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架空戦史・日輪の軌跡~~暁の水平線~~  作者: 駄猫提督
第一章:東亜太平洋戦争
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第一話:日輪の落日

 ……これは我々の世界と歴史や国家背景が酷似しつつも全く別の世界の話……


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 18世紀半ば、北方の大国ブリタニアス連合王国エイグランドで一人の女性科学者エルデティーナ・フォトンが提唱し実現させた無尽蔵のエネルギー発生装置、フォトン・コア・リアクター、そしてその力を利用して精製される超金属エルディウム合金、それらは世界に大産業革命を起こした。


 当初その力を独占しようとしたエイグランドであったが、その目論見はエルデティーナ・フォトンの裏切りによって瓦解する、彼女は全世界に向けてリアクターの核であるフォトン・コア・クリスタルの精製方法を開示したのである、クリスタルの精製に適した『理力の泉』の場所と、精製失敗による甚大なリスクと共に。



 それでも各国は夢のリアクターを求め、精製を強行する、その結果、百数十年の間に幾つかの都市や町が壊滅、若しくは消滅する、その中には大都市も含まれていた、ゲルマニア帝国の首都リヒト・ベルリン、コメリア合衆国の経済都市ネクサス・ヨーク、そして大日輪帝国の帝都皇京である。


 結果として1930年までにフォトン・コア・リアクターの所有に成功したのはブリタニアス連合王国、フランジアス共和国、ロシエト連邦(旧ロシエ帝国)、ポーラスカ共和国、コメリア合衆国、大日輪帝国の6ケ国であった。


 そして各国はこの夢のエネルギーと超金属を当然の如く軍事利用していた、鋼鉄よりも遥かに強靭で軽いエルディウム合金で作られた兵器はより強くより速くより大きく……。


 数々の紛争や戦争、そして第一次世界大戦を経て、兵器はより巨大に膨れ上がっていた、それによる経済の破綻を恐れた各国はワシントン軍縮条約を締結し兵器の膨張は止まったかに思われた、しかしそれは虎視眈々と牙を研ぐ大戦敗戦国に隙を与える事にも繋がっていた。


 そして1939年9月1日、先の大戦の敗戦国、ゲルマニア共和国はフォトン・コア・リアクターを求めて隣国、ポーラスカ共和国へと侵攻する、これが後に、第二次世界大戦と呼ばれる戦いに発展する事になるのである。


 そしてそれは、日煌戦争真っただ中にある極東の軍事国家、大日輪帝国に巨大な火の粉となって降り注ぐのであった。


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 時に1941年12月8日未明、大日輪帝国はコメリア合衆国に対し宣戦を布告、時を同じくして海軍機動艦隊(南雲艦隊)によってコメリア合衆国準州、ハロイ諸島、オフス島の翠玉湾エメラルドハーバーを奇襲し敵主力艦隊の殲滅に成功する。


 その後、日輪陸海軍は破竹の勢いで連戦連勝を重ねた、そして戦争の早期終結の為に連合艦隊司令長官『山本(やまもと) 五十八(いそはち)』は北太平洋に位置するミッドラン諸島攻撃を提案する。


 ミッドラン諸島は3つの大島と5つの小島が並ぶ環礁域であり、米航空基地が存在し現在も増設中であった、その為、日輪軍は大艦隊を以て是を占領、若しくは破壊、そしてそれを護衛する米機動艦隊を撃滅せしめ、米国の太平洋の前哨基地であるハロイ諸島を占領し其れを以て和平交渉へと繋げる算段であった。


 1942年6月6日未明、山本司令長官の思惑を乗せ、北太平洋を驀進する大艦隊は南雲機動艦隊、空母赤城(あかぎ)加賀(かが)飛龍(ひりゅう)蒼龍(そうりゅう)を擁する常勝無敗の無敵艦隊である。


 4隻の空母はどれも全長300m(メートル)を超える巨躯で、巡航速度25ノットで驀進している、その飛行甲板の後方には既に20機程の軍用機が露天駐機されていて機体をワイヤーで甲板に縛り付けてある、主翼に双発のロケットエンジンを搭載するその機体は日輪海軍の[九七式艦上攻撃機]通称九七艦攻である。


