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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第四十九章「調停の影」

 第四十九章「調停の影」


 「さあ、かけたまえ。」

 ヴルカルは、セレト達にいつものように語り掛ける。

 最もその身は、以前の彼とは全く違ったものとなっていたが。


 「ありとうございます。」

 セレトは、わざとらしい笑みを浮かべながら、勧められた椅子に腰を掛ける。

 アリアナと、リリアーナも、セレトに合わせて席に着くのを視界の端で確認をしながら、セレトは、今一度、目の前のヴルカルの様子を眺める。


 少なくとも、ヴルカルが生きていることは、その体内を流れている魔力の様子で分かった。

 だがその眼に生気はなく遠くを見つめているし、何よりその身体は、黒い繭のようなものに覆われ、そこから手足の代わりに、虫の足のような物体が多数生えている。

 そんな風に眺めているセレトの前で、ヴルカルの身体から生えている虫の足のような物体は、新たに身体から生え、そしてまた別の足が身体の中に引っ込んでいく。

 そして胴体に当たる黒い体は、不気味に色を変えながら脈動を続けていく。


 「さて、どういうことか説明をしてほしいものだな。」

 セレトは、ヴルカルを眺めていた視線をユラに移しながら、彼女に問いかける。

 少なくともこの状況を作り上げたのは、ユラであろう。

 そうであるなら、操り人形に成り下がったヴルカルと話すより、彼女と直接話をした方が、物事が手早く進む。


 「おや、話す相手が間違っておりますよ。ひひひ。」

 だが、ユラは、そんなセレトに対し冷やかすような態度で言葉を返す。


 「そうだな。さて、セレト卿。現況を教えてくれ。」

 そして、ヴルカルも、ユラに合わせるような形でセレトに声をかけてくる。

 最もその声は、いつも通りのヴルカルの声でありながら、こちらに向けられた視線は、どこか遠くを見ているようにも感じられるものであったが。


 「いやはや、閣下失礼いたしました。ただ、現状がわからぬままこの場に来てしまいまして、急な展開に些か理解が追いついていないといいますか。」

 セレトは、そんなヴルカルに対し、頭を下げながら言葉を返し、思考を進める。

 いずれにせよ、ここは、状況に合わせて立ち回るのが得策であろう。


 「ふむ。そうだな。まあこちらの状況は、おいおい説明するとして、セレト卿、それは何だね?」

 そんなセレトに対し、ヴルカルは、わざとらしく頭を傾けながら、多数生えている昆虫の足のような物の一本を伸ばし、一か所を指さす。

 その伸ばされた先には、腕を縛られ、碌に動けない状況となっているリリアーナが座っていた。


 「彼女については、私の方から依頼をしていたじゃないか。処分をしてほしいとな。まあこういう状況となった以上、今更それは、どうでもいい話かもしれないが。だが、貴公が、彼女をここまで連れてきた理由は気になる物だな。」

 ヴルカルの問いかけは、ただ淡々と、感情も込められずセレトに向けられていた。

 その声色も、喋り方も、その全てがセレトの知っているヴルカルと大差ないものであったが、その感情の希薄さは、セレトに非常に違和感を感じさせた。


 「そうですね。まあ、私の方もあの場から切り抜けるために彼女の身柄が必要だったといいますか。」

 そう話しながら、セレトは、リリアーナの方に軽く視線を向ける。

 視線の先のリリアーナは、自身が議題に上がっているにも関わらず、ヴルカルの言葉にも、セレトの言葉にも碌に反応をせず、されど、どこか冷めた目で目の前のヴルカルを見つめていた。


 最も、それはセレトがかけた拘束魔法があるが故であろう。

 表情や態度にも表れていないが、リリアーナの目の中には、目の前にいるヴルカルを始めとする、この場にいる全ての人物に対する怒りの感情が、どす黒く渦巻いているのセレトは見て取った。

 もし、ヴルカルやセレト達に切り掛かれるのであれば、ヴルカルもセレトも、既に何十回もその攻撃を身に受けることとなっていたであろう。


 「いや、彼女の処分が必要であるなら、今この場で首を刎ねますが、閣下は、それをお望みでございますか?」

 セレトは、そんなリリアーナの様子を横目で見ながら、ヴルカルに問いかける。

 リリアーナ自身は、そんなセレトの言葉に反応もすることなく、ただ一点を力強く見続けている。


 「うむ。それなんだが、いや、どうすべきかと考えていてな。何、元々王国内での自身の立場のために貴公に彼女の命を刈るように依頼をしていたが、私も貴公も、既にその忠誠を尽くすべき王国を失った身だ。悲しいことだがね。」

