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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第四十七章「セーフハウス」

 第四十七章「セーフハウス」


 「どこへ向かうつもり?この囲みを突破できると思っているの?」

 リリアーナは、セレトにつまらなそうに声をかける。


 セレトの黒い鎖に縛られたリリアーナの身体は、その魔力により力を封じられ、まるで操り人形のようにセレトの後ろに付き従う。

 その後ろには、殿としてアリアナが、聖女の動きを見張りながらついてくる。

 最も、ここから先のことは、アリアナにも知らされていないためか、彼女の足取りにもどこか重さが感じられた。


 奇妙なメンバーで進む中、セレトは、ふと立ち止まり手元の羊皮紙を見る。

 魔力に反応し色が変わるその羊皮紙は、この場所で発生をしている魔力に反応してから、セレトが望む色へ変色をしていた。


 「さて、ここがとりあえずの目的地だ。聖女様。」

 羊皮紙を懐に仕舞い、リリアーナへ顔を向けてセレトは芝居がかったし仕草で語り掛ける。

 準備が整うまで、今しばらく時間は掛かりそうであった。

 そうであるなら、その間、彼女と話すことも悪くはないであろう。


 「あぁこの羊皮紙か?いや、私の雇い主が、以前私に預けてくれた物だよ。こういう時に備えてね。」

 リリアーナの視線が、色が変わった羊皮紙に向けられたのを見て、軽く説明をしてやることにする。

 リリアーナは、こちらの言葉の意味を考えようと、一語一句逃さぬように聞き入っている。

 同じく部下であるアリアナも、状況を把握しようと、セレトの顔を不安そうに見つめている。


 「不思議なマジックアイテムでね、何でも雇い主様のセーフティーハウスへの招待状らしい。入口へと導き、入り口についたら、そこを開くカギになると聞いていてね。今、そのカギを開いているところだよ。」

 そう話している中、徐々に周辺の空間が魔力によってねじ曲がっていく。

 一種のワープ魔法の類とは聞いていたが、それ以外にも、何か仕掛けがあるように感じられた。


 「ヴルカル卿が貴方に与えたの?」

 話の途中に割り込む形で、リリアーナが問いかけてくる。

 その眼は、強い怒りだけでなく、この状況に対する解を求める好奇心が見て取れる。


 「あー、そうだね。なんだ、ヴルカル卿のことも知っていたのか。まあいいや。仰る通りヴルカル卿が私に与えてくれた道具だよ。いや、驚いたよ。この仕事を受けてすぐのある時、そうちょうど、くそ親父殿の所に顔を出す少し前ぐらいかな。彼の使いから手紙を渡されてね。そこに書かれている内容にしたがって、夜に秘密裏に会いに行ったら、ヴルカル卿がお待ちになられているじゃないか。」

 そこまで話しながら、セレトは一度言葉を切り一呼吸を付く。

 周辺の空間の捻じれはより強くなり、セレト達を囲むように虹色の光によって風景が塗りつぶされていく。

 だが、リリアーナ達は、そんな状況よりも、セレトの言葉の続きが気になるのか、口を開くこともなく、こちらを見つめ続けていた。


 「そこで彼から、いざという時の避難手段兼、集合場所への切符としてこれを渡されたのさ。いや、驚いたね。なんせ緊急の避難手段としても一級品の貴重品だ。それに、これはヴルカル様の緊急の避難場所でもあるわけだ。そんな場所に招待をしていただけるほど、私が信頼をされているとは思っていなかったものでね。」

 セレトは、当時の様子を思い出しながら、笑いながら話を続ける。


 「なるほどね。でも罠という可能性は考えなかったの?少なくとも私ならそうするわね。貴方を始末するためにね。」

 リリアーナは、皮肉を込めた口調でこちらに話しかけてくる。


 「あぁそうだな。そうするかもな。だが、違うかもしれない。いずれにせよ、罠なら君も道連れというわけだ。精々、違うことを祈っていたまえ。」

 そう話しながら、セレトは、こみ上げる気持ちを声に出すように笑みを浮かべる。


 無論、セレトとて、これが罠である可能性も考えていないわけではなかった。

 もちろん、そのことに対する保険は掛けてあるが、それを今、リリアーナに伝えてやる義理はないであろう。


 「アリアナ、お前は何もないのかい?」

 状況を理解できず、されど主に迷惑をかけないようにと、黙り込んでいるアリアナに対しても、セレトは声をかける。


 「いえ、その、私からは何も。」

 アリアナは、セレトに急に声をかけられた為か、慌てたように言葉を返す。


 「おいおい。遠慮することはないんだ。何かあるんじゃなのか?」

 笑いながら、セレトは再度問いかける。


 「では、あの、私たちは、どこに向かっているのでしょうか?」

 アリアナは、恐る恐る、そしてこの質問が自身の主の不利益にならないか、考えるように問いかけてくる。

 そしてその問いに対し、リリアーナも反応を見せる。


 「ふむ。ヴルカル卿が言うには、彼がいくつか持っている隠れ家の一つらしいがな。詳しいことは知らんが、早々外部から侵入はできない場所だから、避難場所としては優秀とは聞いているがな。」