 そして飛行甲板前部からせり上がって来た昇降機には鳥の(くちばし)の如く鋭利な機首、滑らかな曲線の胴体に同化する幅の広い切り欠き三角(クリップトデルタ)翼と水平尾翼に単垂直尾翼を持つ銀色の単発戦闘機が載せられている、これこそが現行最強の戦闘機『零式艦上戦闘機ニ型』通称『ゼロ戦』である。


 その形状はこの時代に在って現代ジェット戦闘機のそれで有り、その容姿は航空自衛隊のF2に似ていると言って差し支え無いが、外観で大きく違うのは機体に空気取り込み口(エアインテーク)が存在しない事であろう。


 F2に似た外見を持ちながらも機体下部に空気取り込み口(エアインテーク)が存在しないこの世界の零戦(ゼロセン)はF2を知る者から見ると少し違和感を覚える外観をしていると言える。


 然しそれは当然であり、この世界の軍用機の殆どは蒼燐(そうりん)(フォトンの和名)推進を搭載したロケット戦闘機で有る為、空気取り込み口(エアインテーク)を必要としないのである。


「ふむ、そろそろだな、敵機動艦隊は発見出来ず、か、ならば予定通り、攻撃目標をMIと定める、第一次攻撃隊、九七式爆装隊の出撃準備急げ!」


 懐中時計に目をやり南雲機動艦隊旗艦赤城の艦橋で指示を出したのは、他でも無い、日輪海軍第三艦隊司令官『南雲(なぐも) 忠行(ただゆき)』海軍中将その人である。


 南雲の指示を受けて各航空母艦の飛行甲板は慌ただしくなる、[九七式艦上攻撃機]の爆装を最終点検し、直援機である零戦を空に上げる為である、因みにこの世界の艦上機には雷撃機、爆撃機と言う区分は無い、したがって九九式艦爆は存在せず、雷爆両方を運用する場合は九七式爆装隊、九七式雷撃隊と言う略称が使用される。


 日輪海軍艦上攻撃機、通称九七艦攻は最大速力720㌔、搭乗員は3名で武装に後部12㎜機銃1門を常設しており、主武装は800㌔蒼燐爆弾1発或いは300㌔蒼燐爆弾2発若しくは50㎝航空蒼燐魚雷1つを搭載する。


 そして日輪海軍が誇る常勝無敗の零式艦上戦闘機、通称零戦(ゼロセン)、その性能は最大速力850㌔、搭乗員は1名、武装に20㎜機関砲を2門装備する、機体下部の爆弾の様な形の増槽(タンク)には使い捨ての蒼燐蓄力器(フォトンバッテリー)が入っており、これによって実に3000km以上の航続距離を持つのである。


「南雲司令、各艦より、出撃準備完了との事です! 常勝無敗の南雲機動艦隊の力、鬼畜米帝に見せつけてやりましょう!」


 拳を握り締め目を輝かせるのは南雲艦隊参謀長『草鹿(くさか) 竜之助(たつのすけ)』である。


「ふむ、一航戦、ニ航戦共に第一次攻撃隊順次発艦! 敵航空基地を破壊せよっ!!」


 南雲の号令を受け、月光に照らされる飛行甲板から次々と航空機射出装置(カタパルト)で漆黒の空へと飛び立っていく日輪軍機は一路攻撃目標であるMIはミッドラン諸島を目指す。


 ・

 ・

 ・


 南雲機動艦隊後方約300kmには山本司令長官率いる主力艦隊が展開していた。


 最新鋭戦艦紀伊(きい)を旗艦とし長門(ながと)陸奥(むつ)扶桑(ふそう)山城(やましろ)等の戦艦隊を主軸とした打撃艦隊群の目的は米航空部隊撃滅後のMI制圧である。


