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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第七十話:ルマップ奮闘

 1943年6月16日 時刻00:17 天候晴れ


 サントコペア基地の破壊に成功したパヌアツ攻略艦隊は道中米哨戒駆逐艦や潜水艦と交戦しつつ次の攻撃目標であるマルクラ島のルマップ飛行場を目指して進撃していた。


 ただその艦隊編成は多少変わっており、先の戦いで沈没艦と脱落艦の出た第五艦隊は再編され以下の編成となっている。



 独立旗艦:重巡摩耶(まや)


 第一戦隊:重巡伊吹(いぶき)磐手いわて磐城いわき生駒いこま

          

第三戦隊:軽巡多摩(たま) 駆逐艦敷波(しきなみ)狭霧さぎり夕霧ゆうぎり


第四戦隊:軽巡長良(ながら) 駆逐艦時雨(しぐれ)夕立ゆうだち春雨はるさめ涼風すずかぜ



 三番主砲が大破した重巡青葉(あおば)が航行不能になった軽巡球磨(くま)の牽引のため艦隊を離脱し旗艦戦隊は解体され摩耶(まや)は独立旗艦となり加えて沈没した叢雲(むらくも)の乗組員を乗せた駆逐艦磯波(いそなみ)浦波(うらなみ)青葉(あおば)球磨(くま)の護衛の為に艦隊を離脱している。


 そのため艦隊としての戦力低下は否めないものの最大火力である大和と武蔵の損傷は機銃座と副砲(噴進砲)数機に留まりそれも応急修理が終わっている事から砲火力の低下は殆ど無かった。


 現在艦隊は長良(ながら)隊と多摩(たま)隊が左右先梯形陣で先陣を切り、その後方を伊吹(いぶき)隊に輪陣形で護られた重巡摩耶(まや)が、更にその後方に島風、出雲、大和、武蔵が単縦陣で航行しており艦隊直下には高潜隊が潜んでいる。


 その更に後方50kmに空母部隊(たいよう隊)が追従し艦隊直上には大和隊の代わりに武蔵隊の4機(朝倉以下3名)が地形確認と弾着観測の任の為に待機している。


 そして大和主艦橋では電探員の村田が敵艦隊の反応を探知していた。


「艦隊進路上に敵艦隊、距離35000で捕捉! 規模的に例の守備艦隊と思われます!」

「おいおい、またかよ懲りねーな……」

「……敵の動きは?」

「今の所有りません、停止しているようです」


 電探員の田村の報告に舵を取っている戸高が呆れ気味に言葉を溢し、東郷の問いに田村は暫し電探(レーダー)画面(ディスプレイ)を凝視した後その結果を報告する。


「ふむ、敵哨戒艦と交戦している以上、我々の位置は敵に把握されていると見るべきだが、にも関わらず敵艦隊に動きが無いのは気に掛かるな……」


「同感です、米艦隊も我々と真面に戦っても勝ち目が無い事は思い知っている筈です、何らかの策が有ると見るべきでしょう」


「ー-っ!? 対空電探に反応多数っ!! 推定60機前後の航空機が急速接近中、内20機は大型機です!!」

「これは……! 米艦隊も動き出しました!!」


 東郷と正宗が米艦隊の動向を思案していると村田が米航空機の動きを慌てて報告しそれに続き五反田が米艦隊の動きを報告する。


「なるほど、航空隊と連携を図ったか……。 全艦対艦対空戦闘用意!! 出雲と島風及び高潜隊は右翼に展開し敵艦隊を迎撃せよ!! 他の艦艇は針路陣形を維持し対空戦闘に主眼を置け!!」


 東郷の指示で日輪艦隊の対空兵装が一斉に駆動する、米航空隊は大和の破號弾を警戒してか正面広域に展開し接近、米艦隊は距離を取りつつ艦隊右舷に展開しつつあった。


 日輪艦隊は東郷の指示通り対空戦闘に主眼を置き水雷戦隊は主砲にも対空弾を装填し待ち構える、もっとも吹雪型や白露型の主砲は対空戦闘には適さないため余り効果は期待出来無いだろうが……。 


 暫く後聞こえて来る米軍機の推進音、それに伴って夜空に撃ち上がる無数の対空弾と機銃曳光弾、そして米攻撃機から投下される照明弾の閃光によって晒される日輪艦隊の姿、ここまではサントコペアと同じであった。


「敵急降下攻撃機本艦直上っ!!」

「ー-緊急回避!!」


 しかしここからが違っていた、米攻撃機が急降下し狙って来たのは大和と武蔵であった。

 機銃は元より大和の副砲と武蔵の対空噴進砲も必死に迎撃し数機の敵機が砕け散る。

 それでも怯まない米攻撃機は次々と爆弾を投下して行き、大和と武蔵はその巨躯を器用によじり(・・・)投下された殆どの爆弾を回避するが一発が大和右舷副砲塔に、もう一発が武蔵三番主砲塔付近に其々命中し爆炎が立ち上がる。