 そんな二人に対し、セレトは知っている範囲のことを応える。

 案の定、二人は、この答えだけでは満足をできていない模様ではあった。

 最も、セレトとて、それ以上のことを聞いていない以上、答えようはなかったが。


 「ふん。貴様も何も知らないというわけか。ずいぶんな賭けに出たもんだな。」

 リリアーナは、呆れた様な口調で言葉を返す。

 ふと見ると、セレトの力によって魔力も力も封じられた状況でありながら、彼女の目には、強い意志が戻り、同時に周囲の状況油断ならない目で探っている様子が見て取れる。


 「ははは。確かに賭けかもしれないな。だがね、生憎と私に残された手の中で一番勝機がありそうなのがこの方法なものでね。まあ楽しませるから、付き合ってくれよ。」

 狂ったように、セレトの口から言葉が溢れる。

 アドレナリンが異常分泌されているのだろうか。

 異様に高ぶった気持ちは、収まることもなく、セレトを愉快な気持ちにしてくれる。


 最も、そのような中でも、セレトは、リリアーナへの警戒を怠らない。

 こちらの魔法で拘束をされており、身動きは取れない状況であっても、女でありながら騎士団長まで上り詰め、聖女とも呼ばれるようになった実力者である。

 どんなに有利な状況であろうと、油断は大敵である。


 「結局、貴方は何をしたいの?ヴルカルの下につかなくても、貴方は、この国で十分に上に行く力はあったわ。それが今や全てを失い、哀れに逃げるだけ。これが貴方の望みだったの?」

 リリアーナは、こちらに皮肉を交えながら、されど真剣な口調で問いかけてくる。

 だが、その言葉は、セレトに強く引っかかった。

 だからこそ、セレトは、言葉の意味を考え、回答を考える。


 「私のしたかったことか。なんだろうな。」

 そうして出てきた言葉は、一言。

 正直な気持ちがふと口から漏れ出た。


 「だがまあ、俺は別段現状に不満はないな。ヴルカル卿から話を持ち込まれた時、俺には、それが希望に見えた。」

 目の前の女に対し、どんどんと言葉が流れていく。


 「あぁ。理解できないだろうな。恵まれたお前には、理解できないだろうよ。力や手柄だけでは、どうにもならない話ってのがあるんだよ。」

 眉をしかめ、理解ができない表情をしたリリアーナに対し、セレトは、言葉を続ける。

 そしてそんな彼女を見ていると、自分の彼女に対する恨み、憎しみ、そして怒りをぶつけたくなることを、セレトは実感した。


 だが、その言葉は、口に出ることはなかった。


 「着いたか。」

 周囲の景色のゆがみが徐々に収まり、外の景色がはっきりとしてくるのを見て、セレトは、思っていたのと違う言葉を述べる。


 「ここは?」

 リリアーナが、周囲を伺いながらふと言葉を漏らす。


 「周囲に敵影はないかと。」

 アリアナは、周囲を探索し、その結果を伝えてくる。


 「罠ではないか。」

 セレトは、そう言い一息を付き、周囲の様子を確認する。


 そこは、一つの屋敷があった。

 人気はなく、静かな空間。

 魔力で形成された広場に、整備された屋敷が一つ。

 逃亡中の一時的な滞在場所としては、十分、むしろ至れ尽くされた物であろう。


 「どうしましょうか。」

 アリアナが、こちらの様子を伺いながら不安そうに問いかけてくる。


 「少し待とう。ヴルカル卿も、こちらに向かっているはずだ。」

 セレトは、周囲を見回しながら応える。


 リリアーナは、そんな二人の様子を見ながら、油断ならない目で周囲を見張ってる。


 「ひひ。きひ。」

 そんな無言に支配された空間に、ふと笑い声が響く。


 「誰?!」

 アリアナはその声に強く反応をする。


 「お前は!」

 その正体に気が付いたリリアーナが、強い敵愾心を見せて声の主を睨みつける。


 「迎えか。悪いな。」

 セレトは、そんな声の主を笑みを浮かべて迎える。


 「お待ちしておりましたよ。セレト卿。そして付き添いの皆様。ヴルカル卿がお待ちです。」

 ヴルカルの部下である、ユラがいつものような不気味な笑みを浮かべながら、そこに立っていた。


 第四十八章へ続く

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