第十八話:豪雨のインディスベンセイブル海峡~~戦艦大和、単艦突入ス
1942年11月11日未明、ガーナカタル攻略を目的とした『GN作戦』が発令されトーラクより日輪帝国の大艦隊がソロン諸島はガーナカタルに向けて出撃を開始した、そして翌12日15:00にはサンタ・イザベル沖100kmにてラウバルからの第八艦隊と合流し給力した後30ノットでインディスベンセイブル海峡を目指した。
その陣容は先行隊の第八艦隊独立旗艦:重巡鳥海
同第一戦隊:軽巡天龍、駆逐艦朝潮、大潮、満潮、荒潮
同第二戦隊:軽巡龍田、駆逐艦朝雲、山雲、夏雲、峯雲
主力水雷戦隊の第五艦隊第一戦隊:重巡青葉、衣笠、加古、古鷹
同第二戦隊:軽巡北上、駆逐艦吹雪、白雪、初雪、叢雲、東雲
同第三戦隊:軽巡阿武隈、駆逐艦綾波、敷波、朝霧、夕霧、天霧、狭霧
同第四戦隊:軽巡長良、駆逐艦白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨
同第五戦隊:軽巡球磨、駆逐艦薄雲、白雲、磯波、浦波
同第六戦隊:軽巡多摩、駆逐艦朧、曙、漣、潮
同第七戦隊:軽巡大井、駆逐艦海風、山風、江風、涼風
主力打撃艦隊第一陣、第二艦隊独立旗艦:重巡摩耶
同第一戦隊:戦艦扶桑、山城、伊勢、日向
同第二戦隊:重巡利根、筑摩
同第三戦隊:軽巡鬼怒、駆逐艦初春、子日、初霜
主力打撃艦隊第二陣、第七艦隊第一戦隊:戦艦紀伊、尾張
同第二戦隊:重巡高雄、最上、三隈、鈴谷、熊野
同第三戦隊:軽巡能代、駆逐艦巻波、高波、大波、清波
主力打撃艦隊護衛群、第九艦隊独立旗艦:重巡愛宕
同第一戦隊:軽巡川内、駆逐艦初風、雪風、浜風、谷風
同第二戦隊:軽巡那珂、駆逐艦天津風、時津風、浦風、磯風
同第三戦隊:軽巡神通、駆逐艦夕雲、巻雲、風雲、長波
先行遊撃隊、第十三艦隊独立旗艦:戦艦大和
同第一戦隊:重巡出雲、駆逐艦島風
同第二戦隊:軽巡夕張、駆逐艦朝風、春風、松風、旗風
水雷遊撃隊、第四艦隊第一戦隊:練習巡洋艦鹿島、駆逐艦峯風、澤風、沖風、灘風、羽風、野風
同第二戦隊:練習巡洋艦香取、駆逐艦矢風、潮風、秋風、波風、沼風、夕風
遊撃支援部隊、第一艦隊分遣戦隊:重巡妙高、足柄、那智、羽黒、軽巡大淀、駆逐艦霞、霰
後方支援及び輸送船団護衛群、第三艦隊第二戦隊:軽空母瑞鳳、祥鳳、龍鳳
同第三戦隊:軽巡矢矧、駆逐艦陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、夏潮
同第四戦隊:軽巡阿賀野、駆逐艦野分、嵐、萩風、舞風、秋雲
第三艦隊旗下第十一艦隊の軽空母飛鷹、隼鷹、軽巡名取、駆逐艦暁、響、雷、電
同第三艦隊旗下第七艦隊分遣戦隊の軽空母千歳、千代田、駆逐艦玉波、涼波、早波、浜波
そして護衛艦隊の庇護下に輸送艦60隻、給力艦20隻が追従する。
本来ならば輸送船団護衛艦隊を除くこれらの大艦隊が一丸となってサヴァ島からルング沖に突入する予定で有ったが、伊号潜の決死の情報収集により米機動艦隊と是を護衛する戦艦4隻を擁する艦隊がインディスベンセイブル海峡南方に展開しているとの情報を得た為、フローラ島を起点に艦隊を二つに分ける事となり第十三艦隊と第四艦隊、そして第一艦隊分遣戦隊がインディスベンセイブル海峡を南下し米機動艦隊殲滅に向かう事となった。
これによりルンガ飛行場の攻撃隊は第八艦隊を先導部隊とし第五艦隊が米防衛艦隊への強襲砲雷撃を慣行、主力打撃艦隊の進路の確保を行う事となった。
日輪海軍は予定通り日没後21:00にインディスベンセイブル海峡に突入し進路上の米潜水艦や哨戒艦を血祭りに上げながらフローラ諸島を目指した、ここで日輪艦隊は予定通り艦隊を二つに分け本隊は西にフローラ北経由でサヴァ海峡を目指し、米機動艦隊強襲部隊はそのまま南下を開始する。
