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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お嬢と王子の幸せの為に頑張った筈なのに何故か俺が迫られてる件について

お嬢と王子の幸せの為に頑張った筈なのに何故か俺が迫られてる件について

作者: おにぎり

登場人物

*アーヴィン・カーター… 御者

*ヴィヴィアナ・オリエンス…お嬢

*ノエル・サントル・イライアス…王子

*刺客数人

 

 今日は学園の卒業式。長くも短い一年は結局何も出来ないまま終わりを告げた。


「今日限りでお前とは婚約破棄をさせてもらう」


 俺のお仕えするヴィヴィアナ・オリエンス様が今目の前で婚約者であったこの国の第一王子ノエル・サントル・イライアス様に婚約破棄をされた。

 お嬢が愛する人と幸せになる為にこの結末を変えようと俺は奮闘して来たつもりだったのにと後悔ばかり募る。


 ここぞとばかりに傍にいたお嬢からノエル様を奪った転入生フェリシアがノエル様と腕を組む。

 お嬢は俯き肩を震わせていて、堪らず俺はお嬢の側に近寄ろうとする。


「きゃっ⁉︎」


 突然フェリシアが声を上げ、なんだと見るとノエル様が組まれた手を振り払ったところだった。

 何故振り払われたのか分かっていない顔をしたフェリシア。俺も意味が分からず思わずノエル様を凝視してしまった。


 ノエル様は歩いて、何故か俺の前に止まった。


「俺はお前と結婚したい」

「…は?」


 …何を言われたか、分からなかった。

 フェリシアにそう言うなら分かる。ノエル様がお嬢に婚約破棄を言った理由はあのフェリシアだった筈だからだ。

 理解しないまま棒立ちになっている俺の腰に手を回し、引き寄せられた。


「愛してる」

「ッ⁉︎」


 セクシーボイスと名高い王子の声を耳元で聞かされて男の俺でさえ息を飲み、きっと今顔を赤くしてしまっている。


 そんな俺の横からノエル様を押し除け、俺を自分の側に引き寄せたのはお嬢だった。


「お嬢⁈」

「何のつもりだ、ヴィヴィアナ」

「ノエル様、アヴィは私のですわ。誰にも渡すつもりはありませんわ」


 お嬢!俺のことそんなに大切にして思ってくれていたんですね!

