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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第六十六話:銀翼の侍

 八航戦と交戦しながらルングへと迫るB29編隊、その正面から5つのV字陣形を成し亜音速で急接近して来る飛行編隊があった。


 銀翼の零式制空戦闘機・(つるぎ)を擁する第(ゼロ)航空戦隊、通称零空である。


『電探に敵機第一群及び第二群と思しき機影を補足、俺の隊、佐々木隊、千葉隊各機が二式対空噴進弾にて第一群を一掃する、柳生隊、中沢隊は第二群に備えっ!!』

『待て武人(たけひと)、事前情報では八航戦が交戦中のようだが、敵機を撃墜すると巻き込んでしまうのではないか?』

『味方と思しき機影は第二群近辺にしか確認出来ん、第一標的の第一群とは距離は有るから大丈夫だ! ……多分な!』

『多分ってお前……』

『あはは! まぁ隊長の感は良く当たるから大丈夫だよ! 多分っ!』

『ふむ、どの道奴らは殲滅せねばならんのだ、是非も無し』

『通信範囲に入ったらアタシが警告します、なのでどーんっとやっちゃいましょう!!』

『……了解した』


 宮本の指示に対して八航戦(みかた)への被害を心配する佐々木、それに対して大雑把(アバウト)な返答が返って来るが佐々木以外の隊長格も同様に大雑把(アバウト)な発言をしており佐々木は溜息交じりに了解する(あきらめる)……。  


 だがそんな彼等の操る(つるぎ)の機動は繊細に研ぎ澄まされている、一糸乱れぬ編隊飛行とブレる事の無い機動で遥か先の敵機(B29)をその照準に捉えていた。


 そして三隊計15機から一斉に30本の二式対空噴進弾が放たれる、後の世で《ミサイル》と呼称される兵器の原型であり、いまだ《ロケット爆弾》の域を出ないその新兵器は音速(マッハ)1.6(時速1958km)もの速度で真っ直ぐ飛翔し敵機の群れへと突き進む。


 次の瞬間、連続した爆発音に僅かに遅れて敵機(B29)が爆ぜて行き蒼空に美麗さの欠片も無い歪な連鎖花火が咲き乱れる。


 二式対空噴進弾は誘導機能は持っておらず搭載されている機能はジャイロ安定装置と近接信管のみで有り許容誤差3メートルの射撃を命中させたのは全て(つるぎ)搭乗員の技量によるものである。


『撃墜9、残り7!!』

『次弾放てっ!!』


 (つるぎ)からの噴進弾(ミサイル)攻撃から何とか生き残ったB29に対し即座に第二射が浴びせられB29部隊は応戦する間も無く次々と爆ぜていった。

 

『敵機第一群殲滅を確認!!』


 宮本が叫ぶ次の瞬間には零空隊は撃墜した敵機(B29)の残した爆炎の中に突っ込みそれを文字通り切り裂きながら突き進み数秒でそこから飛び出すと機体に爆炎を纏いながら次の獲物に照準を合わせる。


『第(ゼロ)航空戦隊より前方の八航戦に告げるっ!! これより敵機を爆破(・・)する、直ちに本空域より離脱せよっ!!』

『ー-なっ!? くっ……! 八航戦了解っ!! 離脱するっ!!』


 八航戦の無線に突如叩き込まれてきた零空隊中沢からの無線に朝倉は目を見開き憤慨するものの即座に状況の変化を把握し離脱を決断する。


 因みに中沢の言葉が高圧的なのはコンマ1秒を争うからで有り、余裕が有れば彼女らしい明るく柔らかな言葉を選んだであろう。


 だがその甲斐あってか朝倉の判断も即決英断で有った、無論前方の敵機殲滅を目の当たりにしたからであるが、先程まで体当たりを主張していたわりには柔軟な判断力と言えるだろう。


『それじゃあ皆、どーんと行くわよっ!!』


 八航戦が機体を傾け離脱を始めた直後、中沢の明るい掛け声と共に中沢隊と柳生隊の10機から各ニ本づつ噴進弾が発射され次々とB29へ命中する。


 瞬時に大爆発を起こし爆散する機体、片翼を失いゆっくりと錐揉みしながら落ちて行く機体、機首部分を失い真っ逆さまに墜落する機体、それを目の当たりにした残りの8機のB29機内はパニック状態となっている。


 そこに25機の銀翼の戦闘機が飛び込んで来る、B29は慌てて迎撃するが不規則な機動を描く(つるぎ)に翻弄され三十(みり)強装薬型(マグナム)回転式薬室機関砲(リボルバーカノン)の威力の前に一撃で防弾部を撃ち抜かれ次々と力無く墜ちて行く。


