13話 魔法兵器オルス
執事のザバスがオルスの魔法を凍らせた。
オルスとニワさんによるA級炎魔法のコンサートを見ても、ザバスは何一つ表情を変えていない。
しかし、ザバスはこの非常事態が原因で庭園に訪れている。
来てみれば、2人の男が″イフリートマグナ″を暴走させていたので、ブチギレそうであった。
会合の翌日に、しかも一人じゃなく二人とも魔法を暴走させている。
さらに付け加えるとA級魔法は街中で使うことを禁止されている。
威力が凄まじすぎるが故に法により定められているのだ。
もちろん、敷地内でもだ。
こんなことが広まれば国権にもかかわる、そうザバスは考え、ブチギレそうになっているのだ。
「ニワ!お前、何をヤッテイル?」
ザバスは、爆発しそうな怒りを抑えながらニワさんに言った。
その言葉の後にオルスを睨め付ける。
「お前もだ!」と言いたげそうに。
「これはバーン様からの頼みでな、この子に魔法を教えているのじゃ。もちろん、ガンズ様の許可ももらっている。」
ニワさんは万が一に備えて用意していた切り札を出した。
だが、ザバスは「そういうことを言っているんじゃない」と言いたそうな顔をしている。
余計にザバスを怒らせることになった。
「そういうことを言っているんじゃない。許可云々はもちろんあって当然!魔法が暴走して城が消滅したとなればどうなる?それを他国が知ればどうなる?そして、2人の男によるお遊びが原因だと知ったら?そういう事を言っているんだ!」
ザバスはニワさんに怒鳴った。
それでもニワさんは全く反省していない。
後ろで蝶々にちょっかいをかけられているオルスを見て笑っている。
オルスは普通に困っていた。
自分も怒られるのではないか、そう考えていた。
「あの、、すみません。ちょ、邪魔だよ。。すみません、私、オルスと言います。ここの庭師として働くことになり、ニワさんに魔法を教わっていたのですが、魔法を使うのは初めてで、すみませんでした。」
オルスは蝶々を手で払いながら、怒らすと怖そうなザバスに対して謝った。
オルスは、逃げ足だけ速いわけではない。言い訳や謝罪についても割と速く言える。
さりげなくニワさんに責任を押し付けれる程度には。
事実も織り交ぜ、かつ謝りながらの責任逃れはオルスの得意な卑怯技でもある。
「ちなみに、あなたは何者なんですか?」
ザバスは言った。
ザバスはオルスの事を全く知らなかった。
「オルス、オルス・ジットと申します。今回はバーン様を救出したという事でこの屋敷の庭師として働けることになりました。」
オルスは、「バーン様を救出した」ということを強調した。
だが、この言葉は西ラグラ王国では、喜ばれない言葉であることをオルスはまだ知らない。
哀れみの言葉で言い返されるだけということも。
「あー、それで二人は一緒にいるということなんですね。オルス君、頑張ってください。この城は広いですし、庭園はバーン様がよく遊ぶ場所でもありますから、相手をしてあげてください。」
ザバスは哀れみの言葉をかけず、ただ頑張れと言うだけだった。
そしてバーンの相手をするようにという余計なことも言った。
「頑張ります!」(オルス)
「では、魔法だけには気をつけてくださいね。」(ザバス)
ザバスは去った。
無表情のまま。
「じゃあ、魔法の続きじゃ!炎魔法は一番弱いE級から教えちゃる。」(ニワさん)
「イエッサー!!」(オルス)
ニワさんはオルスに楽しそうに炎魔法を教えようとしている。
もう、ザバスもいなくなったから邪魔者もいない。
「炎魔法のE級は生活魔法よりもレベルが低いが、魔力操作によってはC級レベルの威力も出せるんじゃ。」(ニワさん)
「プチファイア」(ニワさん)
そう唱えると、ニワさんの人差し指からロウソクの火くらいの炎が弱々しく灯っていた。
このプチファイアはE級。
ファイアはD級。
ファイアボールがC級。
生活魔法では焚き火の着火のために″ファイア″がよく使われる。
そして、ニワさんは詠唱を省略しているが、本当はもう少し長いセリフを噛まずに言わなければならない。
オルスには長ったらしい詠唱を教える必要がないと、ニワさんは先程のオルスの魔法を見て分かったので、そのまま教えることにしたのだ。
「そして、魔力操作をすると、こうじゃ!」(ニワさん)
すると、ニワさんの人差し指から出ている火は、形を鳥のように変えて、そのサイズも大きくなった。
オルスが見たかったのはこういう魔法だ。
「師匠!それを僕に教えてください!お願いします!」
興奮するオルスは教えを乞うた。
「魔力を練るイメージで、プチファイアと言う。それから人差し指から出ている魔力をコントロールするだけじゃ!ホイホイって感じでな!」
ニワさんによる説明。
まさかの感覚だけで教えるタイプのやつ。
だが、オルスにとってはそれで十分である。
イメージトレーニングは昔からしている。
「やってみます!師匠!」(オルス)
「プチファイアァァァァァァアアラァ!!!」
オルスが唱えると、その人差し指からは何も出なかった。
しかし、左手には火の弓、右手には火の矢が出てきた。
しかもかなりカッコいい形。
トゲトゲした矢。
実は、オルスは呪文の語尾を伸ばしすぎて、ファイアーアローを唱えてしまったのだ。
しかも力んでしまった。
それで膨大な魔力を噴出させてしまい、それを弓矢という形にまで抑え込んでいるから、凄まじすぎる弓矢となってしまったのだ。
「できたぁー!!」
オルスはその弓矢を握った手を振り回しながら喜んでいる。
「こ、これは、、、S級??」(ニワさん)
ニワさんは初めて見る形のファイアアローに驚愕しながら考えている。
普通のファイアーアローなのだが。オルスにとっては。
ニワさんは一つの結論に辿り着いた。
コイツには魔法を教えるべきではない、という結論に。
だけど、バーンが悪ふざけでオルスに魔法を教えることは目に見えている。
だからオルスが魔法を悪用しても大丈夫そうな場所に転職させるべきだという最終結論を出した。
「ラグラ学園‥‥」
ニワさんはポツリとつぶやいた。
ラグラ学園には最近、あの魔法剣士が教師として赴任することになっていることを思い出し、オルスを学園の庭師として推薦することにした。
ニワさんも。
オルスがラグラ王国に利用されるくらいなら、その核兵器並みの魔法使いを学園内から出すことなく、監詰め状態にしたかった。
アーガイル家に存在がバレないように。
ニワさんはある男に相談することにした。
あんまり進みませんでした。すみません。