 そんな感動と裏腹に今は俺のせいでお二人が対立してしまうなんて本末転倒だ。あぁ、どうしたらいいんだ。


「それに婚約破棄はこちらの台詞ですわ!私はこのアーヴィン・カーターと結婚致します」

「…え?」


 お嬢とノエル様は俺を挟んで睨み合い、お互いを牽制しているが、俺だけ今の状況が分かっていなかった。


 なんでこんなことになったんだ⁉︎


 ◇◇◇


 遡ること十年前、俺が十歳の頃に家業の御者の仕事の練習をしていた時の話だ。馬に慣れようと乗馬の特訓中に落馬をしてしまい、頭を強く打ってしまった。


 打ちどころが悪く三日程生死の境を彷徨っている間に俺はこれから起こる未来の光景を見た。

 …いや、未来じゃない。俺は確かに経験した事だ。


 俺は三歳年下のヴィヴィアナ・オリエンスお嬢様の専属の御者だった。

 初めて会った時からお嬢の笑顔に一目惚れして、少しでも側に居れたらと本来兄さんがお嬢の専属御者になる筈だったのを父さんに無理を言って俺にしてもらった。


 それでも、お嬢に恋したところで身分の違いと家訓を守る為にこの気持ちは心の奥底に閉じ込めた。


 お嬢はイライアス国の四大公爵家と呼ばれるオリエンス家の子女。

 対する俺は御者を生業とするカーター家の人間。仕事振りを認められ、叙爵されて一応男爵の爵位を持っているが、俺とお嬢の身分は天地の差。


 お嬢が四大侯爵家の人間ではなかったら可能性はあったかもしれないが、あったとしても家の家訓を破る事になってしまう。


 一つ、主人と認めた方に絶対なる忠誠を誓うこと。

 一つ、主人と従者の関係を壊さないこと。

 一つ、我々は主人を何時如何なる時も望む場所にお連れする足であること。

 この家訓を犯した者に死を、地位を返上してカーター家に終わりを齎すこと。


 中々に我が家の家訓は物騒であり、そして有言実行する気満々であった。

 自分一人がどうにかなるならまだしも、誇りを持って仕事をする家族を巻き込む事はしたくなかった。

 それにその家訓通り仕事をする家族に憧れていたのも事実だ。


 それにその頃にはお嬢には同い年の婚約者が居た。

 この国の第一王子であるノエル・サントル・イライアス様。お嬢は王子を慕っていた。

 …もう勝ち負けの話ではなかった。


 だから俺はただお嬢の為の足であり続けた。


 お嬢が十七歳、ブレイデン学園の二年生になって、王子との結婚まで一年となったある日のこと。

 俺は何時ものようにお嬢の帰りを待っていると、お嬢が俯きながら馬車までやって来た。


「お帰りなさいませ、お嬢」

「…」


 お嬢は何も言わずに俺の手をとって中に乗り込む。心配したが、俺は馬車を出発させた。お嬢は家に着くまでずっと下を向いていた。


 本当は何かあったのか聞きたい。お嬢為に何かしたかった。

 でも、俺から聞けば主人に請い願う事になり、俺の中では従者としての一線を超えてしまうと思ったから。何も、言わなかった。

 けど、次の日からお嬢は元に戻った。

 俺は安心して、だけど何か見落としてしまった気がした。


 一年後の卒業日の日。今日は婚約者である王子がお嬢を迎えに来る為、俺は馬車の手入れをしていた。

 あれからお嬢は度々暗い顔をするようになり、笑う事が少なくなっていった。


 でも、今日はお嬢の晴れ舞台。お嬢が好きな人と一緒に幸せになれる。だから、きっと大丈夫だ。


「アヴィ!」

「お嬢⁉︎なんでこちらに…」


 今日の為に着飾ったお嬢が来る予定のないこの場所に来た事に驚きを隠せなかった。


「馬車を出して」

「えっ?ですが、今日は王子が迎えにくる筈では?」

「いいから!」


 よく分からないままお嬢を馬車に乗せて、会場へ向かう。

 それにしても、なんで王子を待たないで行くんだ?でも、時間もギリギリで普通ならもっと余裕をもって会場入りする筈だ。王子が時間に疎い筈が無いのに。


「アヴィ、このままここで待って居て」


 会場に着くと俺は家に戻るか、もしかしたら帰りも馬車を使うかもしれないと駐車しに行こうか、聞こうとする前にお嬢が先に言う。俺が何か言う前にお嬢はエスコート無しで一人で歩き出してしまった。


 なんでここで待っていろと言ったのだろうかと悩みながら、お嬢のドレス姿は綺麗だったなと違う事を考えていたら急に会場の方がざわつき始めた。

 卒業式が始まったのかなと思っているとお嬢が走りながらこちらに駆けてくる。涙を流しながら。


「お嬢⁉︎」

「出して!」


 条件反射でいつものように扉を開けて、お嬢に手を貸して乗せ、扉を閉めた。

 俺に行き先を告げると膝を抱えて蹲り、声を漏らさないように泣き出してしまった。


 俺は堪らず、口を開きかけ…止めてしまった。

 今更、お嬢に俺はなんて言えばいい。今まで何も言って来なかったくせに。

 …違う、身分の違いとか家訓とか言い訳に使って、今も昔も俺は言う勇気が無かっただけだ。

 帰宅してから、お嬢は部屋に篭ってしまった。


 事の真相が分かったのは次の日、旦那様に聞かされたのはお嬢は王子に婚約破棄をされたと言う事だった。


 曰く、転校生が来てからお嬢と王子の関係が悪くなってしまった。王子と転校生が互いに惚れて、それを疎ましく思ったお嬢が転校生に嫌がらせをしていた、と。


 でも、最初は信じられなかった。

 だって王子は少なからずお嬢を愛おしそうに見ていたのを知っていたから。


「旦那様!お嬢はそんな事する訳がありません!」

「私もそう信じているが聞いてもヴィヴィアナは何も言わず、周囲からの目撃情報が上がっているのだ。それに昨日の事が今日の記事で大々的に出たと言う」

「そんな…」

「ここまで事が大きくなってしまってはこの家を守る為に…娘と縁を切るしかない。アーヴィン、君には山を一つ越えた国境付近にある隣国の修道院に追放という形で娘を送って欲しい」


