第四十五章「抜けない刃」
第四十五章「抜けない刃」
「この刃をお前を突き刺すのが俺の夢だったよ。」
リリアーナに突き刺した魔力の刃に力を入れながら、セレトは、一人つぶやく。
同時に、セレトの魔力が強く籠められた刃より、リリアーナの身体に呪術が広がっていく。
リリアーナの魔力による抵抗こそ受けているが、このまま魔力を込め続ければ、リリアーナの息の根をそう遠くないうちに止められるだろう。
「リリアーナ様!」
「くそ!呪術士風情が!」
そんなセレトを自身の主から引き離そうと、彼女部下達が一斉にこちらに向かってくる。
「雑魚共が控えてろ!」
だが、そんな兵士達を抑えるため、アリアナが魔力を放つ。
同時に、スケルトンの大軍が、セレトとリリアーナ達を囲むように展開をされる。
所詮、大した魔力が込められたわけでもない使い捨ての兵士達に過ぎない存在。
呼び出されたスケルトン達は、片っ端から、リリアーナの部下達に蹴散らされていくが、その数もあって、足止めとしては、十分に機能をしていた。
「くそ、骨野郎が!うん?ぐわああ!」
「ちくしょおお、何だこいつは?」
さらに、それに加えて、スケルトンに足止めを喰らっている兵士達を、アリアナが呼び出した闇の手が地面から襲い掛かる。
一度に大量に展開こそできないものの、アリアナの闇の魔力が込められた闇の手は、確実に、一人、また一人とリリアーナの手勢の動きを封じていく。
「なあ、お前は俺に言いたいことはないのかい?」
そんな周囲の様子を見ながら、セレトは、リリアーナに問いかける。
セレトの込めた呪術の影響であろうか。
リリアーナは、こちらを強く睨みつけながらも言葉を発してこない。
「俺は、お前に言いたいことは多かったんだがな。いやはや、こうして見るとなんというのだろうか。望みが叶ったからだろうか。何も言葉が出てこないよ。」
ただただ、込められた呪術によって、広がっていくセレトの呪い。
聖女という怨敵に、その思いに比例したかのような、毒素が満ちていくのを見ながら、セレトは、淡々と呟いていく。
「あぁ。だが安心してくれ。俺がお前に感じていた不快感、それは薄れてはいない。だからこそ、これほどの呪術を練れるんだ。」
饒舌すぎる。
セレトは、自分の止まらない口から紡がれる言葉を聞きながら思う。
だが、それがどうしたというのか。
既に大勢は決している。
そしてこれは、自身が長い間、強い気持ちで望んでいた瞬間に他ならない。
そうであるからこそ、こに気持ちをより強く、より上質なものに変えるために、自身の気持ちを高揚させる独白は、非常に価値がある者に他ならない。
「セレト様!思ったより兵の質が高いです!そう長くは持たないかと。」
術を展開しているアリアナの声が耳に届く。
見ると、リリアーナの部下達は、アリアナの展開したスケルトンの部隊をうまく抑え込みながら、徐々に突破口を開こうとしている。
所詮は、質が低く、数しかない魔法生物。
歴戦の部隊相手には、足止めにすらならないのであろう。
もちろん、部隊の質の差を埋めるために、アリアナが呪術による援護を行うが、多勢に無勢。
加えて、聖女の部隊としいて名高いリリアーナの部下達は、呪術を防ぎ、負った傷を癒す光の魔術に長けている。
更に、先程の照明弾によって援軍も集まりつつある。
このままでは、ジリ貧となり、そのまま突破されてしまうだろう。
「あぁ。すまないな。もう終わらせるよ。さて、悲しいがお別れだな、くそ聖女様!」
アリアナに適当に声をかけると、そのままセレトは、リリアーナに顔を向ける。
既に、セレトの呪術が毒素として身体に回り切っているのだろうか。
リリアーナの身体からは力が抜け、魔力の暴走ゆえか、時折波打ったように痙攣をしている。
だが、その表情は、未だに強く、その宝石のような目で、セレトを強く睨みつけている。
「本当は、もっといろいろと話したいことがあるが、まあしょうがない。時間だ。ここで幕を下ろそうか。」
そんなリリアーナの強い目を、歓喜に満ちた視線で見つめ返しながら、セレトは、魔力を込めて呪術の仕上げに入る。
既に放たれた呪術、それをより活性化する魔術、それは、リリアーナの癒しの魔力を跳ね除け、一気にリリアーナの命を奪い取るであろう。
「あぁ。私もお前の言葉を聞き飽きたよ。出来損ない。」
だが、その瞬間、リリアーナの強い言葉が耳に入る。
同時に、リリアーナの身体が一気に白く光る。
「何を?!」
セレトが驚愕をその顔に浮かべきる前に、事態は一気に動き出した。
「光化。」
リリアーナが呟く。
同時に、リリアーナの身体が光の粒に霧散する。
「?!お逃げください!」
アリアナが、慌てたように叫ぶ。
セレトが構えている刀から、先程まで感じていたリリアーナの重みがなくなり、その刃は空を切る。
リリアーナの動きを理解できない状況。
彼女はいずこに?
