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Ⅺ イムシスの手記


〈イムシスの手記『天使の教育』より抜粋〉



 約三千年前、神の指示によってに下った天使たちがいた。それがキミルとラミアである。

 彼らは人間に接触し、責務の遂行に移った。


『一対の天使は三日三晩の間、地上を見て回り、神の御意思に沿って行動した(「歴史教本・天使政府出版」より引用)』



 その責務の内容はその天使たちにのみ知らされており、他の天使たちは知りえないことであった。そのため情報は極めて少ない。


 天使たちは人間の姿をしており、人間社会に溶け込みつつ、それぞれが行動した。


『天使は人の姿を用い、集落の人たちと楽し気に談笑し、それぞれが個人として動いていた。(「変化の刻・カリスス著」より引用)』



 天使たちは人間との間に子を産み、育てた。後にネフィリムと呼ばれた巨人族である。これは人間と天使のハーフであり、全ての元凶ともいえる。


『彼らの子は一日に頭三つ分の勢いで背を伸ばし、屈強な巨躯を手に入れた。(「変化の刻・カリスス著」より引用)』



 ネフィリムと呼ばれた巨人族はその巨躯を利用して人間を脅し、産みの親である天使たちの矯正も跳ね返し、邪知暴虐の限りを尽くした。


『巨人族は人間を脅し、天使たちの制御を離れた。ネフィリムはその個々の存在として罪を重ねるようになった。(「ネフィリムの罪・天使政府監修」より引用)』




 これらのことを根拠に、天使政府側は天使とネフィリムの罪を関係のないものとして処理していると考えられる。加えて、天使が地上でしていたことについてはそれが神の命令したことを遂行するためであるような描写をしている。




 これらのことの後、ネフィリムは更に暴虐的な姿勢を極め、ついには人間の集落一つを支配下に置いた。


『次第に権力を求めたネフィリムは集落全体を統制し、圧政を敷くことで(後略)(「巨人族の政治・ティラクス著」より引用)



 ネフィリムの圧政に耐えかねた集落民はネフィリムの父である天使に文句を言うようになり、天使はその対応に徹しざるを得なくなった。


『人間は天使に対してネフィリムの罪を問い、あらぬことまで責任を問うようになった。(「変化の刻・カリスス著」より引用)』



 巨人族の圧政が極まると同様に、人間の天使に対する態度も徐々に横暴化し、遂には天使全体を下に見ようという野望を抱き始めた。   


 これは、ネフィリムに圧政を敷かれ、下に見られ続けたことに対する反抗心から生まれたものであると考えられる。


『人々の反抗心は横暴さと天使支配の野望を生みだした(「人類の反逆まで・ニムアス著」より引用)』

人間は天使に攻撃的な姿勢をとるようになり、天使はその数の前に劣勢を強いられた。


※天使は地上(アース)でその力を利用することはできないため、ここでは通常の人間と変わらない能力である



 人間は天使が雲の上にいることを知り、雲をなくし、天使を地に堕とすために世界の全ての水場に影を落とさせた。そのためにかけられた時間は長く、二十年に及んだ。


『人間は天使の居場所である雲を消し去ろうと、全ての水場を日の当たらぬところとした。こうして、空に雲が生じることはなくなった。(「歴史教本・天使政府出版」より引用)』



 天使たちは地に落とされ、羽を辺りに散らした。人間はその羽を拾い集め、噛み砕いて飲みこんだ。


『天使の羽が落ちたとき、人間はその羽を喰らって天で生きる能力を手に入れた。(「人類の反逆まで・ニムアス著」より引用)』



 人間は水場から影を取り去り、雲を生じさせた。そして、天で住まうようになり、天使は地に落とされた。


『(前略)このように人間は自らの野望欲望に従って人間と天使のあるべき姿を不用意に覆し、自分達こそが天から見下ろすに相応しいと考えた。(「変化の刻・カリスス著」より引用)』




