幕間47
幕間47
「北西、700m先にて戦闘がおこった模様です。展開されている部隊は多数。それなりの規模の戦いの模様です。」
見張り、監視魔法を広いエリアに展開しながら、逐一状況を報告をしてくる部下の言葉を無言で聞いたヴェルナードは、一度頷くと、北西の方向に顔を向ける。
距離が離れているため、戦いの様子は当然にわからなかったが、魔力のぶつかりあいや、銃声と共に響き渡る衝撃は、ヴェルナードにその戦いの規模の大きさを十分に感じさせるものであった。
「よし、距離を100程まで詰めた辺りに移動する。こちらの存在に気づかれぬよう、細心の注意を払って進め。」
少し考えると、ヴェルナードは部下達に指示を出し、そのまま音も立てずに進軍を開始する。
ここは、ハイルフォード王国領土内の国境付近エリア。
本来、クラルス王国の軍人であるヴェルナードが存在していい場所ではない。
だがそのような状況の中、ヴェルナードがわざわざ特別に部隊を編成し、現在この場所に秘密裏にいるのは、一つの情報を得たからであった。
『先のハイルフォード王国とクラルス王国の停戦の理由は、ハイルフォード王国内で政治的に大きな動きがあったから』
なんの確証も、具体性もない、実しやかに囁かれている噂程度の情報であったが、先の戦いを不燃焼のまま終わらせられ不満が溜まっていたヴェルナードにとって、この情報は、非常に興味深いものであった。
そして本来であれば捨て置く様な情報であったが、その直感に何かを感じたヴェルナードは、子飼いの部下達にハイルフォード王国の様子を探らせたところ、それを裏付けるような、いくつかの情報を得ることに成功した。
すなわち、何人かの貴族間の争いや陰謀の上に仕組まれた戦争であった。
国内で、この戦を利用して利益を得ようとしてる者達が、政争に敗れ失脚したことにより停戦へと結びついた。
どうもハイルフォード王国内で、それなりの地位にいた者が関わっていたらしく、今、敗れた派閥の関係者達に対する大規模な粛清が始まっている模様である。
眉唾とも思える物も多かったが、そのような中で、ヴェルナードの目を引いた情報があった。
失脚した貴族の一人に呪術師と言われる、呪いに精通した嫌われ者の魔術師の男がいたという情報。
その男の素性、戦い方は、ヴェルナードに一人の男を思い浮かべさせた。
ハイルフォード王国との戦いで、当時共同で部隊を率いていたオルネスを倒した敵の将。
不思議な呪術でこちらを翻弄し、オルネスに強い呪いを与えて行動不能にした男。
直接対峙をしていないが故、ヴェルナードは、その男については、詳しいことをわからなかった。
ただ、後に、セレトというハイルフォード王国の呪術師の情報が手に入った時、その風貌、戦い方等、様々な点が、その時の将と似通っていることにヴェルナードは気が付いた。
これらの情報は、ヴェルナードに、この三者が同一人物であることを強く確信させていた。
「周囲の敵部隊に動きがありました。恐らく、向かっている先は、我々と同じエリアかと。」
周辺に放ってた斥候の一人から報告が入る。
その報告を聞きながらヴェルナードは、次の一手をどうするか考える。
そもそも、今回、危険を冒しながらヴェルナードがハイルフォード王国内で密偵の真似事しているのは、一つに、先の戦いでの不完全燃焼な終わり方に対する不満、そして各所から入ってくるハイルフォード王国内の情報が、ここで自身が動くことによりクラルス王国を利することができると感じられたからであった。
だが、そのような考えと別に、ヴェルナードが心に持っている強い思い。
それは、先の戦で、恐らく自身の戦歴に傷をつけたであろう呪術師と言われている貴族、セレトに対する興味であった。
そして、今回失脚をした貴族達の中に、そのセレトが入っているという情報を入手したヴェルナードは、実際にその男に会える可能性にどこか期待をして、この地にやってきたのである。
もちろん、セレトと遭遇ができるかはわからなかったし、その可能性も非常に低いものであることは理解していた。
それでもヴェルナードは、自身の部隊を一度は破った男と、一度でいいから会ってみたいという欲を消すことはできなかったのである。
「報告です。前方の戦いは、どうやらハイルフォード王国内での粛清の模様です。」
そんなヴェルナードの基に、新たな斥候が報告に現れる。
「どうも、亡命をしようとしている貴族と、ハイルフォード王国の部隊が交戦している模様です。」
斥候の報告を聞きながら、ヴェルナードは、一つ大きく頷く。
「様子を確認しながら、進軍を続けろ。あくまで情報の収集がメインだ。こちらに気づかれそうなら、無理せず下がるぞ。」
ヴェルナードは、一際強い言葉で進軍を指示する。
あくまで目的は、情報の収集。
そのために無理をして、敵軍との交戦となってしまえば元も子もない話である。
「報告です。前方の戦いですが、どうも追われている側の貴族が影のようなものを使い、多勢を相手にしながらも善戦をしてる模様です。」
だが、そこに持ち込まれた、斥候による新しい報告が、ヴェルナードの興味を引いた。
影のようなものを使った、ハイルフォード王国の粛清対象者。
それは、不思議と自身が追っていたセレトのイメージに合致をした。
「一気に進むぞ。」
周囲にヴェルナードは、一声をかけると一気に馬の速度を上げて前進を開始する。
そのあとを、部下達が静かについていく。
自身の存在がばれてしまう可能性もあった。
だが、それでもヴェルナードは、セレトという男と一度会ってみたいと考えていた。
そのはやる気持ちを抑えながら、ヴェルナードは、周囲の部下達と共に、徐々に強く感じられてくる魔力のぶつかりあいへと近づいていった。




