第六十八話:パヌアツ沖海戦
1943年6月15日 時刻07:30 天候曇り
大日輪帝国連合艦隊はパヌアツ・ニューカルドニア攻略を目的とするPN作戦を発動させ大規模な輸送船団を伴い第三艦隊、第五艦隊、第七艦隊、第十三艦隊が出撃した。
攻略部隊は大きく2部隊に分けられ、第十三艦隊(東郷艦隊)と第五艦隊(近藤艦隊)はパヌアツ攻略に、第三艦隊(小沢機動艦隊)と第七艦隊(栗田主力艦隊)はニューカルドニア攻略に振り分けられた。
パヌアツ攻略艦隊はマキア島北部をなぞりながら進行しトーレス諸島南部を掠め米守備艦隊を撃破しつつパヌアツ東海からパヌアツ主島であるエスピサント島のサントコペア基地を艦砲射撃にて攻撃しそのまま南下しながらマルクラ島のルマップ飛行場、エピラ島のラメラ・ベイ飛行場、エフォテ島のピラ・パウア飛行場と転戦する計画となっている。
このパヌアツ攻撃はパヌアツ守備艦隊だけでなくニューカルドニア守備隊の誘引をも目的とした陽動作戦であり、PN作戦の主目的はニューカルドニアの制圧であった、つまりパヌアツ攻略艦隊は囮である。
そのパヌアツ攻略艦隊の編成は以下の通りとなっている。
~~第十三艦隊~~
艦隊司令官:恵比寿 知良海軍中将(実権は東郷 創四朗海軍少将) 艦隊参謀:神重 徳義海軍准将
旗艦戦隊:戦艦大和、武蔵
第一戦隊:重巡出雲 駆逐艦島風
第ニ戦隊:軽巡九頭龍 駆逐艦妙風、清風、叢風、里風
第三戦隊:軽巡米代 駆逐艦山霧、海霧、谷霧、江霧
第四戦隊:軽空母大鷹、雲鷹(戦闘機48機)
第六艦隊第八戦隊(第十三艦隊随伴):潜水艦《伊302》《伊201》《伊202》《伊203》《伊204》《伊205》《伊206》《伊207》《伊208》
~~第五艦隊~~
艦隊司令官:近藤 信松海軍中将
旗艦戦隊:重巡摩耶、衣笠、青葉
第一戦隊:重巡伊吹、磐手、磐城、生駒
第二戦隊:軽巡球磨 駆逐艦磯波、浦波、叢雲
第三戦隊:軽巡多摩 駆逐艦敷波、狭霧、夕霧
第四戦隊:軽巡長良 駆逐艦時雨、夕立、春雨、涼風
~~輸送船団~~
給力艦3隻 海防艦10隻
そして本作戦の主力部隊であるニューカルドニア攻略艦隊はマキア島から南下しパヌアツ攻略艦隊が米守備隊を誘引した頃合いを見計らいニューカルドニア島西部より侵攻し夜明けと共に航空機部隊による米飛行場の破壊と敵艦隊の撃滅、そして上陸部隊の支援を行う計画となっている。
そのニューカルドニア攻略艦隊の編成は以下の通りである。
~~第三艦隊~~
艦隊司令官:小沢 勝重海軍中将
旗艦戦隊:空母翔鶴、瑞鶴、雲龍、剣龍、紅鶴、蒼鶴(戦闘機212機、攻撃機224機、観測機4機)
第一戦隊:軽空母瑞鳳、祥鳳、龍鳳(戦闘機38機、攻撃機40機、観測機4機)
第二戦隊:軽巡矢矧 駆逐艦陽炎、不知火、黒潮、親潮
第三戦隊:軽巡阿賀野 駆逐艦野分、嵐、萩風、舞風、秋雲
第四戦隊:軽巡仁淀 駆逐艦秋月、照月、涼月、初月
~~第七艦隊~~
司令長官:山本 五十八海軍大将 艦隊司令官:栗田 幸吉海軍中将 作戦参謀:黒島 亀竜海軍中将
旗艦戦隊:戦艦紀伊、尾張
第一戦隊:重巡高雄、最上、三隈、鈴谷、熊野
第ニ戦隊:軽巡能代 駆逐艦巻波、高波、大波、清波
第三戦隊:空母昇龍、伏龍(戦闘機68機、攻撃機68機、観測機4機) 軽空母千歳、千代田(戦闘機24機、攻撃機24機、観測機8機) 駆逐艦玉波、涼波、早波、浜波
第四戦隊:軽巡六角 駆逐艦沖波、岸波、朝霜、早霜、秋霜、清霜
~~輸送船団~~
二等輸送艦・篝火20隻 一等輸送艦・灯火30隻 兵員輸送艦40隻 給力艦7隻 海防艦20隻