 旦那様が辛い顔で決断を下した。

 お嬢の家族仲が良く、旦那様はこんな決断したくなかった筈だ。

 でも、親である前にオリエンス家の主人で、感情に流される訳にいかなかったんだ。


「それを娘への最後の仕事だ、アーヴィン」

「っ」


 修道院に入れば、馬車を利用する機会は殆ど無くなる。そしたら俺は、必要ない。


 俺は分かりました、と旦那様に了承をした。旦那様は俺の未来を思って自由にしてくれようとしただけかもしれない。

 だけど、俺はお嬢の側に居たい。最後なんて、嫌だ。

 そんな思いを抱えたまま、準備は順調に進み、お嬢は今日修道院に行く。


 ガラガラと車輪が砂利道を通る音を聞きながら、俺の愛馬アンヴァルの手綱を握る。お嬢は窓を開けて風を感じながら外を眺めている。

 道中お互いが終始無言でその間俺はずっと考え、国境まで後数キロのところに来た時、俺はようやく口を開いた。


「お嬢、これは俺の独り言です。お嬢が転校生に嫌がらせをしたと聞きました。でも俺には信じられません。真相を教えて欲しいって思ってます!」


 わざとらしく大きく声を張り上げ、聞こえなかったという事はできないように。

 旦那様にも言わないでいたから多分、答えてはくれないだろう。

 でも…最後と考えたら、もう俺は口を閉ざす事は出来なかった。


「…これは私の独り言」

「!」


 ポツリポツリとお嬢は独り言を呟き出す。まさか答えてくれるとは思わなかったが、話を聞く限りやっぱりお嬢は何もやっていなかった。

 どうやら転校生が裏で画策していたらしい。お嬢は誰にも相談せずに一人でなんとかしようとして、結果誰も味方が居なくなってしまった。

 話を終える頃には国境を越えていた。


「結局、ノエル様も信じてくれなかった…」


 どうして俺にも言ってくれなかったんだとお嬢を責めてしまう言葉を言いそうになって、手綱を堪らず強く握りしめる。

 そしてお嬢は他の誰でもない、王子には信じて欲しかったんだろう。


 俺なんか信じていると言ってもお嬢への慰めにもならない。

 それでも、伝えたい。


「お嬢!俺は信じてます!だって俺は、」

「止まれ!」


 目の前に突然人が現れ、急いで手綱を手前に引いてアンヴァルを止める。


「誰だ!」

「お前に恨みは無いがお嬢さん事始末させて貰おう」


 腰の剣に手を伸ばしこちらに向ける。横からも何人か現れ、同じように剣を向けてくる。

 コイツら、もしかして刺客か?しかも、お嬢を狙ってるのか⁉︎


「捕まって下さい!アンヴァル‼︎」


 鞭を打って、アンヴァルを走らせる。慌てて避けた男の横を通り抜ける。

 後ろを確認しながら早く人通りが多いところまで行きたい。それにしても、なんでお嬢が狙われているんだ?


「待て!」


 準備されていたのか、貸していた馬を使って追いかけて来た。

 アンヴァルは力持ちで一匹で客車を引ける程の力がある馬だ。だけどあっちは身軽で走れるこの状況は不味い。


「ヒヒーン‼︎」

「アンヴァル⁉︎うわっ⁉︎」


 突然アンヴァルが暴れ出し、手綱を手放してしまい、俺は放り出されてしまった。

 数メートルで馬車は止まったが、アンヴァルはくたりと座り込んでしまう。よく見ると足に矢が刺さっていた。左手側から人が現れ、待ち伏せされていたらしい。

 痛む体に鞭を打って馬車に近付き、扉を開ける。


「お嬢!」

「うっ…ア、ヴィ」


 お嬢も体を打ちつけてしまったようだが、大きな傷は無さそうだ。

 俺はお嬢の手を掴んで無理矢理立ち上がらせる。


「いたっ」

「我慢して下さいお嬢。絶対俺が守りますから」

「っアヴィ!後ろ‼︎」


 振り返る間もなく、俺は刺されてしまった。飛び散る鮮血が愕然とするお嬢を汚してしまう。相手の手際の良さは俺では対処できない程の腕だった。

 倒れ込む俺に縋るお嬢の髪を掴みあげ、引き摺り出されるていく。


「お…じ、ょ…」


 薄れる意識を無理矢理繋げ、這いつくばりながら外に出ると目の前でお嬢が俺と同じように刺されてしまった。崩れ落ちたお嬢に絶望が襲う。

 刺客はすぐ馬に乗り、この場を去っていった。


「ぐっ…おじ、ょ…う」


 お嬢を助けようと重たい体を引きずる。結局、最期まで俺はお嬢の為に何も出来なかった。

 お嬢に向かって手を伸ばす。


 もし…もしも過去に戻れたなら、今度こそお嬢の幸せの為に行動して、この結末に絶対させないのに。

 目の前で大切な人が命絶えようとする絶望と今まで何もしなかった後悔、もしもの小さな祈りを込めながら目を閉じた。


 ◇◇◇


 記憶を思い出した十歳の時、過去に戻った奇跡の嬉しさと未来を変えてみせると意気込んだあの日…から頑張ってきたのに、目の前で未だに睨み合っている二人になにを間違えてこうなったのだろうかと思ってしまう。


「アーヴィンは俺のだ!」

「いいえ!アヴィは私のです!」


 俺の腕をぐいぐい引っ張って自分の方に引き寄せようとしている。地味に痛い。

 誰も二人に割り入れる事が出来ず、しかし流石にこの状況をどうにかしたい。


 そうだ!何かの書物で読んだ事があるあれを言えば止めてくれるかもしれない。


「俺の為に二人が争わないで下さい‼︎」


 思ったより声が大きく出て会場中に響き辺り、しん…と静まり返りった。確かに争いは止まったが会場中に注目されるこの状況は望んでいなかった。


 そもそも見られる事が余り好きじゃない俺は赤くなった顔を隠す為に両手で覆った。

ご覧いただきありがとうございました。

主人公が頑張った内容はその内に書き上げたいと思います。

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