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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第九十四話:インドラ洋海戦⑦

 日英水雷戦隊が砲火を交えて(しのぎ)を削っていた頃、日英戦艦部隊は共に南に針路を取り英艦隊は右舷に、日輪艦隊は左舷に互いの艦影を確認した。


 両艦隊は徐々にその距離を縮め26000まで接近した所で同航戦にて10隻の戦艦の主砲が一斉に火を噴き互いの艦隊の周囲に多数の水柱が立ち上がる。


 日輪戦艦部隊は長門型戦艦長門(ながと)陸奥むつ、伊勢型戦艦伊勢(いせ)日向ひゅうが、金剛型戦艦金剛(こんごう)が単縦陣で左舷に向けて砲撃している。


 対する英国戦艦部隊はネルソン級戦艦ネルソン、ロドニー、クインエリザベス級戦艦ウォースパイト、マレーヤ、リヴェンジ級戦艦ロイヤル・サヴリンが単縦陣で右舷に向けて砲撃している。


 両艦隊の砲火力は拮抗していると言って差し支えないだろう、日輪戦艦長門型が51㎝連装砲4基8門、対する英戦艦ネルソン級は50.6㎝三連装砲3基9門、日輪戦艦伊勢型が46㎝連装砲6基12門で対する英戦艦クインエリザベス級が48㎝連装砲4基8門、日輪戦艦金剛型が46㎝連装砲4基8門で対する英戦艦リヴェンジ級は48㎝連装砲4基8門となっている。


 しかし防御面で見ると日輪艦隊がやや不利と言えた、長門型は集中防御方式ながら完成度の高い装甲配置でネルソン級よりやや優位であるが、伊勢型は対46㎝防御である上に扶桑型からの設計変更時に発生した防御上の弱点がそのままとなっている、金剛型に至っては実質巡洋戦艦である為、対46㎝としても安全距離の無い防御力で有った。


 対する英国側はネルソン級が装甲配置に失敗している為、長門型よりやや防御性能に劣るが、クインエリザベス級は対48㎝防御としてもバランスの取れた装甲配置で優秀な防御力を誇り、クインエリザベス級の簡易型であるリヴェンジ級も元となったクインエリザベス級の装甲配置を踏襲している為(最大厚防御区画こそクインエリザベス級に劣るが)巡洋戦艦である金剛型とは比べるべくも無く優位な防御性能を有している。


「《本艦(ネルソン)周囲に至近弾!!》」

「《拙い、夾叉(きょうさ)を受けていますっ!!》」

「《ぬぅっ……。 手数は日輪(むこう)が上か……》」


 日輪艦隊から夾叉(きょうさ)を受け緊張した空気の流れるネルソン艦橋、眼前に見える3基9門の主砲を睨みながらサマヴィルが口惜しそうに言葉を溢す。


 サマヴィル自身も認めている通り手数では日輪側がかなり優位で有った。


 クインエリザベス級の4基8門に対する伊勢型の6基12門の手数の優位は当然ながら、本来ならネルソン級の3基9門は長門型の4基8門より手数で優位な筈であった。


 しかしネルソン級の三連装主砲は自動装填装置に不備が有り、結果手数で長門型に劣っている。


 何度か修正案が出されたものの抜本的な解決には至らず、海軍関係者からは次級の搭載砲は絶対に連装砲にするよう激しい抗議が有った程であった。

 その為、次級であるキング・ジョージ五世級には三連装砲は採用されず、一見は三連装より上位である筈の四連装砲は構造的には連装砲を二つ合わせた設計となっており三連装砲の技術は全く使われていない。


 それ程までに毛嫌いされたネルソン級の三連装砲は、その評価が間違っていなかった事を露呈させる様に長門型にその手数で明らかな差を見せ付けられている……。


「《本艦とロドニーの練度は決して日輪に劣るものでは有りません……。 しかし艦の性能差は如何ともし難く……》」


「《……確かにこの艦の主砲構造がナガト級に劣っているのは確かだろう、だがこの艦とてビッグ7にその名を連ねる強力な戦艦で有る事は間違い無い、兵達の日々の弛まぬ努力の成果を遺憾無く発揮すれば多少の性能差とて必ず覆えせる! 王国海軍(ロイヤルネイビー)の威信にかけてそれを日輪戦艦に見せ付けるのだ!》」 