インディスベンセイブル海峡は東のマライア島から西のフローラ諸島、ガーナカタル島との海峡を指し、北西から南東にかけて距離約200km、幅約50kmの海峡で西側の水道がサヴァ海峡と呼ばれている。
順調に進んでいた日輪帝国海軍であったが、しかしここで艦隊は激しいスコールに見舞われる事になる、作戦中止も検討されたが作戦参謀長の神重大佐はこの状況は寧ろ強襲に適した好機と捉え又スコールは直収まるとの予測の元、予定通りの進軍を主張、第七艦隊の栗田中将は難色を示したものの作戦の神様と称される神重の発言力は強く周囲の意見に押され結局は神重大佐の意見が通る事となった。
同時に神重大佐は第十三艦隊に対し【以降如何なる状況下に置いても戦艦大和は最大戦速70ノットを以って単艦海峡に突入し敵発見と在らば是を撹乱せしめられたし、是は司令長官の厳命である】と打電した、然しこの電文は艦隊司令部の公式記録に残っておらず後世の歴史家に『謎の電文』として議論の対象となるのであった。
「うーん、山本長官の厳命であれば仕方ないね、それじゃあ最大戦速で突撃しようか」
「なっ!? 司令、この視界不良の中を70ノットで航行する事がどれだけ危険な事か分かっておいでですか?」
「そんな事言ったって……仕方ないでしょ、長官の命令と言われれば、ねぇ?」
「そうそう、軍人は命令には従わないとね」
「この艦は大きいから敵の駆逐艦に当たっても大丈夫でしょう、寧ろ弾を使わなくて済むのは幸運だよね」
東郷は視界不良で全力航行する事の危険性を恵比寿達に説くが恵比寿達は楽観的に捉えており全く危機感が無かった、実は彼らはその軍人人生の殆どを陸の上で過ごしており船に乗った事が殆ど無かった、その為スコールに遭った事も無ければ操船をした経験も殆ど無く、その危険性を肌で感じた事も無かったのである。
「……くっ! 総員防御姿勢を取れっ! 両舷全速!! 進路1.5.7!! 見張りを最大人数に、電探から目を離さず状況を逐一知らせっ!!」
顔をしかめた後、張り上げた東郷の声が艦橋に響き渡り、それを受けた艦橋員達は機敏に動き出す、空気の震える程のその声量に恵比寿達は身体をビクつかせるが東郷は意に介さず続け様に細かい指示を出していく。
こうして大和は山本の思惑通り孤立していく事になる、置き去りとなった第一戦隊と第二戦隊は一時的に第一艦隊分遣戦隊の指揮下となった、第四艦隊司令の井上成将中将は大和への指示を不審に思い作戦本部の有る戦艦紀伊に確認の打電を行うが返答は【大和突入の後、全艦20ノットにて進軍、砲雷撃にて米機動艦隊を殲滅されたし】であった。
激しいスコールの中を大和は最大限の警戒態勢を敷き70ノットの高速で駆けていく、途中電探と音探が米潜水艦や駆逐艦と思しき反応を捉えたが夜間豪雨の中70ノットで疾走する艦を捉える事は不可能で有ったのか此方に気付いた様子は無かった、いや気付いたとしても手の出しようが無かっただけかも知れない。
「艦長、本艦12時方向に大型艦を含む多数の艦影を確認、距離……5000、このままの進路ですと訳2分で接触します!」
「……ふむ、進路速度はそのままだ」
「えっ!? し、進路速度そのままヨーソロ!」
東郷の指示に操縦稈を握りながら驚きの声を漏らす戸高であったが、即座に気を持ち直し復唱する、やがて豪雨のカーテンの向こう側に巨大な影が浮かび上がる。
「て、敵艦尚も12時方向距離……500!?」
電探員が叫ぶのと大和の目の前に見慣れない艦容の大型艦が姿を露わにしたのはほぼ同時であった。
「面舵20っ!!」
「よ、ヨーソロっ!!」
「……舵戻せっ!」
「よ、ヨーソロっ!!」
