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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第百三話:大統領の苦悩

 1943年7月15日 コメリア合衆国首都ジェラルドDC ホワイトハウス 時刻09:30


 この日、ホワイトハウスの広場には各州約400の新聞社が集まっていた、3日前に起きた日輪軍機によるネクサスヨーク奇襲に関して大統領が記者会見を行うと発表したからである。


 集まった新聞社は有名どころでUSCトゥデイやウォールロード・ジャーナル、そしてN(エヌ)ヨーク・タイムリー等が挙げられる。 


 広場に集まった新聞記者(ジャーナリスト)達の意気込みは凄く7月と言う季節だけでは無い熱気に包まれている。

 自国の最大都市が攻撃を受けたので有るからもっと危機感から来る焦燥感に包まれていてもおかしくは無い筈だが、どうやら新聞記者(ジャーナリスト)にとっては新聞の一面を飾るネタの方が気になるようで有った……。

 ただ、Nヨーク・タイムリーやNヨーク・ポストなどのネクサスヨーク関係の新聞記者(ジャーナリスト)達が集まる場所は当事者と言う事も有ってか張り詰めた緊張感が漂っている。


 だが、更に重苦しい緊張感が充満している場所が有った、言わずもがな大統領執務室である……。

 室内にはルーズベルト大統領をはじめ、いつものメンバーであるトルーマン副大統領とマーシャル陸軍元帥にキング海軍元帥に加えて、ハル国務長官や大統領補佐官に広報担当官なども詰めている。


 その場に集まった全員の表情は暗く緊張感が漂っており、彼等にとって状況が非常に悪い事が伺える。


 さも有ろう結局ネクサスヨークを空襲した日輪機動艦隊は補足出来ず、いつまた同じような襲撃が有るかも知れないのだ


 無論、陸海軍ともに対策は取ってはいる、海軍は海防艦や駆逐艦による哨戒頻度と密度を増やし、陸軍もレーダー監視網の強化や基地航空隊による哨戒機の機数を増強するなどしている。


 だが、相手の詳細な情報が無い事から、どうしても後手に回ってしまう可能性を否定出来ず、更にこの件に関して米軍内部でも意見が分かれていた。


 単純に日輪機動艦隊が神出鬼没であるだけだと言う者や日輪軍の新型高速空母による一撃離脱戦術と考える者、超長距離小型爆撃機だと言う者も居れば、そもそも日輪軍機では無くゲイルの新型機だと宣う者までいる。


 この様に米軍上層部が敵の正体を特定出来ていない事から、現場では少なからず混乱が起きていた。


 また、目撃者からの情報をまとめた結果、日輪軍機が放ったロケット弾が誘導式で有る可能性が浮上し米技術開発局の高官が頭を抱える事態になっている。


 更に日輪軍機がばら撒いて行ったビラの内容がNヨークタイムリーやNヨークポストと言った地方紙に留まらずUSCトゥデイ一やウォールロードジャーナル等の全国紙に一面で報道された事もルーズベルトの頭を悩ませていた。


 何故ならビラに書かれていた内容が略々事実だからである……。


【貴方達の大統領と欧州各国は日煌紛争の経緯を以って我が国を悪と定め経済包囲網によって我が国を窮地に追い込んだ】


 と言う(くだり)は、この分だけ切り取れば(・・・・・・・・・・)『正義の執行』と言い訳できる、しかし……。


【だが我が国を悪と断じる諸元となった天州の地で、我が国の民がどの様な危機に瀕していたかご存じだろうか、我々は自国民を救う為に戦い、その結果として女真族(天州人)の合意の下、彼の地に秩序を齎さんが為に新国家を樹立したに過ぎない、果たしてそれが悪だろうか】


 この(くだり)は実は欧米各国の居留地も被害を受けた立場で有り不戦条約や九ヶ国条約を無視し武力行使を行い勝手に国家を樹立した事は国際的に問題では有るが、煌清帝国(前国家)とは違う国だと言う主張を展開し末端の暴走を止める事をしなかった煌華民国の認識と行動もまた国際的に問題で有る事は欧米各国も感じていた、其れを考えれば已む得ない手段であったと言えなくも無い、更に……。


【我が国が進軍するに至った親王殿下暗殺の顛末を、我が国の自作自演と宣う者達がいるが甚だ心外にて憤死に値する侮辱である、我々は断じて天州鉄道の爆破など行ってはいない、我々が現人神たる親王殿下を巻き込む事など言語道断で有り絶対に有り得ない狂気である、以って彼の暴挙は他国の策謀にて行われた凶行であると断言する】