 ヴルカルは、そんなセレトに対し、変わらず淡々とした口調で言葉を返してくる。

 最も、そんな口調と裏腹に、ヴルカルの身体の色合いと、足の生え代わりの様子は活発化をしているようであったが。


 「このような状況であるが、我々はどうすべきだと思うかね。貴公の意見を聞きたいな。」

 そうしてヴルカルは、言葉を語り終えると、また視線を逸らす。


 「私は、この国から離れるべきかと思いますが、閣下はどうされるおつもりでしょうか?」

 セレトは、そんなヴルカルに対し、落ち着いた調子で話しかける。

 同時にヴルカルの近くに控えているユラに視線を向ける。

 ユラは、こちらの様子を、いつもの薄ら笑いを浮かべた態度で見返してきた。


 「離れるべきか。当てはあるのかね?」

 そんなセレトに対し、ヴルカルは、淡々とした調子で言葉を返してくる。

 だがセレトは、その言葉よりも、ヴルカルの身体を流れている魔力の質が徐々に変動していることに気が付いた。


 「さあ。どうでしょうか。それよりも閣下、ユノース様や他の方々はいずこに?」

 そんなヴルカルの変化には気づかないふりをし、言葉の調子を崩さぬようにセレトは、ヴルカルに問いかける。

 こちらから動くにしても、まだ情報が少なすぎる。


 「ふむ、ユノースか。あいつは、いまこっちに向かっているよ。他の者達は、他の部屋で待機をしている。」

 ヴルカルは、上の空の様子でこちらに応えてくる。


 「なるほど。ところで、閣下、その身体は、誰が望まれたのですか?」

 不意を突いてセレトは、問いかける。


 「身体?身体がどうしたというのかね?」

 ヴルカルは、相変わらずの淡々とした態度で言葉を返してくる。

 だが、その反応が一瞬遅れたことをセレトは見逃さなかった。

 同時に、セレトの問いに対し、ユラが一瞬、不意を突かれた表情をする。


 「アリアナ!」

 セレトは、近くに控えているアリアナに声をかけながら、魔力を込め黒煙を呼び出す。


 「はい!」

 アリアナも、セレトの言葉に反応をし、単純な、されどすぐに発動をする攻撃魔法を放つ。


 「ちっ!」

 二人の攻撃魔法のターゲットとなったユラは、普段の様子とは違った表情で、軽く舌打ちをすると、すぐに迎撃の魔法を放つ。


 ボン。と鈍い音と共に、セレトの放った黒煙の鞭の一撃と、アリアナが飛ばした黒い炎の玉が消滅をする。


 「その狂った身体を望んだものですよ。閣下!」

 セレトは、そうヴルカルに向けて話しながら追撃の魔法をユラに向けて放つ。


 「けけけけ。気でも狂ったのですか?セレト卿。私は、貴方側の人間ですよ?!」

 ユラは、身体をセレトが放った黒い槍に貫かれながら、こちらに向けて話しかけてくる。


 「いや、狂って等ないよ。ユラ。いいから、お前は、自分の正体を現せよ!」

 そんなユラの身体に刺した黒い槍に向けて、セレトは魔力を込める。


 「合わせます!セレト様!」

 アリアナは、呪文を口ずさみながら、ユラに向けて魔力を放つ。


 瞬間、セレトが放った黒い槍はユラの身体を貫いたまま爆発をし、同時にアリアナが呼び出した黒い大量の腕が、一斉にユラの身体を貫く。

 ユラの身体は、当然その攻撃に耐えられずはずもなく、粉みじんに粉々になる。


 「いやはやひどいですな。ひひひ。」

 だが、粉々なただの黒い塊となったはずのユラは、笑い声と共にこちらに語り掛けてくる。

 と同時に、ばらばらにいなった黒い塊が一斉に鴉のような黒い鳥に変わり、一か所に集まる。

 その塊は、人型を象ったと思うと、一気に元通りのユラの姿となる。


 「私が何をしたと?ひひひ。セレト様、私は、ただのヴルカル様の一部下に過ぎませんよ。ききヒヒひ。何やら誤解があるようですが、それは一体。」

 ユラは、こちらを見ながらいつもの様子で笑いながら話しかけてくる。

 だが、セレトは、その言葉を無視して、懐からナイフを取り出すと、それに呪術を込めて、ユラの額に向けて投擲をし、その言葉を止める。


 「けけ。痛いですな。いや、ひひ。ひどいですなというのが正しいのか。」

 だがユラの額にナイフが刺さった瞬間、ユラの頭部は、白煙をまき散らし爆発をし、ばらばらになる。と思いきや、そのまま一気に彼女の頭を形どり、何事もなかったようにこちらに話しかけてくる。


