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ヘブンアンドアース~天使と人間、異種間の恋愛譚~  作者: 村右衛門
第一章 決行日
1/33

Ⅰ 天使は空を。

小説を何個も掛け持ちしようとし出す馬鹿者、村右衛門です、よろしくお願いします。

ですが、安心してください。この小説は一年ほどかけて既に完結済みなので、細部を修正しながら予約投稿するだけです。

なので、比較的早い投稿頻度をお約束します。


第零章・第一章・第二章を読んでも何もわからない。けど、第三章からは面白い。と評価を頂いております。是非、はじめの頃は何が何だかわからなくても、読み流し、第三章が来たくらいで本気を出して読んでいただければと思います。


長くなりましたが、新作「ヘブンアンドアース」を、お楽しみください。









     プロローグ


三千年前・アララト山付近―――。


 天使たちが、地上に降り立った。この世のものと思えぬほどに白く煌めく天使の羽は、神々しく輝いている。そして、それらは徐々に光を失って端から溶けるように消えていった。天使たちの身体は人間の体に似るようにして変化し、人間の男性の見た目になる。

 彼らは堕天使だった。神の与えた天界に満足しようとせず、地上の人間たちに興味を持った、悪に堕ちた天使。その彼らは今、地上に降り立ち、人間に接触しようとしていた。


「●●■●■■■●●?」


「何だ、まだこの場所に順応していないのか、キミル」


「いや、今順応が終わった。それで、ここはどこなんだ、ラミア?」

 キミルと呼ばれた天使は緩慢に首を左右に振り、辺りを窺いながら自分たちを取り囲む状況を確認しようとする。周りは砂に囲まれ、太陽の熱波が光を歪めていた。


「人間に見つかるわけにはいかなかったが、ここは人里から距離がありすぎるんじゃないか?」

 周囲360度、どこを見ても人里のようなものは見えそうにない。


「ここはアララト山の近くの荒野だ。人里までは少し歩けば到着する。」


「ここは地上なんだ。天使としての力は制限されている。本当に少し歩けばなのか?」

 ラミアと呼ばれていた天使は黙りこくる。キミルからの訝し気な目線を受けつつも、ラミアは黙秘を押し通した。キミルは大袈裟に肩を揺らしながら溜息を吐いた。


「仕方がない。今更天界に後戻りすることは出来ない。少しの苦労は厭わないさ」

 キミルはしっかりと前を見据え、歩みだした。ラミアはすまない、と謝罪の言葉をこぼしながらキミルの後を追って歩き出した。



 彼らが人里に到着したのは、二日後の夜だった。空に浮かぶ月と満点の星々が幽かに地面を照らしていた。人々は寝静まっている時間だ。外に出ている人もおらず、二つの影だけが地面に落ちていた。


 キミルとラミアは静かに地面を踏みしめ、人間の集落の方へと進んでいった。

現代・ナザレ・エリア6―――。



 地球の東側から、夜を焦がすかのように闇を蝕む朝日が昇ってくる。それを眺めつつ、高い塔の縁に座って背中に風を受ける天使がいた。両足を風の流れに任せて揺らしつつも、両手は体のバランスを整えるために力が入っている。


「また、ここにいたの? ラミリル」


「ああ、イムシス。おはよう」


「おはよう。ホント、ラミリルはここが好きだね。」

 イムシスの言葉を受けて、ラミリルは視線を空の向こうへと戻した。


「ここは、天界に一番近いとされる場所だからね」

 そこは天使たちにとって目標だった。約三千年前に地上(アース)に堕ちてから、彼らの悲願は変わらない。

 イムシスはラミリルに歩み寄ると、その横に静かに腰かけた。下を見ると恐怖が勝ってしまうため、常に空を見上げるようにする。


「どうしたの、高いところは苦手なんだろ?」

ラミリルはイムシスが隣に座っても、視線は空に向けている。しかし、その声音はイムシスを心配するものだった。


「しっかり空を見上げてたら大丈夫。」

イムシスはラミリルに笑いかける。その時、視界の端に建造物群が見えて少し寒気を覚えた。しかし、隣にラミリルがいる、という事実がイムシスを安心させていた。


「そろそろ家に帰ろうかな。朝食の準備もしないといけないし。」

 ラミリルが緩慢な動作で立ち上がった。


 立ち上がって風の当たる面積が大きくなったことで一瞬体のバランスを崩しかける。

 うっ、と声が漏れ、体が前のめりになった。その時に感じた地面からの距離が、瞬間的にラミリルの恐怖心を増幅させる。このまま落ちてしまうような感覚に襲われ、ラミリルは反射的に目を閉じた。


