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XVIII 天使は無茶ぶる。



「整理はされてるけど、なんつうか殺風景だな」


「乙女の部屋を見て言うことじゃないでしょ」


 イムシスの部屋へと案内されたキミエルが一言目に口にした言葉に、反射的にイムシスが軽い手刀を入れる。


 そう言えば、こういう感覚だったな、とイムシスは思い出した。最近はキミエルと関わることも減っていたが、少し前まではこういう感じだった。キミエルが何かを言えば、イムシスがそれに対して突っ込みを入れる。そうだったんだ。



「いや、乙女なのか?」


「それが乙女に対して言うことなの?」


「いや、だからそもそもお前が乙女っていう前提条件がおかしいと……ぃって」



 最後まで言い切る前にイムシスは先程よりも少々力を強めてキミエルの首筋に手刀を入れる。




 彼らの様子を見て、ラミリルはニコニコとするばかりだった。






「じゃあ、立案者である私が説明しよう」


 部屋の扉を閉め、窓の外を確認してからカーテンも閉め、薄暗くなった部屋の中でイムシスは語りだした。所々はラミリルに確認を取りながら、そもそもの作戦の始まりから、全てを語った。




 一切の騙りなく、語った。






「成程な。確かにそれはさっきのイムシスみたいな反応になって然りなわけだ」


 話を聞き終えて、キミエルは脱力したように肩を軽く落とした。全てを語り終えるころにはイムシスもキミエルに対する信頼をある程度持てたようである。キミエルが話を聞きながら素直に反応し、真剣に聞き入る様子を見せたことも良い印象を与えたのだろう。


「だけども、俺には話してくれても良かったじゃねぇか」


 少し拗ねた様にキミエルは小さく頬を膨らませた。その様子がどこか幼くて、ラミリルは吹き出しそうになるのをぎりぎりで堪える。最近は希望が見えてきたことも有り、ラミリルが笑顔を見せることは増えてきた。


 霞との別れがある前は、これ以上に笑い続けるような性格だったのだ。今こそ昏い性格のように感じられるが、元は元気で無邪気な性格だった。



「――で、俺は何すりゃいい?」



 キミエルは、作戦への参加を決めたときのラミリルを彷彿とさせる、いたずらっ子のような無邪気な笑みを浮かべた。イムシスはキミエルとラミリルを無意識的に重ねる。


 云わばラミリル至上主義のイムシスにとって、キミエルとラミリルが重なってしまえばキミエルが作戦に参加しようとしていることに異論を挟もうとはし得なかった。


「じゃあ、もう一度この場で確認がてら役割分担を組みなおそう。でも、作戦決行は変わらず今日。キミエルは一瞬で役割を覚えて」


 かなりの無茶ぶりだな、というキミエルの突っ込みを半分無視してイムシスは本棚から一つのファイルを取り出してきて中に入っていた大きな紙を机に広げる。


「これが、天使政府の研究施設の間取り図。私の家庭はまあ、知ってる通りだから、何回かは見学に行かされたことがある。これはかなり最近の見学で見たものを写したものだから、教えてもらえなかった隠し通路とかそういうの以外はしっかり再現できてるはず」


 イムシスは軽く説明を終えてから次の紙を取り出し広げる。手慣れているようで、その手つきは淀みなかった。


「これは、さっきの間取り図に実際の作戦中にどういう風に動くかの想定を書き加えたもの。基本的に、私たちの作戦の目的は一貫して『人間化装置』の設置場所への潜入であって、天使政府への攻撃じゃない。可能な限り警備をすり抜けてラミリルを装置の場所へと送り届けられるように動く」


 淡々と進む説明に、すでに何度もイムシスから説明を受け、自分の中でも反芻し続けていたラミリルはまだしも、キミエルは早速意味の分からないところがあったのか、首を傾げたり次々と出てくる紙面を凝視していたりと、あまり情報を呑み込めていない様子だ。


 本来は、更に時間をかけて説明する必要があるわけだが、今回ばかりはそうもいかないのが現状だった。決行日は、今日でないといけないのだ。



「――俺が勝手に割り込んどいて何だが、頑なに決行日を今日にしなくてもいいんじゃねぇのか?もっと時間をかけて綿密な計画を立てねぇと……」


「それは、もうすぐ分かるよ」


 意味ありげにカーテンに閉ざされた窓の外に視線を飛ばし、イムシスは微笑を洩らした。






 ――――その時だった。







――――――ジリリリィィィ!!!!!







 耳を劈くような、サイレンが鳴り響く。


「これは……っ?!」


 なるほどそういうことか、とキミエルは直後に理解する。



 このサイレンを聞くのは、これまでの生活の中で三度目だった。



『天使政府より、全天使へ通達―――天使政府より、全天使へ通達』



『天使政府は人間政府に対し、〝第五次天地戦争〟の開戦を宣言したものである』



『全天使は人間側からの攻撃に備え、天使軍の勝利を神に祈祷することをここに義務付ける』




 アナウンスが終わり、一気に静かになった世界に耳鳴りが響く。


 半強制的に静かにさせられたような気分だった。



「―――これが、決行日を今日にせざるを得なかった理由」


 イムシスが既にキミエルは理解しているのだろうと察しながらも説明を補足する。


「私は、事前に知ってた。だから、この日しかないと思っていた。今日だけは、天使軍が一挙に出払う。つまり、潜入が一気に楽になる日だから」



「分かったでしょ? だから、無茶ぶりだとしてもすぐに役目を理解して」



 イムシスの言葉が帯びる真剣さに、キミエルは気圧され、身を固くしながらも頷いた。



  



 天使政府直属の研究施設。



 そこでは数多くの実験が日々行われている。


 ラミリルらの目指す〝人間化装置〟も、ここで実験を重ねられ、遂に試用段階となった。


 無理やりにキミエルに作戦に関する情報を詰め込み、彼らは研究施設の近くまで来ていた。


「分かってると思うけど、ここからは隠密行動。基本的に会話の声は小さくね」


 イムシスが言うと、ラミリルとキミエルが頷きを返す。イムシスもそれに対して小さく頷いて、建物の陰に隠れながら研究施設へと近づいていった。


 周りに人影がいないことを確認してから、イムシスは手招きをする。



「よし、まずは第一関門。研究施設への潜入―――っ!」


 イムシスが言い終わる前に、イムシスに影がかかった。








「よお。お前が人間とイチャコラしてたとかいう坊主か」





さて、激動でございます。

新キャラ登場ですが、さて、敵か味方か―――。


次回投稿

「XIX 天使たちは知る。」

11月4日午後7時投稿予定です。ご期待ください。

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