時刻20:15、予定通りパヌアツ攻略艦隊は敵哨戒圏内であるトーレス諸島西海に到達し30ノットで航行している、隊列は第五艦隊第四戦隊長良隊が弓陣形で先頭を行き、その右翼に同第二戦隊球磨隊が左先梯形陣、左翼に同第三戦隊多摩隊が右先梯形陣で展開し対潜対水上警戒に従事しており、その後方2kmを大和、武蔵、出雲、島風が単縦陣で航行し直下海中の第六艦隊第八戦隊に遂次情報を送っている。
更にその右翼に第五艦隊第一戦隊(伊吹隊)が複縦陣で展開し同旗艦戦隊(摩耶隊)が左翼に付いている。
その後方60kmに第十三艦隊第四戦隊の空母大鷹と雲鷹給力艦3隻と海防艦10隻が展開しており同第二戦隊(九頭龍隊)と同第三戦隊(米代隊)に輪陣形で護られている。
パヌアツ攻略艦隊は敵潜水艦や哨戒駆逐艦と交戦是を撃滅しつつ予定通りの針路を突き進み、20:27に大和の電探が南南東距離35000で敵艦隊を捕捉する。
「敵艦隊に動き有り、こちらの存在に気付かれた可能性が有ります!」
「先程の哨戒艦が通報したのだろうな」
「むぅ、夜襲に適した夜陰で有ったものを……。 殴り込み作戦(第一次ソロン海海戦)の時ような愚は犯してはくれんかぁ……」
大和の主艦橋で電探員の田村と東郷のやり取りに口惜しそうに言葉をこぼした少し神経質そうなチョビ髭の軍人は作戦参謀として乗艦している神重 徳義海軍准将である。
第一次時ソロン海海戦の立役者であり、その功績を以って《作戦の神様》と称される人物であった。
今回のPN作戦の内容も彼の立案で有り、第十三艦隊を囮にニューカルドニアを占領攻略すると言うのも彼の発案で有った。
ただ、当初大和を沈める事が目的で有った山本とは違い大和の性能を十分に理解した上での抜擢で有り決して無謀な特攻と言う分けでは無い。
「もう少しサントコペア基地に近づきたかったが致し方ない……。 だが囮としては好都合では有るか……針路そのまま第四戦速に上げ、対潜警戒を怠るな!」
東郷の指示で艦隊は40ノットに増速し途中の敵潜水艦や哨戒駆逐艦を血祭りに上げながらエスピサント島とアバオ島の間に展開する米艦隊に迫る。
「敵艦隊規模、中型艦20、小型艦40と認む、約20ノットで接近中!」
「距離は?」
「今20000を切りました!」
「ふむ、対潜陣形を解除し攻撃陣形に移行、艦隊速度を両舷強速まで減速、十三艦隊は両舷半速に減速し第五艦隊に道を譲れ」
東郷の指示のもと第十三艦隊が減速し第五艦隊が大きく動く、水雷戦隊が対潜警戒陣形を解き単縦陣へ切り替え面舵を切り艦隊右舷へと集まり始める。
大和の右舷に展開していた重巡戦隊(摩耶隊)は大和を追い抜くと面舵を取り僚艦と合流した。
・
・
「第五艦隊より陣形が整ったとの事です!」
「うむ、敵の距離と方位針路速度はどうか?」
「距離16000、方位2.0.2、針路北北西、速力20ノットです!」
「当然我々の針路を塞ぐか、全艦第二戦速取り舵15、右舷反航戦砲雷撃戦用意!!」
「右舷反航戦砲雷撃戦よーそろ! 各砲門零式通常弾装填、右舷統一電探射撃用意、同調装置、武蔵へ照射開始、同期を急げ!」
敵艦隊との相対距離と進路を把握し右舷反航戦を指示する東郷、それに戦術長の正宗が迅速に答え武蔵との統一射撃準備を指示する。
・
・
「武蔵との同期を確認!」
「電探射撃準備完了!」
「砲撃準備完了!」
「艦長!」
「うむ、右舷砲撃戦、撃ち方始め!!」
「主砲一番から五番、全門斉射撃ち方始めぇっ!!」
東郷の号令の下、大和と武蔵の戦術長(正宗と、誠士郎)から撃ち方始めが下令され同2艦の砲術長が電探情報の表示されたモニターを見ながら細かな指示を出し砲身の方位と仰角を調整する。
