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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第百ニ話:日輪からの手紙

 1943年7月12日 コメリア東海岸ネクサスヨーク 時刻07:15 天候快晴


 経済都市ネクサスヨーク市はネクサスヨーク州に属するコメリア合衆国最大の都市である、その巨大都市を構成する区の一つであるブレックリン区には一目で異様と分かる光景が広がっている。

 区の中心部に直径3km程のクレーターが存在し、その中心部には女性像を備えた全高1200m程の巨大な塔が聳え立っているのである。


 但し、標高0mを基準としクレーターを地下とした場合の塔の高さは400mであり、更に頭頂部に備わっている女神像の高さ97mを除けば建物の高さとしては300m程となる。


 このクレーターはプロスペック・クレーターと呼ばれ、且つては総面積236ヘクタール(2.36平方km)を有するプロスペック公園(パーク)が存在した。


 しかしフォトン・コア・クリスタルの精製失敗によって公園を中心とする半径1.5kmが消し飛びクレータとなった、その中心部に巨塔【自由の塔(タワーオブリバティ)】が建てられ、その内部でコメリア初のフォトン・コア・クリスタルが精製される。

 そのフォトン・コア・クリスタルを基部とし自由の塔(タワーオブリバティ)内部で建造されたのがコメリア初のフォトン・コア・リアクター【リバティハート】である。


 自由の塔(タワーオブリバティ)は東西南北に約1.4kmの橋が架けられクレーター外縁と繋がれていて、そのクレーター外縁から500mの範囲は国有地となっており軍の施設が疎に存在している。

 その更に先には整然と区画整理された閑静な住宅街が広がっており、区南沿岸部には遊園地や劇場、美術館などが立ち並ぶ。

 市全体で人の往来は盛んであり、特にブレックリン区と隣接するマンハッター区のタイムリースクエアはとても戦時下とは思えない賑わいを見せている。


 そんな巨大都市から南東200kmの海中に人知れず忍び寄る4つの影が在った。

 日輪第六艦隊第九戦隊の伊号400型潜水艦4隻である。

 

 航続距離の関係から伊301は戦隊から外れており、旗艦は伊401潜が引き継いでいる。

 

「そろそろか、伊401潜望鏡深度に浮上せよ!」

「潜望鏡深度に浮上よ〜そろっ」


 第九戦隊司令の原田提督が懐中時計に目線を向けた後、潜望鏡深度へ浮上の指示を出し、艦長がそれを復唱すると伊号401潜の両舷から一気に気泡が発生し、その艦体がゆっくりと海面に向かって浮上し始める。

 そして潜望鏡深度に達すると艦橋(セイル)上部から潜望鏡を海上に伸ばし周囲を確認する。


「よし、付近に艦影は無いな、全艦メインタンクブロー! 海面に浮上するぞ!」


 原田提督の指示によって先ず伊401潜がゆっくりと海面に姿を表し、その直後に残りの3隻も浮上して来る。


 朝の光が眩しい大西洋の海原に浮かぶ4隻の巨大潜水艦、その艦橋(セイル)前部が重々しい駆動音と共に上へと折れ上がり、解放された艦橋(セイル)内部から独特の形状をした航空機が迫り上がって来る。

 更に前部甲板が左右に開くと中から航空機射出機(カタパルト)が姿を現す。


 航空機は艦橋(セイル)から射出機(カタパルト)まで滑り出すと複雑に折り畳まれた主翼を鳥が翼を広げるが如く左右に大きく展開し晴れ渡る蒼空へと飛び立つ準備を整える。


 この伊400型から現れた航空機は晴嵐(せいらん)二型と呼称される垂直離着艦可能な特殊艦上攻撃機である。

 噴進機は双発で最大速力は時速1080km、複座で固定武装は後部遠隔機銃が1基装備されており搭載武装は胴体下部に航空魚雷1本か800kg爆弾1発又は600kg遠隔誘導噴進弾1発を装備可能で、後部座席には噴進弾と機銃兼用の遠隔操作用のモニターや操縦桿などの機器が詰め込まれている。

