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XIV 天使たちの子供。

投稿が遅くなり申し訳ありません。

本来なら一週間と一日前に投稿するはずでしたが、諸事情により投稿が出来ませんでした。


「俺たちの正体は人間たちにバレてしまった。そのことを受けて、人間が俺らに対してどういう対応をするか、ってことだよ」



 キミルの脳裏に昨日の様子が浮かび上がる。酒に酔っていたからか、記憶の映像はぼやけていて分かりにくいが、自分たちから距離をとって低い姿勢をとっていることは辛うじて分かる。



「昨日と同じようなことになるんじゃないか? 人間にとって天使は神に準じる存在のようだし、距離をとられるじゃないかと思ってるけれど……」


 逆に、それ以外にどのような未来が想像できるのか、とキミルは考える。


 キミルにはラミアがなぜこのような話を振ったのか、動機が分からなかった。しかし、その理由を話すどころか、話の発端である、ラミアは言葉というボールを掌の中に収めたまま、投げ返すことをしなかった。


 本当なら、何が言いたいんだ、とラミアに聞きたい。しかしキミルはそのような直感的な欲求を心の中に抑え込んだ。自分のせいでこのような状況になって、ラミアの雰囲気は今までになく暗い。


 元々、明るく陽気な性格とはほど遠い雰囲気を纏っているラミアだが、それは落ち着いているだけであって落ち込んだ静かさではない。


 ラミアの内心を考えると、キミルは何も言えなくなってしまった。二人の間に口を強引に閉じさせるような見えない圧力的な空気が漂う。


 それから、夜になり、二人が何も言わないままに寝床に就くまで、部屋の中に沈黙以外が生じることはなかった。

 




『キミルの馬鹿!』


 キミルは深い闇の中で、妙に冴えた目を擦る。眠気がないと感じながらもどこか寝惚けているのか、ずっと昔の事を思い出した。


 なんでこんな時に、しかもこんなことを、とキミルは余計に寝られなくなったように感じた。



 キミルが思い出したのは、ラミアと喧嘩した時のこと。


 天使は、人間と比べ圧倒的に精神の成熟が早い。人間が歩くことを覚えるまでで天使は人間の齢八十ほどの精神まで成熟する。


 まあ、その成熟の早さの代償か、キミルとラミアが子供のような好奇心を理由に天界(ヘブン)の掟を無視するなど、天使の精神には何らかの欠損が生じてしまうのだが。


 しかし、精神の成熟までの時間を要する時点で、天使にも幼い精神を持った頃があるということだ。今のキミルとラミアは好奇心と判断力に限って幼児のような精神を持っているが、元々は全てのことにおいて幼児的精神であった。


 そのような頃に、一度だけキミルとラミアは喧嘩をしたことがあった。当たり前のことかもしれないが、後から考えると本当に些細な事で喧嘩したものだと思う。

 


 あれは、初めて自分たちに仕事が与えられ、浮足立つ心が何処かへ飛び去ってしまわないようにと抑えながら自分たちの持ち場へと向かっていた時のこと。


 雲が大きく膨らみ、小さな丘や谷が形成されているところに差し掛かった時に、ラミアはあることを閃いた。ただ純粋に、この場所ならば自分の身を隠して自分が消えたと、キミルに錯覚させ、驚かすことが出来るのではないか、と思ったのだ。


 最近ラミアのマイブームとなっていたかくれんぼの延長のようなものだった。


 幸いにも、キミルが先を進んでいるため、ラミアがこっそりと身を隠したとして、キミルもすぐにはそのことに気付けない。ラミアは少しずつキミルと距離をとり、足音も小さくしていった。それでもキミルが気付いていないことを確認してから、ラミアは近くにあった身を隠せる程の雲の盛り上がりの後ろに隠れる。そして、息を潜めた。



 一方でキミルは、初めての仕事に言葉にしがたい高揚感と緊張感を抱いており、周りの気配まで気を配ることは出来ていなかった。

 



 ラミアが隠れてから、五分ほどが経った。ラミアは雲の後ろに隠れながら、キミルの驚いた声が聞こえてくるのを今か今かと待っている。しかし、いつまでたってもそんな声は聞こえず、いつしかキミルの足音さえも消えていた。


 違和感を感じたラミアだったが、ここで姿を現して自分から見つかりに行くような真似はしたくなかったため、違和感を押し殺してただ、身を隠し続けた。



 その頃、キミルは伝えられていた自分の持ち場へと到着し、やっと、ラミアがいないことに気づいていた。


「ラミアー、どこ行ったのー?」


 少し大声を出してみたが、周りから返事は聞こえてこない。キミルの心中に不安と焦燥が燻り始める。


 キミルはその辺りを歩き回ってみるが見つからない。辺り一帯、白い雲と青い空だらけでどこもかしこも同じ風景に見えてくる。キミルは壁に風景画の描かれた箱に閉じ込められたような錯覚に陥り、さらに不安が膨れ上がった。