大和が僅かに面舵を取り即座に舵を戻す、大和は最高速のまま米戦艦の左舷50m横を通過、質量の差によって波に押された米戦艦は右に傾く。
「《な、何だっ!? 何が起こった!?》」
突然の出来事に米戦艦の司令席で慌てて叫んだのは第二次ソロン海戦にて雪風に辛酸を嘗めらせられたオルデンドルフ提督で有った。
「《ぜ、前方より60ノット以上の高速で接近して来た大型艦が本艦左舷を通過した模様です!!》」
「《なっ!? またジャップの夜襲かっ!! 哨戒艦と見張りは何をやっていた!! 状況を全艦に知らせっ! 敵艦の位置と数を直ぐに確認しろっ!! 艦長、さっさと艦を動かしたまえっ!!》」
「《は……はっ!! 機関始動! 取り舵一杯! 総員第一戦闘配備、全艦対艦戦闘用意!!》」
米戦艦インディアナ艦内は蜂の巣をつついた様な大騒ぎとなっていた、そんな米戦艦をしり目に大和は速度をそのままに豪雨の中に消えた。
「か、艦長、周囲に敵艦多数! こ、此処は敵陣のど真ん中ですっ!!」
「分かっている、進路上の敵にだけ集中しろ! 取り舵20! 舵戻せ!」
「ひっ!? ひいいいいい! ぶ、ぶつかるぅううううう!? と、東郷君? ち、ちょっと速度を落とした方が良いんじゃないかなぁああああああっ!!」
時速にして130キロにもなる速度と視界不良の中敵艦擦れ擦れにレーダーと夜間見張り員頼みの操艦はぬるま湯育ちの恵比寿達には過酷に過ぎた様で、椅子に身体をつっぱり顔を引きつらせている。
「おや? どうされました? 長官の御命令なのですからしょうがないでしょう? 軍人は命令に従わないといけませんので、面舵10! ……舵戻せっ!!」
「そ、そんなぁあああ!! し、死ぬ、死んじゃううううううううううううう!!」
「お、お助ぇえええええええええええっ!!」
「あばばばばばばっ!!!」
恵比寿は目を白黒させ竹下は蹲って喚き小渕は白目を剥いて泡を吹いていた、その間も大和は豪雨の中、米艦艇の隙間を縫って驀進している。
「《護衛艦隊旗艦から日輪艦が入り込んでいるとの情報が入った、通信障害の為詳細は分からんが何であれ此処から先に通す訳にはいかん、観測員はレーダーから目を離すな、主砲は何時でも撃てる様にしておけ!!》」
インディアナから通信を受けた米戦艦ワシントンの艦長が声を張り上げ指示を飛ばす、然もあろうワシントンの後方にはエンタープライズを始めとする米機動艦隊が停泊しているのである、万が一にもそこに日輪艦隊を通す訳にはいかなかった。
「《し、しかし艦長、スコールのせいか粒子乱流が起こっていてレーダーが半径5km以内でしか使い物になりません!》」
「《だから目を離すなと言っている! 恐らく第一次世界大戦時の交戦距離より近距離での砲撃戦になるぞ……》」
「《……っ!? レ、レーダーに感あり!! 大型艦です、本艦12時方向距離5000、推定速度……60ノット以上!?》」
「《何だと!? 大型艦で60ノット以上? 間違いではないのだな? ……巡洋戦艦か? それとも打撃巡洋艦か? どちらにしても通す訳にはいかん……っ!! 機関始動、両舷微速! 面舵10!! 左舷対艦戦闘用意! 同士討ちの危険を考慮し砲の仰角は水平以下を保て!!》」
ワシントン艦長の指示で艦は右に向け僅かに動き出し、それに合わせて主砲が左に旋回、砲身を水平に保ち豪雨に潜み邀撃体制を取る。
一方大和も前方のワシントンを補足していた。
「面舵10! ……舵戻せ!」
「艦長、敵艦に動きあり! 面舵を取り推定10ノットで移動中!」
「やる気だな、この距離で撃って来る気か……」
「どう在ってもこの先に我々を通したくないようですね……此方も撃ちますか?」
「いや、この視界と距離、速度では危険だ、このまま突っ切る」
