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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第七十六話:パヌアツ攻略戦

 第五艦隊が奮戦している頃、大和と武蔵は70ノットで一路ピラ・パウアに向けて進撃していた。


 その大和と武蔵を常時100機以上の攻撃機が追撃し執拗に攻撃を繰り返している、大和と武蔵の側面噴進機を駆使した変則機動に命中弾は多くは無かったが、ピラ・パウアと第十三艦隊の距離が近くなる程、米攻撃機の往復に掛かる時間も短縮され、必然的に敵機の数が増えて来ている。


 大和主艦橋では防空指揮所からの観測情報を逐一受けており、その情報を元に戸高が必死で側面噴進機と舵を駆使し大和を操艦している。


「くっそー敵機がどんどん増えてやがる! いくら俺でも限界だぞっ!!」

「頃合いか……。 艦長、例の(・・)対策を実行すべき時と考えます!!」

「むぅ……」

「……艦長、矢張り私は反対です! 敵空母に突っ込んだ事と言い今回の発案と言い、八刀神戦術長の考えは危険過ぎます! あの兄(・・・)にしてこの弟ありです!!」


 雨あられの如く振って来る爆弾に戸高が悲鳴を上げ正宗が進言する、それに東郷が唸ると空かさず十柄が正宗の進言を強く非難する。


「メレエ湾の地形からピラ・パウアへ砲撃を行うには湾内で停止、若しくは10ノット程度に速力を落とし直進する必要が有ります、その状況でこれだけの敵機を放置すれば測距儀や電探が損傷する恐れがあり、そうなれば最悪大和と武蔵は浮かぶ鉄桶になります、以って敵機殲滅は絶対条件であり、それにはこの方法しか有りません!!」

「だ、だから私はそもそも基地攻撃がーー」

「ーー口論はもういい! 戦術長の案を許可する、直ちに実行したまえ」

「了解です!」

「く……っ!」


 十柄の言葉に正宗が強く反論する、それに対十柄は更に意義を唱えようとするが東郷が腹に響く声でそれを遮り正宗に向けて行動実行を下令する、十柄は不満そうで有ったが艦長指示には逆らえず沈黙し正宗は機敏な動作で敬礼し応える。


「戦術長から砲術長へ、準備はどうか?」


『近接信管から時限信管への切り替え完了、いつでも装填可能だ』


「了解した、射撃指揮は時田砲術長に一任する、頼めるか?」


『無論だ、任せてくれ』


 正宗が戦術長席から射撃指揮所の時田に問いかけると、通信機から落ち着いた厳声(いかつごえ)が響いて来る。


「主艦橋より砲撃命令が下令された、主砲一番から五番全門に破號(はごう)弾装填を急げっ!!」


 射撃指揮所に時田の厳声(いかつごえ)が響くと、主砲要員が機敏に動き出し、大きく《破號》と書かれた砲弾が自動装填装置で砲身へと装填される。


「一番旋回112度、二番旋回247度、四番旋回135度、五番旋回225度、各仰角30度に揃えっ!!」


 時田の指示で巨大な大和の各主砲塔が軽快な駆動音を響かせ左右へと旋回して行く、一番主砲は右舷斜め後方、二番主砲は左舷斜め後方へ、四番主砲は右舷45度、5番主砲は左舷45度へ旋回し砲身を蒼空へと向ける、後方から追従する武蔵の主砲も旋回角度こそ浅いものの同様の動きをしていた。


「総員閃光に注意、衝撃に備えっ!!」


 東郷の腹に響く声が艦橋に響き渡った数秒後、大和と武蔵の主砲が一斉に火を噴き、凄まじい爆風と衝撃波が蒼空に轟き奔る。


 この衝撃波の直撃を受け急降下中の米攻撃機2機の機体が粉砕され3機がバランスを崩し海面へ激突する。


 しかし、それは米航空隊にとって真の恐怖では無かった、その僅か数秒後、まさに天変地異が如くの閃光と爆風、衝撃波が周囲を無差別に蹂躙して行く。


 70ノットもの高速で移動する大和と武蔵を攻撃する場合、どうしても後方から突入する方法が一番簡単で有り命中率も高い、そのため米航空隊はいつの間にか大和と武蔵の後方に集中してしまっていた。


 無論米航空隊も破號弾は警戒していたが、この状況であの威力の砲弾を使用する事は歩兵で言えば自分の数メートル後方に手榴弾を投げるようなモノである、故に撃って来ないと思っていたのだ。


 しかし破號弾は撃ち込まれ快晴の蒼空に一瞬で天変地異を発生させていた、運悪く爆心地に居た機体は溶けて蒸発し、外周に展開していた機体も大部分が機体を粉砕され運よく離れていた機体さえ爆風と衝撃波によって機体を損傷バランスを崩し墜落する機も少なく無かった。


