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スキル【鑑定(※傷病限定)】の活かし方

 冒険者ギルドを辞め(させられ)た翌日、俺は出身の孤児院に戻り、近くの丘へのピクニックを手伝っていた。

 ちなみに孤児院のみんなにはクビになったことはまだ言えておらず、「お休みをもらった」と(うそぶ)いているから罪悪感がハンパじゃない。


「さて、どうしたもんか……」


 子どもたちが草の繁った丘を元気に走り回る姿を見ながら、俺は今後の身の振り方を考える。


 金貨8枚というなけなしな安月給も、家賃などの必要分を除いたほとんどはこの孤児院に仕送りしていたため、貯金はほとんどない。

 この院で雇ってもらおうかとも考えたが、俺が仕送りをしてギリギリの状態だ。

 俺なんかを雇ったら、さらに経営は困窮するだろう。


「ツテを頼ってどこかの店に雇ってもらうか。いや、無理だな……」


 自慢じゃないが、孤児だった俺には肉親がいない。

 さらに病気も相まって人付き合いも苦手なために、孤児院以外で友人知人と呼べる相手もできなかった。

 よってツテを頼っての就職は無理だろう。


「ならスキルを活かして……もっと無理だな」


 スキルが根付いたこの世界では、それを活かして立身出世することもできる。

 代表的な職業は、俺もなりたかった冒険者だ。

 危険だが、出世すれば金持ちになれるし家族に取り立てられることも夢じゃない。


 ところがこれまた自慢じゃないが、俺の実力(レベル)は2ーーそこらの村人程度しかない。

 そして俺が唯一持っているスキルといえば【鑑定(※傷病限定)】だけ。

 冒険者には全く向かない非戦闘系スキルだ。


 言い訳じゃないが、このスキルも医者として生きるには立派に役立つスキルなんだ(ホントだぞ)。


 ところがどっこい、この鑑定スキルで最初に見えた病気は、皮肉にも俺自身の精神疾患ーー統合失調症だった。

 統合失調症の発症率は100人に1人ほど。

 アイテムのドロップ率で言えば1/100なんて、上から6番目のDランク程度でしかない。

 しかしそんな珍しくもない病気でも、奇行に走る可能性があるため正規雇用にはほぼ就けず、人の命を扱う医者になるのは厳しすぎる。


 それゆえにスキルが向いている医者の道も閉ざされた、いわゆる人生が詰んだ状態な俺は、こうして何者にもなれないまま落ちこぼれと呼ばれ、オッサンと呼ばれる年齢になってしまったーー。



 ▷▶︎▷▶︎



 それからも頭を回すが、どうすればいいか明確な答えは出なかった。


「はぁ……。とにかく、リオルには本当のことを言っておくか」


 リオルーー孤児院で暮らす、13歳になる俺の義弟(おとうと)だ。

 男ながらに下手な女子よりも可愛い顔立ちをしている(念のため言うが、変な意味じゃないぞ)。


 性格も良く、俺と違って勉強家だしそれにーー。

 キリが無いので一旦止めるが、とにかく、良い所を挙げたらそれだけで長編小説が書けるほどの自慢の義弟なのだ。

 リオルもまた、落ちこぼれの俺を「お兄ちゃん」と慕ってくれている。


 そしてこれは俺しか知らない事実だが、リオルは()()である。


 勇者ーー神様から魔王を倒す使命を与えられた人間のことだ。

 その人間は、体のどこかに証である紋章が刻まれており、リオルの場合は舌にそれがある。


 だが世界の国々の取り決めで、勇者は遅くとも18歳で魔王やその幹部ーー七つの大罪と呼ばれる強力なモンスターを倒す旅に出なければならないとされている。


 リオルは生来優しく人を傷つけることができない性分のため、そんな旅はとてもできないだろう。

 そう考えた俺は、リオルの紋章に気づいて以降、それを人に見られないようにと幼い頃からキツく約束させてきたのだ。


 その大切な義弟をがっかりさせるのは残念だが、伝えないわけにもいかないだろう。


 俺は走り回る子どもたちを横切りながら、ギルドをクビになった報告をするためにリオルを探した。

 すると丘を降りた雑木林の中で、目に涙を浮かべたリオルを発見した。


「どうしたんだリオル⁉︎」

「あ、フレニアお兄ちゃん……」


 あぁリオル、泣く姿さえなんて愛くるしいんだーーってそうじゃない。そうじゃないだろ、俺!