『何だあの機体は! 超デカブツをあっと言う間に……!? 速度、運動性、そして火力……。 全てが……瑞雲(こいつ)とは桁違いだ……』


 (つるぎ)の圧倒的な火力と機動性を目の当たりにした立花はその姿に魅入り、やがて羨望と嫉妬の入り混じった表情を浮かべ名残惜しそうに(つるぎ)を見つめながら飛び去って行った。


『よし、このまま敵本隊を叩くぞ!! 方位2.2.5速力800ノットで俺に続けっ!!』


 宮本が鋭い機動を描きながら無線を飛ばし方向を定め24機の僚機もそれに続く。 



 ◇ ◇ ◇



「《ニューカルドニアの部隊から緊急通信だとっ!?》」

「《は、はい! 敵新型機の猛攻を受け被害甚大との通信が入り、その後は通信が途絶しています……》」


 零空隊から離れること南西300km、200機のB29を率いるエノラ・ゲイ号の機内では通信手の報告を聞いたルメイが愕然としていた。


 先行させていた25機編成2群の部隊から突如日輪軍機の襲撃を受けていると緊急連絡が入り、その後の通信が全く入らなくなっているのであるから当然で有った。


 1機でも無事な機体が有れば敵の詳細や被害状況などが遂次報告されて来る筈である、先行部隊に置ける緊急接敵マニュアルでそう決まっているからだ、それが無いと言う事は最悪の事態も想定しなければいけなかった。  


 ルメイ率いるB29部隊には直掩の戦闘機が存在しない、高度18000(メートル)の超空を飛行するB29には追従出来る機体が無く必要も無かったからだ。 


 そう、必要無い筈だった……。


 しかしニューカルドニア部隊からもたらされた情報はその大前提を覆した、18000(メートル)の超空に在るB29に大損害を与えられる敵機の存在が明らかになったからだ。


 いくら重厚な防御力を持つとは言え所詮は航空機であり運動性など無いに等しい爆撃機である、同じ高度(ステージ)に立つ事が出来る戦闘機相手には余りに分が悪い、そんな事は研修過程の新米でも知っている事だ、故にルメイは顔面蒼白となっている。


「《何故だっ!! 何故こうなるっ!? 何故我々が黄色い猿(イエロージャップ)に追い詰められているのだっ!?》」


 ルメイは思わず声を荒げて叫び座席の手すりに拳を叩き付ける。


 そんなルメイをエノラ・ゲイ号のクルー達は不安気な表情で見ている、命の危険の少ない絶対的有利な場所から一方的に攻撃するだけで英雄になれる筈が一転、重大な命の危機に晒されているのだから当然である。


「《し、司令、状況から考えますと先行部隊は全滅した可能性が高いです。 我々もこのまま進むのは危険では……?》」


 張り詰めた緊張感の中、機長がルメイの顔色を伺いながら恐る恐る口を開く。

 明言こそしていないが、撤退すべきだと暗に進言しているのは明白でありルメイも苦虫を噛み潰した様な表情で考え込んでいる。


 だが一介の機長とは違い司令官であるルメイにはマッカーサーから下令された命令を遂行する義務がある、状況が変わったとはいえこのまま逃げ帰ってはマッカーサーの逆鱗に触れるのは目に見えている。


 故にルメイは迷った、この時即断出来ていればこの後の運命は違ったものになっていただろう……。


 そして唇を噛み締め拳を強く握るとやや間を置き、意を決した表情でルメイが口を開こうとした、だがその時、通信手が絶叫に近い声で叫んだ。


「《せ、先頭部隊司令機より入電っ!! 前方に敵機を視認っ!!》」

「《ー-なっ!? 馬鹿なっ!? もう来たと言うのかぁああっ!!》」


 通信手が慌てた様子で必死に先頭部隊からの打電を読み上げるとルメイは青ざめた表情で思わず座席から立ち上がり愕然とする。

 


『前方に敵本隊を視認っ!!』

『よーし!! 今度は全機一斉にかましてやろうじゃないか!!』

『了解です、どどーんと行きましょう!!』


 宮本の威勢の良い声に中沢の明るい声を乗せて零空隊25機の(つるぎ)から50本の二式対空噴進弾が放たれ一直線に前方のB29の群れに突き進んでいく。

 その僅か数秒後に連続した閃光が放たれ空気を振動させる轟音と共に爆炎が立ち上がり、その中から飛び出して来たB29の群れの中へ25機の(つるぎ)がまるで侍が切り込むが如く突っ込んで行く。