 そして同じ頃、ラミアもまた、かくれんぼを一人でやっているような喪失感を感じていた。誰もいないのに、一人隠れる芝居をしている、そんな虚しさを。


 それもその通りで、ラミアはキミルから隠れているが、近くにキミルはいない。探してはいるが、このままでは見つけてくれるのはいつになるかわからないような状況だ。ラミアの周りには何とも言えない、空しく白い雰囲気が漂った。


 それから少しして、捜索範囲を広げたキミルはラミアを難なく見つけた。しかし、そこで再会して終わり、というわけにはいかなかった。


 ラミアとしては、キミルが緊張していたと知っていても、やはり自分がいないことに気づいてくれなかった、という事実に腹立ちを感じた。キミルが緊張していた、ということも雰囲気で感じていたし、仕方の無いことだということはわかるけれど、それでもどこか悔しさにも似た苛立ちを抑えられなかった。



「ごめんね、ラミア」


 キミルに謝られて、ラミアは思わずキミルから視線を逸らし、地面と見つめ合う。ラミアとしては、キミルに謝ってほしくなかった。どんなことでもいいから、言い訳をして欲しかった。



 ラミアが勝手に隠れたから。


 ラミアが僕の状況を考えてくれなかったから。



 内容はどうでも良かった。ただ、責任をなすりつけてきて欲しかった。それなら、道理に合わない苛立ちを抱えている自分が、少しは悪くないように感じられるから。


 何とも、下劣な考えだということは百も承知で、ラミアはこの感情を抱いている。自分の正当性を主張したいなど、そんなことをラミアは考えていない。


 ただ、自分の醜さをキミルと分け合おうとしただけだ。まだ、人間を見たことの無い彼らだったが、この時のラミアは非常に人間味を感じさせた。



「キミルの馬鹿!」



 色々と考えすぎたのか、ラミアは何もかもどうでもいいように感じた。自分の口から出る言の葉も、体の中で反響して脳で認識しているのに、いまいち意味の理解が追い付かない。


 こんなことを言っても何も変わらない。それどころか、事態は悪化の一途をたどるだけ。それは分かっているはずなのに、どうしてもその先、どうしたらいいのか、という結論までは思考が届かなかった。


 ラミアは走る。自分の足で駆けているのか、天使の能力で雲の上を飛んでいるのかが分からなくなるほど、夢中に走った。


 与えられた仕事が、明日からのもので良かったと、どこか冷静な頭が考える。天使は人間とは比べ物になら無い速度で精神が成熟する。ラミアの精神はこの時にも刻一刻と育ち続けている。


 先ほど、自分がキミルに言い放ったことの意味も、今更ながらに理解できてきた。そして、実に今更ながら、ラミアは後悔と怒りに襲われた。



 自分は何を言ってしまったのだ、という後悔。



 折角ペアになった天使を蔑視しているような言葉を投げつけてしまった自分に対する怒り。


 天使がペアになって仕事をするのは珍しい、と説明を受けたことをラミアは思い出す。ラミアにとって、仕事をするペアであるキミルはとても貴重な存在であって然りだ。そのキミルを罵倒した、という自分の行動に、ラミアは怒りと後悔を隠すことができなかった。


 ラミアはがむしゃらに動かしていた足の動きを遅くし、終には雲の上で停止する。ラミアの体は急に軟体動物になったかの如く、崩れ落ちた。そのまま、雲の影でうずくまる。



 一人かくれんぼとはまた違う、一人、時の流れに置いていかれているような孤独感をラミアは感じる。


 ラミアはそのまま、夜を迎えて寝た。キミルも、ラミアを探しに行った先で遂に見つけられず、眠った。



 キミルとラミアが眠っている間に、神は彼らの脳内でこの事に関する感情を()()()()


 記憶としては取り出せるが、過去のもの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのように操作された。だから、キミルとラミアは、次に目が覚めたとき、既にこの問題は解決している、というように認識していた。



 神は何故、このようなことをされたのか。



 いや、神の行動に()()()()()()()()()()()()()()


ただのお遊び、戯れだ。まあ、強いて言うなら自らの力を使ってみたかったことだろうか。


 一夜を越して、キミルとラミアは仕事の持ち場にて合流した。何故なのか、ラミアがキミルに対して放った言葉も、その前後の出来事も、全てが全て解決された過去のことのように思えていた。まさに、寝たら解決していたわけである。

天使たちは、昔、子供でした。

そして今も、子供のままです。天使という完全無欠の神から作られた模造品の唯一の欠陥は、一部精神の脆弱性でした。


次回投稿

「ⅩⅤ 黒色を、見る。」

10月22日午後9時投稿予定です。ご期待ください。

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