 (手遅れな気もするが)変な気持ちになる前に事情を訊こう。


「お兄ちゃん……あのね…………ダルバスが…………」


 その名前を聞いた瞬間、俺は事態を察した。


 ダルバスーーこの町を治める領主ベトラ男爵の一人息子だ。

 リオルとは違い右目の紋章を恥ずかしげもなく見せびらかす勇者で、一ヶ月後の18歳の誕生日に魔王退治の旅に出る若者(クソガキ)だ。

 そして親がこの院に出資していることを嵩にきて、対抗できない孤児院の子どもたちに修行という名の弱いものイジメをしているから救いがない。


 話を聞くと、「レベル5になった実力を試したい」といって腰巾着と共にリオルをいじめたらしい。


「ふざけやがって! そいつらはどこに行った?」


 リオルはベソをかきながら、雑木林の奥にある洞窟を指差した。


 あそこはGランク(レベル1〜5)の雑魚モンスターが出るコザの洞窟か。

 確か「金にならないから」と、ギルドマスターが放置した場所だったっけ?


 とにかく、大切な義弟をイジメられて黙っているわけにはいかない。

 俺は激昂に身を任せて、<スギの棒>を拾ってコザの洞窟へと足を向けた。

 なぜとは言わないが、せめて<ヒノキの棒>がよかったな。



 ▷▶︎▷▶︎



 岩肌が剥き出しの洞窟に入ると、中は薄暗く薄ら寒く、ダルバスが倒したであろうゴブリンの死体や血の跡にどことなく不気味さが漂っていた。


 傷口をスキルで見ると"切創"の文字が浮かぶから、ダルバスはナイフか何かを持っているんだろう。

 リオルにそれが向けられなかったのは幸いだが、<スギの棒>で挑むのは危険かもしれない。


 それでもリオルをイジメたことを謝らせようと、俺は震える脚を無理やり動かして奥へと進んでいった。


 それから奥へ進むと、ほどなくゲラゲラと笑う下品な声が反響して聴こえてきた。


「見たかあの腰抜け孤児。俺の強さの前に何もできずに震え上がってたぜ」

「さすがダルバスさん。私が両腕を押さえつける必要もありませんでしたなぁ」

「だな! これだけ強けりゃ、この国にいる大罪の、強欲のゲルスも一捻りにできるぜ! ギャハハハハ!」


 ダルバスたちの会話は、明らかにリオルのことを嗤う内容だった。

 そのことに、俺の怒りは頂点に達した。


「おい! お前らーー!」


 それから怒りに任せて挑むも、俺は年下のガキ2人に呆気なく返り討ちにあってしまった。


「なんだコイツ?」

「さぁ? 服も見窄(みすぼ)らしいどうせ卑しい野盗かなにかでしょう。いずれにしても、急所よりもダメージ倍率の高い超急所が見えるSSSランクスキル【神眼】を持つダルバスさんに挑むなんて、身の程知らずにも程がありますなぁ」


 ボロボロにされて動けない俺は、自分を嘲笑するダルバスたちに何も言い返せずにツバを吐きかけられてしまった。


 それで満足したのか、ダルバスたちはさらに奥地へと消えていった。



 ▷▶︎▷▶︎



 ……ちくしょう。チクショウ!


 痛みが引き始めると、今度は悔しさが込み上げてどうにかなりそうだった。

 殴られたからか、病気のせいか、頭の中がグチャグチャで思考もまとまらない。


 そんなとき、洞窟の奥からダルバスたちの断末魔のような悲鳴が聴こえてきた。


 なにごとかと無理やり体を起こして歩いていくと、そこには天井に頭がつきそうになる巨体のDランクモンスター、トロールが姿を見せていた。


 Dランクといえば1匹で村壊滅レベルの強さ。

 本来こんな洞窟の途中に現れるモンスターではない。

 おそらく、ギルドマスターがこの洞窟に関わるクエストを放置した結果、溜まった魔力に惹かれてやってきたのだろう。


 トロールの足元には、さっきまで強いつよいと息巻いていたダルバスが片腕をトロールに踏み潰され、ヒィヒィと涙を流していた。

 腰巾着に「早く助けろ」と文句を言うが、肝心の腰巾着は「助けを呼んでくる」と嘯いて、岩陰に隠れる俺の横を脚をもつれさせながら逃げ去っていった。


 トロールは中堅冒険者が数人で倒すレベルの強さ。

 俺が敵うはずもないし、よりによってリオルをイジメたクソガキを助ける義理はない。

 

