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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第四十八章「宮殿の問答」

 第四十八章「宮殿の問答」


 「ヴルカル卿は、どちらかね?」

 目の前を歩くユラに、セレトは、何気なく問いかける。


 セレト達は今、広い宮殿の、これはまた無駄に長く、幅広い通路をユラの先導で歩いている。

 ヴルカルに事前に借りていた鍵によって、セレト達がたどり着いたのは、広大な庭園と宮殿を擁した、魔術によって生成された空間であった。

 その入り口に立っていたユラの誘導に従い、セレトと、アリアナ、そして囚われのリリアーナは、宮殿の中を進んでいた。


 「きひひひ。ヴルカル様ですか?ヒヒひヒヒ。今しばらくお待ちを。」

 ユラは、いつもと同じく、いや、むしろそれ以上に狂ったような態度で言葉を返してくる。


 「セレト様。」

 そんなユラの様子を見ながら、アリアナがこっそりと耳元に話しかけてくる。


 「どうした?」

 そんな彼女に対し、セレトも同じく声を潜め、ユラと、リリアーナに聞かれぬような声で問い返す。


 「よろしいのでしょうか?ユラ様には、あのアサシンの件があります。」

 目の前のユラに警戒を強めながら、アリアナは、小声で注意を促す。


 「わかってる。今は動くな。」

 その言葉にセレトは曖昧に頷きながら、応える。

 ハイルフォード王国を脱出するときに、襲い掛かってきた影を操るアサシン。

 そのアサシンが放っていた魔力の性質、そして相対した時の感覚が、今目の前にいるユラとあのアサシンに何らかの繋がりがあることを、セレトに感じさせていた。

 だが、そうはいってもこの場は、ユラに案内をされており、ユラによってコントロールをされている状況である。

 そうである以上、ここで下手に動くのは、愚の骨頂であろう。


 「ひひいひ。いえいえ、何も企んでおりませぬよ。気にせずに。きひひひ。」

 そんなセレト達の言葉が聞こえていたのか、ユラのわざとらしい笑い声が耳に届くが、それは無視することにする。


 「ユノース卿はいないのか?ここには、君だけかい?」

 そのような中、リリアーナがユラに問いかける。

 セレト達に拘束をされ、闇の鎖で縛られているにも関わらず、その声は力強く響いた。


 「貴様!何を!」

 アリアナが、そんな彼女に?みつこうとするが、それをセレトは手で制す。


 「勝手に動いてほしくはないね。聖女様。まあ、それは私も気になっていたことだ。ここには、誰もいないのかね?」

 リリアーナへの牽制を忘れずに、されど、自身も不思議に思っていた現状の把握のため、セレトも問いかける。

 広い宮殿の中、それなりの距離を移動したが、未だにユラ以外の人物と遭遇していないことは、セレトも気になっていた。

 むしろ、いくら広いといっても、ハイルフォード王国を脱出したヴルカルの部下達は、それなりの数がいるはずなのに、この宮殿には、まったく人の気配がなかった。

 その様子を不気味に感じながらも、その不安を払拭するように、セレトは、目の前の魔女に問いかける。


 「おやおや。先程も述べたでしょう。ヒヒヒヒ。いやいや、堪え性がないのはいけませんな。きひひひヒヒヒ。いえ、すぐに出会えますよ。皆様、お待ちをされておりますので。」

 ユラは、その問いに対し、心底愉快と言わんばかりの笑い声と共に応えてくる。

 いずれにせよ、ここは、彼女についていくしかないようであった。


 「ここは、一体なんなの?」

 リリアーナが、ぼやくように質問とも独り言ともいえない言葉を発する。


 「ひひ。ここですか?ヴルカル様が所有している別荘の一つですよ。きひひひ。まあセーフハウスと言われておりますがね。くくきききキキ。」

 ユラは、そんなリリアーナの言葉にもいつもの笑みを浮かべながら応えてくる。


 「あくまで魔力が編み上げた空間ですが、まあよくできた物でしょう。外からの干渉は難しく、鍵がなければ、訪れることすら難しい。けけけケケけ。あのお方が、信を置いた方々を呼び集めるための隠れ家ですな。」