『食らえコメ公ぉおおおっ!!』


 爆炎の中をパニックになりながら飛び出して来た所への強装薬型(マグナム)回転式薬室機関砲(リボルバーカノン)の洗礼にB29の搭乗員は何が起こったのか理解できないまま次々と撃墜されて行く。


 そして大した反撃もされないままB29の群れを蹂躙し最後尾に飛び出た零空隊は機動補助装置を駆使し鋭利な機動で機体を翻し反転する。


『ぐぅっ!?』

『無理な機動はするな!! 訓練通り遊び(・・)を持たせろ、じゃないと一瞬で意識を持って行かれて墜落だぞっ!!』


 (つるぎ)は時速1480kmもの速度を持ちながら性能表(カタログスペック)上は零戦と同等の旋回率を誇る、しかし当然ながらその負荷は全て搭乗員が負う事になり、適性を見出され選び抜かれた(つるぎ)搭乗員であっても人間である以上限界はあった。


 そのため機動補助装置を使った機動変更は人間の限界を超えないよう余裕を持たせる事が厳しく定められている。


 つまり(つるぎ)は人間の限界を超えないとその真価を発揮出来無い機体と言う事になる、それこそが人間が空を飛ぶ事に憧れ航空技師になった堀越が(つるぎ)を忌避する理由で有った。


 だが、皮肉にも人間を欠陥部品(・・・・)とする(つるぎ)であればこそ、超大国コメリアの技術力の結晶である超空の要塞を圧倒出来ているのも事実であった。


『全機旋回後、残り2本の噴進弾を一斉発射だっ!!』

『了解だ!』

『よ~そろぉ~!』

『また、どーんと行くんですね! わっかりましたぁっ!!』

『心得た』


 零空隊各隊長機が連携を取り位置取りを決めると即座に各僚機が集まり陣形を整え加速する、そして再び一糸乱れぬ編隊運動に入り一斉に最後の二式対空噴進弾を放つ。

 数秒の後、最後尾のB29数機の機体が砕け或いは爆散し墜ちて行く。



「《おのれぇ……っ!! 損害はどうなっている!?》」

「《か、各機とも混乱していて不明ですっ!! し、しかし少なくとも20機以上は墜ちたかと……っ!!》」

「《こ、後方の部隊が敵機の追撃を受けていますっ!! ふ、振り切れませんっ!!》」


 戦々恐々と叫ぶクルー達、エノラ・ゲイ機内は、いや、全てのB29の機内はパニックに陥っていた、元々急遽集められた新兵の多い部隊で有った為こういう不測の事態への対処は慣れていなかったのだ。


 尤も仮に熟練の搭乗員だけで編成されていたとしても結果的には大差が無かったかも知れないが……。


「《……何故だ、何故、極東の蛮族に……黄色い猿如きに我々が……》」

「《し、司令! 如何されますか!? このままでは……!》」

「《分かっているっ!!! こんな状況で作戦遂行など出来る筈が無いっ!! 失敗だ……くそぉっ!! 》」


 強張った表情で問いかけて来る機長に対しルメイは苦悶の表情で顔を歪め軍帽をわし掴むと床に叩き付け叫ぶ。


「《し、司令、それでは……?》」

「《……撤退するしかあるまい、だが撤退するにしてもこのまま固まっていては基地まで持たず全滅だ。 ……部隊を散開させるしか無い……ブラボー(B)をパヌアツへ、チャーリー(C)をニューカルドニアへ、デルタ(D)とエコー(E)はシャーギー基地へ向かわせろ、フォックストロット(F)とゴルフ(G)はアンバレー基地で良いだろう、そしてホテル(H)はマッカーサー基地へそれぞれ離脱するよう指示を出せっ!!》」


「《我々(アルファ)はどうするので……?》」

「《先ずは南へ針路を取り各機散開(・・・・)しろ、その後は状況(・・)を見て私が判断する、急げっ!!》」


 ルメイが顔面蒼白のまま矢継ぎ早に指示を出し通信手が狼狽した面持ちで各隊長機に指示を伝えると程なくしてB29各部隊が散開を始める。


『む、敵が散開を始めたか、今後の為にも逃す訳にはいかんな、此方も散開する! 千葉と中沢はそのまま直進し左右の2隊を! 柳生は南に旋回中の手前の部隊を、俺と佐々木は北に旋回中の群れを追う!!』

