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番外SS 天使はノートを開く。

本編の前日譚を番外SSとして公開!!

今話はイムシスサイドで何があったのか、本編の内容をなぞりながら描きます。



「久しぶりだなぁ、イムシス」


「ほんと、最近帰ってこれることが少なかったから……寂しかった?」


 約二か月ぶりにイムシスの両親が帰宅した。

 イムシスの両親はどちらも天使政府の役員であるために基本的に家に帰ってくることは少ない。

 イムシスも、その事は理解していた。寂しいなどと考えたこともない。そのような感情よりも知的好奇心の方が強かったイムシスにとって、両親が帰ってこないことよりも両親が帰ってきた時にする天使政府の話の方が重要だった。



「そう言えば、最近『人間化装置』が使用段階に移ったそうだ」


「まだ公開されてないから、内緒にしててね?」


 イムシスの両親はそうやって、天使政府の内情をイムシスに聞かせていた。

 その情報が、イムシスの知的好奇心を満たしていた。


 天使政府の役員という立場を使って、知りたがりのイムシスを天使政府の施設に連れて行って見学をさせたり、他の天使政府の役員ともかかわらせたり、と両親はイムシスの知的好奇心を満たすための役割を担っているようだった。


 しかし、イムシスの両親がイムシスに対してしていた親としての行動はそれだけと言っても過言ではなかった。

 基本的に家にいない両親が、継続的な愛情をイムシスに注ぐことは不可能だった。

 と言っても、天使の家庭など、そのようなものである。

 イムシスはラミリルの両親の顔を、一度だって見たことがない。ラミリルから両親についての話を聞いたことさえない。

  

 その点、イムシスの両親は天使の家庭の中では幾らか家庭的であった。

 しかし、イムシスの両親は、確かにイムシスに対する愛情を持ってはいたが、その愛情を注ぎ続けることは出来なかった。


 しかし、その存在が重要であることは揺らがなかった。



「お父さん、その『人間化装置』について、もっと教えて?」


 イムシスがそう尋ねたとき、自分たちに役目が回ってきた、と両親は瞳を輝かせて説明を始めた。

 その情報はカリススの策略で天使の士気を上げるために撒かれていた誤情報だったわけだが、その時の両親も、イムシスもまた、その事を知る由はなかった。


「それから、それから?」


 そう言って自分たちと同様に瞳を輝かせる娘の様子に、親の語る口は止まらない。

 娘がどのような意図でそのことを聞いてきているのかなど、全く知ろうともしない。

 いつもの通り、知的好奇心なのだと信じて疑わない。




「成程、『人間化装置』か……」


 イムシスは両親がまたも天使政府の施設へと帰っていくのを見送ってから、自分の部屋に戻る。

 意図的に薄暗く設定された照明に照らされた椅子に腰かけ、イムシスは引き出しからノートを取り出した。

 最近のイムシスの趣味はこれだった。


 両親の話なり、情報源は何でもいいのだが、得た情報をカテゴライズし、カテゴリごとにノートにまとめておく。

 そうやって自分の知識量が増えていくことを楽しむのが、最近のイムシスのブームだ。


 すでに数冊のノートを文字だらけにしてきたイムシスだが、また新しいノートを机の上に広げる。そのノートにも他のノート同様にタイトルをつけようとして、イムシスはやめた。

 このノートに書き綴ることは、結果的にどのような方向になるのかが分からなかった。

 だからこそ、今はまだノートのタイトルをつけることが出来ない。



 イムシスは手始めに、ノートの一ページ目に両親から得た「人間化装置」についての情報を書き綴る。

 

 最近、ラミリルが霞にフラれた、という事実はイムシスも知っている。

 今のラミリルは、今までになく弱っているだろう。

 イムシスは、その弱みに付け込んでラミリルを助けようとしているのだ。



「行動は最小限に抑えないと……」


「出来るだけ不確定要素は残さないように……」


「『人間化装置』を探す時間を考慮すると、もう少し時間は要る。………じゃあ、この時間を削って……」


「そう言えば、この日に第五次天地戦争が予定されてるって……。カリスス様が珍しく思い付きじゃなく計画的に天地戦争を行おうとしてるって話してた」


「あとは、ラミリルの精神状態次第、か……」



 呟きで自らの思考をまとめながら、イムシスはノートに書き綴る手を走らす。

 いつの間にか、夜が明けていた。

 

 黒いカーテンの閉められたイムシスの部屋には太陽光がほとんど入ってこない。

 そのためにイムシスは時間感覚を鈍らすことが多かった。


「よし、これで作戦の大まかなところは決まった」

 

 満足そうにそう呟いて、イムシスはノートを閉じる。

 ここから重要なのは、ラミリルの説得だ。

 ラミリルが望んでもいないことを自分だけで勝手にやってしまおうとするほどイムシスは思慮に欠けていなかった。




 ラミリルの説得を終えて、イムシスは自宅に帰ってくる。

 ラミリルを説得できたことを喜びながら、少しばかりこれが夢であったりしないものかと疑った。

 しかし、はっきりとした痛みを伴う夢など、そう見ないものである。


 

 これで、イムシスの作戦は実行段階に移される。

 ラミリルを救うための、作戦が、幕を開ける。




「これくらいしか、ラミリルと私の関係を紡げるものはないから――――――」


 そんな呟きを残して、イムシスはラミリルがいるであろう、〝天界(ヘブン)に一番近い場所〟に向かう。




「また、ここに居たの、ラミリル?」


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