そして先ずは大和の4基12門の主砲が一斉に火を噴き月明りの無い漆黒の海原に大気を振動させる轟音が鳴り響く。
大和と武蔵の射撃指揮所では各砲術長がモニターに釘付けとなっている、緑色の背景のモニターには白い船型マーカーが幾つも表示されており自艦と思しき中央の白い船型のマーカーから白く小さな12個の点がその先に点在する数十の白い舟形のマーカーに向けて移動しているのが見て取れた。
「弾着、今っ!!」
「弾着、今っ!!」
「命中弾無しっ!!」
「……ちっ! 外れかっ!!」
大和の射撃指揮所内で時計で弾着時間を測っていた観測員とモニターを見ていた観測員がほぼ同時に叫び、双眼鏡で見ていた観測員の報告に砲術長の時田がモニターを睨み付けながら舌打ちをし、念の為自身も双眼鏡で外を確認する。
もし命中していれば轟音が響き爆炎が漆黒の海原を照らす筈である、それが無いと言う事は報告通り命中弾無しと言う事である。
レーダー上に弾着点(レーダーで水柱を観測し割り出している)は表示されるのであるが、時田はまだ電探射撃装置を完全に信じていない為、従来の観測方法を併用して行わせているのであった。
この大和の射撃情報は同時進行で武蔵にも送られており武蔵の砲術長は即座にその情報を元に砲身の方位と仰角を修正する。
そして今度は武蔵の5基15門の主砲が一斉に火を噴き漆黒の海原に轟音を響かせる。
次の瞬間、米パヌアツ守備艦隊の周囲に巨大な水柱が次々と立ち上がる、先程の射撃よりも近い位置への着弾に米艦隊は浮き足立っていた。
「《くそぉっ!! ジャップには我々が見えていると言うのかっ!?》」
「《奴等もレーダー射撃を実用化しているとの報告も有ります、これは恐らく……》」
「《……だとしたら旧式艦で構成されている我々は不利だな……。 先ずは回避だ面舵45左舷砲雷撃戦用意!!》」
日輪軍の砲撃に晒されているパヌアツ守備艦隊は堪らず右旋回し散布界から逃れる選択をする、守備艦隊司令が発した通りパヌアツ守備艦隊は北太平洋艦隊から抽出された旧式の巡洋艦と駆逐艦で構成されている艦隊でありレーダー射撃装置どころか真面なレーダーすら搭載していない艦が有る程だった。
故に先ずは回避に徹し距離を詰めた上で砲雷撃戦に持ち込むと言う米艦隊司令の判断は間違ってはいなかった、間違ってはいなかったが其れは大和砲術長の思惑通りであった……。
パヌアツ守備艦隊が右旋回を始め米司令官が旗艦艦橋で照明弾装填の指示を出していたその時、数発の水柱が艦隊周囲に立ち上がりその直後、僚艦の重巡が突然爆ぜた。
僚艦は瞬く間に爆炎に包まれ鈍い金属音と共に艦が折れると漆黒の海原からその姿を消した、轟沈で有った。
「《な、なんだとぉっ!!?》」
米艦隊司令が目を見開き驚愕するが、その次の瞬間にはまたも水柱が立ち上がり今度は重巡と軽巡、そして駆逐艦1隻が爆炎に包まれ轟沈する。
大和の砲弾は徹甲弾でさえたった3発で最新鋭戦艦を撃沈する威力を有している、故に徹甲弾より炸薬量の多い通常弾を受けて耐えられれる巡洋艦など存在する筈が無かった。
「《く、くそぉっ!! し、照明弾放てぇっ!!》」
このままでは一方的にやられる、とにかく反撃しなくてはならない、狼狽しながらもそう思考を巡らせた米艦隊司令は照明弾の使用を指示する。
反撃するにも敵が見えなければどうしようもない、彼等にはレーダー射撃は不可能なのだ。
しかしそれは同じく電探射撃装置を持たない艦を多く擁する日輪艦隊も同じであったようで米艦とほぼ同時に日輪艦隊も照明弾を撃ち上げる。
次の瞬間、漆黒の海原が眩い閃光で照らされ、日米両艦隊の姿が互いにその光の下に晒される。