 速力こそ亜音速を叩き出すものの運動性能は極めて劣悪で急降下爆撃は出来ず、水平爆撃や雷撃の精度も良好とは言い難い、つまり実質的に遠隔誘導噴進弾の使用を前提とした機体と言える。


 その遠隔誘導噴進弾、正式名称は三式遠隔誘導噴進弾・桜花ニ一型で有るが、名称の通りモニター越しの遠隔操作(リモートコントロール)によって標的に誘導する方式を取っている誘導弾(ミサイル)である。

 無論これは自律誘導弾が開発されるまでの繋ぎと言うか妥協の産物であるが……。


「一番艦から四番艦の晴嵐全機発艦準備完了!」

「うん、では行こうか、晴嵐全機発艦始め!!」


 戦隊旗艦、伊401潜の原田提督より発艦始めが下令されると、4隻の巨大潜水空母から晴嵐が次々と勢い良く射出され蒼空へと飛び立って行く、その数は僅か12機で有るが、敵の主要都市を直接叩ける兵器は現状グロースゲイルのV2ロケット弾以外には存在しない。


 つまり伊400型による潜水機動艦隊の構想が有用で有ると示されれば米国の防衛ドクトリンに重い負担を強いる事が可能となるのである。


『連隊長より各機へ、目標はネクサスヨーク市、高度300m速力300kt(時速約555km)を維持し我に続けっ!!』


 無線に響く晴嵐隊連隊長の言葉に全機が『了解!』と応じると12機の晴嵐は一斉に加速し羅針盤を頼りに針路を取る。


 12機の晴嵐は6機づつ機体下部の兵装が異なっている、半数は巨大な誘導噴進弾桜花(おうか)ニ一(にいいち)型を抱え、もう半数は滑らかだが四角い形状の箱の様な物を抱えている。


 時刻は08:30、晴嵐隊は前方にネクサスヨークと思しき都市を確認する、母艦から飛び立ち既に十数分が経過しているが未だ迎撃機が上がってくる様子は無い。


 ネクサスヨーク周辺には複数の対艦対空レーダーが設置されているが、高度300mで飛行する航空機を捉える事は中々に難しい。

 そも仮にレーダーに映ったとしても戦時下で有るが故に平時に比べて航空機の往来は激増しており、いちいちレーダーに映る機影と飛行計画表(フライトプラン)を照らし合わせるなどやってられない、と言うのが航空管制の本音であった。

