ダンス
今日二つ目です。
入学して一ヶ月。私――リクリライト――は昼休みに校舎裏で一人溜息をついていた。
「はぁ、まさかここまで有名だったとはね・・・。」
この学園に入ったのは私の侍女が勧めたからで、もともと目立たないように地味に、平凡に過ごすつもりだったんだけどなぁ。
私の両親は私が九歳の時に事故で死んだ。
だからその時に家を継ぐ者が必要だった。
私でなくとも他に親戚もいて、他に家を継ぐ者がいなかったわけじゃなかった。
が、当時の私は家族で楽しく過ごしたその屋敷から私が離れることも、その屋敷によく分からない人が入ってくることも拒んだ。
だから自ら公爵家当主になることを選んだのだ。それと同時に女を捨てた。
女が貴族の当主になることは、この国では禁止されていない。
なぜならこの国が「血」を意識ずる国だったからだ。
血族が女しかいなかった場合、女が継ぐしかなくなる。
だから女のままでもよかったのだが、女は舐められるのだ。私の家、カールシアン家は長い歴史を持つ名門家だった。
今でも権力は強く信頼も厚い。
だが、私が女として当主になってしまえばそれはなくなってしまうと思った。
リクレシアの名を捨て、リクリライトと名乗り、私は今まで家を建て直し、今まで以上に信頼の厚い家になったと実感している。
・・・なんだけどさ?
いや、男になるって言ったって体まで男になれるわけじゃないじゃない?
家臣たちは私の性別を知っているしいいのよ。
大きな場で特に性別がばれることもない。
だけど、だけどね?
一応令嬢だったわけで髪の毛を切ることは阻まれていたから、今、さらし巻いてカツラかぶって男用の制服着てる状態なのよ。
だから何かあっても大丈夫なように地味ぃにひっそりと過ごそうと思ってたのに!
そもそも何だよ四大王子って!
あの三人は知り合いみたいだけど私接点ないっての!
男っぽい言葉遣いも声も出せるから簡単にボロを出す気はない。
それでもさぁ?
ボロが出ないように念のため目立たないようにするのが人の性じゃない!?
そんな風に頭で文句を言っていると昼休み終了のチャイムが鳴る。
「はぁ・・・。」
もう一度溜息をついてから、重い足取りで校舎に向かった。
午後はダンスレッスンの授業だった。
十五歳というのは社交界に初めて顔を出す年齢だ。
そのため、にダンスは必須。
まぁ、私はもうとっくに出慣れてるけどね、社交界。
「今日は初のダンスレッスンです。そうですね・・・まずお手本を見てからの方がやりやすいでしょうから・・・。」
一人舞台に立つダンス担当のミリオン先生は、私と踊れそうな方は・・・と言いながら一人一人生徒に目を向けていく。
で、私と目が合う。
「では、カールシアン様にお願いいたしましょう。」
私かよっ!そして黄色い歓声もうるさいな・・・。
私は頭の中で文句を言いながらほほえみを絶やさず静かに舞台に上がった。
男性のエスコートから・・・と言うことで。
「私と躍っていただけますか、姫。」
軽く膝を折り右手を差し出しながらそういう。だから歓声いらんって。
「喜んで。」
と私の手を取ったミリオン先生の頬は少し赤い。・・・赤いぃ!?
まあいいや。
先生の動きを見ながら旨くリードして一曲踊り終える。
「楽しませて貰ったよ、姫。」
そう言って舞台から降り、私は生徒の元へ戻る。
拍手と黄色い歓声が・・・って歓声はもうええねん!
「さて。大体は分かりましたね。ペアはこちらで決めさせていただいております。ここにペアの書いた紙を置いておきますので確認しておいてくださいね。」
こういう所はほんっとありがたい。
女の子はすきで可愛いとは思うがあまり積極的な子たちは好けないからな。
結果、私はルークハルト=ザラトラスとか言う公爵家の息子のファンだというアルトラット侯爵家のご令嬢と躍ることになった。
これでファンがまた増えたと私が知るのはもう少し先のお話。
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授業が終わり、私の帰りを待つ馬車に乗って校舎を後にした。
家に着くと私はそのまま荷物を侍女に預け、着替え直して対談室へ向かった。
どうやら話のある者がいるらしい。
この私に。
公爵家当主を舐めて貰っては困る。
さて、用がある者が敵か味方か。
お手並み拝見といこうじゃないか。