ニ長調とイ長調(DADD)
儀式、祭典、神ながらの道ゆくなら、
じっと姿勢をだだせばいい。
あの大木を見よ!
この大地より立て!
足踏みしめてしかと。
歯と歯をしっとあわせ。
見えてくる景観は、ますぐして傾かさんとすなら、
じっとしてそれでいて、震えやまずにあれ。
あの高嶺なす山塊!
このここにある体よ!
目すえそのまにしかと、
指に触れるを感じ、
ただまっすぐに立って背を伸ばし、わき目もふらずただ前をきっと見据えよ!
すっと歩きだす君に、すがすがとした瞳に、
恍惚といくぶんの張りに、すいよせられて見に、
其と我はともどもに、すがしき喜びに、ふるえる。
神ながらの道、天上の道に、足音の調べそえ。
其と我は神ならぬも、奏でる旋律またふるえ。
野に咲く花と、戯れる蜜蜂のよに、
ぶんと飛び、しゅんと揺れ、そわと戯むる。
世界の礎となる、神ながらのみち掃き清めて、
おぼろげにして消えてゆく。おぼろげにして消えてゆく。
酔いしれきれず、酔いしれて、ふと離れゆく。
あわれにて、あわれにあらず、ふと消えてゆく。
神ながらの道、天上の道、足音の調べ残して。
道も調べもおぼろげにして、そっと歩みつつ。
其が編む金糸の足跡、小刻みな脈動は、三つの音。
喜びと、哀しみと、楽し気なるかな。
我が織る錦のタペストリー、緩急激しき、三つの音。
怒りと、悲しみと、苦し気なるかな。
しかるに、音が奏でる調べとは、げにも永遠にも変わるまじ。
其が編むは、高らかに大きく。
我が織るは、低く泣き仄かく。
しかるに、音が奏でる調べとは、げにも永遠にも変わるまじ。
金糸は錦と指からめ、気儘に杼は綱あやつり、
編むは大きく、織るは小さく、杼は泣き濡れて、
綱高らかに、舞えや踊れや、倍音響かせ、金の錦の音ならんと。
人ながら、道ながら、神ながら、金の錦の音なれと。
其がゆくは潤った土、芽吹く緑、花香る野の畦の道。
我がゆくは渇いた舗道、罅われの黒、塵埃すさぶ汚泥の沼。
其が掴むは大輪の百合、穢れなき白、光溢れる雲なき空。
我が掴むは手垢の滲みた柄、木目の皺、雨を弾く水路の底。
金の錦は絵筆の主の心のまま、旌織り夫は菊の車の友のよに、
織るよ、鳴らすよ、彩るよ。
廻り廻って眺めれば、其か我かは夢のなか。
其と我とうつつ感じつ、肌洗う血潮に呑まれて。
絵筆は火のよに燃え立って、
ろくろは世界を掻きまわし、
織るよ、鳴らすよ、彩るよ。
織るよ、鳴らすよ、彩るよ。
廻り廻って眺めれば、其か我かは夢のなか。
絵筆は火のよに燃え立って、
ろくろは世界を掻きまわし、
織るよ、鳴らすよ、彩るよ。
人よ、道よ、神よ、と歌う。