幕間46
幕間46
「まさか貴方達と組むことになるなんてね。」
ネーナは、皮肉めいた口調で言葉を語る。
「でっ、あんたは何ができるんだい?」
グロックは、それに追従するように、揶揄うような態度で問いかける。
「黙れ。俺は、お前らを信じているわけじゃない。」
そんな二人にロットは、苛立ちを隠そうともせずに言葉を返す。
「えぇそうでしょうね。」
そんな態度のロットの方に顔を向け、ネーナは、我関せずといった態度で言葉を返す。
「ふん、こっちは、こっちの都合で坊ちゃんを追いかける。そっちはそっちで、自分のボスの聖女様の尻拭いでついてくる。それだけの話じゃねえか。」
グロックは、ロットに嘲るような口調で突き放すような物言いをする。
「貴様らあ!たかがメイドと、傭兵如きが、この私に、この私を、何だと思って。」
その言葉を受け、ロットは、怒りに顔色を変えながら、息も言葉も継げずに、ネーナ達を睨みながら声を発する。
もっともその表情は、ネーナとグロックの言葉に込められた侮辱によるものだけではないであろう。
自身の主である聖女、リリアーナが行方不明となった現状に対する焦りも多分に含まれていることは、誰の目から見ても明らかであった。
「大体、上層部は、何を考えているんだ。こんな裏切り者の下働き共を同志として扱う等、泥棒に金庫番をさせるような話ではないか。」
その焦りに加え、今回、上からの命令で組むことになった、セレトの元部下達に対する不満もあってか、ロットの罵詈雑言の言葉は、室内で予想以上に大きく響き渡った。
「ほう、言ってくれるね。」
その言葉に、グロックが苛立ちを込めた声で反応をする。
「俺は、あんたと組まされる方が不愉快なんだぜ。裏切り者の弟さんよ。」
グロックの皮肉を込めた言葉は、公然の秘密でありながら誰もが触れよとしなかった、ロットの家の醜聞に痛烈に刺さるものであった。
その強い侮辱の言葉によって、ロットの表情は、怒りや羞恥が入り混じり、赤黒く変わっていく。
「汚らしい、傭兵風情がああ!」
怒りと共に、ロットは、武器を抜こうとする。
その表情と込められた殺気は、そのままグロックの首を跳ね飛ばすのも厭わないものであった。
「はっ、ボンボン野郎が!」
だがその一撃は、グロックが一手早く振るった刀の一撃によって弾かれる。
「うわ!」
ロットは、驚いたような声と共に、衝撃に耐えられずに刀を地面に落とす。
そしてそんなロットにグロックが武器をつきつける。
「いいか。あんたみたいな足手纏い、本来は連れて行きたくはないんだよ。だがな、恐れ多くも我々の雇い主様も、お偉いさん達も、あんたを連れていくことをお望みだ。だからこそ、ここにお前はいるんだ。そこをよく弁えな。」
グロックは、心底軽蔑しきった表情で、かつ、心の奥底からの本音を絞り出すようにロットに言葉をかける。
「お前は、自分の主である聖女様だけを探してろ。余計なことには手を出すな。いいか、そもそも俺は。」
グロックの言葉は止まらない。
そのままいつまでも話し続けないという勢いであったが、その途中、ネーナが彼の前に手を出し、強引に言葉を止める。
「グロック、これ以上余計なことを言うのをやめなさい。出発の時間ですよ。ロット様、ご無礼をお許しください。」
淡々とした表情で、ネーナは、グロックとロットに声をかけてくる。
確かに彼女の言う通り、そろそろ出発の時間ではあった。
「これは、失礼しました。すぐに準備を整えます。」
ネーナの言葉にグロックは、先程までの態度が幻のように態度を抑えると、ロットに目もくれずに武器を仕舞いながら部屋を出ていく。
「では、私もこれで。」
同じようにネーナもロットに一声をかけて部屋を出ていく。
「くそが!」
二人が部屋を出ていったのを確認し、ロットは、八つ当たり気味に壁を蹴飛ばしながら短く舌打ち共に言葉を発する。
それからしばらく苛立ちで碌に言葉も出てこない状況であったが、先程ネーナが述べたように確かに出発の時間は近かった。
そのことを考え、一呼吸、息を吸い感情を抑えるとロットは、部屋の入口に向かう。
「おい。あんたも早く来い。」
そして未だに部屋の奥に一人、黒いローブに身を包み、一言も言葉を発せずに佇んでいる人物に声をかける。
その人物は、ロットの言葉に軽く頭を下げると、そのままロットの前を通り部屋から出ていく。
「なんなんだ、あいつは。」
何も言葉を発することなく出ていった者の背中を見ながら、ロットは一人呟く。
同時に、ふとこの部屋に集められた時のことを思い出す。
セレト追撃の部隊に選ばれ、集合場所に集まったロットの目に入ってきたのは、ネーナとグロックであった。
そしてロットの到着後、しばらくして部屋に入ってきたのは、今部屋を出ていった黒ずくめの人物であった。
だが、元々セレトの部下であった、ネーナとグロックの二人が、セレトの追撃部隊であるこの場にいることに、ロットは違和感を覚えていた。
確かに彼らは、本来はこちら側の人物であり、セレトの本当の配下ではなかったのかもしれなかった。
だが、ネーナ、グロックの両名は、セレトがリリアーナを害そうとしようとしていたことを知っており、そうでありながら、それを警告することなく、むしろそれに加担していた疑惑がある人物であった。
そんな人物を、この追撃部隊に加えること自体、ロットには、理解できず、同時に、自身の与り知れない場所で、何らかの意思が動いていることをまざまざと感じさせた。
そして、黒ずくめの人物。
先程から一言も話すことなかったその人物は、ロットには面識はなかった。
だが、ネーナは、その人物が部屋に入ってきた瞬間、何か悟ったような表情を見せた。
そのことを思い返しながら、ロットは、気持ちを切り替えると部屋を出る。
自身が知らない人物と、信頼をおけない者達と組むことになったこの追想劇。
更に、自身が正体を掴めていない人物と、信頼をおけない人物には、何らかの繋がりがあるようである。
自身は孤立しており、裏で明らかに何かが動いている状況であったが、そのことばかりに気を取られる訳にはいかなかった。
グロックの言う通りである。
いずれにせよ、自身がやるべきことは、己の主たる聖女の救出のみである。
そう考え、ロットは、今一度、武器を握る手に力を込めた。