だが事前の心構えは全く違っていた、米艦隊の位置と距離を大和からの正確な情報で知っていた日輪第五艦隊は整然と単縦陣で待ち構えており、対する米艦隊は自分達の姿が晒された事に浮き足立っていた。
「《ま、拙いぞ……っ! 撃て……とにかく撃てぇっ!!》」
すでに日輪艦隊の砲門は正確に米艦隊に向けられている、視覚的には見えずとも長年の船乗りの感としてそれを感じ取った米艦隊司令は慌てて射撃指示を出す、が、それより早く日輪艦隊の一斉射撃がパヌアツ守備艦隊を襲う。
この時両艦隊の距離は12000、米艦隊が右旋回した事により同航戦となっていた、戦力比はパヌアツ守備艦隊が重巡14、軽巡3、駆逐艦33に対して日輪第五艦隊は重巡7、軽巡3、駆逐艦10でその背後には戦艦2隻と重巡1,駆逐艦1が控えている、海中に潜む9隻の伊号潜の存在はバレていない。
数では圧倒する米艦隊であったが米艦隊司令は楽観視はしていなかった、故に統制を取るよりとにかく砲撃を浴びせる事を優先したのだ。
日輪艦隊の一斉射にやや遅れて米艦隊も射撃を開始する、直後米艦隊の周囲に大小の水柱が立ち上がる、命中弾こそ無かったがかなり近い位置への着弾で有った。
対する米艦隊の攻撃はお世辞にも至近距離とは言えず統制も全く取れていなかった。
そこへ再度日輪艦隊の砲撃が米艦に向け放たれる。
最前列の駆逐戦隊とその後方に展開する巡洋戦隊、その奥で漆黒の海原を掻き分け悠々と進撃する巨大戦艦。
それらが一斉に主砲を鶴瓶撃ちする。
僅か数秒の後、最初に武蔵の放った砲弾が巨大な水柱を立ち上げ直後、中小の水柱が連続して立ち上がる。
その攻撃にやや遅れ大和の主砲が火を噴き米艦隊の周囲に数発の巨大水柱を立ち上げると同時に米重巡1隻が爆ぜ爆沈、もう1隻は前部主砲塔が吹き飛び艦が軋む。
その艦は浸水が止まらず後に沈没した。
このままでは艦隊が徐々に削り取られる、そう感じた米艦隊司令は駆逐戦隊に突撃を命じ合計36隻(軽巡3隻含む)の駆逐艦が日輪艦隊に肉薄せんと最大戦速で突撃を敢行する。
対する日輪艦隊は陣形を崩す事無く砲撃で米駆逐艦を迎撃するが大和と武蔵は主砲の照準は巡洋艦から変えず大和の副砲が一斉に米駆逐艦を狙い撃つ。
この日輪艦隊の猛攻に米駆逐艦は次々と爆ぜて行くが米駆逐戦隊は数に物を言わせ果敢に突撃を続行する。
そして日輪艦隊に距離5000まで詰め寄った米駆逐戦隊は素早く舵を切り魚雷発射管を日輪艦隊に向け今まさに発射せんとした。
しかしそこで大和と出雲の回転式砲塔の砲身が回転を始め次の瞬間20㎝砲弾と10㎝砲弾を機関銃のように乱射する。
その射線に水柱が連続して立ち上がり米駆逐艦に迫るとそのまま艦体を蹂躙する、艦首と主砲塔が吹き飛び艦橋は崩れ魚雷発射管は宙を舞い艦が爆ぜ躍る……。
そうして僚艦が次々と蹂躙される中、それでも米駆逐戦隊は果敢に日輪艦隊に迫りその砲撃から生き残った艦が次々と魚雷を発射していく。
「右舷より魚雷多数っ!!」
「探照灯照射!! 回避っ!!」
「対雷掃射開始っ!!」
米駆逐艦より放たれた多数の魚雷に対し日輪第五艦隊は一斉に艦首を魚雷に向け回避行動をり取りつつ各艦艇からは探照灯による魚雷の追尾と舷側機銃による対雷掃射が同時に行われる。
各艦艦内では魚雷警報が鳴り響き艦内作業員が万が一に備え水密扉を急ぎ閉鎖していく。
そんな第五艦隊の後方では大和と武蔵が回避行動を取る事無く主砲と副砲を斉射している、回転式砲塔は冷却中で出雲と島風はしっかり回避行動を取ってはいるが……。
数本の魚雷が対雷掃射によって爆ぜ水柱を立ち上げるが焼け石に水と言わんばかりに数十本の魚雷が日輪艦隊に迫る。
