番外SS 天使は未来を語る。
本編の前日譚を番外SSとして公開!!
今話はラチェリスサイドで何があったのか、本編の内容をなぞりながら描きます。
ラチェリスは、夢で未来を見た―――。
「こりゃァ、また……」
寝起き第一声はこれである。
これまでに見てきた予知の中でも、かなり複雑な未来だった。
そして、その規模が大きい。これまで約三千年の間変わってこなかった均衡が、一度に変わるであろう、予知。ラチェリスはすぐに行動を開始した。
ラチェリスは、自らの奇跡に沿って行動してきた。
それが、彼の役目でもあった。
神の定めたことが起こるように、時間軸のずれた別世界での世界の軌跡をなぞるように、ラチェリスは世界を操作してきていた。
今回も、同じだ。
「お前が、天使といちゃつく人間ってヤツか……」
ラミリルをフッたばかりの霞のもとに、ラチェリスが現れる。
霞は天界に自分の招いていない天使がいる、という状況に驚きつつも、目から流れる涙を拭う。
その場にいるラチェリスの存在は、異質だった。
本来ならば天使が人間の領域に踏み込んだのだから、何でもすることはいくらでもあるのだろう。
虐殺なり、蹂躙なり、何でもできる。
天界における天使は絶対なのだから。
しかし、ラチェリスはそのようなことをする素振りは見せずに霞に声を掛けてきた。
何らかの目的があるのだろう。
何もかもを警戒していないかのようにだらりと腕を垂らしたラチェリスだが、戦いの経験など一切ない霞でも感じ取れるほどの威圧感が、ラチェリスからは漏れ出していた。
気だるげな様子を見せているというのに、全てにおいてラチェリスは隙が全くない。
霞は、元々戦うつもりなどなかったが、ラチェリスを前にして戦うなんて選択肢がそもそも出てこなかった。
「―――もし、そうなら?」
お互いを探り合うように、お互いがお互いを睨み付ける。
霞も、普段こそ楽観的であまり思考を巡らせていないような様子を見せるが、実際には聡明な少女である。
事を慎重に考え、重大な決定は絶対に簡単には下さない。
ラチェリスの前であれば、猶更だ。
ここでの決定一つ間違えれば、最悪の場合死を自ら招くことになる、と霞は理解していた。
「あぁ、何も気を張らなくてもいい―――俺は何も危害を加えねぇ。ただ、伝えに来ただけだ」
そう言うラチェリスだが、突然現れてそんなことを言われ、信じろと言われても難しい話である。霞は警戒態勢を解くつもりはなかった。
「はぁ……まあいい。ただ聞いてるだけで十分だ」
ラチェリスは息を吐き、口を動かし始める。
霞は警戒を解くことはせずに、その話に耳を傾けた。
聞き終えて、霞はその眼を見開く。
明らかに、自分が知り得てよい情報ではなかった。
聞いたのは、真実―――。
聞いたのは、未来―――。
聞いたのは、計画―――。
霞は、ラチェリスの真意を測りかねた。
ラチェリスが霞に与えた情報は殆どが霞に利となる情報ばかりだった。
しかし、何故ラチェリスがその情報を霞に与えたのかが分からない。
自分の都合のいいように改変しようとはしないのか、わざわざ伝えなくともよいのではないか、そのような疑問が霞の脳内を駆け巡る。
しかし、ラチェリスの表情を見てそのような疑問は全て払拭された。
ただただ、真剣だった。
気だるげな表情を崩そうとはしない。しかしそれでも、ラチェリスの表情は虚偽を述べている表情では決してなかった。
全て、事実なのだ、と。霞はその場で理解した。
そして、その事実に、未来に、希望を見た。
霞は元より、ラミリルとの関係をどうにかするための作戦を打ち出そうと考えていた。
今は危険をなくすために一旦の妥協策はとったが、これで諦めてしまうほど霞は単純ではなかった。
しかし、思いもよらぬ形で作戦が舞い込んできたのだ。
これならば、上手くいく、と確信できた。
「信じるか信じないかは、俺が決める事じゃねぇ。思うように動け、だが、神は全てを定めておられる」
そう言って、ラチェリスは霞がラミリルを招くためにプロテクトを外した部分から地上へと戻って行く。
霞は、ラチェリスのその様子をただ茫然と見ていた。
先ほどまで流れていた涙は、もう流れなかった。
「あとは……、基本どうにでもなんだろ」
ラチェリスは他力本願にそう呟く。
実際、今回の未来についてはラチェリスが干渉しないとどうにもならないと判断したのは情報源を殆ど持たない霞についてのみだった。
イムシスの両親が天使政府の役員であることも有り、イムシスには情報が渡るだろう。そして、イムシスを通してラミリルやキミエルにも情報が回る。
あとは彼らの動向が予知からずれないように監視しておくだけでいい。
ラチェリスは、監視を続けた。
キミエルがラミリルと会った晩、ラチェリスは気配を消してその様子を見ていた。
イムシスとラミリルがキミエルと邂逅した時も、ラチェリスはその様子を監視していた。
全て、ラチェリスの掌中だった。
「突き進めよ、予言のピース共――――――」