 是に関しては当初から日輪の関与に否定的な意見も多かった、特に日輪国民の国民性(神皇の神格化)を知る者は絶対に在り得ないと断言していたし、関東軍の一部の将校が画策していた爆破計画が樋口中将の手によって阻止されていた事は欧米各国の情報機関も把握していた。

 然し天洲利権を日輪国に独占されたくない欧米各国政府はそう言った意見や情報を黙殺し、自分達に都合の良い意見や報告だけをピックアップし天洲鉄道爆破を日輪の自作自演だと結論付けた、とは言え英国を始めとする欧州各国にも『後ろ暗い歴史』が有る事から責め過ぎるのは自国の首を絞める事になると考え、日輪が絶対に(・・・・・)飲まないであろう(・・・・・・・・)妥協案を提示したのである。

 それに松岡外相はまんまと乗せられた形になったのであるが、若しこの件を改めて精査すれば欧米にとって色々と不都合な真実(・・・・・・)が明るみに出る事になるのは想像に難くない。


【四面楚歌の状況で我が国が取れる選択肢は少なく、交渉の甲斐無く米国政府より最後通牒に等しい書簡を受け取った故、已む無く日米開戦に踏み切り国を守る為に其の力を示した次第である】


 この(くだり)は日輪が自作自演の爆破事件を以って天洲国を建国し煌華民国の攻撃を誘発した、と言う前提で有れば『自業自得を棚に上げた暴挙』と一笑に付す事が出来たであろう、然し不都合な真実(・・・・・・)が明るみに出た場合(・・・・・・・・・)笑えない結果になるのは自分達の方かも知れなかった……。

 

【その結果、貴方達は何を得たのだろうか、失敗した政策を補う為の戦時特需による経済復興であろうか、兵器供与による欧州各国への多大な債権であろうか、果たして其れは失われた、そしてこれから失われるで有ろう米国民の血に値するものであろうか】


 この(くだり)はルーズベルトが最も憤慨した部分で有った、事実無根では無く図星だったからである……。

 そして実はそれだけではなく、天洲利権の殆どが欧州各国に握られていた現状を、日輪を排除する事で自国の介入する余地を得られるとも考えていたのだ、故にその部分に触れられる事はルーズベルトにとって『痛い腹を探られる』以外の何ものでもなかった。


【我が国は無力では無い、この手紙が今この瞬間、貴方達の手に在る事がその証左である、貴方達に戦う意志がある限り、我々は力の限り砲火を交え徒に血が流れるだろう、だが貴方達が平和を望むならばそれは容易い事である、何故ならコメリア合衆国は民によって成され民が成す国家だからである】


 そしてこの(くだり)もルーズベルトの頭を悩ませた、自国の最大都市に敵の爆撃機が飛来しこのようなビラを撒けたと言う事は米国の防衛ドクトリンが日輪に対して無力だと国民に知らしめてしまった事になるからだ。

 そしてこの戦争の是非を米国民に問いかけられたのも非常に拙かった、開戦以来殆ど負け続きで対抗政党の共和党や野党からだけではなく自政党である民主党の保守派からも突き上げられている現状で、国民の民意が厭戦に傾けば次の選挙どころか今の立場さえ危うくなるからである……。


 そんな状況下で行わなければいけない大統領記者会見はルーズベルトにとってはリスクでしか無いが、説明責任を果たさなければそれこそ大統領の席を失いかねない。


 つまり行くも退くも地獄なのである……。


 故に大統領執務室の雰囲気は重く張り詰めた空気に包まれているのである……。


「《はぁ……。 会見は10時からか、後30分で始まってしまうな……》」


 血色の悪い顔で執務机に項垂れるルーズベルト大統領、広場に集まっている記者達には絶対に見せられない姿である。


「《ご安心下さい大統領、我が海軍は予備役の海防艦や駆逐艦も引っ張り出し航空機の哨戒も3倍に増やしております、如何にジャップの空母が神出鬼没でもこの警戒網を抜けて都市を攻撃するなど不可能です!》」