 無論、マニュアルに置いては1機1機確認する事が義務付けられてはいるのだが……。

 しかし海戦から既に1年と8ヶ月が過ぎ米本土には銃弾1発も撃ち込まれていない状況で常駐戦場の精神を持ち続ける事は難しい……。


 その為、若し晴嵐隊が高度4000m程で飛行していたとしても米管制官は訓練中の味方機と思い込み問題無くネクサスヨーク上空に辿り着けた可能性は高かっただろう。


 それはかつて南雲機動艦隊を捕捉しながらも味方の演習と思い込み翠玉湾奇襲を許した二の舞になりかねないが、人間(ひと)は過ちを繰り返す生き物なのである……。


『間もなくネクサスヨーク上空、我々『威嚇班』はブレックリンの自由の塔(タワーオブリバティ)へ向かう『配達班』一班はマンハッターへ、二班は上空待機!!」


 晴嵐隊連隊長の指示が無線から響くと全員が『了解!』と応じ、噴進機の出力を上げ最大速力で三手に分かれて巨大都市の中枢へと突っ込んで行く。


 上空で空気を切り裂く轟音と見慣れぬ機影を目視したネクサスヨーク州軍は此処に来て漸く異変に気付き、慌てて航空部隊に緊急出撃(スクランブル)を掛ける。


 だが州軍航空隊のパイロットが愛機に駆け出した時には既に日輪軍機はネクサスヨーク上空に達し自由の塔(タワーオブリバティ)の周囲を旋回していた。

 この明らかな異常事態にブレックリンの住民も空を見上げ事態を把握すると閑静な住宅街は騒然となった。


自由の塔(もくひょう)視認!』

『桜花の投下準備完了、何時でも行けますっ!!』

『よし、一番機から六番機、全機投下っ!!』


 その連隊長の号令により6機の晴嵐から一斉に桜花が切り離されると噴進機が点火され一気に機体前方へと押し出される。


『桜花一番機、切り離し成功、遠隔操縦を開始しますっ!!』


 晴嵐後部座席の搭乗員が素早く周辺機器を操作し、桜花から送られて来た映像を凝視しながら操縦桿を握り締め僅かに左に倒す。

 その動きに連動し桜花の主翼の昇降舵と尾翼の方向舵が細かく駆動し機体を制御している。 


 遠隔誘導噴進弾桜花(おうか)は厚めのテーパー翼と水平垂直尾翼を持つ、名称は噴進弾(ミサイル)であるが、形状から見れば無人航空機(ドローン)と言って差し支えない。


 機首先端にはレンズが填め込まれ、その奥にはカメラが仕込まれている、その映像は晴嵐後部座席のモニターに投影され、その映像を確認しながら操縦者が遠隔操作するのである。

 炸薬量は800k爆弾には及ばない600kであるが、様々な技術が詰め込まれている以上仕方ない事であろう。

 そもそもこの桜花ニ一型は一式陸攻に搭載予定で有った桜花一一(いちいち)型(炸薬量1.2t)を艦上攻撃機用に改良したものであり、かなり無理の有る小型化と軽量化を施した物で有るから600kと言う炸薬量は技術者に勲章を送っても良いくらいである。 


 自由の塔(タワーオブリバティ)上空を旋回する晴嵐から放たれた6機の桜花は、遠隔操縦によって大きく螺旋軌道を描きながら音速に近い速度で瞬く間に塔へと迫る。


『軌道安定、目標地点への弾着まで5,4,3,2,1,今っ!!』 


 次の瞬間、自由の塔(タワーオブリバティ)周辺から轟音が響き渡り爆炎と共に土煙が舞い上がる。


「《に、日輪軍機(ジ、ジャップ)の空襲だぁあああああっ!!》」

「《何て事だ!!(オーマイガッ!!) 自由の塔(タワーオブリバティ)が攻撃されたのかっ!?》」

「《そんなっ!? リアクターへの攻撃は国際法違反でしょっ!?》」

「《日輪国(ジャパニア)は国連から脱退している、国際法なんぞ守るものかっ!!》」


 自由の塔(タワーオブリバティ)の周囲で起こった爆発にブレックリンの住民はパニックになるが、畳みかける様に上空で待機していた日輪軍機が何かを散布し始める、ブレックリンとマンハッター上空から散布されたそれは住民達からはピンク色の粉末に見えた。