 自身のネガティブな発言によって艦長までもが卑屈な発言をしていると感じたサマヴィルはそれを払拭するように声を張り上げて皆を鼓舞する。


 しかし、その内心はプリンス・オブ・ウェールズがこの場に在ればと惜しんでいた。


 プリンス・オブ・ウェールズの搭載砲はクインエリザベス級より小口径の46㎝砲で有るが、最新の射撃装置によって統制された50口径46㎝砲12門(連装砲2基、四連装砲2基)から撃ち出される砲弾は決してネルソン級の50.6㎝砲に劣る物では無く、総合能力を鑑みればネルソン級より長門型を打ち破れる公算は高かった。


 だがこの場に存在しない艦を惜しんでも結果は好転しない事はサマヴィルにも当然分かっている、故に自身の迂闊な発言を恥じたのだ。


 日英両艦隊は徐々にその間隔を縮め距離18000mを切った所で並走に入り副砲の射撃も開始された、日輪戦艦隊の舷側に砲郭(ケースメイト)配置された20㎝単装砲が一斉に連べ撃ちされると英戦艦隊の14cm連装両用砲も一斉に旋回し各砲塔が一斉射撃する。


 この場に展開する日英戦艦は1910年代から1920年代前半にかけて建造された旧式艦で有るが、日英共に可能な限りの近代化改装を各艦に施している。

 しかし英国戦艦が塔型艦橋を採用し舷側副砲を撤廃して連装砲塔に換装したのに対し、日輪戦艦の艦橋は金剛を除いてマスト型のまま(密閉型指揮所は有るが)で副砲も舷側に砲郭(ケースメイト)配置されたままで有った。

 その為、英国戦艦の艦容が新型戦艦と比べてもそう遜色が無いのに比べて日輪戦艦は明らかに旧式感が拭い切れていなかった。


 しかし戦いは容姿では決まらない、現に砲戦は日輪戦艦隊が押している、立ち上がる水柱は明らかに英戦艦隊の至近距離に上がりいつ命中弾が出てもおかしくは無い。


 英艦隊もそれは分かっているため各艦の砲術長が必死に指示を飛ばしている。


 戦艦同士の砲戦は遭遇戦や追撃・撤退戦や夜戦などの状況は別にして定石通り戦えば同航で並走した上でノーガードの撃ち合いとなる事が殆どとなる。

 至近弾を受けたからと回避行動を取ればそれまで蓄積した弾道計算が殆どやり直しになり結果、砲撃を命中させる事がより困難になるのである。


 それは相手により攻勢の機会を与え、最悪防戦一方になってしまう。


 故に戦艦は怯まず撃ち続ける、副砲弾が雨霰(あめあられ)の如く降って来ようが主砲弾が至近距離に着弾しようが甚大な被害を受けない限り撃ち続けるのだ。


「ネルソン型至近距離に着弾!!」

「良いぞ! 仰角0.2上げ右に0.3修正! 次こそ当てるぞっ!!」

「よーそろっ!!」


 戦艦長門(ながと)の艦橋は射撃指揮所にて興奮気味に指示を飛ばすのは長門の砲術長である。

 だが興奮気味なのは砲術長だけで無く、その他の士官や下士官達も同様で有った。 


 然もあろう、長門(ながと)を初めとする日輪戦艦は日露戦争から本大戦まで真面な海戦を経験した艦はユトラント沖海戦(前世界大戦、後の第一次世界大戦)に参加した金剛こんごうくらいである。


 本大戦に置いても扶桑型と伊勢型は第三次ソロン海戦で米新型戦艦と果敢に戦っており、脱条約型(紀伊型と大和型)を除く旧式戦艦群では長門(ながと)陸奥(むつ)だけ活躍の機会が無かったのだ。


 だからこそ長門(ながと)陸奥(むつ)の乗組員達は待ちに待ったこの状況に心躍り興奮を抑えられないでいた。


 その気迫を乗せ長門(ながと)陸奥(むつ)は自慢の51㎝砲弾を次々とネルソン級戦艦に向けて撃ち出していく。


 しかし最初に砲弾を命中させたのは長門(ながと)でも陸奥(むつ)でも無かった。


 長門(ながと)陸奥(むつ)が弾着観測を行い次弾を装填している最中、英戦艦ウォースパイトの右舷から轟音と共に爆炎が上がったのだ。


 現在各艦は弾着観測がし易い様に長門(ながと)はネルソンを、陸奥(むつ)はロドニーを、日向(ひゅうが)はマレーヤを、そして伊勢(いせ)がウォースパイトを狙っていた(金剛はロイヤル・サヴリン)


