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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第九十三話:インドラ洋海戦⑥

 1943年5月11日11時25分天候快晴


 インドラ洋を突き進む日英両艦隊は急速に互いの距離を縮め、現地時間11時25分には互いの姿を目視で確認した。


 この時日輪艦隊は戦艦長門(ながと)を先頭に陸奥(むつ)伊勢いせ日向ひゅうがと続き殿(しんがり)金剛(こんごう)が付いていた。

 その艦隊右翼に陽炎型駆逐艦8隻を擁する大淀(おおよど)隊が梯形陣で航行し、左翼に吹雪型駆逐艦3隻を擁する北上(きたがみ)隊と神風型駆逐艦3隻を擁する夕張(ゆうばり)隊が同じく梯形陣で展開している。


「前方11時方向距離34000に英艦隊と思しき艦影を視認っ!!」


「まだだ、もっと引き付けろ、早るなよ」


 戦艦部隊の殿に付いている独立旗艦金剛(こんごう)の艦橋内で西村提督が顎髭を触りながら少し緊張した面持ちで指示を出す。


 対する英国極東艦隊は戦艦ネルソンを先頭にロドニー、ウォースパイト、マレーヤ、ロイヤル・サヴリンと続き艦隊左翼に重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦5隻が、右翼に軽巡2隻と駆逐艦5隻が展開していた。


「敵艦隊距離28000!!」


「提督、矢張り此処で取り舵をしてみると言うのは?」


「また東郷ターンの話かね? 作戦会議でも言っただろう? 日輪海海戦では間違いなく英断だっただろうが、今は時代と状況が全く違う、あれは港に逃げ込まんとするバルディック艦隊を阻む為の捨身の戦法だからな……。 我々を撃滅せんとする敵に対しては無駄な隙を生むだけだ、このまま直進し反航戦から同航戦に持ち込む方が無難だよ」


「西村提督の仰る通り! 二番煎じの小細工など不要、海戦の勝利に必要なのは練度と性能と時運のみ!!」


 日輪海海戦の丁字戦法(敵艦隊の進行方向を遮る形で横腹を晒し、片舷砲門の全てを敵艦隊の先頭艦に集中し各個撃破を図る戦法)に拘る参謀の一人が東郷ターンを推すが、西村提督はその案を一蹴し定石通りの反航戦を選択する。


「全艦、左舷砲雷撃戦用意っ!!」

「左舷砲雷撃戦用意よーそろっ!!」


 西村提督の指示により日輪戦艦5隻の主砲がギリギリと重苦しい歯車の音と共に旋回を始め水雷戦隊も砲と魚雷発射管を左舷へと旋回させる。


 英艦隊提督のサマヴィルも同じ考えのようで先頭の戦艦ネルソンに呼応する様に艦隊全艦が砲身を左舷へと旋回させていた。 


「全艦、撃ち方始めぇっ!!」

「《全艦(オールシップス)砲撃(オープン)開始っ!!(ファイアッ!!)》」


 両艦隊はそのまま直進し互いの先頭艦の距離が26000に達した瞬間、西村提督とサマヴィル提督がほぼ同時に砲撃開始を下令し10隻の戦艦の主砲が一斉に火を噴く。


 その初弾に命中弾は無く互いの戦艦の周囲に複数の水柱を立ち上げるだけであったが、戦艦の主砲弾の飛び交う直下では両艦隊の水雷戦隊が互いの戦艦を守りそして敵の戦艦を雷撃せんと(しのぎ)を削る。


 その最中にあって各戦艦部隊の右舷側に展開していた両艦隊の水雷戦隊は右回りに弧を描くと敵戦艦部隊の鼻先を抑える為に動く。


 両艦隊の戦力は日輪艦隊が戦艦5隻、軽巡3隻、駆逐艦14隻、英国艦隊が戦艦5隻、重巡2隻、軽巡5隻、駆逐艦10隻であり、数と火力面に置いて英国側がやや有利と言えた。


 やがて日英戦艦部隊の殿(しんがり)同士(金剛とロイヤル・サヴリン)が擦れ違うと両艦隊は左旋回を始める、そこに日英艦隊右舷に展開していた水雷戦隊が最大戦速で接近して来る。