 その為主力艦隊は多数の駆逐艦や巡洋艦に守られており艦隊後方には海軍陸戦隊の上陸部隊が追従している。


 戦艦長門は長年連合艦隊旗艦を務めてきた世界ビッグセブンに数えられる優秀な艦であるが流石に20年の差は歴然である為、戦艦紀伊にその座を譲った。


 しかしそれでも全長320m(メートル)、全幅46m(メートル)の艦体に搭載された主砲、51㎝連装砲4基は未だ非常に強力な火力で在りその存在感は侮れない。


 たがやはり最新鋭であり全長370m(メートル)、全幅54m(メートル)の巨躯に60㎝三連装砲5基を搭載する紀伊と並んでしまうと見劣りはしてしまうが……。


 因みに、この世界の艦艇は排煙を必要としない為、煙突が存在しない。


 その為、艦橋は艦体中央にあるのが普通であり長門や扶桑もその例に漏れてず真横から眺めると綺麗な山形を形成しており美しい。


 紀伊は艦体やや後方に設置されている為、山形は崩れてはいるが艦体とのバランスが取れているので其れはそれで美しいと言えるだろう。


 また艦橋は前艦橋と後艦橋が合わさっており、マストが前後どちらからか伸びていると言う設計を用いているがこれは艦型や国家によって若干の違いが有る。


「そろそろかな?」


 戦艦紀伊の艦橋内で備え付けられた椅子に座りそう呟いたのは連合艦隊司令長官山本五十八海軍大将である、少し恰幅の良い温和そうな雰囲気を持つ軍人然としていない人物である。


「そうですね、米機動艦隊が発見出来ていれば良いのですが……」


 山本の呟きに返答するのは連合艦隊副指令『伊藤(いとう) 誠司(せいじ)』海軍少将で、山本とは対照的な細身の紳士である。


 現在艦隊は無線封鎖をしている為、余程の緊急事態でなければ通信や電文が入る事は無い、便りが無いのが良き便り、と言う事である、しかし逆にもし何らかの通信や電文が入る事が有るとすればそれは予想外の事態が起こったと言う悪い知らせであると言える。


 そして数時間後、紀伊の通信兵は飛び上がる事になった。


「ちょ、長官!! た、大変です! 赤城が敵艦載機の爆撃にて大破炎上との電文が……っ!!」


「 「 「 「 「 ーーっ!? 」 」 」 」 」


 その通信兵の言葉に紀伊の艦橋内に戦慄が走った、常勝無敗の南雲機動艦隊、敵を発見さえ出来れば撃滅したも同然、そう思っていた、然し電文に載っていたのは【アカギ テキ カンサイキ ノ コウゲキ ウク タイハ エンゼウ】と言う信じられないモノであったのだ。


 そして山本の悪夢は続いた、赤城(あかぎ)大破炎上の電文から僅か10分後、今度は加賀が大破、その更に15分後蒼龍(そうりゅう)が敵潜水艦の雷撃を受けて大破、残る空母は飛龍(ひりゅう)一隻だけとなってしまっていた。


「……っ! 長官……」


 伊藤が沈痛な面持ちで山本を見る、山本は椅子に座ったまま目を伏せ何も語らない……。


 その後、単艦で奮戦した飛龍の活躍で米空母ヨークタウンを撃沈したものの、反撃にあった飛龍は米艦載機と基地航空隊の総攻撃を受け爆沈。


 魚雷を受け大破した蒼龍も浸水が激しく沈没。


 加賀は弾薬庫の爆弾に引火し大爆発を起こし轟沈。


 赤城は最後まで浮いてはいたが航行不能で有った為、駆逐艦舞風(まいかぜ)の魚雷により自沈処分された。


 常勝無敗を誇った南雲機動艦隊は初の敗戦で主力空母4隻と熟練操縦士を失い、事実上壊滅した。


 この戦いで有能な士官もまた多く命を落とし、南雲中将も赤城と運命を共にした、空母以外の損害は軽微であり重巡三隈(みくま)が大破したものの航行は可能であり何とか生還し、生存者救出に当たっていた駆逐艦隊も大した被害は出なかった。


