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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第百十五話:カルヴァニック作戦

 

 1943年11月19日 20時15分


 中部太平洋海域


 日の落ちた暗き海原をコメリア合衆国海軍の大艦隊が陣形を成し爆進しており、その中心には空母打撃群が展開している。


 艦隊司令は空母エンタープライズに座乗する猛将ハルゼーであり、その規模は正規空母7隻、護衛空母14隻、戦艦14隻、重巡洋艦28隻、軽巡洋艦26隻、駆逐艦58隻、補助艦艇を合わせると実に350隻を超える大艦隊であった。


 ハルゼーが目指すは日輪帝国に占領された中部太平洋の要衝キルバード諸島である。


【オペレーション・カルヴァニック】


 米太平洋艦隊参謀総長であるレスター・ウィル・ニミッツ海軍大将の立案した陸海軍共同の中部太平洋攻略作戦であり後方に控える輸送船団には海兵隊15,000人と陸軍部隊40,000人が重火器と共に詰め込まれている。


 艦隊の中核を成すのは空母エンタープライズに率いられたエセックス級航空母艦ヨークタウンⅡ、レキシントンⅡ、ハンコック 、ベニントン 、ボクサー 、ボノム・リシャール の6隻とカサブランカ級護衛空母14隻であり、その後方を固めるのはアイオワ級戦艦ミズーリ、ニュージャージー、ケンタッキーと11隻のサウスダコタ級戦艦……に見える戦艦群であった。


 この一見するとサウスダコタ級戦艦の様に見える戦艦群、その正体は翠玉湾(エメラルドハーバー)奇襲攻撃で日輪軍機に撃沈された旧式戦艦達であり、即ち戦艦コロラド、メリーランド、ウェストバージニア、テネシー、カリフォルニア、ニューメキシコ、ミシシッピ、アイダホ、ペンシルベニア、ネバダ 、オクラホマの11隻である。


 しかし翠玉湾(エメラルドハーバー)の海底は浅く殆どの艦は大破着底となっていた為、浮揚処理をされ近代化改修を施され、速力こそ35ktと低速なもののサウスダコタ級類似する上部建造物の艦容と、そして同等の射撃能力を手に入れている。


 ハルゼー率いるキルバード攻略艦隊は、前衛の駆逐戦隊が海底に潜む日輪潜水艦を血祭りに上げながら暗きギルバート海域に進軍して行き、別動隊を本隊左右に先行展開させタルワ近海に潜んで居るであろう日輪艦隊を包囲せんと動いている。


 ・


 ・


 ・


「《報告! 前方距離18.5mi(マイル)(約30km)に十数隻の駆逐艦(クラス)と思しき艦影を捕捉、速度約15ktで接近中です!》」

「《ふん、やはり居たなジャップめが、オルデンドルフ(・・・・・・・)艦隊とターナー艦隊を右翼に、ポウノール艦隊を左翼に展開させろ》」


 暗き海原を進む事数時間、電探員(オペレーター)からの報告を聞き、司令席で葉巻を咥え踏ん反り返るハルゼーは口から大量の煙を吐きながら歪んだ笑みを浮かべ旗下の艦隊に指示を出す。


「《て、提督、駆逐艦相手に旧式戦艦部隊を前面に出すのは危険なのでは?》」


「《ふん、だから打撃巡洋艦を擁するターナー艦隊も付けてやったのだ、誰の指示かは知らんが時代遅れのスクラップを大枚叩いて改修させたんだ、ジャップの駆逐艦程度は葬って貰わねば税金の無駄と言うものだろう?》」


「《は、はぁ……それはまぁ、確かに……》」


 歪んだ笑みを浮かべながらそう言い放ち葉巻を吹かすハルゼーに副官は同意するしか無かった。

 これ以上否定的な意見を言おうものなら気性の荒いハルゼーの逆鱗に触れると分かっているからだ。


「《それにあの死に損ない共(・・・・・・・・)に汚名返上の機会(チャンス)をくれてやるんだ、例え沈んだとしても文句を言われる筋合いは無いだろう? グァハハハハハ!!》」 


 エンタープライズの艦橋にハルゼーの不躾な高笑いが響き渡る。

 何名かの参謀と艦橋要員達は怪訝な表情をしているが猛牛(ブル)と称されるハルゼーに表立って反対意見を言える者はいなかった。


「《報告! 先行していたモントゴメリー艦隊(別働隊)が敵艦隊を発見、戦闘に入った模様です!!》」


「《ふん、後方にもジャップの艦隊が展開していたか、前方のジャップはどうしている?》」


「《はい、前方の敵艦隊、此方に向けて航行しているものの我々に気付いている様子は有りません!》」


「《ふん、マトモなレーダーも持たん旧式か、ならばその間抜けな鼻っ面に砲弾を喰らわせてやろうじゃないか、全艦砲撃開始オールシップスオープンファイア!! 黄色い猿どもの泥舟を海の藻屑にしろ!! ……だが、攻撃に感けて周囲の対潜警戒を怠るんじゃ無いぞっ!》」


