すーくんのお味噌汁
とある商店街に「味噌汁処・椿」という食堂がある。そこにはオレの幼馴染で…想い人のつばきさんが店主として働いている。
3ヶ月前。
「よっくん。お願いがあるんだけど」
店に訪れたオレは彼女から住み込みバイトの作る味噌汁の味見役を頼まれた。ソイツは大柄のオレよりも背が高くやせ細った、なんというか…ガイコツのようなヤツだった。
オレは困惑した。こんな怪しいやつを住み込みバイトに雇うのかと。
だからソイツにはっきりと言った。
「つばきさんを泣かせることしたら、ただじゃおかないからな」
そしたらソイツは…子供のように泣き出した。予想外の反応に困惑するオレにソイツは語った。
海外で謂れのない罵詈雑言を浴びせられ、世界中をさまよい、この街にやってきた。そしてつばきさんの味噌汁の温かさに救われたという。
『つばきさんのお味噌汁の作り方を覚えたい。そして自分のように傷ついた人々の心を温めたい』
泣きじゃくりながら呟くソイツの言葉に、それでも半信半疑なオレは彼女を守るために頼みを引き受けた。最初は包丁の握り方さえ分からなかったが、少しずつ上達していった。
そしてなんやかんやあって、今朝もソイツ…すーくんの作る味噌汁を味見する。
「塩気が少ないな。具材が多いのかもしれない」
『なるほど…メモメモ』
「よっくん。今日もありがとうね」
「いいっすよ。オレも味見が楽しくなってきたし」
『すみません、よっくんさん。ボク、味オンチらしいので』
「良いってことよ」
オレもすーくんと呼ぶくらいには信頼している。
壁掛け時計が、開店時間の9時を指そうとしていた。
「オレも仕事に戻らなきゃ」
「行ってらっしゃい。お仕事頑張ってね」
「ありがとうございます、つばきさん。すーくんも頑張れよ」
『はい!』
店を出ると、すでに客が数人待っていた。
一番目に並ぶ男性二人の会話が耳に入る。つばきさん目当てらしい。そうだろう。街主催のミスコンテストで3連覇を果たした彼女を一目見ようと隣の県から訪れる客も多い。
そして最近、話題が1つ増えた。
見た目は怖いが、接客対応の良いバイトの話題だ。そのバイト目的に訪れる客も増えている。
『皆様、お待たせいたしました』
入り口から姿を見せるすーくんの姿を見た男性客は悲鳴を上げた。その声にうんうん頷く常連客もいる。そりゃそうだ。オレも最初はびっくりした。
すーくんは身長2mの水晶髑髏。本物のオーパーツだからだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
なろうラジオ大賞3投稿作品です。1000文字に纏めるのは大変でしたが楽しかったです。
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