「《な、何だアレはっ!?》」

「《ど、毒ガス……毒ガスだぁあああああっ!!》」

「《おお、神よ……っ!!》」

「《ひ、ひぃいいいっ!!》」

「《嫌よ、死にたく無いわっ!!》」

「《た、助けてくれぇえええええっ!!》」


 上空から降り注ぐそれにブルックリン区とマンハッター区の住人達は完全にパニックとなり悲鳴と叫び声を上げながら行く当ても無く逃げ惑う。


 そんな彼らを他所に日輪軍機の撒き散らしたピンク色のそれは遂に地上へと到達する。


「《うわぁああ……ん……? な、何だこれは……毒ガスじゃない、紙だ! これは……フライヤーだ、日輪語と英語で書かれた只のフライヤーだぞ!!》」

「そ、それに塔も無傷だぞ、日輪軍機(ジャップ)の爆弾は全てクレーターに着弾している!!》」


 舞い落ちて来るピンクの物体が只のビラだと気付いた住民達は僅かに落ち着きを取り戻し、攻撃されたと思われた自由の塔(タワーオブリバティ)も無傷である事にも気付く。

 そうすると今度は住民達の関心が日輪軍機のばら撒いて行ったビラに集中する。


 ピンク色で15cm×20cmサイズの材質の良い紙に日の輪と桜の御紋が(あしら)われ、その裏側には日輪語と英語で文字が書かれていた。


【米国民に問う・貴方達の大統領と欧州各国は日煌紛争の経緯を以って我が国を悪と定め経済包囲網によって我が国を窮地に追い込んだ

 だが我が国を悪と断じる諸元となった天州の地で、我が国の民がどの様な危機に瀕していたかご存じだろうか

 我々は自国民を救う為に戦い、その結果として女真族(天州人)の合意の下、彼の地に秩序を齎さんが為に新国家を樹立したに過ぎない、果たしてそれが悪だろうか


 我が国が進軍するに至った親王殿下暗殺の顛末を、我が国の自作自演と宣う者達がいるが甚だ心外にて憤死に値する侮辱である

 我々は断じて天州鉄道の爆破など行ってはいない

 我々が現人神たる親王殿下を巻き込む事など言語道断で有り絶対に有り得ない狂気である


 以って彼の暴挙は他国の策謀にて行われた凶行であると断言する


 然るに何故欧米各国は我が国を悪と決め付け煌華民国を支援し剰え我が国に制裁を加え窮地に陥れたのか

 其の四面楚歌の状況で我が国が取れる選択肢は少なく、交渉の甲斐無く米国政府より最後通告に等しい書簡を受け取った故、已む無く日米開戦に踏み切り国を守る為に其の力を示した次第である 

 その結果、貴方達は何を得たのだろうか

 失敗した政策を補う為の戦時特需による経済復興であろうか

 兵器供与による欧州各国への多大な債権であろうか

 果たして其れは失われた、そしてこれから失われるで有ろう米国民の血に値するものであろうか


 我が国は無力では無い、この手紙(てがみ)が今この瞬間、貴方達の手に在る事がその証左である


 貴方達に戦う意志がある限り、我々は力の限り砲火を交え徒に血が流れるだろう

 だが貴方達が平和を望むならばそれは容易い事である

 何故ならコメリア合衆国は民によって成され民が成す国家だからである


 以って我々は貴方達が正しい選択をする事を切に期待するものである】


「《……な、何だこれはっ!! これではまるで私が……忌々しいジャップ共めっ!!》」


 ビラの文章を読みワナワナとビラを持つ手を震わせながら声を張り上げたのは誰あろう、コメリア合衆国第32代大統領フリクソン・ルーズベルトその人であった。


 此処はコメリア合衆国首都、ジェラルドDCの中枢ホワイトハウスは大統領執務室である。


 その部屋にはいつものメンバー(・・・・・・・・)である副大統領のトルーマンと陸軍参謀総長マーシャル元帥とそして合衆国艦隊司令長官キング元帥が立っている。


 そして例によってマーシャルとキングの顔色はすこぶる悪かった……。


「《……それで? 何故ジャップの戦闘機がネクサスヨーク上空を飛ぶ等と摩訶不思議な現象が起きたのか、私にも分かる様に説明してくれるのだろうな?》」


 そう言うルーズベルトの声はドス(・・)が効いており、その表情には陸海軍のトップ2人に対する憎悪すら見て取れた。


「《……!》」

「《…………っ!?》」


 そして例によって目線で互いに責任を擦り合う2人、ある意味阿吽の呼吸を披露する2人は最早親友か恋人の域に達していると言っても過言では無いだろう……。

 

「《あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! 何故海軍は日輪空母を補足出来なかった!? 何故陸軍は敵機を迎撃出来なかった!? 貴様等の頭に脳味噌が付いているならさっさと私に納得の行く説明をしろぉおおおっ!!》」 


 毎回毎度と繰り返されるコントの様な陸海軍のトップ達の行動に、遂にルーズベルトの忍耐が我慢の限界に達し再び格式高く歴史深いホワイトハウスの大統領執務室に米国最高の紳士の奇声に近い怒号が響き渡った……。


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