 その爆風と衝撃波は当然大和と武蔵にも襲い掛かり、甲板に放置されていた機銃や副砲、噴進砲の残骸が吹き飛び宙を舞う。


 そして爆風と爆圧によって立ち上がった波で大和と武蔵の巨体すら僅かにだが揺動する。


 やがて閃光が収まる頃、その空には疎らな米航空機が散見出来たものの、あの大部隊の威容は完全に失われていた。


 その様子を一時的に艦内に避難していた防空指揮所の観測手が確認し歓声を上げる。


『敵機2割ほどを残し撃墜に成功っ!! 残った敵機も逃げて行きます!!』

「ふむ、成功したようだな……。 各部艤装の損害確認を急げ! 応急班をいつでも出れるよう待機させろ!」


 防空指揮所からの報告に僅かに安堵した表情を浮かべた東郷であったが、直ぐに表情を引き締め各部確認の指示を出す。


「破號弾の余波による乱れは有るものの各種電探艤装及び伝達網異常無し!」

「主砲測距儀、副砲測距儀と高射装置に異常は無し、機銃照準装置は不明!]

「各種通信艤装及び伝達網異常無し!」

「各種航海装置も異常無し!」

「武蔵からも各部異常無しの報告有り!」

「そうか……。 ならば問題無いな、全艦左舷対地砲撃戦用意!」 


 通信員の五反田、戦術長の正宗、通信班長の白峰、航海長の西部が各々各部艤装の報告を行い、最後に広瀬が武蔵の状態を報告すると東郷は語気鋭くピラ・パウアへの砲撃準備を指示する。


 すると大和と武蔵の全主砲が軽快な駆動音と共に左舷へと向けられ砲身が水平に戻される、その内部では自動装填装置によって零式通常弾が全砲門に装填されていく。


『主砲一番から五番、発射準備完了!!』

「間もなくメレエ湾に到達!」

「針路そのまま、両舷半速(10ノット)!」

「針路そのまま両舷半速よーそろー!」


 大和と武蔵がゆっくりと速度を落とすと直径8.5kmの湾の奥に小規模な街(ポート・ピラ市)が微かに見えて来る、目的のピラ・パウア基地はポート・ピラから北東5kmの位置に有る為、視認は出来ない。


 だが砲術長の時田は海軍諜報部が入手したエフォテ島の地図と諜報員から齎された情報によって何処へ砲弾を叩き込めば良いか、どこを避けなければならないかを熟知していた。


 ……諜報部の情報が間違い無ければ、であるが……。


 その一抹の不安から時田は柄にもなく緊張していた、元々日輪軍が建設していたルング基地(アンダーソン飛行場)や直前に観測機(瑞雲)によって地形確認の情報を得られたサントコペア等とは違い、事前情報だけでは最終確認時と状況が違っている可能性も無きにしも有らずだからだ、つまり新たに島民の集落などが出来ているかも知れないという不安である。


 とは言え、命令が下令されている以上、撃たないと言う選択肢は無いし撃てないなどとも言えない、やるしかないのだ……。


 照準は二番主砲に合わせるよう大和、武蔵共に事前調整済だ、電探情報統制装置と砲安定装置、そして大和型の巨体のお陰で揺れによる誤差は殆ど無い、後は自分が照準指示を誤らなければ良い、逆に言えば自分が誤れば大惨事だ。


 いや自分が正確に仕事をしても若し情報に誤りが有れば……。


 そんな思考が頭の中を巡り一滴の冷や汗が時田のこめかみを伝い射撃指揮所の床に落ちる、その瞬間、通信機から若き戦術長の声が響き渡る。


『主艦橋から射撃指揮所へ、左舷対地砲撃戦、目標ピラ・パウア、撃ち方始めっ!!』


 遂に来た、瞬時に覚悟を決めた時田は息を吸い込みそして覇気良く部下に命令する。


「左舷対地砲撃戦、目標ピラ・パウア! 主砲一番から五番、撃ち方(うちぃかぁた)始めぇっ!!」


 時田の厳声(いかつごえ)が射撃指揮所に響き渡った次の瞬間、凄まじい爆音を轟かせ4基12門の砲身が一斉に火を噴き、後方の武蔵の5基15門の主砲もそれに続く。


 大和と武蔵から放たれた砲弾は大気を振動させ蒼空を突き抜け放物線を描きながらエフォテ島へと落下して行く。


 時田は即座に双眼鏡でエフォテ島を凝視し、数秒後同島から立ち上がる爆炎を確認すると通信機で艦橋最上部の測距員に連絡を取り地図を確認しながら着弾範囲を割り出す。


「……よし、問題無い、無い筈だ……。 次弾装填急げっ!!」 

 