 そういいながら、ユラは、愉快そうにこちらに状況を伝えてくる。


 「ふーん、ところでユラ、君の目的は何だい?」

 セレトは、話題を変えるように彼女に問いかける。


 「私の目的?」

 そんな、セレトの言葉に虚を突かれたのか、ユラは、驚いたようにセレトの問いに応える。


 「そう。君の目的だよ。ユラ。ヴルカル卿に仕えながら、同時に、彼の意思と関係ないところで、その力を振るい、そして様々な面を持つ魔女。君の目的は何なんだい?」

 セレトの言葉に、問いかけられているユラは勿論、今や、アリアナも、リリアーナも耳を向けている。


 「あぁ私の目的。なるほど、それを問いかけるのですか。いや、貴方の知りたいことは、そこではない。なるほど、あれが原因ですか。なるほど、なるほど。いや僥倖僥倖。」

 そんな問いに応えるように、だが、視線を明後日の方向に向けながら、ユラは、いつものような笑い声も上げず、ただただ、感情も込めず、淡々と言葉を発し続ける。

 最も、その言葉の大半は、こちらに向けられたものではなく、ただの独り言のように、彼女の周囲に漂い消えていく。

 そして、その様子は、普段の狂ったような笑みを浮かべている彼女以上に、彼女を狂わせて見せていた。


 「目的、それは調停?だが、それも全てではないですね。うん、そうなると、どうなることやら。」

 ユラの言葉は止まらない。

 足を止めることもなく、前に進みながら、彼女は淡々と、普段と比べてどこか大人びた落ち着いた態度で、されど、狂っているような話し方で、セレトに、アリアナに、リリアーナに、いや、あるいはその誰にも向けていないのかもしれないが、言葉は発せられ続けている。


 「ふむ。それは偏に、このつまらない世界において、義務ではなく楽しいと思えるからかもしれないですね。」

 そして最後に、セレトの目を見て、ユラはそう言い放ち、一際大きいドアの前に立ち止まる。


 「楽しい?」

 セレトは、その言葉に問い返す。


 「きひひ。いや、着きましたよ。ひひ。」

 だが、ユラは、そんなセレトの問いかけに応えず、いつもの態度に戻り目の前のドアに手をかける。

 最も、セレトも、リリアーナも、アリアナも、そんなユラに再度答えを求めることはしない。

 それほどまでに、先程まで話していたユラが、夢幻に思える程、今目の前で、扉を開き、そこに入るように勧めてくる彼女は、違って見えたのである。


 「さあ、おはいりなさい。ひひひ。」

 ユラは、笑いながらこちらを呼び続ける。

 その言葉につられるように、セレト達は、ユラに導かれるまま部屋に入る。


 「待っていたよ。セレト卿。」

 そして部屋に入ったセレトは、ヴルカル卿の言葉によって迎えられる。


 「閣下。ご無事でござい、た?いや!これは?」

 そして、そんなヴルカルに応えようとしたセレトは、言葉の途中でつまり、そのまま目の前に広がる光景に驚き声を上げる。


 「なぜ?!」

 アリアナは、セレトと同じように驚いた声で叫ぶ。


 「これは一体?」

 リリアーナは、現状に対する疑問がそのまま口に出る。


 「きひひひ。まあ、セレト卿も皆様もおあがりください。長旅は、疲れたでしょう。ヒヒヒひひひ。いえ、我が主もお待ちでしたよ。」

 わざとらしい笑みを浮かべながら、ユラは、セレト達に声をかける。


 「そうだな。さあかけたまえ。」

 そんなユラの言葉に同調するように、ヴルカルも、こちらに言葉をかけてくる。

 最も、その身体は、元々のヴルカルとは、似ても似つかない物となっていた。


 「きひひひ。我が主の身体の件?」

 ユラは、こちらに笑みを浮かべなが、語り掛けてくる。


 その顔こそ、ヴルカルの物であったが、首から下は、禍々しい黒い繭にまかれており、同時に様々な虫の足のような物が、その繭から多数、無秩序に生えている。

 もはや畏敬の怪物、不気味な生命体となっていた。


 「さあ、これからのことを話し合いましょうじゃないですか。きひひひ。」

 ユラの不気味な笑い声が響く中、どこか意識が希薄なヴルカルの目が、こちらを見つめているのを感じながら、セレトは、これから始まる会談に対する大きな不安を心に仕舞い、強い視線を目の前の二人に向けた。


 第四十九章へ続く

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