 更に米重巡部隊からも砲撃が浴びせられるが、それらは日輪艦隊や海面に着弾する事は無く代わりに日輪艦隊の針路上を明るく照らした、航空機を援護する為の照明弾である。


「今の爆撃による損害は!?」

「あ、はい! 三番副砲が損傷するも被害は軽微、他、異常は有りません!!」

「艦長、敵大型機も本艦に急速接近中!!」

「見張りより報告有り、接近中の大型機はB17爆撃機です、その数20~」


 東郷が被害状況を確認しそれに通信員の如月が答える、その直後、電探員の五反田が大型機の来襲を報告し通信長の白峰が詳細情報を捕捉する、最後の語尾が伸びてしまったが全体的には落ち着いていてハキハキとしていたので通信長の面目は躍如であろう。


「B17か、狙いは水平爆撃による艤装の破壊だな、優先迎撃急げっ!!」


 正宗の指示で大和から無数の対空弾がB17に向けて放たれるがB17は臆する事無く果敢に肉薄して来る。

 次の瞬間、先頭の一機の機体が爆ぜバランスを崩しながら大和の右真横の海面に墜落すると凄まじい爆音と共に巨大な水飛沫を立ち上げる。


 直後、後続のB17数機が格納扉を開けその進路に大和と武蔵を捉えていた。


「針路上にB17が4機っ!!」

「緊急回避っ!!」

「よーそろっ!!」


 東郷の指示に操舵手の戸高が機敏に応え大きく面舵を取ると同時に左舷艦首側面噴進機を最大噴射させ大和の巨躯が左に傾きながら急速に右旋回を行う、その後方では武蔵も同じ様な機動を取っており2隻の巨艦が揃って駆逐艦の如き軽快な機動を描く。


 その巨大戦艦とは思えない機動性に虚を突かれたB17は軌道修正が間に合わず投下された爆弾は虚しく漆黒の海原に落下して行く。


 攻撃に失敗した4機のB17は急いで離脱を図るが2機が大和と武蔵の至近弾を受け機体が爆ぜ力なく海面に激突する。


「11時方向より更に敵機接近っ!!」

「ちょ……マジかっ!! こん……にゃろめぇっ!!」


 戸高は右に旋回する巨躯を今度は右舷艦首側面噴進機と左舷艦尾側面噴進機を最大噴射させ強引に左に曲げ再度爆撃を回避する、だが如何に機動性に優れる大和型でも暗闇の中で次々に飛来する航空機に対して回避行動を取り続ける事は不可能であった、今度こそその進路上に大和と武蔵を捉えたB17は仲間の仇とばかりにその腹から次々と爆弾を投下して行く。


「爆撃っ!! 弾着注意っ!!」


 機銃群長が叫ぶのと大和と武蔵の艦上から激しい爆炎が次々と上がるのはほぼ同時であった。


「くっ! 被害報告!!」

「本艦の損害は軽微、戦闘に支障無し!」 

「武蔵は機銃座2機と対空噴進砲1機が被弾大破した模様です!!」


「艦長、朝倉隊より入電です!【敵機迎撃の要有りと認ム、攻撃を許可されたし】以上です!!」

「……駄目だ、万が一にも艦砲射撃の目を失う分けにはいかん、朝倉隊は追って指示有る迄上空待機と伝えろ」

「り、了解です!」

「対空電探に感有り!! 敵機約60機が此方に向かって来ています!!」

「敵艦隊更に発砲、またも照明弾ですっ!!」

「くっそ、行く先行く先照明弾落としやがって鬱陶しいったらねーぜっ!!」

「くっ!! ルマップの規模はサントコペアの半分程度の筈だが、この抵抗力は……っ!?」

「ふむ、奇襲に近い攻撃を受けたサントコペアとは違い十分な情報を得てそれなりに準備をしていたようだな……」

「……敵ながら天晴と言いたい所ですが、正直忌々しいですね」


 忙しなく情報が飛び交う大和主艦橋では東郷と正宗が指揮に追われその表情にはやや疲れが出始めていた、対する米ルマップ飛行場では第一次攻撃隊が戦果を上げた事で士気が上がり第二次攻撃隊も旺盛な戦闘意欲を以って出撃する。


 それはある意味当然であり第二次攻撃隊の中にはサントコペアから避難して来た機体やパイロットが多数混じっているからだ。


 それで無くともルマップには元サントコペア所属で有った機体やパイロットが多数配属されている、比較的大規模なサントコペアとは違いルマップは戦闘機と攻撃機合わせて80機程を運用する中規模程度の飛行場で有った。