 時田は不安を隠す様に声を張り上げ砲撃継続を指示する。


 その時田の不安を他所に、大和と武蔵の砲撃は正確に米ピラ・パウア基地に着弾していた。


 大和と武蔵の放った64㎝砲弾は通常弾(榴弾)とは言えエルディウム鋼板で舗装された滑走路を難なく貫き爆散させていく。


 その破壊力は凄まじく、粉砕されたエルディウム鋼板や駐機していた航空機の残骸が宙を舞い基地施設や作業員へと降り掛かる。


 そこからギリギリで飛び立つ事が出来た米航空隊は、その腹に抱えた爆弾でこの惨事の原因である日輪戦艦に一矢報いる為に生き残った戦闘機群と編隊を組み大和と武蔵に向かって飛翔する。


『敵航空隊接近、戦闘機12、攻撃機18向かって来る!』

「対空迎撃、撃ち方始めぇっ!!」


 射撃指揮所からの報告に正宗が即座に反応する、この時半壊した機銃群も再編され往事の三分の一程に減じた機銃座で有るが士気は衰えておらず、果敢に応戦している。


 だが対空兵装の半数以上を失い僅か10ノットで進む巨大戦艦など航空機にとって良い的である、米航空隊も生き残りの意地と仲間を失った怨嗟から戦闘機も含め一歩も引く事無く突っ込んで来る。


「な、何だ!? 戦闘機が突っ込んで来てるぞっ!?」

「来るなら落とすだけだ!! 撃て撃て撃てぇえええええええっ!!」 


 先ず突っ込んで来たのは戦闘機で有った、大和の甲板上の弾薬運搬要員などを狙い機銃掃射をする為であり、後に続く攻撃機の爆撃をやり易くする為でも有った。


「ひっ! うわぁっ!!」

「く、くそコメ公めぇっ!!」 

「臆するなぁっ!! 弾幕を維持する為に弾薬をーーぐがぁっ!!」


 甲板上では数人の弾薬運搬要員が機銃掃射で死傷している、難を逃れ弾薬を運び終えた者は負傷者に駆け寄り艦内へと引き摺って行く。


「8時方向よりB25接近っ!!」

「くそっ!!墜ちろ墜ちろ墜ちろぉおおおおおおおっ!!」


 機銃要員と副砲要員は必死に照準を定め敵機を撃墜せんとするが、亜音速の航空機を狙って撃ち落とすなどはまず不可能であり、かといって有効な弾幕を形成するだけの機銃座も残っておらず、米攻撃機は疎らな弾幕を掻い潜り大和へと迫って行く。


 更に米戦闘機はもう一度機銃掃射を食らわせようと大きく旋回し再び機首を大和に向ける、だがその時、突如米戦闘機の機体に銃痕が奔りその衝撃で機体が砕ける。


 更には米攻撃機も次々と機体が爆ぜ、ある機はその場で爆散、ある機は片翼が砕け錐揉みしながら海面へ激突、ある機は白煙を吐きながら力なく海面へ突っ込み砕け散る。


 驚いた機銃要員が見上げた蒼空には整然と並び飛行する10機の銀翼の戦闘機の姿が在った。


「ーーっ!? あれは……まさか零空か!? 来るとは聞いていたが本当に間に合うとは……!」

「第(ゼロ)航空戦隊、零式制空戦闘機《(つるぎ)》か……まさに飛翔する(つるぎ)だな」


 防空指揮所から上空を旋回する《(つるぎ)》の姿を確認した士官の一人が驚きの声を上げ、防空士長はその鋭利且つ流線の美しい形状(フォルム)を眺めながら感嘆の表情で呟いた。


 その報告は主艦橋にも届き、その嬉しい誤算に大和と武蔵の艦内外は歓喜に包まれた。


「航空支援が有れば話は変わる! 藤崎上等兵曹、零空に弾着観測を指示してくれ!」


 航空優勢が逆転した事を知った正宗は僅かに口角を上げると零空への弾着観測の依頼を指示し、航空管制の藤崎がすぐさまそれを零空に伝える、すると。


『え? 弾着観測? 既にぼこぼこの窪み(クレーター)と粉々の残骸しか見えませんけど……まだ撃ちますか?』


 と中沢から呆れ気味に返され、正宗が慌てて砲撃中止を指示した……。


 見えない故に敵の状態が分からず過剰攻撃(オーバーキル)をしてしまった様である……。


 しかし、これでパヌアツ攻略艦隊は表の(・・)任務と目標は達成した事になる、次は誘引した米機動艦隊がニューカルドニアへ向かう事を阻止しなければならない。


 一方でその米機動艦隊は魔王(やまと)のピラ・パウアへの接近で距離的な危機感を感じた第77任務部隊は南下し距離を取りつつ反撃の準備をしていたが、ピラ・パウアが壊滅した事を知るとエフォテ島から南南西340kmのロイヤルハーブ諸島まで撤退する事を決め移動を開始していた。


 第51特務艦隊は《(つるぎ)》の猛攻から命辛々逃げ帰って来た3機のF6Fパイロットから顛末を聞いている最中にピラ・パウア壊滅の報を受け、イルマンゴ島とその南のタナン島との間の海峡を通りニューカルドニアの米本拠地であるヌメラ基地に帰還する事を決め行動を開始していた。


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