 ハルゼーは葉巻を吹かしながら威勢良く攻撃指示を出す、がその後僅かにトーンが落ちた声で潜水艦への警戒を促した。

 どうやら第三次珊瑚海海戦での出来事は猛牛と恐れられるハルゼーにも相当堪えた様である……。 


 その証拠に第7艦隊に配備されているクリーブランド級軽巡洋艦とフレッチャー級駆逐艦はハルゼーの強い要望で対潜能力を強化された艦が揃えられている。


 特にフレッチャー級駆逐艦には最新のソナーの他に、前方に爆雷を投射可能な兵装である ” ヘッジホッグ ” が搭載されており、ハルゼーが如何に日輪の高速潜水艦を恐れているかを表している。


「《報告、旗艦エンタープライズより砲撃開始の下令有り!!》」


「《……ちっ、ブル(・・)め、(がわ)をいくら取り繕おうが所詮は旧式(ロートル)……この低速の旧式戦艦で最新鋭の打撃巡洋艦と連携など出来るものか……っ!!》」


 生まれ変わった戦艦コロラドの艦橋の奥、司令席に座る軍人が忌々し気に吐き捨てるように声を荒げる。

 その人物の右足は膝から下が義足であり、左の袖口からは本来ある筈の手のひらが見当たらず、顔の額右から左顎下にかけて縫い傷が奔っており左目は黒い眼帯で覆われている、その風貌は軍艦の指揮官と言うよりは海賊の船長であった。

 

 その人物は、第三次珊瑚海海戦で魔王(やまと)乗艦(アイオワ)を撃沈され戦死したと思われていた、ジェイソン・B・オルデンドルフその人であった。 


 オルデンドルフはあの戦いで左目と左腕、そして第三次ソロン海海戦で不随となっていた右足を失いながらも豪州ブリスベルの軍病院に搬送され奇跡的に一命を取り留めた。

 その後は彼の強い要望で応急修理を終えたアイオワ級3隻と共にコメリア本土に帰国し鬼気迫る勢いでモンタナ級戦艦部隊の編成とその指揮官になる事を熱望したが、彼に与えられたのは近代化改装を施された旧式戦艦部隊だった。


 これは『お前はもう魔王(サタン)に関わるな』と言うニミッツの意思表示で有り温情でも有った。

 本来なら最新鋭戦艦であるアイオワ級を無理な攻勢で失った責任を問われ閑職に追いやられても不思議では無かったが、何故か(・・・)キングとキンメルの強い擁護が有り現役復帰を許された。

 だが、オルデンドルフの魔王(サタン)への異常な復讐心は彼本人を破滅に導き周囲を危険に晒すと感じたニミッツは魔王(やまと)と戦う機会が皆無で有ろう旧式戦艦群を彼に当てがったのである。


「《閣下、確かに本艦は速度と防御力は従来のままでは有りますが、射撃能力に関してはレーダー射撃が可能となっており、命中精度に置いてサウスダコタ級やアイオワ級に決して劣る物では有りません!》」


 自分の目の前で乗艦(コロラド)旧式(ロートル)と誹られた艦長がその不快感を表情には表す事無く異を唱えた。 


「《……ちっ、分かった分かった、同じ死に損ないでもこの艦は新たな能力(ちから)を手に入れワシは真面に歩く事すら出来ぬ衰えぶり、役立たずの旧式(ロートル)はワシだけと言う事だな?》」


「《えぇえっ!? い、いえ私は決してその様な事は言っておりませんっ!! 私はただ、本艦はまだまだ一線級で戦えると言いたかっただけでありますっ!!》」


 オルデンドルフの自虐に艦長は慌ててそれを否定する、周囲の参謀達は呆れと言うか疲れた表情を浮かべており、溜め息をなんとか我慢しているのが目に見えて分かる。


 実は旧式戦艦部隊の司令官に就任してからと言うものオルデンドルフは終始この様な調子で有った、事ある毎に不満を口にし、それを否定されても肯定されても自虐に走る。

 周囲の部下にとっては上官の自虐を肯定する事は出来ない為、彼が自虐を口にする度に子供をあやす様に擁護の言葉を言い続けねばならず、皆精神的に困憊して来ていた。


「《そうかね? では射撃を許可する、一線級の働きと言うものを旧式(ロートル)のワシに見せてくれたまえ……》」


 参謀以下部下達はオルデンドルフの自虐に辟易としながらも各艦に砲撃指示を出して行く、それを受けた11隻の旧式戦艦は次々と主砲を左舷に向け、そして一斉に主砲が火を噴いた。