 日輪戦艦部隊の行く先には英軽巡2隻と駆逐艦5隻が、英戦艦の行く先には軽巡大淀(おおよど)と陽炎型駆逐艦8隻がその魚雷発射管を戦艦部隊に向けていた。


 是に対し英戦艦隊は副砲で応戦し重巡2隻も応援に駆け付ける、日輪戦艦隊には重巡が存在しない為、副砲での迎撃しか取り得る手段が無かった。


「艦隊11時方向より敵駆逐艦接近! その数7!!」

「左舷副砲迎撃、撃ち方始めぇっ!!」


 日輪戦艦部隊は主砲を英戦艦部隊に向け射撃しながら左舷側に並ぶ20㎝単装砲を英水雷戦隊に向けて(つる)べ撃ちする。


 英水雷戦隊は立ち上がる水柱を掻い潜り駆逐艦5隻が蛇行しながら日輪戦艦部隊に向かって疾走する、それを英軽巡2隻が主砲による砲撃で援護している。


 しかし日輪戦艦の練度は英水雷戦隊司令の想定より高く距離8000まで到達した時点で3隻の駆逐艦が撃沈若しくは大破沈黙していた。


 だが英駆逐艦2隻と軽巡2隻は果敢に突撃を敢行し距離6000で駆逐艦2隻が魚雷を発射し、距離7000で軽巡2隻も魚雷を発射せんとするが1隻が直撃弾を受けて爆沈した。


「左舷より魚雷接近っ!!」

「取り舵回避っ!!」


 英水雷戦隊から魚雷が発射された事を確認した日輪戦艦部隊は一斉に取り舵を取り魚雷を回避しながらも副砲は離脱せんとする英水雷戦隊を砲撃し続けている。


 計12本の魚雷は80ktの速度で見る見る日輪戦艦部隊に迫り被雷範囲の戦艦長門、陸奥、伊勢は艦を右に傾け必死にその身を捩り範囲から外れている日向と金剛は水中を疾走する魚雷に向け対雷掃射を行っている。


 傾き金属の軋む音が響き渡る艦内では砲撃要員以外は防御姿勢を取り、砲撃要員も可能な限り衝撃に備えながら己が任務を全うしている。


 一本、二本、三本、不気味な魚影(・・)が艦の横をすり抜けて行く、その海面を口を引き結び目を日開いた表情で凝視する見張り員と機銃要員達、そして迫り来る全ての魚雷を回避した瞬間、彼等から飛び上がった歓声が上がり、それが伝わった艦内でも安堵と歓声が上がる。


 一方英戦艦部隊にも軽巡大淀(おおよど)率いる第二戦隊が襲来していた、だが英戦艦部隊には重巡2隻の護衛が前面に展開しており新鋭艦で構成された第二戦隊の練度は高いとは言えなかった。


 サマヴィルはこのまま重巡2隻と連携し日輪水雷戦隊を叩くか重巡と水雷戦隊に任せ日輪戦艦と撃ち合うかの二択を迫られた。


「《彼我の戦況はどうなっている?》」

「《はっ! 現在我が方は駆逐艦4隻と軽巡ドラゴンを喪失、此方の戦果は日輪駆逐艦2隻を撃沈確実、軽巡1隻を大破若しくは撃沈しております!!》」

「《ふむ、ならば残った水雷戦隊を重巡部隊の下に集結させ日輪水雷戦隊を足止めさせろ、我々は日輪戦艦部隊を撃滅する、全艦面舵っ!!》」


 副官ウィリスの報告を受けたサマヴィルの決断は日輪戦艦部隊への攻撃で有った、英戦艦部隊は日輪水雷戦隊を護衛艦艇に任せ戦艦ネルソンを先頭に右へと舵を切る。


 この時点で英艦隊は軽巡1隻、駆逐艦4隻を喪失(戦闘不能含む)し日輪艦隊も夕張(ゆうばり)旗下の駆逐艦春風(はるかぜ)松風まつかぜが撃沈され第三戦隊の軽巡北上(きたがみ)が大破行動不能となっていた。