第五艦隊各艦(と出雲、島風)は探照灯の光を頼りに舵を取り魚雷を回避していく。
そして各艦の横を次々と魚雷がすり抜けて行き、その様子を甲板要員が強張った表情で固唾を飲み祈る様に見守る、もし被雷すればいの一番に犠牲になるのは自分達なのであるから当然である。
そんな甲板要員達の祈りが通じたのか第五艦隊各艦は全ての魚雷の回避に成功する、が、次の瞬間、第五艦隊の回避した魚雷の内十数本が大和と武蔵に被雷し次々と巨大な水柱を立ち上げる。
その様子に米艦隊司令は歓喜するが次の瞬間全く動じない大和と武蔵の砲撃によって重巡2隻が爆ぜる。
「《て、敵戦艦尚も健在!! 火力衰えていませんっ!!》」
「《何て事だ……。 魔王だ……魔王が此処に居るぞっ……!!》」
米艦隊司令は顔面蒼白となり慄き後ずさる、嫌な予感は有った、だがそれは無意識に考えない様にしていた、若しそうで有れば何をしても勝ち目など無いからだ。
「《ー-っ!? 報告っ!! ソナーに感有りっ前方より敵潜水艦の反応多数っ!!》」
「《ー-んなぁっ!? 潜水艦だと、いつの間に……っ!?》」
「《11時方向より魚雷多数接近っ!!》」
「《くそっ!! 回避取り舵急げっ!!》」
「《報告っ! 左舷より敵水雷戦隊急速接近っ!!》」
「《駆逐戦隊の陣形崩壊っ!! 救援要請が来ています!!》」
「《ぬぐっ!? く、くそ……この状況でどうしろと言うのだ……っ!》」
米艦隊艦隊司令が狼狽し絶望に沈み絞り出す様な声で呟いた直後、重巡2隻から巨大な水柱が数本上がり轟沈し、艦隊左側面から日輪水雷戦隊の砲雷撃が浴びせられ更に重巡1隻が爆沈1隻が大破横転(後沈没)した……。
米駆逐戦隊も日輪戦艦と重巡戦隊の砲火に晒され陣形は崩れバラバラに応戦し次々と各個撃破されている状況であった。
「《だ、駄目だ……我々で如何にか出来る相手では無い……っ!!》」
「《提督、ここは一旦退きましょう! 魔王相手にこの状況では分が悪すぎますっ!!》」
「《……已むを得んか、駆逐戦隊の援護をしつつ後退する!! サントコペア基地に状況を知らせっ!!》」
混迷し乱戦に近い状況の中、米艦隊司令の決断は一時後退で有った、自分達が後退すればサントコペア基地が攻撃される可能性が高いが艦隊にこれ以上の損失を出す事は看過出来なかった。
そもそも、このまま此処で粘っても日輪艦隊に大した損害を与える事は適わず自分達が全滅する公算が高い、基地を危険に晒す事になったとしても合理的な判断をする事が自分の責務であると自らに言い聞かせた。
そして旗艦から3つの信号弾が上がり、それを見た米駆逐戦隊は一斉に煙幕を展開し離脱行動に入る、煙幕は味方への被弾を抑える効果が有るが友軍の攻撃の妨げにもなるため安易に使う事が出来なかったが旗艦からの後退の信号弾が上がった事から気兼ねなく使えたのだ。
「米艦隊煙幕を展開、海域から離脱する模様です!」
「また戻って来ると厄介です追撃して殲滅すべきと考えます!」
「……いや、ギリギリまで砲撃は継続しつつ針路はサンコトペアに向けろ、戻ってきたらその時に殲滅すれば良い、出来るだろう?」
「はい、この艦なら問題無く出来ると断言します!」
正宗の報告に十柄が間髪入れずに追撃を進言するが東郷はサントコペア基地攻撃を優先する、戦術長に対する問い掛けは基地攻撃と対艦攻撃を同時に行えるかと言う事で有ったが正宗は溌溂とした声で問題無いと断言した。
日輪艦隊は後退する米艦隊に砲撃を浴びせつつ大きく面舵を取り針路をサントコペアに向けて速度を上げた。
時刻は21時24分、日輪艦隊にとっての攻略戦もパヌアツにとっての悪夢も、まだ始まったばかりであった。