 以上が天使に対して行われている教育であり、このような経緯を経て人間は天で、天使は地で生活するようになったといわれている。


 この教育において、もっとも強調されているのは人間が自分達の欲望(野望という表現も多用される)によって天使を地に落とした、ということと、天使に何の落ち度もない、ということである。ネフィリムと天使の関連性についても、前述の通り無関係とされ、天使が制御しようとして不可能であったという描写がされている。






(イムシスの手記『人間の教育』より抜粋)



 霞の話をもとに、人間が受ける人間と天使の歴史についての教育の概要をまとめる。

 引用の表記は省略するが、全て霞の話をまとめたものである。



 ある時、天使が人間の集落に現れた。その天使たちは人間の女性に興味をもち、から降り立ったのだという。


 天使たちは人間に対し、横暴な態度で人間に接し、人間を圧政のもとにおいた。そして、人間との間に子を生み、その子供はネフィリムとなった。


 ネフィリムは天使たちの手足として動き、人間を脅して金品を奪った。


 ある時、一人の人間が天使たちのことについて尋ね、本来ならば天使はから出ることを神に許されてはいないのだということを知った。その事を聞いた人間は人間の集落の長にその事を伝えた。


 神に対する畏れを抱いていた人間たちは天使たちのことについて神から罪を問われるのではと恐れ、天使たちにに戻ってくれるよう、頼み込んだ。


 天使たちはその要望を聞き入れること無く、に住んで暴虐非道を体現したような行動を続けた。

遂に、それまで天使たちがしていることを見ていた神はその行動全てを罪とし、その責任を天使全体に問われた。


 その罪の代償として神は天使を地に落とし、人間を代わりとして天に住まわせた。




 以上が、人間が受けている教育の概要である。人間の教育では全体的にネフィリムの描写が少なく、天使の責任を強調して描写している傾向にある。


 加えて、人間側の正当性も強調しつつ、神に対する信仰があることも示している。






「はぁ……」


 自らの手記を読み、あらかたを読み切った後にイムシスは溜息をこぼした。


 書いているときは一切何も感じなかったが、もう一度読み直してみると無駄に格好つけた表現を使っているし、同じ表現ばかり使っていて語彙力のなさが顕著に表れている。


 しかし、情報としてはある程度充実していて有用ではある。どちらの情報についても情報源が乏しいことは否めないが、当時の状況を思い描くことは出来る。


「最終的に、どっちが正しいのかは分からずじまいだったけれど……」


 この手記を書くために情報収集をしていたころは天使政府の施設に忍び込んで禁書を盗み出そうとするなど、様々なハイリスクを冒そうとしていた。しかし、流石にそこまではする方法さえなかった。それで、今でなお天使と人間、それぞれの教育についてどちらが正しくてどちらが間違っている、と言ったことは分かっていない。


 どちらかが正しく、どちらかは間違っているのか、それとも両者ともが間違っているのか。明らかな相違点が幾つかある以上、どちらも正しいということはない。


 表現の違いだけで生まれる違いではなかった。


 イムシスは、この問題に対して答えを導き出すことは出来ないと諦めていた。信頼できる情報源はもう既にないのだから。


 天使の中で当時のことを知っているのは大天使カリススのみだろう。しかし、もしも天使の教育がすべて間違いであるのなら、その教育を行っている第一人者、カリススが信頼できるわけもない。


 人間の中で当時から生きている者はない。人間の寿命はせいぜい九百年ほど。三千年前のことは数代にわたって語り継がれた、いわば伝説だ。そんなものも、勿論信頼できない。



「もう、信頼できる情報源は、高きところにおられる、神ただその御方のみ……」


 自分の手記を読み、少し染められたのか、幾らか格好をつけてイムシスは呟いた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


テストで習ったことと違うことを間違えて書いてしまう。

そんなことはありますが、そもそも教育が事実と違う、なんてことを想像したことはありますか?

天使と人間、どちらの教育が正しいのでしょうか。

次章は〝第零章〟遂に過去編に突入です。


次回投稿

「登場人物紹介・裏話Ⅱ」

10月1日午後8時投稿予定です。ご期待ください。

※第二章が完結しましたので、幕間です。

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