺の名を呼んだライルが、リーダーとしてパーティーからの離脱を受諾する。
後は冒険者ギルドに報告すれば正式にパーティー……『月下の灯』から抜けることになる。
「そうですよね……本当にお辛いのはカインさんの方ですよね……一緒に冒険できないのは悲しいけれど、私もカインさんの決断を尊重します……!」
ライルの言葉にミリィが続くと、それまでヘソを曲げていたララも口を開く。
「皆がそんな風に言ったら、僕だけ聞き分けの悪い子供みたいじゃん! ――あぁ~もぉ~! ソロってことは誰も助けてくれないんだから、絶対死なないでよ!」
そう怒りながらも身を案じてくれるララの優しさを感じ、頷きながら「もちろんだ」と答える。
そして……
「済まないな皆……突然話を切り出した詫びだ、今日は俺が奢る。好きなだけ食ってくれ」
俺の言葉を合図に、冷めかけていたシチューに皆がスプーンを差し入れる。
カチャカチャと鳴る食器の音だけが、やけに鮮明に店内に響く。
そうして、道を分かった俺たちの惜別の宴が始まるのだった。
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