そんなセレトの目の前に、飛び散った光の粒が集まり、徐々に人を象り始める。
その光景をセレトは、信じられないように見つめている。
「君が、よくやる手じゃないか、何を驚いているんだい?」
徐々に輪郭を持ち始めた光の粒の集合体は、リリアーナの声を放つ。
「種さえわかれば、簡単な術だね。」
そう言いながら、リリアーナの身体を形どっていく光の粒。
「くそが!」
だが、セレトは、その様子を眺めることを良しとしない。
すぐに魔力を込めて、その光の集合体に黒い矢を打ち込む。
すでにリリアーナの身体をほぼ構成した光の集合体にぶつかったその矢は、弾けて一気にその光の中で闇を広げ始める。
「確かに簡単さ。だが、一つ、欠点がある。」
その広がりを確認し、セレトは言葉を続ける。
「実体を光体にし、そこから実体に戻ろうとする瞬間、身体は、無防備になるんだよ。付焼刃の愚か者があ!おら、このまま呪術を身体に取り込んで今度こそくたばりやがれ!」
興奮を隠さずに、セレトは、一気に言葉を放つ。
一瞬、リリアーナが見せた奥の手に驚いたものの、それは、所詮はわずかに延命にすぎない。
ここでセレトが展開した新たな闇の呪術によって、彼女は、一気に息絶えることだろう。
「愚かだね。」
だが、リリアーナは、笑みを浮かべながら、一気に武器を突き付けてくる。
その身には、セレトが放った呪術の影響等、微塵もないようであった。
「そんなもの、いくらでも対策はできる。」
そう言いながらリリアーナは、より速度が増した斬撃を放ってくる。
その刀身は、魔力による光をまとって、七色に輝いている。
「まじかよ!」
そういいながら、セレトは自身の刀でその刃を受ける。
ガキン。
刀と刀がぶつかった、金属音が鳴り響く。
「はぁ!」
だが、リリアーナは、そのまま身体をひねり、刀を一閃、再度、斬撃を放つ。
その斬撃は、止めるすべなく、セレトの左肩から先を跳ね飛ばす。
その斬撃の痛みと熱が身体を駆け巡ると同時に、セレトは一気に自身の身体を黒煙化する。
黒い煙は、リリアーナの斬撃の風圧によって、一気に飛び散る。
「逃がさないよ!」
リリアーナは、そう言い放ちながら、腕を振るう。
同時に、光の網がその黒煙を包み込むように広がる。
速攻詠唱による、拘束魔法。
光の網が、セレトを一気にとらえようとする。
網に込められた光の魔力が、セレトの実体を捉えていく。
中途半端な魔力では、弾かれる。
だが、セレトは、次の手を瞬時に考える。
リスクはある。
だが、躊躇をする暇はなかった。
「アリアナ、裏返るぞ。」
セレトは、自身にここまで着いてきた最後の中心にそう叫ぶと、一気に呪文を口ずさむ。
「っご武運を。」
セレトの言葉を聞いたアリアナは、一声、セレトに声をかけると、足元に簡易的な脱出用の闇へのホールを呼び出し、そこに飛び込みこの場から避難する。
アリアナ専用の脱出経路は、彼女が飛び込んだ瞬間、煙のように消滅をする。
その様子を見ながら、セレトは、呪文を唱え終える。
そして、周囲の様子、スケルトン達と戦うリリアーナの部下達、こちらを見つめる警戒しているリリアーナ、これらを見つめながらセレトは、一気に魔力を込める。
同時に、セレトの身体が魔力によって一気に変貌をしていく。
魔力を一気に込められた身体は、徐々に質量を増し、同時に人ならざる物に変わっていく。
「警戒しろ!」
リリアーナが、部下達に向けて叫ぶ。
それと同時に、セレトの身体が一層膨れ上がり、リリアーナが放った光の網が一気に破裂する。
「け、このまま一気に、殺してやるよ。」
徐々に飛びつつある意識の中、自身の身体の変貌(背中を突き破り生えた羽に尻尾、鋭く伸びていく爪)、増していく力の強さを感じながら、セレトは、その意識が濁っていくに任せた。
第四十六章へ続く