 つまりこの戦いで最初に砲弾を命中させたのは伊勢(いせ)で有った。


 ただ、対48㎝防御を持つウォースパイトにどれほどの損害を与えたかは不明瞭で有ったが、それでも伊勢(いせ)の艦内は歓喜に湧いた。


 他の艦も多少悔しがりはしたものの、同様に歓喜し伊勢(いせ)を賞賛し、その伊勢(いせ)に負けじと奮起する。


 そして次に主砲弾を命中させたのは長門(ながと)で有った。

 長門の主砲弾はネルソンの右舷後部に命中し爆炎と共に装甲板と副砲の破片が中を舞う。


「《右舷甲板後部に被弾!! 火災発生!!》」「《三番副砲大破っ!!》」

「ぐぅ……っ! 消火を急げ、機関(エンジン)は無事かっ!?》」


 被弾箇所が後部と聞いてネルソン艦長が血の気の引いた表情で叫ぶ。


 ネルソン級は主砲塔を全て前部配置している構造上、機関関係が全て後部に詰め込まれている、そして後部の装甲配置は構造上前部より若干脆弱で隙がある為、当たり所が悪ければ一撃で機関が損傷する危険性が有った。


「《水平防壁で何とか食い止め機関(エンジン)は無事です!!》」

「《うむ、ならば本艦の武運は尽きていない、今度は我々が日輪戦艦に砲弾を食らわせる番だ! 撃って撃って撃ちまくれぇっ!!》」


 機関(エンジン)に問題が無い事を確認したネルソン艦長は気勢を取り戻し声を張り上げる、が、次の瞬間今度は後方に展開していたロドニーから轟音が響き渡り爆炎が立ち上がる。


 だが英艦隊も怯まず反撃の手を緩めてはいない、両艦隊の副砲弾に至近弾が増えて来た時、日輪戦艦長門の左舷中央部から爆炎が立ち上がり艦全体に激しい衝撃と轟音が響き渡る。


 長門の舷側に要塞の如く配置された砲郭の一部は装甲版ごと抉られ飛散し2基の砲身が宙を舞いそのまま海面へ落下する。


「被害報告っ!!」

「左舷中央舷側に被弾!! 火災発生っ!!」「副砲塔2基乃至3基大破ッ!!」「敵砲弾は外殻装甲を貫通、第二装甲板で食い止めました!!」

「く、流石は大英帝国艦隊と言う事か、相手にとって不足は無い怯まず撃ち続けろっ!! 応急班は消火作業と負傷者の救出を急げ、現場判断にて副砲弾薬庫への注水も許可する!!」


 次々と上がって来る被害報告に長門艦長は努めて冷静に対処して行く、その艦長の指示通り長門の主砲は怯む事無くネルソンへ受けて砲弾を撃ち続けている。


 刹那、長門とネルソンの砲弾が交差し次の瞬間長門とネルソンから同時に爆炎が立ち上がった。

 長門は二番主砲付近の舷側とバーベットに直撃弾を受け、ネルソンは三番主砲塔正面と艦橋直下に直撃弾を受ける。


 長門の主砲塔付近左舷側は吹き飛び爆炎と共に破片が宙を舞うが主砲バーベットは内殻が膨れ上がったものの砲弾の角度にも救われ何とか貫通を免れた。

 対するネルソンは三番主砲塔防盾が撃ち貫かれ完全に沈黙し、艦橋直下の司令塔は直撃弾で爆砕し内部の上級士官を含む十数名が死亡した。

 更にその衝撃で艦橋上部の戦闘指揮所に居たサマヴィルも負傷してしまっていた。


「《ちょ、長官、御無事ですかっ!?》」

「《う……ぐ……。 私の事より状況はどうなっている?》」

  

 衝撃で体勢を崩し頭から血を流すサマヴィルに慌てて駆け寄る副官のウィリスであったがサマヴィルは何とか自力で起き上がり視界を黒煙に阻まれた艦橋窓をふら付きながら睨み付け状況報告を求める。


「《艦内に火災発生、三番主砲塔と艦橋直下に直撃弾を受けた模様です!!》」「《三番主砲塔沈黙、応答有りませんっ!!》」「《司令塔も被害甚大、オロノア少将とアインズ准将を含む十数名が戦死、司令塔の機能も麻痺していますっ!!》」