 「単純な話だよ。ユラ。今の君の動きを見て確信をしたよ。」

 セレトは、そんなユラに対し淡々と言葉をかける。


 「俺はな、魔力の質を見ることに長けているんだ。」

 そう言いながら、セレトは、次の攻撃のための魔力を込め始める。


 「俺が使う呪術ってのは、掛ける相手の魔力に作用させる必要があるため、無駄にそういうことに長けていてな。まあ一人一人違う魔力の質ってのを一度見たら忘れないんだよ。」

 話しながら、二発黒い槍を錬成し、ユラに向けて放つ。

 一本は、ユラの正面に。もう一本は、彼女の死角から。

 だが、その二本の槍は、ユラにぶつかる前に防壁で弾かれる。


 「それでな。君の魔力なんだが、俺は、ついこの間見た記憶があるんだ。ハイルフォード王国から脱出するときに襲ってきたアサシン。そいつが、貴様と全く同じ魔力を持っていたんだよ。」

 セレトの言葉に、ユラは、反応をしない。

 そしてユラの顔には、笑みは浮かんでいたが、その笑みは、いつものような狂った笑い声でなく、どこか冷たく、こちらを見透かしたような達観したものであった。


 「さて、言い訳を聞こうか。ユラ。君の目的は何なんだい?」

 だが、セレトは、そんなユラの様子を無視して、そのまま強く問いかける。


 ヴルカルは、ユラの支配が抜けたのか、意識がここにないかのように、明後日の方向に視線を向けて固まっている。

 リリアーナは、セレトの拘束魔法で動けない状況のため、戦闘に巻き込まれないように少し離れた場所で立ちすくんでいる。

 いずれにせよ、アリアナと二人掛かりで挑める以上、こちらの優位は、崩れない。


 「私の目的ね。」

 ユラは、笑みを浮かべたまま、だが、いつものような笑い声をあげずに口を開く。


 「私の目的は、単純よ。セレト卿。物事のバランスをとることだけが使命よ。」

 そう言いながら、ユラは、左手の袖を捲し上げ、自身の二の腕をこちらに向けてくる。

 そこには、天秤の柄の刺青が彫られていた。


 「調停者?まさか、本当に存在をしていたとはな。」

 セレトは、その刺青を見ながら、驚いたように言葉を返す。


 調停者。

 それは、この国の王家に仕えていると噂をされている謎の集団。

 見分ける証は、その身のどこかに刻まれていると言われる、天秤を模した刺青のみ。

 王国内の均衡を守るため、各勢力に潜みながら、そのバランスを秘密裏に取っていると言われているが、そもそもお伽噺の域をでない、半ば伝説と化した存在。 

 もちろん、セレトも、その存在を信じてはいなかったが、そうであるがゆえに、目の前のユラが、その一員であることに驚きを隠せない。


 「おやおや。貴方程の人物が存在を掴んでいなかったとは驚きだわ。」

 ユラは、笑いながらこちらに向けて語り続ける。


 「なら、お前は、元々ヴルカル卿の部下でもなんでもなかったというわけか?」

 セレトは、そんなユラに対し、呆れたよな口調で言葉を返す。


 「おや、それは違いますよ。私は、ヴルカル卿の充実な部下ですよ。今も、この後も。」

 ユラは、こちらに向けて心外という態度で語り掛けてくる。


 「どういうことだい?」

 そういいながら、セレトは、ユラの隙を付こうと魔力を練り始める。

 アリアナも、そんなセレトの動きに呼応し、魔術を唱え始める。

 だが何かを見落としている、嫌な予感が彼を襲う。


 「どういうことと言われてもね。まあ、私はあくまで調停者。それだけよ。」

 そう言いながら、ユラは、こちらをニヤニヤと笑いながら見つめてくる。


 セレトは、その言葉の意味を考えながら、だが、今は、ここから抜け出すことを第一に考える。

 そのためには、まずは、目の前のユラをアリアナと二人で、一気に抑えるしかないであろう。

 そう考え、セレトは、アリアナに合図を出そうとする。


 「それで、私の役割は、何なの?調停者さん。」

 だが、そんなセレトの行動は、背後から発せられた言葉によって遮る。


 「おや、それは、目の前のお二人の方がよく知っているかもしれませんよ。」

 そうユラは、笑いながら言葉を返す。


 「あら、そう。なら、私の役割とは、何かしら。教えてくださる?セレト卿。」

 リリアーナは、こちらに皮肉を込めた態度で問いかけてくる。


 その身は、どうやったのか、いつの間にかセレトの拘束魔法を解除し、こちらに剣の切っ先を向けて臨戦態勢となっている。

 アリアナは、リリアーナとユラの両名に挟まれ、動きを封じられている。


 そして、セレトは、この状況を打開する方法を考える時間を稼ぐため、口を開いた。

 「お前の役割は。」


 その先の言葉を考えながら、同時にセレトは、リリアーナの方へ振り向いた。


 第五十章へ続く

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