 生き残っている日輪艦も無傷の艦は無く魚雷は撃ち尽くしており砲撃戦では軽巡3隻と駆逐艦4隻を擁する英艦隊に対して不利は否めず押されていた。

 そこに日輪戦艦部隊を雷撃した英水雷戦隊も現れ万事急須かと思われたが、英水雷戦隊は2戦隊共が速度を上げ離れて行った。


 意味も分からず九死に一生を得た日輪水雷戦隊は軽巡夕張(ゆうばり)の下に集まり即席の戦隊(夕張(ゆうばり)旗風はたかぜ初春はつはる初霜はつしも子日ねのひ)を編成し英水雷戦隊の追撃を開始する。


 夕張(ゆうばり)を放置して走り去った英水雷戦隊は日輪新鋭水雷戦隊と交戦する重巡コーンウォールとドーセットシャーの下に駆け付けていた。


 その英重巡2隻と交戦するのは日輪海軍の新型軽巡である大淀(おおよど)と水雷型駆逐艦の最高傑作たる陽炎型駆逐艦8隻である。


 しかし、魚雷を戦艦まで温存して置きたかった大淀(おおよど)隊(第二艦隊第二戦隊)は重巡2隻の火力の前に攻めあぐね、英水雷戦隊の合流を許してしまう失策を犯してしまっていた。


 日輪の新型軽巡で有る大淀(おおよど)は英重巡コーンウォールに匹敵する艦体を持つ大型の軽巡洋艦で有り最新の電探や音探を装備し高い艦隊指揮能力を保有するが装甲は所詮軽巡に過ぎず砲火力は前級の阿賀野型にも劣っており重巡と砲撃でやり合うには力不足であった。

 大淀(おおよど)の設計思想は独特で潜水艦部隊を支援する為の新型水上偵察機《紫雲》の運用を目的とした航空機格納庫と大型カタパルトを装備する半水上機母艦型軽巡洋艦である(肝心の紫雲の開発が難航しており現状はプロペラ機である九五式水上偵察機2機を搭載している)


 つまり砲撃能力を犠牲にして水上機運用能力を持つ大淀(おおよど)とバランスの良い砲雷火力を持つとは言え所詮駆逐艦に過ぎない陽炎型が魚雷を惜しんで重巡を何とか出来る筈は無いと言う事で、さっさと8隻の駆逐艦から十数本の魚雷を放ってさっさと沈めてしまえば良かったのである。

 そうすれば駆逐艦 早雨(はやさめ)若潮(わかしお)が英重巡の砲撃に被弾し大破炎上する事も無かっただろう……。


 全ては後の祭りで有るが……。 


「司令、方位2.4.7(西南西)より敵増援接近中です!!」

「なにぃっ!? 数はっ!?」

「軽巡乃至駆逐艦10!!」

「ぬぅっ!? 已むを得ん、全艦に魚雷の使用を許可する、速やかに英重巡を撃沈し英駆逐艦隊を迎撃せよっ!!」


 事現状に至り出し惜しみをしている余裕は無いと悟った戦隊司令が慌てて全駆逐艦に魚雷の使用を許可する、すると砲撃の為に距離を取っていた駆逐艦6隻が一斉に英重巡に対し距離を詰め始めた。


 その日輪艦隊の動きの変化に気付いた英重巡コーンウォールとドーセットシャーは雷撃を警戒し増援の水雷戦隊と合流するべく最大戦速で移動を開始する。

 しかし、それによって英重巡の主砲と副砲の射撃精度は明らかに悪くなり速度性能に優れる日輪駆逐艦の接近を易々と許してしまう結果を生んだ。


 英重巡コーンウォールとドーセットシャーはワシントン軍縮条約下で設計されたカウンティ級重巡洋艦に分類される旧式艦であり同時期に建造された日輪重巡洋艦青葉(あおば)型と比べると速度性能は50ktと劣り、加速性能も良いとは言えないため最新の機関を積む陽炎型に簡単に距離を詰められてしまった。