「《陸軍におきましてもレーダー監視網の人員増強を行い、多数のB17を哨戒機として使い長時間且つ広範囲の索敵を実施しております!》」


 とキング元帥とマーシャル元帥が宣うがルーズベルトは全く反応せず、その態度にキング達の表情がムッとする。

 だがしかしルーズベルトの反応は当然であろう。

 キング元帥達が宣った内容は日輪の戦術を見破った訳では無く結局のところ只の物量頼みの力技である。 

 若し日輪軍がその物量をものともしない戦術で来ていた場合、第二第三のネクサスヨークが出る事になりかねない。

 そうなれば民意は厭戦に傾き、最悪野党や保守派によって弾劾訴追されかねない……。


 そんな崖っ淵に立たされている状況で、どうして日輪(ジャップ)に散々叩きのめされ続けている脳筋(ミートヘッド)達の言葉に安心出来ようか……。


 そう考えてしまいルーズベルトの顔色は若し此処に主治医が同席していればドクターストップを掛けかねない位に悪くなっていた。


「《大統領、もっと堂々となさって下さい、ジャップが何を宣おうが不戦条約や九ヶ国条約を反故にしたのは紛れも無い事実、例えどの様な事情が有れど許される事では有りません。 正義は我々に有るのです!!》」


 毅然とした表情でそう言い放つ知的な壮年の女性は『コーデリア・ハル』国務長官であった、ルーズベルトの命を受け、日輪帝国に最後通牒(通称ハル・ノート)を送り付けた人物である。


「《左様、その事実に多少のエッセンス(・・・・・・・・)を加えれば民意など如何様にも操作出来ます、さすればアレ(・・)を使う大義名分も立ち一石二鳥でしょう?》」


 シニカルな笑みを浮かべそう言うのは『シルベスト・トルーマン』副大統領である、彼の言う多少のエッセンス(・・・・・・・・)とは日輪帝国に在らぬ濡れ衣を着せると言う事である。


 そのトルーマンの言葉を聞いたハル国務長官は眉を顰め彼を冷ややかな視線で睨む、彼女はトルーマンの意図に気付いておりアレ(・・)が何を指すのかも知っているようである。

 その為、人権派で有る彼女はトルーマンに良い印象は抱いていないようであった。


「《……副大統領、アレ(・・)に関しては急いで答えを出さないよう言った筈だ、日輪(ジャップ)は現に虐殺は行ってはいない、その国に対してアレ(・・)を使えばヒドゥラー以上の大虐殺(ジェノサイド)を行う事になる……そんな非道はやはり許容できん、アレ(・・)はあくまで抑止力に留めるべきなのだ……》」


 ルーズベルトは机に片肘を付いたまま、覇気の無い声でそう言った。

 そのルーズベルトの言葉に明らかに不満顔のトルーマンが口を開いた瞬間、執務室の扉が開く。


「《大統領、間も無くお時間です》」


 扉から入って来たのは今日の演説のセッティングを担当している広報官で有った。


「《……分かった、では魔王(サタン)以上の強敵の待つ戦場に行くとしようか》」


 そう言ってぎこちない笑みを浮かべながらルーズベルトが執務机から立ち上がった……その直後。


「《う……っ!?》」


 ルーズベルトは小さく呻き声を上げた、周囲の者達は立ちくらみでもしたのかと彼を気遣い歩み寄ろうとした、その次の瞬間……。  


「《あ゛……か゛……》」


 絞り出す様な異様な呻き声を上げ、ルーズベルト大統領は何の防御姿勢も取らぬまま仰向けに倒れた……。


「《だ、大統領っ!?》」

「《た、大変だっ!?》」

「《だ、誰か医者を呼べ、早くっ!!!》」


 慌てて補佐官達とハル国務長官が駆け寄るが、この時既にルーズベルト大統領の意識は無く呼び掛けにも反応が無かった。

 この緊急事態にホワイトハウス内外は騒然となり当然で有るが記者会見は中止となった。


 そうしてルーズベルトの救急搬送が行われている最中、ジェラルドDCの上空から轟音が響き渡り、職員や報道陣の頭上を12機の航空機が編隊を成して飛来して来る。

 

「《なっ日輪軍機だとっ!?》」

「《バカなっ!? 一体何処からどうやって!?》」


 突然の、そして最悪のタイミングでの日輪軍機の来襲にキング元帥とマーシャル元帥は愕然と立ち尽くし、報道陣は上空の日輪軍機をカメラに収めようと慌しく動き出す。


 然しこの時代のカメラはシャッターを押して即撮れると言った物では無い為、報道陣がカメラを空に向けた時には日輪軍機は彼方へ飛び去って行った。


 コメリア合衆国首都ジェラルドDCに大量のビラをばら撒きながら……。



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