 この時、打撃巡洋艦を主軸とするターナー艦隊はまだ砲撃を開始しておらず、11隻の旧式戦艦の一斉射撃がキルバード攻略艦隊と日輪第九艦隊との戦いの開始の合図となった。


 日輪第九艦隊はオルデンドルフ艦隊からの砲撃による水柱によって米艦隊に接近されていた事を知り、慌てて反撃態勢に入った。


 とは言え、この時点では日輪第九艦隊には敵の正確な位置は掴めておらず、遠藤提督は左舷側を集中的に索敵し、比較的近くに展開していたターナー艦隊の一部を捕捉する事に成功する。


 だがそれは日輪第九艦隊の右舷に展開していたポウノール艦隊の自由を許し、ポウノール艦隊は日輪第九艦隊の退路を塞ぐ事に成功する、結果日輪第九艦隊は米艦隊に包囲されてしまう事になった。


 包囲作戦を取った米艦隊は駆逐艦による魚雷攻撃は行わず日輪艦隊の視覚範囲外からの砲撃を優先して行った。

 旧式戦艦11隻による一斉射撃も圧巻で有ったが、日輪艦隊にとって脅威となったのはターナー艦隊の主力艦で有るデモイン級打撃巡洋艦3隻の砲撃であった。


 最新鋭巡洋艦で有るために練度が低い事と、新型のレーダー射撃装置に不備が発生した事で命中精度は良いとは言えなかったが、その連射性能は主に駆逐艦で編成される日輪第九艦隊にとっては下手に近づけない非常に厄介な相手となった。


 デモイン級打撃巡洋艦は全長296m、全幅33m、バイタルパートは対30cm砲防御を持ち、速力は60ktで主砲に28㎝3連装速射砲を4基、副砲は上部建造物左右に15cm連装汎用砲を片舷5基、両舷10基を備える。

 それらの砲は全てレーダー射撃の制御下に有り、射撃統制システムに於いてはアイオワ級戦艦を凌ぐ性能を有している。


 特に主砲の28㎝3連装速射砲の連射速度は驚異的で、1分間に36発の射撃を可能としている。

 但し、練度不足と射撃装置の不備により現状はカタログスペックの性能を引き出せてはいないが……。


 それでも1分間に400発近い砲弾を撃ち出してくる打撃巡洋艦の火力の前に日輪第九艦隊はデモイン級に近づく事が出来なかった。


 そうして日輪艦隊が攻めあぐねている間に、各艦の損傷は拡大していき、遂には重巡愛宕(あたご)の被弾によって遠藤提督が重傷を負ってしまう。

 更に軽巡那珂(なか)と駆逐艦早潮(はやしお)夕雲(ゆうぐも)が撃沈され、形勢不利を悟った日輪第九艦隊は戦線離脱を決断する。


 だが、米艦隊の包囲網を突破するのは容易では無く、駆逐艦夏潮(なつしお)初風(はつかぜ)、そして旗艦である重巡愛宕(あたご)までもが撃沈され遠藤提督は艦と運命を共にした。


 その後、米艦隊は掃討戦に移り、追撃艦隊の進路上を横切る形となってしまった日輪第五艦隊は甚大な損害を被る事になるのである……。


 ・


 ・


 翌20日 4時50分


「《グァハハハハハハハッ!! さぁ間も無く夜明けだ!! 蹂躙の時間だっ!! 矮小なジャップ共を塵になるまで磨り潰せぇええっ!!》」


 夜明け前のまだ薄暗い空に響くハルゼーの高笑い、それを尻目に21隻の空母から1000機を超える航空機の群れが飛び立って行く。


 この後は、1000機の航空機と55000名の上陸部隊による一方的な蹂躙が行われる事になるのである……。


  ~~登場兵器紹介~~


◆デモイン級打撃巡洋艦

 全長296 (メートル) 全幅33 (メートル) 最大速力60kt 

 側舷装甲:40㎜~300㎜コンポジット装甲(最大厚防御区画45%)

 水平装甲:20㎜~150㎜コンポジット(最大厚防御区画40%)

 武装:28㎝三連装速射砲4基 / 15㎝連装汎用砲10基 / 40㎜ボフォース対空砲18基

 主機関:ゼネラル・エンジェリック式フォトンエンジン4基


 概要:コメリア合衆国が建造した大型重巡洋艦、圧倒的な砲弾投射能力と射撃レーダーリンクによる精密射撃能力を併せ持つ砲撃特化のコンセプトによって造られている。

 主砲口径と比較して巨大な艦体は、砲撃の安定性と多大な搭載弾薬数を実現しており、将来的な拡張性も非常に高い。

 防御力も自艦の主砲に20km以遠で耐えられる装甲を有しており、その設計思想は巡洋艦より戦艦に近い。

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