 しかしサントコペア基地がB29のプラットフォームに使用されたため多数のB17爆撃機や他所属機が駐機許容量を超えてこのルマップ飛行場に配属される事になったのである。


 故にルマップの飛行機乗りにとってサントコペアは古巣で有ると同時に知り合いや戦友で有りサントコペアを壊滅させた日輪艦隊は正に仇敵であった。


 だからこそ敗走して来た守備艦隊と陸海軍の垣根を超えて情報を交換し連携を取り反撃に転じる事に成功したのである……ここまでは。


 まず瓦解したのが距離を取りつつ照明弾で航空隊を援護せんとしていた守備艦隊であった、元々旧式艦で編成された艦隊である米守備艦隊の最大速力は55ノット、最大80ノットが発揮可能な出雲と島風相手に距離を取る事など不可能であった。


「今で有ります、右舷魚雷一番二番発射するでありますっ!!」


 漆黒の海原を高速で疾走し水柱と水飛沫を掻い潜り敵艦に肉薄する島風が至近距離で砲撃を行いながら魚雷を発射し次々と米水雷戦隊を撃沈して行く。


「ほう、岬のヤツやるじゃないか! 我々も負けてはおれんな、主砲右舷敵巡洋艦に照準、撃ち方始めぇっ!!」


 島風の後方に展開していた出雲も主砲を一斉射し米重巡2隻が爆ぜ米守備艦隊の陣形は完全に崩壊し浮き足立ち何とか逃れようと東に針路を取る、然し其れは日輪艦隊の思惑通りで有った。


「よし出雲と島風が上手く誘い込んでくれたようだ、全艦一番から四番まで魚雷発射!!」


 海中に潜み待ち構えていたのは高潜隊で有った、出雲と島風がその超高速で米艦隊を攪乱している隙に東側に回り込み潜んで居たのだ。


 海中から突如放たれた40本近い雷撃に潰走していた米守備艦隊は為す術も無く次々と魚雷の餌食となり海の藻屑と化して行った。 


 最終的に海域から離脱できたのは重巡1、駆逐艦4、魚雷艇3であり後の米戦闘詳報では【壊滅】と記載されている……。


 守備艦隊からの援護の無くなった米航空隊は已む無く残光を頼りに空襲を続行するが日輪戦艦に重大な損傷を与える事は適わず遂に日輪重巡艦隊から放たれた照明弾によってルマップ飛行場の姿が閃光の下に晒される。


 この時を待ちに待っていた朝倉隊は閃光の中に滑り込む様に突撃し速やかに地形観測を行いその情報を母艦(むさし)に報告する。


 それを受けた大和と武蔵の主砲が軽快な駆動音と共に旋回しマルクラ島はルマップ飛行場に向けて一斉射撃が開始された。


 こうなるとコメリア軍に成す術は無かった、守備艦隊が照明弾の投射に専念しその光を頼りに航空隊が魚雷の効かない魔王(サタン)に対し爆撃にてレーダーや照準器などの無力化を図る、それが元々中規模飛行場に過ぎないルマップ飛行場司令部が捻り出した防衛戦術で有った。


 着眼点は悪く無かったが矢張り航空機の数が少な過ぎ守備艦隊が日輪艦隊に対して脆弱過ぎた、事現状に至っては速やかに少しでも多くの航空機を離陸させ帰還中の航空隊に対し避難勧告を出す事くらいしか出来ないだろう。

 ルマップは規模の割に奮闘したと言えるが相手が悪過ぎたのだ……。


 日輪艦隊の砲撃によって滑走路や格納庫が崩壊して行く中、整備員達は命懸けで航空機を誘導し空へと上げて行く。


 仲間が日輪艦隊の砲撃で吹き飛んで行く光景を目の当たりにしながら逃げる事しか出来ない戦闘機乗り達は苦悶の表情で砲弾降り注ぐ滑走を疾走し命辛々閃光に晒された空へと舞い上がる、今は生き延び復讐を果たす為に……。


 暫く後、朝倉隊より敵飛行場壊滅の報告を受けた日輪艦隊が砲撃を停止した時にはルマップ飛行場は見る影も無く破壊されていた。


 アスファルトで固められていただけの滑走路は無残な窪地(クレーター)と化し格納庫で有ったであろう建物は僅かに骨組みの一部を残すのみとなっている。


 周辺には生き残ったコメリア兵の姿が確認出来るが殆どの者は負傷している様で動きは鈍く衛生兵で有ろう兵士が忙しなく動き回っている。 


 この時、時刻は01:54、順調に作戦を遂行するパヌアツ攻略艦隊は次の標的であるエピラ島のラメラ・ベイ飛行場に針路を取り進撃を開始するのであった。


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