『よ~そろ~』

『わっかりましたぁ!!』

『心得た』

『了解だ!』


 米軍機の動きに宮本も素早く反応し早口で矢継ぎ早に指示を出すと千葉隊がブラボー隊を、中沢がチャーリー隊を追い始め、柳生隊は右に急旋回しホテル隊を追撃する。

 そして左へ急旋回した宮本と佐々木は素早く互いに手信号で合図をし佐々木隊がデルタ隊とエコー隊を追い、宮本がフォックストロット隊とゴルフ隊を追撃する。 


 この時いち早く部隊を散開させたアルファ部隊は日輪軍機の注意を引く事無く離脱体勢に入っていた……。


 そしてこの先は到底戦いとは呼べない一方的な《狩り》が行われる事になる……。


「《後方より日輪軍!!(ジャップ!!) 殿(しんがり)が喰われたっ!!》」

「《ちくしょうっ!!(ジーザス!!) 振り切れねぇ!! 爆弾抱えてたら560mil(マイル)(時速約900km)以上は出せんが今格納庫を開いたらそれこそ墜落しちまう、くそったれぇっ!!》」


 ニューカルドニアへ向けて離脱しようとしたチャーリー隊は中沢隊の猛追を受け次々と撃墜されていき、機内は戦々恐々となり大混乱に陥っている。


『なぁ~んかアレ(・・)が隊長機のような気がすんだよねぇ、皆あの機体にどーんといくよっ!!』


 中沢は目を細める動作をしながら前方中央付近のB29に視線を送る、そして中沢の明るい声が無線機から響くと僚機も覇気良く了解し彼女の見定めた敵機(B29)に向けて加速する。

 そして距離を詰めると5機の(つるぎ)から一斉に強装薬型(マグナム)回転式薬室機関砲(リボルバーカノン)の銃弾が放たれ(まさ)しくチャーリー隊隊長機であるガートルード号の機体表面が弾けて行き次の瞬間大爆発を起こす。


 その爆発に軽快な日輪軍機は即座に反応し距離を取るが鈍重なB29はそうはいかず後方の1機がガートルード号の主翼の破片に激突し墜落して行った……。


「《隊長機(ガートルードC)墜落っ!! 二番機(カラミティ・スー)を巻き込んだっ!!》」

「《くそぉっ!! くそっくそっくそっ!!》」


 更に周囲の僚機も次々と撃墜されて行き、残存機の搭乗員達は地に墜ち行く巨鳥(なかま)の無残な姿を目の当たりにする事になる……。


「《今の爆発はっ!?》」

「《18番機(レディテディ)8番機ベル・オブ・ボルチモアっ!! 23番機(プレイングマンティス)もやられたっ!!》」

「《くそぉおおおおおっ!! こちらスターダスター、敵機の追撃を受けている!! こちらスターダスター、司令機応答願うっ!!》」


 チャーリー隊6番機スターダスター号の機長が必死に呼び掛けるがルメイの乗る司令機からの反応は全く無く、その間も次々と味方は落ちて行き気が付くと残りは僅か3機となっていた。


「《くそぉおおっ!! ダメだ繋がらん!! 敵機は何処に行った!?》」

「《わ、分かりません、速すぎて……っ!!》」

「《フェザーマーチャント撃墜っ!!》」

「《ケイトポーマットもやられたぁああっ!!》」

「《……の、残っているのは本機だけです》」

「《くそっ! くそ……くそぉ……》」


 僅かに残っていた僚機も墜とされただ1機となったスターダスター号の機長は操縦桿を握ったまま苦悶の表情で俯く。


 他の搭乗員(クルー)達も必死に神に祈る者、恋人の写真を見つめる者、ただただ怯える者、多種多様な反応を見せているが皆一様にこれから訪れる自分達の運命を悟っていた。


最後の(ラスト)1機、みんなで一緒に一気に行くよ、とっつげきぃっ!!』


 中沢の明るい掛け声と共に5機の(つるぎ)が一斉にスターダスターに襲い掛かる、スターダスターも必死に抵抗するが(つるぎ)の銀翼には掠りもせずに一気に距離を詰められる。


 そしてスターダスターの後方斜め上から一気に急降下した5機の(つるぎ)から一斉に機銃弾が放たれスターダスターの機体に銃痕が奔り直後至近距離を(つるぎ)が通り過ぎると推進機が爆散した。


 それは(あたか)(つるぎ)に切り裂かれたかのように見えた、スターダスターの搭乗員(クルー)達からは見えていないだろうが、他の僚機がそうやって墜とされたから分かるのだ。