 無敵を誇った南雲艦隊のまさかの大敗の原因は難しい決断を迫られた結果の判断ミスと、そして慢心であった。


 ミッドラン基地への第二次攻撃隊の爆装準備をしていた矢先、駆逐艦磯風(いそかぜ)より【テキ クウボ ミユ】の電文を受けた。


 その為、急遽攻撃隊の爆装を雷装に変更していたが、その時甲板上に取り外した爆段が放置されたままになっていたのである。


 そして直援機の零戦を上げようとした時、第一次攻撃隊が帰還して来た、もし発艦を優先すれば帰還して来た友軍機は動力切れで墜落する、だが、着艦を優先すれば敵機が襲来して来た時に無防備となる、南雲司令も悩んだが、同胞を見殺しには出来ないと着艦を優先させた。


 そしてこの時、あろう事か南雲艦隊は対空警戒を怠っていたのである、既に米攻撃機は南雲艦隊の眼と鼻の先にまで来ていた、先の電文を送った磯風が後を付けられ、艦隊の場所を特定されてしまったのだ。


 それを知らない日輪主力空母4隻は着艦作業に集中し、敵機襲来を知った時には既に目視距離にまで迫られ、一方的な爆撃を受けることになり、飛行甲板に爆弾を放置していた赤城と加賀は瞬く間に火達磨になってしまった、そして結果は周知の通りとなったのであった……。


「連合艦隊司令長官より全艦隊に達する、現時刻を以てすべての指令を破棄、全艦直ちに浜須賀(はますか)転身(・・)せよ……」


 山本が静かに言葉を発すると伊藤が復唱する様に声を張り上げ指示を出す、山本の心情では『転身』では無く『撤退』と言っても差支えなかったが、それでは納得しない艦が出ないとも限らなかったので敢えて転身と言う言葉を選らんだのである、それ程に南雲機動艦隊の大敗は日輪海軍にとって有り得ない事であった。


 第一次攻撃隊の出撃から僅か3時間、此処に世界最強を欲しいままにした日輪帝国機動艦隊は壊滅したのである……。


   ~~登場兵器解説~~


◆航空母艦赤城(あかぎ):全長320 (メートル) 全幅40(メートル) 速力50ノット 


 両舷装甲10mm~100mm(最大厚防御区画50%) 水線下装甲無し 甲板装甲10mm~50mm      

 艦載機数62機+露店駐機18機 


 兵装 12㎝連装高角砲4基 35mm三連装機銃24基


 装備 航空機用エレベーター2基  八九式油圧カタパルト2基


 主機関 ロ号艦本八七式蒼燐蓄力炉 6基


 概要:ワシントン軍縮条約で破棄された巡洋戦艦の艦体を改装して造られた航空母艦、新型の飛龍(ひりゅう)型や翔鶴(しょうかく)型よりも使い勝手が良かった為に加賀(かが)同様、一航戦の母艦として運用される。




◆戦艦紀伊(きい):全長370 (メートル) 全幅54(メートル) 速力45ノット 180度主砲旋回速度:30秒


 両舷装甲100㎜~700㎜一式複合装甲(最大厚防御区画70%)

 甲板装甲40㎜~400㎜一式複合装甲(最大厚防御区画75%)

 水線下装甲20㎜~120㎜一式複合装甲(最大厚防御区画70%)


 兵装 60㎝三連装砲5基(前部3基 後部2基) 15㎝連装汎用砲12基(上部構造物両舷)

    35㎜三連装速射機関砲30基


 主機関 ロ号艦本九七式蒼燐蓄力炉 6基


 概要:日輪海軍が煌華大陸の統治領、旅仁港の海軍工廠で建造した新型戦艦、艦容は日本海軍の大和型戦艦(最終偽装)に酷似しているが、当然ながら煙突が無い事と副砲部分が主砲に置き換わっている差異が有る、尚本艦の複合装甲とは神白鋼(かむしらがね)装甲板の内側に緩衝機構を備えた装甲の事を指す。



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