「《ーーっ!? ぐっ! 消火と負傷者の救出を急がせろ、三番主砲の復旧は可能かも調べさせるんだ!!》」


 自身が望んだものの、その報告内容にサマヴィルは歯を擦り鳴らし怒りを押し殺すような声で指示を出す。


 そして次に被弾したのは英戦艦マレーヤで有った、マレーヤは右舷後部に日向(ひゅうが)の主砲弾を受け一時三番主砲塔が停止した。


 また副砲の命中弾は日英両艦隊とも複数受けており、頑強な主砲塔に損害は無いものの、副砲や上部構造物にはしっかりとダメージを受けるため互いに無視出来ない損害になりつつあった。


 そしてロドニーの主砲弾が陸奥の左舷側後部を抉ると負けじと陸奥もロドニーの右舷舷側中央を吹き飛ばす。

 ウォースパイトが先程のお返しとばかりに伊勢の左舷側に主砲弾を叩き込み副砲数基を吹き飛ばすと伊勢も主砲弾をウォースパイトの二番主砲塔に命中させるが、この砲弾はバーベットに直撃したため大した損傷(ダメージ)は与えられられなかった。

 

 日輪戦艦部隊の旗艦である金剛はロイヤル・サブリンと撃ち合っていたが、艦首にサブリンからの砲弾を受け舳先が吹き飛んだものの、20ktで航行している現状は航行にも戦闘にも支障が無く、逆にサブリンの右舷後部に数発の直撃弾を与え、その影響でサブリンの四番主砲塔は旋回不能となった。

 そしてマレーヤが先程の返礼とばかりに放った砲弾は日向の四番主砲塔を撃ち貫き轟音と爆炎と共に日向の四番主砲塔を吹き飛ばした。  


 最早無傷の艦は存在せず大砲と砲弾の振動が海を震わせ爆炎が空を覆うその有り様は、まるで鋼鉄の巨獣同士が威嚇し合い喰い合っている様でも有った。


「む? どうやらネルソンの三番主砲塔は沈黙している様です!」

「そうか、良いぞ! このまま残りの主砲も潰してしまえ!!」


 長門艦橋で見張りからの報告を受けた副長がその情報を艦長に伝達する、それを受けた艦長は口角を上げ威勢よく指示を出す。

 が、その直後一番主砲塔前部甲板と四番主砲塔直下から爆炎が立ち上がり艦に鈍い振動が響く。


「くっ! 状況報告っ!!」

「前部甲板に被弾っ!! 外殻貫通、第二層で止まりましたっ!!」「四番主砲塔左舷直下に被弾、損害不明っ!!」

「応急班出動、消火と負傷者救出、四番主砲付近の確認を急がせろっ!!」


 長門艦長が冷静に応急指示と確認指示を出し、部下達が素早くその指示に従い各部署への伝達を急ぐ。


 日英両艦隊の距離は18000m、長門型ですら想定交戦距離(安全距離)の20000mを切っている為、自艦の主砲に耐え得る装甲を持つ戦艦でさえ貫通を容易に許してしまう距離で戦っている。


 結局の所、砲火力と装甲が同じレベルの戦艦同士が想定交戦距離で戦っても決着が着く事は無いと言っても良い、つまり相手を本気で撃沈乃至無力化しようと思えば必然的に自艦の安全距離を割る覚悟をしなければならないのだ。


 ここで更に艦隊中央から爆炎が連続して立ち上がる、それは日輪戦艦日向(ひゅうが)と英戦艦マレーヤからであった。


 それは互いに撃ち合った結果、と言うよりもどちらも集中砲火を受けた結果、と言った方が正しいだろう。

 日向の主砲塔が1基吹き飛んだ事を確認したウォースパイトが照準を伊勢から日向に切り替えた、それを受けて伊勢も照準をウォースパイトからマレーヤに切り替え、結果日向(ひゅうが)とマレーヤは2艦から集中砲火を受ける事になってしまったのである。


 その結果、日向は艦体後部に甚大な損傷を受け機関が停止し脱落して行き、マレーヤは火達磨となった後、弾薬庫が誘爆すると大量に浸水し艦が右に大きく傾き、次の瞬間大爆発を起こして爆沈してしまった……。


 だが日向も戦線復帰は絶望的である為、戦力は今だ拮抗し勝敗の行方は予断を許さない状況で有った。


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