 日輪駆逐隊は隊列を崩し各自バラバラに蛇行する事で英重巡に照準を定めさせず徐々に距離を詰め激しく揺れる艦体上で魚雷発射管を旋回させると英重巡へと向ける。


 だがその時、日輪駆逐隊の周囲に複数の水柱が立ち上がる、合流して来た英水雷戦隊からの援護射撃で有った、英重巡の行動は功を奏し味方との合流に成功したのだ。


 しかし英艦隊からの砲弾が降り注ぐ中、日輪駆逐艦は怯む事無く英重巡に狙いを定め次々と魚雷を放つ。


 距離6000で放たれた日輪海軍の誇る九五式酸素魚雷(酸素は使用していないが)は雷跡を残す事無く高速で英重巡に迫る。


 英重巡の見張りが魚雷に気が付いたのは距離800mにまで迫った時であり既に回避可能な距離では無かった。

 次の瞬間、英重巡コーンウォール右舷から2本の巨大な水柱が上がり、遅れてドーセットシャーからは3本の巨大な水柱が立ち上がった。


 右舷艦首と中央部に被雷したコーンウォールは右に傾き始め間も無く主砲が沈黙し速力が5ktにまで落ち込んだ、しかしコーンウォールはまだ幸運な方であった。

 僚艦のドーセットシャーは巨大な水柱が立ち上がった瞬間爆炎と共に艦が裂け、その艦体は3つに砕けて瞬く間に海中に没してしまったからだ。


 英重巡側の失敗は増援と合流する為に機関最大で航行していた為、搭載されていた旧式の音探(ソナー)では魚雷探知が全く出来なかった事で有った。


 英重巡1隻の轟沈と1隻の無力化を確認した日輪艦隊は急速に接近する英水雷戦隊を迎え撃つべく主砲と魚雷発射管を旋回させつつ隊列を整え始める。


 その間も英艦隊からの砲撃を受け続け艦隊周囲に多数の水柱が立ち上がっていたが、この距離では駆逐艦の小口径砲の命中弾は期待出来ない事が分かっている為か比較的冷静に隊列を整えていた。


 そして互いの距離が19000を切った所で日輪艦隊も砲撃を開始した、戦力比は日輪の軽巡1、駆逐艦6に対し英国側は軽巡4、駆逐艦6と英艦隊が優勢であったが、程なくして夕張隊の軽巡1、駆逐艦4が合流した為、戦力比では互角の戦いとなった。


「よぉし! 良いぞ、このまま我々は前から夕張隊は後ろから敵艦隊を挟撃するんだ!! 全艦取り舵、単縦陣で我に続けっ!!」


 戦隊旗艦大淀(おおよど)が左に旋回を始めると梯形陣で正面に砲撃をしていた駆逐艦6隻もそれに追従し砲塔を右に旋回させる。


 英艦隊もその動きに合わせて軽巡エメラルド率いる水雷戦隊(軽巡3隻、駆逐艦4隻)が大淀(おおよど)隊に並行する動きを見せるが、軽巡カレドンと駆逐艦2隻が反転し後方の夕張(ゆうばり)隊を迎撃する構えを取った。


 軽巡カレドンとその僚艦である駆逐艦2隻は隊列を組まずバラバラに突撃して来た為、整然とした同航戦を行う大淀(おおよど)隊とエメラルド隊とは対照的な乱戦となった。


 駆逐艦の数で倍を有し小型ながら重武装の軽巡夕張(ゆうばり)を擁する日輪艦隊は圧倒的に有利……な筈で有った。


 しかし、20cm連装砲塔の背後に背負い式で25cm単装砲塔を持つ夕張(ゆうばり)は弾着観測射撃には適しておらず射撃装置の複雑化によって射撃統制すら困難であった、更に追従する4隻の駆逐艦は4隻とも先の戦いで損傷していた。