 そう思って踵を返すが、さらに体重をかけられて腕を踏まれたダルバスの悲痛な叫び声に、俺は思わず()()()()踵を返した。


 俺は大声を上げて、無謀にもトロールに立ち向かう。

 トロールもこちらに気づくと、丸太のように太い茶色の腕を振り上げた。


 あぁ……これは死んだな。


 そう諦めた刹那、俺の目はトロールの胴体に、黒い痣を見つけた。

 俺は咄嗟に、その部分を思い切り<スギの棒>で殴りつける。


「ギャァアアアーー……!」


 するとどうしたことか、トロールは洞窟が揺れるほどの大絶叫と共に仰向けに倒れ、その場には倒した証であるドロップアイテムが散らばった。



 ▷▶︎▷▶︎



 それからスターシアの町は大騒ぎとなった。

 領主の、しかも勇者が死にかけたとあって、ダルバスが搬送された病院には両親を始めに大勢の町民が駆けつけている。

 しかしダルバスの腕はグシャグシャに潰され、出血多量で医者も手の施しようがなかった。


 俺も人の隙間からことの顛末を見守っていると、リオルが密集した人の間を抜けて手術室へと進み出たことに気がついた。


「リオル? まさかーー!」


 訝しむ人々の前で、リオルは一瞬目があった俺に微笑みかけて、「治れ」とダルバスに囁きかけた。

 すると潰れていた腕は空気を吹き込んだように膨らみ、傷もなかったかのように完全復活した。


 これこそがリオルの勇者スキル【神の御言葉】だ。

 魔力を込めた言葉で回復や結界を作り出す。

 【言霊】というスキルの上位互換にあたるSSスキルだ。


 勇者が回復したことで、深刻だった町民の顔は一旦、大歓喜に変わった。

 しかしそれは同時に、リオルが勇者であると周りにバレることを意味していた。


 その後、早速町長が王都に連絡を取り、新たな勇者の存在が明るみに出た。

 そしてリオルに対して矢継ぎ早に文が届いた。

 曰く、遅くとも5年後には、魔王退治の旅に出るべしとのこと。


 町から勇者が2人も出る。

 その名誉に、町は飲めや歌えやの大騒ぎとなった。


 なにが名誉なものか。


 無神経に喜び散らす町民の態度に、俺は血が滲むほど拳を握った。


 そして夜中になってようやく町民が寝静まると、俺は教会の瓦屋根の上で星を見るリオルの下へと足を運んだ。


「……ダルバスを助けて、本当によかったのか?」


 俺は目線を合わせず、星を眺めてリオルに尋ねた。


 するとリオルは、「仕方がない」と力無く笑った。


「誰かが死んで悲しむのは見たくなかったもん。それに、ボクは勇者だから。諦めるしかないもん」


 そう言うと、リオルは俺の胸に顔を埋めて泣き出した。


「ねぇ、フレニアお兄ちゃん。ボクはどうして勇者なの? どうしてみんなと違うの⁉︎」


 泣き続けながら疑問をぶつける義弟に、俺はなにも答えられなかった。


 なぜ自分は他人と違うものを持って産まれてしまったのか。

 それは、精神疾患を持つ俺自身が感じ続けている迷いだからだ。


 俺もお前も、そういう運命だったと諦めて受け入れるしかーー


 そう言おうとしたとき、リオルの悲しみに溢れた瞳と目が合った。


「ーー受け入れていいわけ、ねぇよな!」


 思わず口をついて出た言葉に、俺はある決意を固める。


「リオル、心配しなくていい。兄ちゃんがお前を助けてやる」

「嘘だぁ……」

「嘘じゃない! だって、魔王は兄ちゃんがやっつけるからな!」

「もっと嘘だぁ……」


 即答するな! しかももっとってなんだ! 

 少しくらい兄ちゃんを信じてくれてもいいんじゃないか?


「だって兄ちゃん、弱いしーー」

「うごっーー!」

「冒険者じゃないしーー」

「ぐふっーー‼︎」

「それにーー」


 もう止めてくれ。お前の言葉は全て俺にクリティカルヒットしているぞ。


「約束だ。兄ちゃんが魔王を倒してくる。だから、お前は戦わなくていいんだ!」


 そう告げるや否や、俺はあることを確かめるために、教会を飛び出してコザの洞窟へと赴いた。


 そしてトロールの死体を横切り、コザの洞窟のさらに奥へと駆けて行く。

 するとそこで、洞窟の本来の主であるDランクのボスモンスター、ホブゴブリンを発見した。


 しばらく物陰から観察していると、ホブゴブリンの体にも、トロールと同様の痣が浮かび上がる。

 俺は物陰から飛び出すと、相手が油断している隙をついてその痣を力一杯殴りつけた。

 するとホブゴブリンは、グラリと体をよろめかせ、そのまま生き絶えた。


「やっぱり。俺のスキル【鑑定(※傷病限定)】で見えたこの痣は、急所なんだな」


 待ってろリオル。

 お前が魔王退治の旅に出るまでに、俺が魔王を倒してやるから!

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