 けれどその時、ラミリルの身体は重力ではない他の力によって引かれ、後ろに倒れた。イムシスが引っ張ったのだと、ラミリルはすぐに気づけなかった。一瞬のことで気が動転し、上手く思考がまとまらなかった。


「大丈夫? 危ないんだから、気を付けてね。痛覚はあるんだから……」

 イムシスがラミリルを心配して声をかける。ラミリルはその言葉で思考が現実へ引き戻されたように感じた。


「ああ、ありがとう。ちょっとぼーっとしてた。」

 ラミリルはそういうと今度は慎重に立ち上がり、壁を手の支えとしながら下に降りていった。イムシスはその背中をこっそり見送ってから、もう一度空を見上げた。本当なら、空から見下ろしているはずだったのに、と心の中で呟く。


 イムシスは塔の下へと降りていった。塔から出たとき、無意識にラミリルの背中を探してしまう。しかし、ラミリルが塔を去ってから既に五分は経過していた。ラミリルらしき人物は辺りを見渡してもいない。その事実がイムシスの足に鉛の枷を掛けるようで、イムシスの足取りはどこか重くなった。



 ラミリルは自分の部屋のベッドで天井を仰いでいた。照明以外には何もない天井はラミリルの退屈さを増強させるように感じて、ラミリルは大きく溜息をついた。


「■●●■■■●■■■……」


 自分が天界(ヘブン)にいる様子を想像しながらラミリルは独りごつ。天界に戻る事、それは天使たちにとって悲願だ。しかし、ラミリルの想像、願望は他の天使たちとは異なっていた。


 ラミリルの脳内にあどけなく笑う一人の人間の少女の顔が浮かんでそのまま消えていく。その少女のことを考えるだけでラミリルの顔は無意識に弛緩し、口角が上がった。


「だけど、僕なんかじゃな……」

 自分と少女の差を自覚しているからこそ、ラミリルは自虐的に呟いた。自分は天使で、彼女は人間。その間の溝は底の見えない深淵まで続き、簡単にうめられるものではない。


 既に深い溝は、今なお深まりつつある。この状況をどうにかできないものか。ラミリルは思考を巡らせようとした。しかし、その思考は外から聞こえてきた音に妨げられる。


 何かの宣伝だろうか。BGMと機械音声が聞こえてくる。意図的に大音量に設定されたBGMは既に〝バッググラウンド〟ミュージックとは言えなくなっていた。


 そして、更に音量を増幅され、歪な波に乗せられた声は耳障り以外の表現が出来ないほどに五月蠅く感じられた。特に、今はその声を聞きたくなかった。



「ザサ……こちら人間撲滅協会です………ザ…我々は天使の権利を主張し、人間の撲滅を目的として…ザザ……活動しております……」


 壊れたCDのように同じ言葉を繰り返すその機械音声はしっかりとラミリルの怒りのツボを押さえていた。


 ラミリルは風通しを良くしようと思って開けていた、部屋に一つの窓を力強く閉める。


 ピシャリと小気味いい音が響き、ある程度は空気を揺らす機械音声の音量を落とせた。ラミリルは窓に次いでカーテンも閉めた。

 そのまま覚束ない足取りでベッドまで戻る。やっぱり退屈だ、とラミリルは今日で何度目かに溜息をついた。


 ベッドで右に、左にと体を中途半端に転がしながら、ラミリルは退屈を紛らわせるものを探した。しかし、自分の部屋は恐ろしいほど殺風景で、本棚と机以外に着目するところさえない。何をしてもいい日、というのは決まって退屈な日になりがちなものだ。


 ラミリルは足を引きずりながらベッドの外に出すと、本棚の方へと足を運ぶ。退屈を紛らわせるために本を読もうと思ったのだ。


 その時、ベッドからは死角になっていたカレンダーが目に入る。ほとんど予定のメモは入っていないカレンダーだが、幾つかの日付には赤いマーカーで印がつけられていた。そして、十日前の日付からはピタリと止まり、一切の記入がなかった。