 スターダスターは爆発した推進機部分から左主翼が折れ錐揉みを始めると懸吊されていた爆弾が機内で絡まり脱落すると他の爆弾を巻き込み誘爆し機体は木っ端微塵に爆散した。


『よっしおっわり~! 千葉さん達はどうしてるかなぁ?』 


 最後の標的の撃墜を確認した中沢が千葉が追撃しているであろう方向を見ると北東の空から閃光と轟音が響いていた。


『やってるやってる、それじゃあ千葉さんと合流しよっか、みんな付いて来て~!』


 相変わらずの明るい口調でそう言うと中沢は機体を翻し千葉の居るであろう方向へ機首を向けて加速し僚機もそれに続く。



 ◇ ◇ ◇



 一方、多くのB29が殲滅されていく中、大きく南に針路を執ったエノラ・ゲイ号と僚機2機は日輪軍機の追撃を受ける事無くマッカーサー基地に向かっていた。


 エノラ・ゲイから北の空に見える閃光は恐らくは柳生隊の追撃を受けるホテル隊のものであろう……。


「《日輪軍機(ジャップ)は見えるか?》」

「《いえ、こちらには来ていない様です、しかし他の僚機と友軍は……》」

「《分かっているっ!! くそっ、一体何なのだあの機体は……っ!! 零戦(ジーク)瑞雲(ポール)などとは比べ物にならない性能じゃ無いかっ!! ジャップがあんな機体を持っているなど聞いていないぞっ!!》」


 ルメイは司令席で喉が張り裂けんばかりに叫ぶとやがて力なく項垂れ両手で顔を覆いながらそのまま黙り込んでしまった。


 周囲の搭乗員(クルー)達も掛ける言葉が見つからないのか、若しくは関わり合いになりたくないのか一様に沈黙している。


「《……私は……もう終わりだ……》」


 ルメイは顔を覆ったまま絞り出す様な声でそう呟いた……。



 ~~登場兵器解説~~


◆零式制空戦闘機・剱(甲・乙型)


 全長:21(メートル) 全幅15(メートル)


 最大速度:1480km/h   


 加速性能:8秒(0キロ~最大速到達時間) 


 防御性能:S(甲型) / A(乙型)  


 搭乗員:1名 


 武装:九九式三十(みり)回転式薬室機関砲(リボルバーカノン)×2 / ニ式対空噴進弾×6


 動力:YG-0型零式蒼燐核動力炉(甲型) / YG-1型三式複合動力炉(乙型) 


 推進機:双発・YG-0型零式蒼燐噴進機


 航続距離:無限(甲型) / 最高速4000km 巡航速無限(乙型)


 特性:陸上運用機 / 八咫烏式通信装置 / 空対空四号電探 / 機動推進装置 / 四号航空航法装置 / 零式相転移外殻(甲型) / 三式相転移外殻(乙型)


 概要:堀越 聡次郎が八刀神 景光から提示された設計案を元に構築・設計した機体、頑強な内部骨格(フレーム)に装甲レベルの防御力を持つ相転移外殻と其の中に詰め込まれた長距離通信装置に高性能空対空電探、それにより増しに増した重量を通常動力では瞬く間に動力切れを起こす超高燃費推進機の出力で補い、犠牲となる筈であった運動性能を確保する為に搭載された補助推進機、それによって空前絶後に悪くなった燃費を補う為に用意されていたのは超小型蒼燐核動力炉である……。

 この設計案を見た堀越の感想は「これは航空機では無くロケットの設計案では?」であった。


 しかし超小型蒼燐核動力炉と言う破格の動力を持つ制空試戦(後の(つるぎ))の設計は思いの外順調に進み1937年2月には試作機が完成していた。

 しかしその後当時の工業力では1機あたりのコストが《かげろう》型駆逐艦程も掛かる事が判明し1939年4月には零式艦上戦闘機の完成の目途が立った為に量産体制に入る事は無く8機が生産(内2機は未完)されたのみで計画は凍結された。

 海軍内部には生産された6機だけでも実践投入するべきとの意見も有ったが、少数の高性能機を投入した結果、米国の技術力を刺激する恐れがあるとの山本五十八の意見が通り、6機(と未完2機)の剱は夢島工廠内に封印される事になる。

 その後1942年に入り、景光によって再設計された《剱乙型》の登場によってある程度の量産が可能となった本機は1943年半ばに漸く日の目を見る事になるのである。

  

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