大和の火力を以ってすれば前方の艦を砲撃し撃沈する事は容易い、敵の数を減らすという点に置いては一つの手であるが、スコールで視界が悪く70ノットで移動している大和にとって撃沈した艦は自艦の近くで沈む事になる、もし蒼燐蓄力炉や弾薬庫を撃ち抜きでもしたら最悪大和の真横で大爆発である、景光の言葉を信じるにしても副砲や機銃、測距儀やレーダー等が破損する可能性は拭えない。
「《日輪艦目視距離!!》」
「《ぬおっ!? で、でかいっ!? こ、これは……超ド級戦艦だ!!》」
「《艦長、ご指示を!!》」
「《っ!? も、目標日輪戦艦、主砲一斉射、撃てぇーーーー!!》」
艦長の号令の下、戦艦ワシントンの45口径58㎝砲3基9門が一斉に火を噴く、秒速1200mの砲弾は水平射撃で海面と豪雨を吹き飛ばし大和の側舷に命中すると雷鳴の如き爆音を轟かせた。
しかし大和の速度は微塵も鈍る事無く、まるで何事も無かったかの様に悠々と豪雨の中にその姿を消した。
「《馬鹿なっ!? 58㎝砲が200mの距離で直撃したのだぞ、何故止まらん、何故沈まんっ!?》」
「《か、艦長、このままでは空母が……っ!!》」
「《ぐぅっ! 両舷全速面舵反転っ!! ハルゼー提督に警告を出せっ!! 僚艦やオルデンドルフ提督との通信はまだ繋がらんのかっ!?》」
ワシントンの艦長は狼狽した表情のまま声を張り上げる、しかし周囲の艦橋員達も今眼前で起こった事実に狼狽えて動きがぎこちなかった。
一方砲撃を受けた大和も蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。
「負傷者と被害状況の確認を急がせろ!!」
「うひぃぃいいいいいいい!!! 沈むっ! 沈んじゃうぅぅうううううううっ!!」
「そ、それが、何処に当たったのか分からなくて……」
「弾が当たった弾が当たった弾が当たった、もうだめだもうだめだもうだめだもうだめだもうだめだもう……」
「機関室、各弾薬庫異常有りません!」
「あばばばばばばっ!! あばばばばばばばばばブクブクブクブク……」
「各所確認するも浸水漏水確認出来ないとの事です!」
「もうおおおおおおおおイヤだぁあああああああああああああっ!!」
「各所に確認しましたが負傷者も居ない様です!」
「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りた……」
「むぅ、確かに直撃を受けた筈だが……よし、進路速度そのまま、スコールが止み次第……」
「あぶばばばばばばばばばっ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! 高給に釣られて引き受けなきゃよかったあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
「絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ絶対死ぬ……」
「お三方っ!! 少しお静かに願いたいっ!! 今は敵陣のど真ん中で戦闘中ですぞっ!!!」
「びゃ!?」
「ぎょひっ!?」
「ひょべっ!?」
あまりに情けなく喚きのた打ち回る恵比寿達を最初は無視していた東郷で在ったが、ついに堪忍袋の緒が切れ鬼の形相で恵比寿達『三爺』を睨み付ける、すると『三爺』は目を見開き震えあがり顔面蒼白のまま3人寄り添い固まっている。
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「《ジャップの高速戦艦が接近しているだとぉっ!? オルデンドルフは何をやっていたんだっ!! 重巡戦隊は追従させ水雷戦隊を差し向けろ! 空母は全艦面舵反転、最大船速で後退しろ!! 速度は同等、スコールが我々の姿を隠してくれる、慌てず速やかに行動すれば問題は無い!!》」