 ラミリルはそのカレンダーを視界に入れたくない、と言わんばかりに目線を背けると本棚から無造作に一冊の本を取り出した。ラミリルは磁石に吸い寄せられるかのようにベッドに戻るとうつ伏せになって本を開く。背表紙さえも見ずに選んだ本だったが、ラミリルにとっては今一番読みたくない本だった。


『天使と人間の対立』


 その表題を見ただけでラミリルは頭の奥がズキリと痛んだ。反射的に本を視界の外へと追いやる。


 同時に、泣きそうなのを堪えつつ無理やり笑顔を作る少女の顔がフラッシュバックした。

 ずっと、忘れようと思っていたその表情は、やけに長く脳内に居座り続けた。

 忘れたい記憶と闘った数秒間、その短い時間がラミリルにとってはとても長い時間だったかのように感じられた。


「なんで、こんなことになったんだろうなぁ………」


 ラミリルは溜息と共に孤独な呟きを溢した。



ピンポーン



 ラミリルは聞こえてきた呼び鈴に対し、怪訝そうな表情をしたのちに、玄関へと向かうため、重い腰を上げた。


 人間撲滅協会か、天使政府か。どちらにしてもラミリルにとっては避けたいものだった。本当なら無視しておきたい。けれど、今の自分の置かれている状況を理解しているラミリルはそんなことが出来ないことだってわかっていた。


 ラミリルは玄関の扉に取り付けられた小さな覗き穴から外の様子を窺う。すると、そこにいたのは見知った顔の少女だった。


 ラミリルは玄関に取り付けられた鍵を開錠すると、ガチャリと扉を開ける。


「イムシス、どうかしたの?」

 イムシスが訪ねてくることは珍しいわけじゃない。けれど、用事がないときに来るということはなかった。


 覗き穴越しに見るイムシスの口角が少しばかり上がったように見えた。


「例の件について、ちょっと話しておきたくて」


イムシスの口から〝例の件〟という単語が紡がれると同時、ラミリルは玄関の扉を開けた。イムシスが周りを見回しながら入ってくる。


 ラミリルは自分の影にイムシスを隠しつつ、周りを見回しながら扉を閉めた。バタン、と扉の閉まる音が響く。


 イムシスは家の中に入るとラミリルの部屋へと直行、カーテンが閉められていることを確認してベッドへと座り込んだ。ラミリルも、「やけに慣れてるね」と言いつつ、部屋に置いてあった椅子に腰かける。


「それで、何を話しに来たの? 新しい情報でも入ったの?」

 ラミリルが待ちきれないと言わんばかりにイムシスに詰め寄る。ラミリルにとって〝例の件〟の重要性は異常に高い。それに関しての情報だったらすぐにでも得たいと思っていた。


「人間化装置の試用が開始されるらしい」

 イムシスの言葉に、ラミリルは「えっ」と驚きの声を上げる。


「それは本当に!? ついに出来上がったのか!」

 ラミリルは興奮を隠そうともせず、イムシスに質問を重ねた。イムシスの表情が恍惚に歪む。


「本当。詳細は機密情報みたいだから分からないけれど、存在は大々的に公表されてる。というか、ラミリルはメディア確認してないの?」

 心から不思議そうに、イムシスは首を傾げながら問う。最近ではメディアが大きな影響力を持っているのだから、確認していなければ社会において行かれる可能性さえ出てくる。


「ああ、今までは霞に聞けば大体のことは分かってたから。」

 ラミリルは遠くを眺めるようにしながら呟いた。その声はどれだけ笑顔で言ったとしても弱々しく感じられた。


 同時にイムシスは表情を歪ませる。どこか嫉妬も含んだその表情で、ラミリルではなく、その視線の先にいるのであろう人物を睨んだ。


「ところで、これからはどういう風に動くつもりなの?」

 どうにか話題を変えようと、イムシスが尋ねた。


「勿論、人間化装置の設置してあるところに潜入する」

 ラミリルは先ほどとは打って変わり、どこかいたずらっ子のような表情でそう言った。平然と条例違反を宣言したラミリルに、イムシスは一瞬戸惑ったが、すぐに同じようないたずら心を隠さない笑みを浮かべた。

 






 それぞれの過去と想いをのせた戦いが、今にも始まらんとしている。

お読みいただきありがとうございました。


全く何が何だかわからん、という方、今は大丈夫です。

第三章ほどまで行ってから、少し思い返してみると色んなことがよくわかって、面白いのではないかと思います。


次回投稿

「Ⅱ 人間は地を。」

8月13日投稿予定です。ご期待ください。

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