対するカレドン隊は魚雷こそ撃ち尽くしていたものの艦体は無傷で有り万全の体勢(コンディション)で戦闘に突入出来た。


 敵味方が入り乱れる乱戦はカレドン隊の数の不利を僅かに補い傷付いた夕張(ゆうばり)隊を翻弄する、そして乱戦の中で最初に被弾したのは駆逐艦旗風(はたかぜ)であった。

 左舷中央に2発、英軽巡カレドンの砲撃を受けた旗風(はたかぜ)は損傷が舷側喫水線下にまで及び爆炎に包まれたまま艦が傾き横転沈黙する。


 更に子日(ねのひ)が英駆逐艦2隻から砲撃を浴び火達磨となって機関が停止し沈黙してしまった。

 是によって数の有利を覆された夕張(ゆうばり)隊の、正確には軽巡夕張(ゆうばり)の取った行動は速度を上げ英軽巡に接近するというものであった。


 果敢に突撃する夕張(ゆうばり)と近づかれたくないカレドンは互いに撃ち合い互いにの周囲に多数の水柱を立ち上げる。


 試作実験艦である夕張(ゆうばり)とその兵装はお世辞にも実戦向きとは言えない、最大火力で有る25㎝単装砲は近代砲撃戦の基本である弾着観測射撃には向かず、その砲撃力を発揮するには敵に接近して直接射撃で当てるしかない。

 夕張(ゆうばり)艦長はそう判断し戦隊司令もそれを許可した、元々左遷先として有名な夕張(ゆうばり)である……。


「失敗しても失うものは命だけだ……やってやろうじゃないか!」


 引き攣った笑みを浮かべながら戦隊司令はそう言った、ニ線級の戦隊への配属と不名誉な艦への座乗、この博打が成功すれば金鵄勲章も夢ではなく今の不本意な立場からも脱却出来る筈、そう考えて戦隊司令は夕張(ゆうばり)艦長の無謀な賭けに乗ったのだ。


 英軽巡に向け吶喊する夕張(ゆうばり)と近づけたくは無いが退く訳にもいかないカレドンは互いの艦首砲で撃ち合いながら距離を詰めていく。


 その様相は(さなが)ら平原で機銃を乱射しながら突撃し合う歩兵の様で在った……。


 刹那、夕張(ゆうばり)の左舷甲板が爆ぜる、甲板の一部と数基の機銃が宙を舞い爆炎が立ち上がる、が夕張(ゆうばり)は臆する事無く突撃を続ける。


「《ジョン・ブル(スピリット)大和魂(ヤマトスピリット)に負ける訳にはいかん、臆せず突っ込めぇえええっ!!》」 

 

 英軽巡カレドンの艦橋では英戦隊司令が咆哮しカレドン艦長もそれに覇気良く応え艦の前進を指示する。


 カレドンの艦首が爆ぜ夕張(ゆうばり)の艦橋を砲弾が掠め衝撃でアンテナが吹き飛ぶ。


 そして遂に互いの艦がすれ違う、夕張(ゆうばり)とカレドンの距離は僅か800m、次の瞬間両艦の砲塔長達が目視で照準を定めそして一斉に射撃する。

 連続した射撃音と爆発音が響き渡り夕張(ゆうばり)とカレドンの艦体が同時に爆ぜ両艦は瞬く間に火達磨となり鈍い金属音を響かせながら傾きその場に停止した……。


 両艦とも黒煙を纏う炎に包まれ傾斜が増して行く、その次の瞬間、英軽巡カレドンは大爆発を起こしその艦体が二つに折れると黒煙を吐き出しながら水底へと没した。


 残った英駆逐艦2隻は旗艦カレドンが爆沈する直前に出された「《我に構わず本隊と合流せよ》」との命令に従い離れて行く。


 日輪駆逐艦初春(はつはる)初霜(はつしも)も損傷が激しかった為それを追撃する事無く旗風(はたかぜ)子日(ねのひ)の救助に専念する。


 夕張(ゆうばり)はその後、浸水が止まらず艦首からゆっくりと水底へ没して行った。


 戦隊司令と夕張(ゆうばり)艦長は初春(はつはる)に救助され、そこで捕虜となった英戦隊司令と顔を合わせる、互いに煤だらけでボロボロの姿であったが、両者とも毅然とした態度を崩さず互いに無言の真顔で力強く敬礼を交わすのであった。


 



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