戦艦ワシントンより通信を受けたハルゼーは空母エンタープライズ艦橋で怒号と共に指示を飛ばした、この時ワシントンから受けた報告は通信障害で所々抜けており、その為エンタープライズ通信員は情報を『敵高速戦艦接近中』とだけ解釈してしまっていた。
その為ハルゼーは接近中の日輪戦艦を金剛型と判断してしまった、その観点から考えるとハルゼーの指示は的確であったと言える、水雷戦隊を防衛に置き接近される前に反転し最大船速50ノットで後退すれば同じ最高速である金剛型戦艦は空母部隊に追い付く事は出来ないからだ。
然しこの時接近していたのは金剛型とは比較にならない70ノットの超高速と米新鋭戦艦の砲撃を物ともしない超戦艦であった。
「艦長、米小型艦艇に動き有り、10隻程が此方に向かっている様です、その後方に後退する艦影多数!!」
「米空母とその護衛艦か……見つけたぞ! 接近する小型艦はやり過ごせ! 戦術長、主目標を敵空母に定め対艦戦闘用意!」
「ハッ! 艦橋より射撃指揮所へ、主砲零式通常弾を弱装薬で装填、各副砲は制圧射撃用意、回転式砲は中央で待機!!」
『こちら射撃指揮所、主砲零式通常弾弱装薬で装填、各副砲制圧射撃用意、回転式砲中央待機ヨーソロ!』
艦内は更に慌ただしくなり各砲塔が動作確認を行う、その間も大和は漆黒の豪雨の中を疾走し米空母に迫る、迎撃に出た米駆逐艦隊は大和の想像以上の巨体と速度に虚を付かれ悉くが置き去りにされた。
「雨が上がって来たかな?」
戸高が艦橋窓から空を見上げる、雲に覆われた漆黒の夜空を見上げたところで何が見えるでも無いが雨脚が弱まって来ている事は分かった。
「艦長、本艦11時方向に空母と思しき艦影複数確認、距離約5000!! 相対速度ー20ノット!!」
「捉えたか! 速度進路そのまま、電探照準起動! 主砲一番二番、目標11時方向敵艦船!」
「ヨーソロ! 艦橋より射撃指揮所へ、電探照準起動! 主砲一番二番、目標11時方向距離約5000、相対速度ー20ノットの敵艦船、距離4000で攻撃開始!!」
『こちら射撃指揮所、電探照準起動! 主砲一番二番、目標11時方向距離約5000、相対速度ー20ノットの敵艦船、距離4000で攻撃開始ヨーソロ!!』
大和は南方へ逃れる米空母の一団を発見、射撃指揮所で砲術長の青年『時田 昭典』海軍少尉が指揮を執り最後尾の艦に一番二番主砲塔が照準を合わせる。
『主砲一番二番射撃準備ヨーシ!!』
「艦長!」
「うむ、主砲撃ち方始めっ!!」
「主砲、撃ち方始めっ!!」
東郷の命令を正宗が射撃指揮所に伝えた次の瞬間、大和の64㎝三連装砲2基6門が一斉に火を噴き周囲に衝撃波と雷の如き咆哮が響き渡る、装薬を抑えられた砲弾はそれでも僅か4秒で米空母に到達、6つの巨大な水柱が米空母ワスプの後方に立ち上がる。
「初弾外したか、本艦の速度が速すぎるな……次弾装填! 相対速度に注意しつつ砲身右に5度修正!」
空かさず時田が細かく指示を出すと大和の主砲が軽快な動きで誤差の修正を行う。
『一番主砲発射準備良し!』
『二番主砲発射準備良し!』
「よし、主砲一番二番、撃てぇーーー!!」
時田が声を張り上げた次の瞬間、再度大和の主砲が火を噴き衝撃波と雷の如き咆哮が響き渡る、刹那3つの巨大な水柱と共にワスプから凄まじい爆炎が上がり大気を振るわせる轟音が響き渡るとワスプの艦体は弾ける様に歪みそして爆散した、3発の直撃弾を受けた米空母ワスプは漆黒の海を爆炎で照らす間もなく海中に没していった、そして此処から米機動艦隊の悪夢が始まるのであった……。