残滓のみ
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
こういう感触なので、忘れなければ良いと思ってます。
睡眠と空腹の箍が外れて仕方がない。ずっとお腹が空いて、ずっと体が重くて、ただ欲望のままに食べて眠った。このままじゃ体が鈍り続けるのを察して、ふらりと街に出た。ただ自分のペースで歩き続けた。そうしたら、とすんっと人にぶつかった。
その人は身長が高くて、私が顔を埋めたのは丁度胸の辺りだった。顔を上げて視線を上げると、怪訝な顔をして見下ろしてる。何だかとても赤い人だった。その人と見詰め合うこと数秒、その人はただぽつりと一言、『ケガレ』とだけ言った。
「……?」
「お前、体の不調は?」
「睡眠と食欲の箍が外れてます」
不調……というのだろうか? 偶、眠くてお腹が空いてるだけ。短期的なもの。でも思い当たるのはそれくらいだった。
赤い人は手を伸ばすと、くしゃくしゃと私の頭を撫でて、乱暴に掌を払い除けた。それから肩を叩いた。何だかそうされると、体が随分と軽くなった様に思える。自分でも体の様子を確かめる様に全身を見る。当たり前だが何も変わってない。それでも。
「有難う御座います。何だかとても……あれ?」
その人は既にそこに居なかった。ただ強い風だけが吹いていた。
道を歩いていたら、前から一人の女が歩いていた。その女は何処かぼんやりとしていて、どうにも気落ちした様な空気を纏っていた。思い浮かべるのは一つの不幸。引き寄せたられたか。繊細な奴ほど染まるから。
女は俺に気が付く事無く、とすんと胸元に顔を埋めて来た。それさえも良く気が付いて居ないようで、ただぼんやりと此方を見上げて来る。此方は重症だな。
だから彼奴に張り付いた余計な淀みを振り切って、ただお前にとって大事な奴だけを残しておく。
「ただいま〜」
帰って来て挨拶をした。薄暗い部屋から反響する声はない。此処には私以外の誰も居ないのだと気が付かされる。
「あぁ……」
思わず感嘆が漏れた。そうか、私は何を忘れて居たのだろう。あの人は此処には戻って来ない事を。この世界に居ないという事を。もう四十九日以上も経っているのに。
誰かが亡くなったと言うのは、死んだと形容するよりも、中々会えない相手と言うのに近い。声も姿も届かない、物凄い遠い場所で暮らしているのと近い。だから何時も夢を見てしまう。まだ生きている。この世界の何処かでまた会えると。もう会えないのに。
残るのはこの部屋の残滓のみ。私はこれだけを頼りに生きていく。
睡眠と食欲の箍が外れているのは、それだけ精神的に来てるから。
実際目の前に人が居ても気が付かない位ですし。
その様を『気枯れ』と称してます。
因みに『赤い人』と形容したのは恐らく『飆靡様』。
全面的に赤い衣を着ている訳ではないですが、雰囲気が滅茶苦茶赤い。あれは多分雰囲気ですね。
厄を落とされて帰ったら、彼が居ないことに気が付いた話。
~此処から作者の言いたい話~
私の死生観なんですけど、亡くなったという感触が薄いんです。
中々会えない場所に旅立っているだけ。
行こうと思えば元気な姿で会えるし、声も聞ける。
そんな気持ちで生きてます。
だから死に顔拝んだり、遺骨を見ると、凄く精神が削れます。
本当に亡くなったんだと感じてしまうから。
もう何処にも居ないんだと思ってしまうから。
そうなると表情とか動かないし、声とか出ないんですわ。
ただ頭を抱えて、無言になるしかないんです。